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C  作者: 八瀬研
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第3話 見世物

 二人は例のパーティ会場に連れて行かれると、まず134がスポットライトを全身に浴びた。Cにとってその後ろ姿なんて結局どうでもよくて、この後自らに対して課せられる拷問はどんなものかと、それだけがただ怖くて震えていた。


 会場の観客は一万人以上。そのどれもが幽鬼のような白い肌をしていて、無機質な瞳を弓なりに吊り上げている。いつ訪れても生きた心地がしない。

 そして次にCに対しても照明が当てられた。目が眩む眩しさに反射的に身が竦んだ。天使達の笑い声が起こる。


 天使達に人気があるのは自覚していた。五年前から全世界に姿はさらされているけれど天使の連中が飽きもせず遊び続けている理由は、自分が天使の天敵である『悪魔』の混血だからだ。

 何一つ奴らの機嫌を損ねるようなことも、不利益をもたらすことも、仇なすこともしていないというのに、奴らは蹂躙することが当然だと言う。それが『人間』というやつらしい。それが世界の仕組みだった。


「不条理だ…」


 Cは茫然と呟いた。

 何をされるかはまだ知らされていない。何も告げられないままさらし台に首と手首を一枚の板で拘束される。

 それをしているのは345番、今朝の少女だった。半袖、半ズボンから覗くその肌全体に赤い蚯蚓腫れが走っていて、それは顔にもいくつもあった。鞭打ちの跡だろう。一瞬目が合うが、少女はすぐに顔を伏せ、仕事を終わらせて去っていった。

 一方で134は足だけを金属の拘束具に繋がれる。右手は元々ないが、左手は自由な状態だった。


 ショーの開演が告げられ、大天使が入場すると観衆からは盛大な拍手が上がった。左手には長大なハサミが、右手には抜歯用のペンチ状の器具、抜歯鉗子が握られている。Cは息を呑んだ。好々爺として笑みを浮かべた大天使が近づいて来る。それだけで失禁した。笑い声。そして万力のような力で頭を掴まれて、手始めに八重歯を鉗子で掴まれた。どっと冷や汗が湧き出て、


「あぁ、あえ、あえあえあええあえあああああああああ⁉」


 開幕早々容赦なく前歯が引き抜かれた。この世のものとは思えない痛みが前歯の神経を伝って脳を叩いた。


「あああ、はあ、はあ、はあ」


 痛みに慣れるなんてのは絶対に不可能だと思い知る。いつだって最高に痛い。なんとかその衝撃が収まるのを待つ。じんじんと、じんじんと。


(永久歯は一度抜いたら生えてこないんだぞ…⁉)


 全く引く気配のない痛みに苛まれていると、大天使は満足したのか次には134の元へ向かった。良かった。

 そして次には134に命令した。


「『自分の歯を一本抜け』」


 すると大天使から鉗子を受け取った134は次の瞬間、自らそれを口内に突っ込んだ。その目は恐怖に塗りつぶされていて、134が荒い吐息を三回ほど繰り返してから一気に引き抜くと、大きな奥歯を挟んだままの鉗子が投げ出された。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 Cは反射的に顔を顰める。あの叫び声は間違いなく134の本音だ。

 そしてガラスの壁を一枚隔てた向こう側では歓声が沸き起こる。大天使はそんな観客に頭を下げつつ、ついでに134の左手小指を掴むや、反対側に折り曲げた。134は解放骨折の痛みに体を反らし、折り曲げ、痙攣するように悶え、他方それを賞賛する声が聞こえる。

 そんな観客の反応に気を良くした天使は鉗子を拾いなおして再び134に命令した。


「『もう一本抜け』」


 大天使を見上げる134は震える手でそれを受け取ると、同じように口に入れて今度は一息に引き抜いた。


「あああ、ああああああ! あああああ、ああ、ああああああああああああああああ!」


 そんな風にして大天使は後先考えずに134を壊していく。歯を抜くのに飽きれば足の爪をはがす。べりべりと爪を剥がすと、生の肉があらわになる。痛みに耐えきれない134の体が跳ねた拍子に根元から爪が引き抜かれ、134はのたうち回る。

