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第16.5話 深夜、息を殺した喘ぎ声

 サキュバスの二人の少女・スーとサーヤと疑似性交、兼、精気提供を終えた俺は、シャワーを浴びて部屋に戻り、就寝中。

 就寝中といいながら、ベッドに入っていても眠っているわけではない。外でよくやるような、眠りを浅くして外敵に備える、機能的なだけの睡眠をする意図というわけでもない。

 睡眠を自身の意思である程度コントロールすることは、実はそれほど難しいことではない。脳や身体を休める睡眠の働き、そしてそれらには一定程度の疲労や、同時に睡眠への集中力を要することを考えれば当然である。眠る前に明日起きる時間を自分に一言言い聞かせ、イメージするだけで、起床の具合は大分変わってくる。悩み事があることで睡眠の質が落ちるなどするのも、睡眠がコントロール可能なことの負の側面だが、つまりそうした精神作用が睡眠に与える影響が顕著であるということだ。


『―――っ! …………っ! ……~~~~っ!!♥』


 しかしながら俺は、眠ろうとしたところを完全なる外的要因によって妨げられる。

 否、妨げられるというよりは、そちらに意識がいって眠れないというだけなのだが。


『………っ! ~~~~~っっ!!!♥』

「…………」


 隣の部屋―――そこは、俺が召喚された日の翌々日に出会った奴隷(今となっては“元”奴隷)である、魔族と人間の混血の少女・シアが眠る部屋の筈。


 そう。


 聞こえるのだ。


 息を殺した喘ぎ声が。


 失声症により声を発することもできない少女の、声を殺した声、その吐息、息遣い。


 夜間となって強まった俺の鋭敏な感覚が、隣室の不自然な息遣いを捉えた。


 ………見ようによっては、この地に来てまだ緊張を解いていない自分に自分で感心できるだろうが、今はそういう場合ではない。


 あの、シアが。


 少しイケない息遣いをしている。


「…………」


 ………否、否だ。

 まだ()()最中と決まったわけではない。


 まだ、「体調に異常をきたしている」という可能性が残っている。


「ふぅ……―――【魔装体術マジックアーツ暗殺特化アサシネイション】」


 俺は“元”勇者。隣室の様子を窺うことに本気を出すのもどうかとは思うが、かつて勇者“だった”頃にはその固有のスキルで最強の名をほしいままにしていた。今回俺は、その頃に散々使ったスキル―――の一形態バリエーションを発動する。


 自分の身体を魔力で満たし、魔力への支配が及ぶ範囲、魔法ででき得る全ての可能性の中であらゆることが実現可能な【魔装体術マジックアーツ】。

 そして、その【魔装体術】の中でも特に隠密行動向きな、全身から漏れ出る魔力をゼロと言えるまでに縮減する【暗殺特化アサシネイション】。

 【魔装体術】はその特性上、身体から漏れ出た魔力によってその発動を相手に知られてしまうのがリスクといえばリスクだが、これに【暗殺特化】という“無音化”とでもいうべき特性を付与することで、その発動すら相手に悟らせず、暗殺………隠密で動くことができるようになるというわけだ。もちろん、今回は殺しが目的ではないから、かなり大袈裟といえるけれども。何しろ、対魔王戦やその刺客との戦闘において大活躍したスキルだからな。


 ただし、【魔装体術】のほぼ唯一の欠点と言える気配の漏洩を消してくれるのが【暗殺特化】とはいえ、それによって新たな欠点も生じる。

 この【暗殺特化】には、体内の魔力を外に漏らさない代わりに、体内で使用された分の魔力を自分でどうにか整理しなければならないという大きな欠点が生まれてしまうのだ。何事も完璧とはいかないらしい。


 ここで少し「魔力残滓」について説明しておこう。


 魔力というのはそもそも、何か力を発揮すれば、つまり魔法などで使用されれば、それと同じ魔力量が、引き起こされた現象そのものと魔力残滓へと振り分けられるようにして排出される。

 つまり燃料を使用するようなものだと考えれば分かりやすい。消費された魔力は、それによって引き起こされる現象とはまた別に、その内のいくらかが、無味無臭で無色透明、かつ無意味な魔力残滓として排出される。

 この燃料を燃やすという喩えでいうなら、魔力が燃料、詠唱が酸素、魔法現象がそれによって生み出される炎や熱で、魔力残滓とは二酸化炭素のようなものだといえる。


 やや長くなったが、つまり俺の【魔装体術】に【暗殺特化】を適用する場合、体外に魔力も魔力残滓も漏れ出さない代わりに、体内に蓄積される悪いモノ―――つまり魔力の残りカスである魔力残滓を、自分で処分しなければならないのだ。


 そうしなければどうなるかというと、中毒症状を引き起こす。

 酒で悪酔いするような気持ち悪さと酩酊感、そして戦闘における深刻なパフォーマンス低下を引き起こし、その状態がずっと続けばどうなるか分からない。流石に死ぬまで試したことはないが、俺も結構ギリギリを攻めた―――攻めざるを得なかった時期があり、その時に死にかけたのは良い思い出―――そう良くはない思い出だ。

