ハンバーガーという食べ物はエロいらしい
あれから一週間が経ち、私は相変わらず屋敷の中で安静という形でいる。
「…でも、全部の本を読み漁ってしまったし、困ったわね」
私は家の図書室がどこにあるか執事に聞いたら、家には図書室がないらしい。ただ図書館があるとの事…一般市民専用らしいけど、わたしも行っていいところのようだわ。
「屋敷の中での本では限界があるの。その図書館とやらへと行ってみるわ」
父と母が不在の中、執事とメイド達に止められた。
「ダメ!ダメです!まだお体は安静しなければなりません」
体はもう大丈夫なのに…。
「それなら、護衛が必要ならば護衛騎士も一緒に」
「騎士、でございますか…?ボディーガードならいますが…いえ、とりあえず今は退院したばかりですから」
白髪混じりの執事長のセバスチャン、と私は呼んでいる。セバスチャンはとても心配そうにしていた。
「執事長セバスチャンは心配性なのね」
クスクス笑っているとセバスチャンは溜息混じりで自己紹介をしはじめた。
「私の名前は長峰でございますよ?お嬢様」
「ふふ、でもセバスチャンでいいと思うわ」
「敵いませんな、お嬢様には」
そう二人で話している時
ガチャ
「ただいま。長峰、なんか食べ物ある?サッカーの練習試合後だからお腹空いて…って何やってんの…」
真斗さんが学校から帰ってきたようだわ。わたしも学校へと行こうとしてたら、まだ駄目と許可が降りていない…この魔法の国の学校はどのような事を教えてくださるのか楽しみなのに…。
執事長セバスチャンとメイド達は何故かジーっと真斗さんを見つめていた。
「……なんだよ?」
「真斗様、おかえりなさいませ。じつは紫苑様が図書館に行くと言われてまして」
ジーッ…
「……で?まさかお前ら…」
「よろしくお願い申し上げます。我々は仕事があるので19時には帰ってきてくださいませ」
「……なんでこんな馬鹿女と!」
「真斗さん」
「…あ?なに、また俺に嫌がらせするわけ?」
《ぺちん》
私は真斗さんの両頬を軽くペチッと叩いた。真斗さんは、ビックリしたのか固まっていた。この叱り方はリリーだった頃、義弟のリオンによくこうしていたものだから、…癖ね。
「…馬鹿な女なのは認めるわ。魔法もろくに使えずこの世界の常識を知らない無頓着なのは嫌なの。
まずは色々と歴史を学びたいし、申し訳ないけれどお付き合いしてもらえるかしら?」
真剣な顔をして私は真斗さんにお願いをした。真斗さんはため息をついてから返事をしてくれた。
「…はあ、わかった。いま着替えてくるから。まってて」
「ありがとう!ふふ、貴方は優しい子なのね」
「…おい、勘違いするなよ。迷子になって迷惑になるのが目に見えてるだけだから」
何で俺が、とぶつぶつと文句を言っているけど真斗さんは根は面倒見のよい人なのでしょうね。
しばらくすると、ラフな格好に着替え終わった真斗さんがやってきた。
「おまたせ、んじゃ行こうか。あんまり家の車とか使いたくないけど…今回はしょうがないか。長峰、車出せる?」
「ハイ、既に運転手と共に用意をしております」
セバスチャンが車を用意しようとしたけれど、私は挙手をして断りの声を出した。
「まってちょうだい。私は大丈夫よ、黒い箱に…いえ、クルマに乗らずとも行けるわ」
「……お前…一応聞くが…《何》で行くんだよ?」
「ふふ!よくぞ聞いてくれたわっ!バスとやらよ!大丈夫、学習はしているわ」
私は真斗さんに、学んだ本を渡して見せた。この魔法の乗り物くらいすぐに覚えたもの!