 そのときCは自分の涙が体の痛みからくるものでも、恐れからくるものでもないことに気付いた。思いのほか134のことを親身に感じていたらしい。そう気付くと口の中の血の味が濃くなったように感じた。

 やがて足の爪をはがすのにも飽きたのか大天使はこちらに向かってきた。


(クソッ! 俺の番かよ…!)


 その手には134の唾液と血液が付着した鉗子が握られている。134の歯を抜くために、爪を剥がすために使われたものだ。

 Cはまだ心と体の準備が出来ていない。血を流している右下の歯茎はまだ燃えるように痛く、また同じような強烈な痛みに襲われるのかと思うと体の震えが止まらなかった。


「『お前も自分の歯を抜け』」

「……っ⁉」


 天使の言葉が鼓膜を揺らし、そのまま脳に到達する。途端に視野が狭まったような感じがして、体が勝手に動き始める。

 メイという種族は天使の下位互換と言われている。メイは骨格や筋肉の付き方などに個体差が大きく、それは身体能力や学習能力もそうだ。しかし天使はみな容姿端麗で、健康的な身体、優れた記憶力と思考力を持つ。


 メイという種族は天使によって支配されるための種族だと言われているのは、天使がメイに対してのみ絶対的に通用する能力を有しているからだった。

 その一つが天使の言霊による支配、『預言』という『魔法』だった。自分の意思とは無関係に体を操作されてしまい、絶対に抗うことが出来ない。メイの分際で天使のお告げを聞き捨てることは許されない。


 だからCは首と手首を拘束された状態にも関わらず、自ら顔を横に向けて歯を抜きやすいように工夫して、ガチリと臼歯を掴んでいた。


「『抜け』」


 しかし、


「……」


 Cは震えていた。体の四分の一を流れる悪魔の血は、その命令を拒むことが出来た。命令に従わなければどんな目に遭わされるか分かったものじゃないけれど、つい先程抜かれたばかりの前歯の痛みが体を縛った。


 大天使はその笑みを崩して、あからさまに嫌な顔をした。Cの喉はひっと引き攣る。無造作に口の中に突っ込まれたハサミが、口の端をバッサリと切り裂いた。


「゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お⁉」


 刃による鋭い痛みが頬をおかしくしてしまう。止めどなく血が溢れてくるけれど拘束された手は届かない。風に晒されるだけで燃えるように激しかった。筋肉まで断たれている。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い⁉)


 まともなことは何も考えられなかったけれど、自分はただ天使に支配されるだけの存在だということを否が応でも全身全霊再認識した。

 幸いにも大天使はたったの一度で134の方へ向かっていった。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 残響する痛みに耐えながら、それが幸いと思う自分に気付いた。自分は死なない程度に痛めつけられるだけで済むというのに。

 大天使が134の人差し指を鉗子で潰すと、トマトのように中身がじゅわりと滴った。耳を塞ぎたくなるような絶叫。足を繋がれながら134は派手にじたばた踊りまわる。やがてCは痛みのあまりに失っていた聴覚を取り戻し、134の渾身のパフォーマンスに観衆が手を叩く音を認識できるようになった。


(……はは、可哀想だ…)


 自分以外の誰かが死ぬことがこんなに哀れに思えるのは初めてかも知れない。あるいは134の死にざまに自分の未来の姿が重なって見えてしまったせいか、自分のことしか考えられないこの世界で初めて同情している。


(俺もあいつも、なんって可哀想なんだろうなあ…)


