第17話 ぎこちないカンケイ/旅立ちに向けて
俺は異世界の“元”勇者・ソウジ。他の世界の勇者二人と同時に、唐突にこの世界に召喚される(なぜか俺だけ全裸だった)も、人間の国でよく分からない謀略にハメられ殺されそうになった。ギロチン台で死を覚悟した時、偶然にも奴隷の少女―――人族魔族混血の少女・シアに、別の場所に召喚され、王都を脱出した。
そこから色々あって、サキュバス『桃色族』の生き残りの少女・スーとサーヤの二人と出会う。俺は彼女らに頼み込み(?)、屋敷で居候生活を送り始めた。この世界に来たばかりの俺は、この世界の情報を集めながら、今は居候生活三日目。サキュバスの二人の少女・スーとサーヤと過ごし、コトが終わってから一人でいるシアのあられもない姿を目に焼き付けた、その翌朝。
ダイニングでは既に朝食の準備ができていて、食卓には三人の美少女が座っている。俺はそこにおっとり刀で駆けつけて席についた。
「おはよう」
「…………」
「…………」
「…………」
俺の挨拶に返ってきたのは三人分の沈黙だ。三人が三人とも別々のタイミングで、ちらちらと俺を見てくる。もちろんこちらの機嫌を窺っているとかではなく、距離の取り方を探っているようだ。今更なことをしてないで、是非とも話しかけてほしいもんだな。沈黙は沈黙でもこちらが少々窮屈な沈黙だ。
「…………。いただきます」
この家では食事の前に、サキュバスの亡き一族へ祈る習慣があるようだが、既に祈りは終えていたようだ。俺も形だけの祈りのため手指を組んで目を閉じる。祈りを終えてから、「いただきます」と一言付け加え、食事に手を付けた。
パンと野菜を中心としたシチューを味わいながら、同じテーブルの少女達の様子をちらりと窺う。
スーもサーヤもシアも皆、寝巻きに多少の羽織を着るという格好だ。本来なら寝巻きだけでも良い、というか昨日の朝はそれだけだった。昨夜を境に、娘達は自分達の格好が余りに無防備であることに気付き、すぐ傍にオスのいることをあらためて強く意識した。鎌首をもたげた恥じらいと警戒―――女の自覚、か。
あらためて、俺が異なる性を持つ自分達とは違う生き物、つまり人間の男であることを明確に意識したようだった。
「………っ!?」
「………」
ふと、目が合ったスーは驚いて目を見開き、そのまま何も言わず顔を背けてしまう。
頬は赤く、その熱が耳の先まで伝わるように赤みが広がっていく。
「―――っ!!」
ばっ、と、彼女は自身の首元を押さえた。何を意識したのやら―――そういや昨夜、あそこにキスしたっけな。
「………ッ!?」
「………」
その様子を見ていた俺とサーヤの視線は、すぐに見合わせるように互いへと向けられた。だが直後、残念ながら彼女も、スーと同じように顔を背けてしまう。
「―――ッ!!」
ばっ、と、彼女は自身の耳元を押さえ、さわさわと躊躇いがちにさすっている―――そういや昨夜、あの耳元で色々と囁いたっけな。
「…………」
「………」
俺はシアに目を遣った。つ……と視線をそらされ、しばらくするとじっ……と見てくる。
彼女自身はあられもない姿を見られたとは思ってもいないだろう、紅潮するほどの恥ずかしさはないようだ。ただ、昨夜の俺達の情事を知っているが故の反応。少し頬に朱が差す程度―――「昨夜、お前の自慰を見たぞ」なんて言った日には、どんな反応を見せてくれるんだろうな。
絶対に言わないが。
「……なぁ、シア。俺、なんか避けられてるみたいなんだ。なぜなのか知らないか?」