「……良い子の交通安全方法、ピカピカの一年生!今日から君もバスに乗れる!、バスの正しい乗り方……物凄く不安なんだけど」
「「…それでは、行ってらっしゃいませ真斗様、紫苑様」」
「いや、だから、不安なんだけど!?」
真斗さんは最初は子供のようにダダをこねてたけど、バスとやらに乗る事を承諾してくれた、それまでの道なりをリードをしてくれてとても紳士的だった。
私は少しドキドキと緊張しながら、バスを待っていた。
「…バスきた。乗るぞ」
「…わ、わかったわ」
「………手と足一緒に出してどうするんだよ」
バス…こんな大きな箱に沢山の人が立っていたり、座っていたりするのね。運転手さんも見事な運転をしているわ。私は運転手さんを褒めていたら、またバスが止まって次々と人が乗り降りしていた。真斗さんは私の腕を掴み後ろ側へと移動をした。
「ほら、ここ座っておけ。それと誰にも話しかけるな」
「まあ、真斗さんありがとう」
「……ん」
そんな真斗さんを後ろの席にいる令嬢達は頰赤く染めて見つめていた。彼女達腕や足を凄く出してて裸同然ではないのかしら…おへそなんてだして…私がなんだか恥ずかしいわね。
「マジ!ヤバい!ハンパなくカッコいいんだけど!」
「やあん!めちゃタイプ」
…なるほど、この魔法の国の日本ではモテる男性は真斗さんみたいな顔立ちなのかしら?確かに、見慣れない異世界の顔立ちだけど、とても顔立ちは良いわね。そう考えていた時、令嬢達の近くにお婆様が辛そうに立って見えた。私が急に立ち上がると、真斗さんは《また何やらかすんだ》という顔をしながら私の動きを止めた。
「まだ目的地までついてないけど、一体何?」
「ほら、お婆様が辛そうに立ってるわ」
そう真斗さんに説明をし、お婆様に席を譲った。真斗さんもすぐに気づき、お婆様の重たい荷物などを持ってくれていた。
「おや、ありがたいねえー」
《次はーー◯◯図書館前ーー》
「あ、次だ。ボタン押して」
「……そ、それは重大な任務ね…」
「いや、早く押せよ」
そう話してるうちに、降りられなかった私達は慌てて次のバス停とやらに降りてしまった。…あのボタンを押すのはとても勇気がいるのね…。また一つ学んだわ。
「ごめんなさい。まだ魔法に慣れなくて…」
「……今後絶対《魔法》とか言うな」
「え、でも……」
「…い、う、な!!」
私はコクンと頷いた。これは知られてはいけない秘密なのね…バス…この乗り物はまだ不思議な事が沢山あるみたいだわ。
ぐぎゅるるる~ポンッ
「「………」」
私のお腹の虫が鳴いてしまったわ。私はとても恥ずかしくて顔を隠した。
「…とてもはしたない姿ね。恥ずかしいところを見せてごめんなさい」
「……いや、そこは恥ずかしいのか…ハァ、俺もお腹は空いてたし。図書館へ行く前にサラッとなんか食べるか…」
真斗さんはハンバーガー屋さんとやらに連れてってくれた。
「クマクマバーガーへようこそー!スマイルはゼロ円でーす!何にいたしますか?今クマクマセットを頼むと、クマちゃんキーホルダーがプレゼントですよー!」
…どうしましょう。スマイル…笑顔ということだったわね?笑顔をダダなんて…笑顔以外はお金をとるのかしら??
そう私が悩んでいると、真斗さんは既に私の分まで頼んでくれた。…初めて食べる物だわ。
「…お前、こんな物食べないだろうけど」
「そんな事ないわ…えっと…どう食べればよいか教えてくれる?」
「………」
真斗さんは黙々と食べた。なるほど、包んでる紙を半分にしてこのパンと挟んであるお肉とレタスを食べる…サンドウィッチみたいなものね。
真斗さんは三口ぐらいで、食べ終わっていたわ。なんて早いの!?私がワタワタと焦っていると、真斗さんは席に立つ。
「ゆっくり食べてて。トイレ行ってくる」
モグモグと食べながら紫苑はコクンと頷いた。
トイレから出てきた真斗は紫苑の方へと向かうと何故か店内はザワザワと騒いでいた。
「なんか、あの黒髪美女!エロいよな!?」
「食べ方すげー綺麗だけど、なんか、こう、確かにエロい!微妙にマヨネーズが口についててさー!!」
「あそこにいる、彼女、芸能人かな?姿勢がいいし、見てよ。包みの紙とか綺麗に折ってるう」
「ママー!あそこにね、お姫さまいるう!」
とまあ、みんな紫苑に見惚れており、釘付けだった。そんな様子を見兼ねた真斗は、足早で紫苑の腕を引っ張る。
「……食べたろ。いくぞ」
「……?あ、クマちゃんキーホルダーとやらを忘れてるわ」
「………わかった。取ってくるから、動くなよ」
あと一口だったのに。…ハンバーガーまた食べれるかしら?そう質問したら真斗さんは、エロいと言われたから当分禁止と言ってたわね。
……意味がわからないわ。でも、クマちゃんキーホルダーはこの魔法の世界での最初の思い出の品だわ。大切にしましょう。
「ふふ、このクマちゃん、白目向いてて可愛いらしいわね」
とある町の、クマクマバーガー屋さんに、黒髪の美女が現れる!とネットで有名になり、人気になったとかは、真斗と紫苑の二人は知らない。