 結局ああやって死ぬしかないんだろう。こんな風に死ぬくらいならこの世に生まれてこない方が良かった。

 もっと平和な世界に生まれて、もっと幸せな場所で生きたかった。過ぎたことが、確定した過去が変わればどんなに幸せだろうか。

 大天使は痙攣している134の、三本の指が残った左手にハサミを握らせる。あの手が使い物になるとは思えなかったが、134は顔を上げてしっかりとそれを握りしめた、そのときだった。


「……っ」


 ――134と目が合った。


 痛みが通じ合ったように、それはほんの一瞬だったけれど確かに互いを認識した。

俺とお前は共犯者だとその目は語っていた。分からない。そんなこと言っているはずがない。ただ傷をなめ合おうとしていただけかも知れないけれど、Cには134の目に光が宿っているように見えた。


(……なんだ、あれ?)


 どうしてあんな目をしているのか、こんな土壇場になっても134のわけの分からなさが少し嬉しかった。大天使は134の耳元で、言霊を預ける。


「『お前は自分で足の指を切れ』」


 その瞬間だった。その場に居合わせた誰もが、何が起きたのか理解できなかった。

 Cは目を見開き、観衆達も同様に瞠目した。



『じゃあお前の満足ってなんだ?』


『ん。――天使を全員ぶっ殺すこと』



 134はバネのように瞬発的に体を弾けさせて、左手に握ったハサミで大天使の眼球を貫いていた。


 あのとき134が言っていたことは気違いでも狂気でもなんでもなくて、本気だった。


「……おいおいおいおい」


 あいつは前から普通じゃないとは思っていた。異常な人間だと思っていた。しかしいくら異常だからと言って、ただのメイごときが天使より上級の大天使に反撃なんてできるものじゃない。


 そもそもどうやって『預言』の力から逃れた。メイは天使には逆らえない。それはどこまでも絶対的なルールで、例外などありはしない。


 大天使は鮮やかに紅い血を眼窩から吹き出しながら倒れた。きっと脳まで届いたはずだ。天使の生命力は人間の上位互換と言えどそこまで大きな差異もなく、器官を丸ごと再生する能力も持っていなければ、脳を傷付けられれば一生寝たきりになる。


 134は大きく息を吸い込み、叫んだ。



「ざまあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



「……っ⁉」


(何言ってんだあいつ…?)


 どくんと、Cの中で何かが動いた。


「やっぱり天使なんて大したことがないんだなあ!メイでも殺せるなんてよお!」


 134のそれは死ぬことを覚悟している迫真の口上だった。天使を手にかけた134はきっとすぐに他の天使に殺されてしまうだろう。それまでの一瞬の間に134は全てを叫ぶのだろう。


「勝手に自分達のことを優れてると思い込んで! 助長してただけで! やっぱりお前らは大したことなかったんだよ! 大天使でもメイに殺されるんだからなあ!」


 134の気迫にCの中の鼓動はどんどん早くなる。


「調子乗るのは結構だがそれに俺を巻き込むんじゃねえ! メイを虐げないと自己を肯定できないようじゃ天使の方がメイの奴隷だ! お前達の方がメイに依存しないと生きていけない奴隷なんだよ!」


 もう一度134は大きく息を吸い込んで、叫んだ。


「お前らは全員クズなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ビリビリと、Cと134の二人しかいないガラス張りの部屋が震えた。

 ガラスの向こうの天使達の反応はそれぞれで、怒りに顔を真っ赤にする者、大天使の死に恐怖を覚える者、興味深そうに眺める者、大声で笑い出す者までいる始末。

 驚愕していたCの頬は自然と上がっていた。


(何なんだあいつ!)