「………っ、―――っ!!!」
シアは真っ赤な顔をして、怒ったようにそっぽを向いた。
彼女は喋ってもいないのに、「しっ、知らないっ!!!」なんて声を聞いた気がした。
●●●●●
サキュバスの屋敷で俺が借りた部屋。二階の奥まった場所にある部屋だ。
俺はここで、この屋敷の主人了解のもと、頂戴した物品で旅の支度を進めていた。
キャスターを外したキャリーケースのような、大きな背負い鞄があったが、不採用。容量は多少落ちるが、腰と肩にベルトを撒けるバックパックを採用した。防水ではないので、そこが目下の課題だな。後で自分でどうにかしよう。
ベッドの上に散乱した不完全な準備を見渡し、溜め息を吐きながら俺はベッドに腰を下ろした。
この屋敷には、男物の下着どころか男物の服が何一つないんだわ。
「ね、ねぇ………本当に行くつもりなの?」
男物の下着がないので困り果てて作業を中断した俺に、作業がひと段落したと思ったのか、スーが尋ねてきた。
部屋の戸口から一歩、二歩と近づいてくる。ずっと部屋の戸口に立っていてどうしたんだと思っていたが、今の彼女には今朝ほどの緊張感はなく、やや躊躇いがちではあるがコミュニケーションは取ってくれるようだ。
「本当にも何も……お前だって『精気を吸ったらお役御免』って言っただろ」
「まっ、まだそんな―――! あ、あれは言葉の綾っていうか………っ!」
「言葉の綾ってなぁ………精気は結構やったろ? あれでは足りないか?」
「………っ! ぜっ、全然足りない!」
そんな筈はない。
昨夜の自身の痴態や俺との触れ合いでも思い出したのか、真っ赤になるスー。
しかし、発情はない。
つい昨日の昼間のような、オスを求め、我を忘れるほどのモーションをかけてこない。それは彼女が満ち足りている証拠でもある。それもサキュバスの生態というやつだ。
俺は“元”勇者で、あくまで人族側の人間。元の世界では基本的にサキュバスは“敵”だったし、人間の男への発情は種族特性みたいなものだと思っていた。それが今はなぜサキュバスの詳しい内部事情まで分かるかというと、彼女達に借りている書斎で見つけた本の中に、サキュバスに関する本もあったからだ。いわゆる「保健体育」というやつだな。初等教育を受ける児童に対するような平易な言葉で、大切なことが諸々書かれており、実に分かりやすかった。サキュバスの屋敷でサキュバスの女の生態について研究するなんて罪悪感が半端ないし字面からしても変態臭が漂うが、大変勉強になりました。
「こっ、この屋敷で、また……その………精気を………っ!」
「本気か?」
「………っ!! ほ、本気って言ったら…………?」
「お前達はもう既に、俺の精気を結構吸っていると思うんだが」
「いっ、いいでしょ! あといっか―――あと何回か!」
「あと何回か吸うつもりなのか………」
「ぇ…………ダメ? かな…………」
サキュバスだって孕まないわけではない。魔族相手にはもちろん、吸精対象である人間の男相手でも、同じ相手に対して、ソイツが死なない程度で定期的に継続して精気を吸えば妊娠はできるらしい。同じ相手から一定量の精気を吸って、その後で尚も性交を重ねると、吸精から意味合いの違う普通の性交のようなものに性質が変化するんだと。そこを急いで、吸精量を増やし過ぎたり回数を増やし過ぎたりするから、先に相手の体力が尽きてしまい人間が死亡する事態になるわけだ。
「………。ちょっと考えさせてくれ」
