雨宿り
大杉君と別れ、私は足早に正面玄関へと急ぎました。実の所、私は友達を待たせていました。怒っていないか心配です。玲子ちゃんは優しい方なので、怒っては居ないと思いますが、万が一と言う事もあるので。
出入口付近で、携帯を弄っている玲子ちゃんが居ました。遠くから隠れて様子を窺います。見た感じ、怒ってはいないようですが、ここは慎重に行かなければなりません。
「スーッ……ハァーッ」
深呼吸です。心を落ち着かせ、いざ行かん。と、意を決した瞬間、目の前に顔が現れました。
「遅いよ。杏ちゃん」
玲子ちゃんです。とっても笑顔です。そして、私にデコピンしました。
「はううっ……。痛いです」
「痛くないでしょ。それに、傘はどうしたのかしら?」
「……傘?」
はて? 何の事でしょうか?
首を傾げますと、今一度玲子ちゃんのデコピンが額を弾きました。非常に痛いです。
潤んだ瞳で玲子ちゃんを見つめると、小さなため息を零し、
「杏ちゃん、傘を取りにいったんでしょ? 違う?」
「…………あっ」
そうでした。私、傘を取りに行ったんでした。しかしながら、持ってきたと思っていた傘は教室にはありませんでした。きっと、何処かに忘れてきたんだと思います。良くある事ですから。
「今の『あっ』は、完全に忘れてたわね」
「うううっ……。違うんです。忘れてたじゃなくて、忘れてきたんです」
「……」
玲子ちゃんが凄い呆れた様な目で私を見ます。いつになく厳しい視線です。
「杏ちゃんは、その性格直さなきゃダメよ」
「はううっ。努力はしてるんです。でも、でも――」
「わかってる。分かってるわよ。杏ちゃんは努力してるんだよね。ただ、それが活かされてないだけだよね」
「それって、私が馬鹿だから?」
潤んだ瞳で見つめると、玲子ちゃんが目を逸らしました。
「それより、どうしましょう?」
玲子ちゃんがそう言います。流石に雨に濡れて帰る程、度胸がありません。風邪はひきたくありません。それは、玲子ちゃんも同じ様で、困った表情を見せたまま黙り込んでしまいました。