 もしかしたら、魔法の使い過ぎで死んだと思われる過去の人物達の死因には、この魔力残滓が関わっていないとも限らない。魔力残滓の排出が不完全であることもまた、長期的には危険といえるからだ。


「ま、短時間なら問題ないし、今することにはそれほど関係無い―――よし」


 俺は一目、本当に一目だけ隣室のシアの状態を確かめたら戻ってくるつもりで、自室を出た。




●●●●●




『………っ♡ ~~~~っ♡』


 シアの部屋の扉の前に立つ。

 部屋の中から、不規則な詰まりの混じった吐息が聞こえてきた。


「………!」


 俺は、なぜここまで気配が漏れ出てきているのか察した。

 廊下に差す、一筋の青白く淡い光。部屋の明かりだ。

 扉が―――おそらく彼女自身、閉じたと思っているであろう扉が、少し開いている。露骨な隙間ではない。閉じたと思ったが、ラッチ受けにラッチがはまっていなかったことで扉が動き、開いてしまった微妙な隙間だ。確かに見ても分かりにくい。彼女は()()()()()()()()()()()()()にもかかわらず気付かないのも納得だ。


 俺は遠慮なくその隙間を利用して部屋を覗いた。

 目的はあくまでシアの体調の確認だ。


『~~~~っ、~~~ッ♡』


 彼女は顔を赤らめ、身体を震わせていた。

 自身の下腹部に手を伸ばし、痛い場所を撫でさするようにして、悶えながら吐息を途切れ途切れに出す。

 すわ下半身の異常か―――


 なんて。とぼけるのはやめよう。


 絶賛、彼女は自慰の真っ最中であった。


 全部見えちゃってるんだもんなぁ。


「…………」

『~~~~ッ♡ ――――っ、――っ♡♡』


 彼女は上半身に着た服の内側に片手を入れ、控えめに動かす。揉んでいる。

 そして彼女は、脱いだショーツはベッドの上にあることから分かるように、裸となった下半身、その最奥に手を伸ばして、くりくりと指で弄る。

 まだ何も知らないような、毛も生えていない、一筋の無垢な秘裂―――ぴっちりと閉じた秘裂の上部にある小突起クリトリスを、指の腹でこすって。

 彼女は息を殺しながら、自身の服の襟を噛みしめ、ひたすらに持て余した情欲を自慰によって発散する。

 そして―――秘裂に手指を這わせ、迷うような素振りを見せるも、またクリトリスへと愛撫の手を戻す。どうやら指を挿入することに躊躇いを感じているようだ。


 さわさわ、くりくりと、ゆっくり小刻みに動く手指。


『―――っ♡ ~~~~~っっっ♡♡』


 やがてひと際大きい絶頂を迎えたのか、身体をびくびくと痙攣させた後、シアはぱたりとベッドの上に身体を倒した。

 一本線のような披裂から垂れる愛液の筋が、天井の淡い光を受けて、彼女の呼吸する身体の動きに合わせてきらきらと光っている。

 

「…………」


 確かに。

 アレではガキ扱いというわけにはいかないかもしれない。

 サーヤの言った通り、シアは心まで幼いというわけではないようだ。期せずして彼女の見立ての信憑性が高まってしまった。

 

 俺がスーの部屋を出る時、扉の前に広がっていたシミにも納得がいったしな。


 シアは俺がスーの部屋に行くのをどこかで知ったか、あるいは部屋での行為の音を聞きつけるかしたのだ。そしてスーの部屋の前で、行為の一部始終を聞いてしまう。それは彼女の欲望に火をつけるのに十分なものだったようで―――。

 シアが眠っているところを起こしたのだとしたら、悪いことをした。


 俺がスーやサーヤとの行為に一区切りつけたタイミングで、おそらく彼女も部屋に戻ったのだ。それから興奮冷めやらぬまま過ぎ行く夜に耐えきれず、あのような自慰、否、自慰の続きを―――。


「………(シア―――)」


 俺は声をかけようとしてしまい、寸前で思いとどまる。

 声をかけてどうしようというのか。

 彼女が気まずい思いをするだけだ。


「…………」


 シアは、ふぅふぅと可愛らしく疲労の吐息を吐き出していて。

 俺は、彼女の小さな身体に、彼女の血のような、彼女の種族のような、彼女の性のような―――何か仕組み上の複雑な事情を見た気がして、抱え込むモノに苦労するのは誰しも同じなのだと改めて思い知らされた。

 年齢関係なく、相手を一個の生命として見ること。彼女とて、元の世界の基準でもこの世界の基準でも、成人といって良い年齢の筈だ。


 確か成人は十五歳の筈だから、アレでも持て余しているというのは分からない話ではない。


 ふむ、見た目と年齢の不一致、か。

 その見た目というのも人間から見た感想なのだろうが。


 俺はやはり色々と考えさせられながら、自室に戻って行くのだった。

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