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雨と傘と恋心  作者: 閃天
13/17

 ようやく、掃除が終わった。結局、大杉は戻ってこないし、美緒も戻ってきてすぐ教室を出て行った。何でも、先生に呼ばれたとの事。

 しかし、何で僕が一人で教室を掃除しにゃならんのだ。全く納得いかない。掃除当番は何の為にあるんだ。不満を抱きながら、カバンを持つと電気を消してから教室を出た。戸締りは――大杉の奴がしてくれるだろう。全く学級委員長なんて損な役回りだけだ。

 折り畳み傘を右手に持ち、鼻歌混じりで歩みを進める。人とすれ違う事も無く、正面玄関へと辿り着いた。流石にもう人は残っていない様だ。


「ハァ……。何で俺が」

「あっ、赤坂君です」

「あら。今帰りなの?」


 木村と高橋の二人。同じクラスの仲良し二人組みだ。


「ど、どうしたの? こんな時間まで残って」


 慌ててそんな言葉を口にすると、高橋の方が穏やかな笑みを浮かべながら答える。


「雨脚が強いから、少し弱まるのを待ってるのよ。赤坂は?」

「ぼ、僕は掃除をしてたんだよ」

「ふえぇぇっ。今まで掃除してたんですか。大変ですね。委員長も」

「そ、そんなこと無いよ」


 テレを隠す様に、顔を背けた。正直、僕は木村の事が好きだ。だから、褒められるのは慣れていても、流石に好きな子に褒められるのはどうも歯がゆい感じがする。

 顔が妙に熱い。やばい。緊張してきた。何を話したらいいんだろう。悩めば悩む程、頭の中は真っ白になって行く。

 言葉に詰まっていると、高橋の方が意味深な笑みを俺の方に向け、


「どうしたの? 赤坂君」

「い、いや。な、ななな何でもないよ」

「どうかしたんですか?」


 あまりの慌てっぷりに木村が心配そうな表情を向ける。その目が可愛らしい。マジで、そんな目で見ないでくれ。心臓が破裂してしまいそうだ。頭がショートしてしまった様に、脳内が真っ暗になった。脳内の電源が完全に落ちた。

 機能が停止したロボットの様に立ち尽くしていると、目の前を高橋の手が上下に往復する。


「赤坂くーん。大丈夫?」

「ふぁい……ふぇいきれす」


 呂律が回らない。そんな僕を更に心配そうな目で木村が見つめる。その視線に脳内の機能が更にショートする。


「あーぁ。ダメよ。杏ちゃん。ほら、もっと離れて」

「ふぇぇぇぇっ。どうしてですかぁ。私、嫌われてるんですかぁ?」


 木村の目が涙で潤む。そんな木村をあやす様に、高橋が何やら耳打ちをする。すると、木村の顔が見る見る赤くなり、


「はうううっ。赤坂君のエッチです!」


 などと、突然叫ぶと、随分遠くまで離れていった。

『赤坂君のエッチ』

 その単語が脳内を巡り、僕はショックで気を失いそうになる。そんな僕を支えたのは、高橋だった。


「大丈夫?」

「……ダメ。もうダメだ……。僕の人生は終止符を迎えた……」

「まぁまぁ。大変ね」


 他人事の様にそう口にする高橋。全く、誰の所為だ。

 ショックの大きさに、思わず膝まずいてしまったが、気力で体を持ち直す。


「たぁーかぁーはぁーしぃー」


 擦れた声で高橋に掴みかかると、高橋はニコッと大人びた笑みを見せる。


「どうかした?」

「お前、木村に何を言った」

「あら? 気になるの?」


 気にならないわけが無い。好きな子に『エッチ』と、言われたんだぞ。それで気にならない奴の顔を見てみたものだ。

 しかし、相変わらず他人事の様に楽しげに微笑んでみせる高橋は、


「大丈夫よ。ちょっとした伏線を引いただけだから」

「伏線?」

「そうそう。杏ちゃんには、『赤坂は雨に濡れる私達を想像しているの』って、言っておいただけよ」

「だけじゃないだろ。それでだけで十分嫌われるだろ……。お前、知ってるだろ。俺が木村の事好きだって」


 そう。高橋は僕が木村の事が好きだと知っている。いつ頃か忘れたが、言われた。

『杏ちゃんは結構鈍いから大変よ』

 と。何故、バレたのか分からないけど、高橋曰く『赤坂は分かりやすい』との事。僕ってそんなに分かりやすいのか、と本気で悩んだことがある。


「それで、さっきの伏線の事だけど」

「ああーっ。もうダメだ……」

「聞いてる? 赤坂」

「うううっ……たぁかぁはぁしぃ。お前だけは許さないからな……」


 高橋を睨むと、引き攣った笑みを見せる。そして、木村の方に顔を向け、


「杏ちゃん。赤坂が傘貸してくれるんですって」

「ふえええっ。ホントですかぁ? 赤坂君。優しいです」


 さっきの言葉は何処へやら、木村は僕のすぐそばまで来て、僕の右手を握り締める。その瞬間、僕の脳内で巨大な爆発音が轟き、思考がまた停止した。


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