癒し
目を覚ますと、天井を見ていた。
あの後倒れてしまったのだろう。頭がズキズキ痛み、右腕を額にゆっくり乗せた。
ヌルヌルとした感触は無い代わりに、ザラザラの感触を指先に感じた。
「んっ?」
思わず声を発すると、視界にショートボブの女子生徒が顔を出した。穏やかな目が俺を真っ直ぐに見据え、幼さの残る声が言葉を紡ぐ。
「目が覚めたみたいですね。頭の方は大丈夫ですか?」
言葉からするに、彼女が傷の手当てをしてくれたのだろう。
まだ朦朧とする頭で考え込んでいると、少しだけ長めの前髪から覗く潤んだ瞳が、俺の目を真っ直ぐに見つめているのに気付いた。返答を待っているのだろう。すぐに返事をする。
「もう大丈夫だ」
「それじゃあ、これは何本に見えますか?」
と、彼女が右手の人差し指と中指を立てる。馬鹿にしているというわけでは無さそうだが、一応聞いておこう。
「何のマネかな?」
「一度でいいからやってみたかったんです。ですから、何本に見えますか?」
満面の笑み。何を期待しているのかは分からないが、とりあえず答えておこう。
「二本……だろ」
「はい。良く出来ました。頭は大丈夫みたいですね」
「木村、俺の事馬鹿にしてるか?」
「してませんよ」
笑顔の木村に、俺は小さくため息を吐いた。
彼女は木村杏。同じクラスの女子だ。ちなみに、話をするのは今日が初めてになる。大人しく教室でも目立つタイプでは無いが、少しだけ――いや、大分抜けた性格をしている。俺の観察からして、その抜けっぷりは常人をはるかに上回っている。修学旅行に行けば迷子になり、走れば転ぶ、授業中はボーッとしてる。何も無い所で転ぶ事もあり、階段を踏み外す事も多い。
可愛らしい外見とその抜けっぷりがウケ、男子からの人気は厚い。ファンクラブもあると、噂を聞いた事もある。
その人気通り、彼女には不思議と癒され、傷の痛みを忘れる事が出来た。
「傷の方も良さそうなので、私はこれで」
「ああ。ありがとうな。傷の手当してくれて」
「いいえ。私も先程助けられましたから。お互い様です」
彼女がそう言い微笑んだ。俺もそれに微笑み返した。