空模様
晴れ渡る青い空の下。学校へと向う足取りは重い。
行き交う人の波が、不思議そうに顔を見る。
当然だ。この清々しい空の下で、傘を持っていれば誰だって不思議に思うだろう。
しかし、これには理由がある。天気予報だ。
朝、いつも見ているニュース番組の予報では、午後から雨。この晴れ渡る空を見る限り、この予報は間違い無く外れる――と、思うのが普通だ。だが、奴は違った。『裏の裏を読むのだ』などと戯言を抜かし、無理矢理傘を持たせた。正直迷惑でしかない。ちなみに奴とは、一つ上の兄貴の事だ。
恥ずかしい思いをしながら、やっとの思いで校門を潜ると、視界に見覚えのある顔が映った。何やら真剣な面持ちだが、とりあえず声を掛けてみる。
「朝から、怖い顔してどうした?」
「……」
返答が無い。聞こえてないのか、無視しているのか、どちらか分からないが、ここは無難に何事も無かった様に振舞おう。と、そのまま彼女の横を通過しようとしたが、その瞬間に右手首を拘束される。
「ちょっと。何処行くつもり?」
「いや。教室に」
「あんたから話し掛けたんでしょ? そのまま、無視していくつもりなの?」
無視して行くつもりなのって、最初に無視したのはあなたです。そう言うのは簡単だが、そうしない。言えば倍返しで返ってくるからだ。俺はそこまで強いハートを持っていない。実に打たれ弱い、と自負している。
「で、何してるんだ?」
「人を待ってるの」
「ストーカー?」
「……」
返答は無く茶色の長い髪が俺の視界を横切り、彼女の右足が左側頭部を抉った。
「うごっ……な、何すんだ……」
苦痛に蹲り、彼女の顔を見上げる。威風堂々、誇らしげな顔で仁王立ちする彼女は、眩しい笑顔と優しい口調で、
「次は、保健室に送るわよ」
と、恐ろしい事をサラッと言ってのけた。てか、ミニスカートで回し蹴りって……。普通やらないよ。何て彼女には関係ないのだろう。
彼女は山本和葉。近所に住む同級生で、小学校からの腐れ縁になる。世間では幼馴染と言うらしいが、正直俺はそうは思っていない。家が近所と言っても挨拶を交わす程度だったからだ。それが、中学に上がった頃から急に話し掛けてきて、コッチはビックリだ。
しかし、その真相は結構あっけないもので、全ては兄貴が仕組んだ事だった。その所為で、中学三年間大変だった。朝早くから叩き起こされるは、学校の男子からは妬まれるは。散々な三年間だった。高校に進学してからは、それも少なくなったが、何故か二度寝した時に限って、俺を迎えに来る。コイツには超能力があるんじゃないか、と本気で思った事がある。
そんな事があった所為だろう。今では大分仲が良い。少なくとも、俺は好意を抱いている。
「で、何?」
不意に和葉がそう口にした。『いやいや……何? じゃないでしょ?』と、内心思う。思うけど、それを口にはせず、蹴られた左側頭部を押さえ和葉に目を向ける。
「お前こそ何だよ。最初に無視したのはお前だろ?」
「無視? 何の事」
「聞こえてなかったのか?」
「だから、何が?」
声に僅かながら怒気が篭っている。本気で聞こえていなかった……のか? 小さくため息を零し、じと目で和葉の顔を見た。その瞬間、和葉と視線が合う。脳が瞬時に目を逸らせと指令を下し、俺は視線を校門の方へと向けた。
「で、誰を待ってんだ?」
平然を装い尋ねると、和葉は少し頬を赤く染めた。
「実はさぁ。私、告白しようと、思っててさぁ」
その言葉に凍り付く。俺の恋が終わった。告白する前に花弁は無残に散った。当たって砕けろ……と、言う言葉があるが、俺は当たる前に砕けて散った。
放心状態の俺に、和葉は恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに話す。
「ほら、私達もうすぐ卒業でしょ。ここらで、一発勝負してみようと思ってさ」
言葉が耳に入らず、ただ適当に相槌を打つと、ポンポンと頭を叩かれた。
「ちょっとぉ。聞いてますかぁ?」
「エッ、ああ。聞いてるよ」
「それで、どう思う。井上君の事」
「井上?」
名前に聞き覚えはある。井上優樹。同じクラスの奴で、何かと俺に突っかかってくる奴だ。成績も良く、スポーツも万能。そんな奴が俺なんかに絡む理由が分からん。分からんが、俺は奴がキライだ。理由は無い。ただ、何と無くキライなのだ。そして、今、更にこいつの事が嫌いになった。
ボーッとしていると、また頭を二回叩かれた。
「大丈夫? ボーッとして」
心配そうな和葉の声に、俺は笑顔を返す。
「だ、大丈夫だ。大丈夫に決まってるだろ。てか、いつもと変わらないって」
「そう?」
「ああ。そうだって」
無理に笑ってみせるが、頭の中はパニックだ。その後、何を話したか覚えていないが、気付けば自分の席でボーッと空を見上げていた。
どうも。崎浜秀です。
久し振りの恋愛小説……不安です。
きっと、読み辛く、分かり難い作品になるかもしれません……。
一応、頑張って分かりやすい文章、説明にしていくつもりですが、大目に見てください。
最後までお付き合いいただけると、嬉しいです。