「………うん。ゆっくりで、いいから………」
スーはしょげたような様子で、ハート型の尻尾を力なく下げて部屋を出て行く。
……考えさせてくれ、か。
彼女の申し出に、もしかしたら含まれているかもしれない意味に気付いていないわけではない。ただ、今はそれにイエスと応じるのは無責任というものだ。第一、彼女達はそれでいいのか? いいと思ったとして、本当にそれが彼女達にとって幸せなのだろうか―――。
自分でも、居候の身で偉そうな返事だなとは思うが、考えなければならないことが多いのは事実だし。
今の俺と結ばれて喜ぶ女など、世界中を探しても見つからないだろうしな。
俺はこの世界に来てからまだ日が浅い。そこでサキュバスの屋敷にとどまり、書物などの記録やサキュバス二人の話から、この世界の歴史や政治情勢、一般常識などの情報を収集していたのだが―――それもどこまで有用かは分からない。情報は基本的に魔族サイドのものとなり、しかも二人の話によれば、二人を除く一族が亡くなってから十年は経過しているらしいからな。谷から出ない二人からの情報はその頃から更新されておらず、新しくもない。
この現状は停滞に見える前進であり、前進に見えた停滞でもある。
何も準備せず外に出れば思わぬところで足元をすくわれるかもしれないし、逆に、ここに長く留まり過ぎれば、俺の存在がどのような厄災を招いてしまうかも分からない。
今の俺はお尋ね者となっている可能性が高い。死んだ後の俺(の身体?)に用があるらしい王国は、俺が急に姿を消したのが召喚転移によるものだと分かった段階で行動を起こす筈だ。弁明する本人が逃亡しているのをいいことに、王女強姦未遂の報を触れ回るかもしれない。それに関しては全くの濡れ衣だが、もし王国側が、俺の死体欲しさに自国の体面すら気にしなくなったら、そこまでするだろうな。王女も三女だし、可能性として十分に考えられる。
そうなれば、俺が潜伏している期間が長ければ長いほど、捜索の手が国の隅々まで行き渡ることにもなる。その場合は逆に、定期的に姿を見せた方が周囲にかける迷惑も少ないだろう。最も、知らないヤツにかかる迷惑なんて知ったこっちゃないが。
生死を問わぬ捜索となれば、人殺しを厭うタイプの人間だってこぞって参加するかもしれない。いよいよ逃げ場はなくなる。
俺が潜伏をしたり神出鬼没の賞金首となったところで、まさか各地で魔女狩りが起きたり、人質を吊るし上げて俺の行方を尋ねるなんてことにならないとは信じたいが、全く起きないとは言えないのが何とも………。そうでなくとも、金が出るとなれば、例えば村を挙げてとかそういった単位で俺を捕らえて売る動きが出てもおかしくはないのだ。
最も、これは俺が自意識過剰なだけで、王国側は俺の存在を忘れて勝手に独自の陰謀でも進めているなら…………もしそうなってくれるなら、どれほどよかったことだろうか。そうじゃない可能性の方が高いから、困ってるわけだが。
いざ谷から出るとなると、結構怖いもんだな。
今から胃が痛ぇわ。
勇者であった過去から、人に期待され慣れている分、そのプレッシャーに慣れている分、既に人を失望させてしまっていることについては度を越した精神的ダメージが入るのは種族ペナルティか何かなのか? 俺の理性とは裏腹に、逃亡生活を送ることへのストレスがもう今から半端なく心をゴリゴリと削ってくる。
ひょっとして、もう“人間”としての俺の居場所って、無いんじゃないか?
あぁもう、帰りてぇ………あ、そうか。
これは、俺が元の世界に帰るための旅なんだ。
「やることは変わらないな」
俺のこれからの旅、谷から出てからの旅は、過酷なものとなるかもしれない。
下手に連れを巻き込めない。
成り行きとはいえ、恩人となった奴隷の少女と“契約”を結んでしまった。
俺に彼女の恩恵がなくなったら、胸の穴を塞ぐ黒く硬い皮膚のことも含め何が起こるか分からないが、彼女に俺の恩恵がなくなってもおそらく何も変わらない。
彼女をこの屋敷に預けて旅立つことが、最良の選択である筈だ。
第一、彼女達がシアを引き取ってくれることが俺の精気提供の条件だったわけだしな。
「そうか。“契約”の内容………聞いてなかったな」
うっかりしていた。“契約”には必ずしも具体的な内容は必要ではないが、もしそこに具体的な内容を取り決めれば、結ぶことで相互に大きなメリットが生じさせることができ、そうなれば当然、大きなデメリットもまた同時に生じることになる。
俺達の場合は大して変化がないから、大したことはないと思っていたが。一応、聞くだけ聞いておくか。
シアが、俺の心臓に一体何を魔文字で刻んだのか―――。
まぁ、そのうち。
「―――どうしたんだ」
先程スーが部屋を出て行ってからしばらくして、今部屋の入り口に立った少女。身長は、スーより一回り小さい。一回り……? 昨日あたりまで二回りくらい小さかった気がするが―――まぁいいか。
「シア」
「…………っ」
その“元”奴隷の少女―――シアは、何か意を決したようにズンズンと俺の部屋に侵入してきて、ベッド脇にボスンと大きなバッグを置いた。
やや溢れた中身から、どうやら着替えなどを詰めているようで―――。
旅行か? ―――などとは聞くまい。
シアは、少しムスッとした、怒ったような様子で、俺の隣に腰を下ろす。ベッドがキシッと少し音を立てた。
「スーか、サーヤに聞いたんだな」
「……」
こくん、と頷く。
どうやら俺の出立の気配を察知して、こうして同行を主張してきたようだ。
「お前を連れてはいけない」
「~~~~っ!!」
ばっ、と顔を上げ、「どうして!?」と言わんばかりの表情を見せてくる。
「どうしても何も………いいか、よく聞け、シア」
「……」
彼女は声を出せないが、言葉が分からないわけではない。
読み書きもできるし、本当にただ声を失っているだけ。
それが一時的なものかそうでないかは分からないが、俺の意図が伝われば今はそれで十分だ。
「実は、俺はこの世界の出身じゃない―――異世界の人間だ」
「っ………。……………」
「察してはいたみたいだな」
「……」
一瞬だけ目を見開いたものの、シアは余り驚かなかった。
予想していたのだとしたら、賢いヤツだと思う。まぁ、俺がサーヤにそういうことをほのめかした時、隣でやり取りを聞いていたから、あり得ないことではないか。
むしろ、俺が正直に打ち明けたことに驚いたといったところだろう。
「ところが、俺がこの世界に召喚された時、そこで少々困ったことが起こってな―――」
詳しく説明すれば長くなるので、多少はかいつまんで、俺がこの世界に召喚されてから、さらにシアに召喚されるまでの事態の推移を、要点が伝わるように説明した。
「―――で、お前に召喚された、というわけだ」
「…………………………」
シアは開いた口が塞がらないといった様子だ。
色々と驚きすぎて、内容が内容なだけに理解もなかなか追いつかず、感情が整理しきれない。
混乱し過ぎて、上げかけた手を引っ込める、俺を指さそうとした指を引っ込める、そんなことを何度か繰り返している。
俺が異世界から召喚された存在であることは理解していたようだが、その後については意外だったようだ。
まぁ、召喚されてからこっち、全く勇者っぽいこともしていなければ、それらしい扱いを受けたこともないしな。
「理解できたか?」
「~~~~っ!!!」
説明する上で、やむなく他の勇者についても言及せざるを得なかった。ただ、俺をハメた青鎧の勇者・クローディアについては特に詳しく描写しておいた。
また、よくよく考えれば警戒すべき人間はそれだけではないので、ついでとばかりに付け加え、勇者二人の特徴と王族についても言及しておく。
「………っ!! …………っ!?!?」
シアはパクパクと口を動かす。ただ、文字通り声が出ないので、こちらには余り意図が伝わらない。
「~~~~~っ」
しかし、途中で何を思ったのか、シアはぶんぶんと首を横に振った。
「~~~~~~っっっ!!!!」
そして俺の服の袖を、強く掴んだ。
話を聞いてもなお、離れまいとするように。
「……今の話じゃ、納得してもらえないか?」
「………っ!」
彼女はぶんぶんと首を横に振る。
「シア………」
「~~~~っ!!」
分かってくれ、と宥めようとするが、やはりシアはイヤイヤと首を振り。
しまいには、こちらに抱き着いてきた。
「―――っと。ほら、シア。良い子だから」
「~~~~っ!!!」
俺は彼女の頭を撫でた。角が無いというだけで撫でやすいと感じるのは、早くも俺がサキュバスとの触れ合いに慣れてきてしまっているからだろう。
………ったく。
ただ、俺も自分のことをシアに話して聞かせることで、あらためて現状が再認識できた。
やはり、俺のこれからの旅には暗雲しか見えてこない。
俺をハメたヤツらへの復讐に、元の世界に帰るという最優先目的―――それらに照らして考えても、俺のこれからは決して平坦な道のりとはいかないだろう。
「シア………ここなら、スーもサーヤも良いヤツだ。きっとお前も、お前の声もそのうち―――」
「………!」
はっとしたように、シアは俺を見上げた。
何か、大切なことに気付いたような表情で―――
赤く透き通るガラス細工のような綺麗な目が、俺を覗きこむ。
俺もはっとしてしまう。
自分でも何を言っているのかと、遅れて気付いた。
はっきりと、シアを気にするような台詞を吐いてしまった。
「………~~~~っ♡」
シアの口元がニヤアァと歪み、表情が喜びを表すものへと変化した。
ほんの一瞬での変化だが、すぐに彼女は顔を隠すように俺の脇に顔を埋める。
「―――あっ! おい!」
ぐりぐり、ぐりぐりと、右胸と右上腕を交互にシアの顔がくすぐる。
反対側に回された手にも力が入っている。
「連れて行かないぞ! 連れて行かないからな!」
「~~~っ♡ ~~~~っ♡♡」
シアはコクコクと頷く。
いや、「分かってるよ」みたいな雰囲気を出しているが、絶対に分かってないなコレ。
「………はぁ~」
「~~~~♡ ~~~~♡」
ぐりぐり、ぐりぐりと。
すんすん、すんすんと。
自身の匂いを擦りつけるように、あるいは俺の匂いを嗅ぐように―――いや嗅ぐなよ。何なんだ、魔族って匂いフェチばかりなのか? 変態どもめ―――おっと口が過ぎたな。完全に偏見だ。偶々、俺の周りに変態が集まっただけだ。変態を集める俺って一体………。
ま、まぁとにかく。
コイツに限っては俺から口説きにかかった覚えもない。打算的に距離を詰めた覚えが一切ないのだ。
いや、意図しないところでも、俺がコイツの好感度を上げるようなことってあったか……?
いや、ない。
絶対にないと言い切れる。
なんでこんなに好感度高ぇの………?
雛鳥の刷り込みのようなものだろうか。
奴隷ってのは購入するだけで、衣食住の保障など種々の義務を履行する必要はあるものの、主人は奴隷に命令をすることはできる。奴隷を得れば誰でもゴシュジンサマになれるということだが、俺はそもそも、その立場を放棄しようとしているのだ。
なぜ懐く?
懐くな。懐くんじゃない。
「―――こら! いつまで匂いを嗅いでる!? やめろ! 青少年の健全な育成によろしくないだろ!」
「……? ~~~~♡ ~~~~♡」
俺が持ち出したどこかの倫理規定などどこ吹く風。シアは軽く首を傾げただけでまた匂いを嗅ぎ始めた。
……スーにも散々嗅がれているから、こんなことにまで慣れ始めている自分が少し嫌になった。
「くすぐったいんだよやめろ! テメェも嗅がれてみるか!? 嗅がれるというのがどういうことかお前にも教えてやr―――」
「~~~~♡♡」
「―――は????」
他者にされて嫌なことは他者にするな―――そんな道徳を教えようとしたんだが、シアはどうぞ、とその薄い胸を差し出してきた。
いやどうぞじゃねぇよ嗅がねぇよ。それにどこ嗅がせる気だよ。
いや悪かった、胸を押し付けてくるのはやめてくれ、俺が変態みたいになる。
そんなバッドなタイミングで、俺の部屋の戸口に何者かが立つのが見えた。
「そ、ソウジ様ッ!?!?!?」
サーヤ。
お前は何でいつも余計な場面に出くわすんだよ……。