 それくらい聞いていて気分の良いものだった。134は笑っている。


「あっはっはっはっはっはっはっは!あっはっはっはっはっはっはっは!」


 声高らかに。


(ああ、あいつも、あんな顔するんだな)


 可哀想な子供を相手するときも、気が触れた同胞を見るときも、死の宣告を受けたときも134は笑っていたが、そのどの笑顔とも違う。腹の底からおかしくて堪らないといったように振り切れたように笑っていた。


「……ははっ」


 それを見ていたCも笑いがこみ上げてきた。


「ははは、ははははっ」


 生まれて以来ずっと天使に支配され続けてきたCは初めてこんな光景を目撃した。天使はこの世界で唯一絶対のルールで、逆らおうと考えることすら愚かなはずだった。ましてやあの大天使は何十年も前からこの施設でメイを支配し、数々のメイを殺してきた存在。


 なんてことはなかった。


 ハーフでもクオーターでもない純血種のメイでもあの恐ろしい大天使を殺すことができたのだから。

 しかし怒り狂う天使に荒れる会場、それを鎮める天使と不自然に静まり返ったガラス部屋の中、


(なんだ?)


 Cは違和感に気付いた。喧々囂々の会場内であっても134を止めにかかる天使が誰一人としておらず、外には出し物を楽しむように大爆笑する者すらいるのだ。未だにカメラも向けられていて、放映は続いている。


 小さなガラス張りの部屋の中には枷に繋がれたまま声高らかに笑う134と、倒れこんだ大天使の死骸が放置されているのみ、誰も助けに来ようとすらしない。


 そして、


「――っ⁉」


 その一瞬をCは見逃さなかった。


「おい⁉ まだ生きてる!」


 血だまりに伏す大天使の指先がぴくりと動いたのだ。しかし134は聞こえていないのか、壊れたように笑い続けている。


「おい! まだ生きてるぞ! 134!」

「あっはっはっ、は…」


 ようやく異変を察知した134は笑いを止める。その時には大天使は立ち上がり、134の隣で眼球に深く刺さった長大なハサミを引き抜いていた。真っ赤な血がどろりと溢れ出し、Cは愕然とした。


(……そんなんありかよ)


 大天使はハサミの血を拭う。失われたはずの大天使の右目は血で赤く染まっていて、多少ふらついてはいるものの、そんな出鱈目な治癒能力なんて生物としてあり得ないはずだ。しかしCはその能力に心当たりがあった。


(まさかこいつ、名前を持つ天使の血族か…⁉)


 天使という種族は大天使以上の階級から特異な能力を持つ者がいるらしい。今までその能力の片鱗を見せたことは一度もなく、まさかこの大天使がそうだったとは思わなかった。そしてCは嘆いている場合ではないとすぐに思い至る。


 134が殺される。


 まだ足元の覚束ない天使なら殺せる。


 今すぐに大天使を殺さなければ、134は死に、大天使を殺す機会は一生失われる。


(どうする…⁉)


 Cは自問自答する。134にも天使にも隠していたけれど、悪魔として殺傷能力を持つ魔法が一つ使えるのだ。


 しかしその魔法を使えることがバレればきっと殺される。その魔法は天使が最も忌み嫌うもので、過去の大戦を想起するらしい。前にこの施設には他の悪魔がいたものの、魔法を使えることが知られた瞬間即刻殺されたのだ。


 それに三年前、『甘言』の魔法を行使できることが知られたときに天使に散々実験されて、もう二度とあんな目には遭いたくなかった。


 だからこの能力はいざというときのためにとっておきたかった。自分が殺されそうになったときや、脱出の好機を見つけたときのために。不意を打って天使共を殺せるように。



全部自分のため。



 もしここで魔法を使ったのなら、この大衆を前に逃がれられるわけがない。すぐに殺されてしまうだろう。


 もしここで大天使を殺そうと殺すまいと、134はどうせすぐに殺される。

 魔法を使えば失われる命が二つになるだけだ。それなら何もしない方がいい。

この世界では自分のために生きられない奴から死んでいく。


 そう結論付けたところで、片目を失っていたはずの大天使が顔を上げた。その右目は完全に再生されていて、傷一つなかった。

 そのまま134の顎元を握りつぶすように掴んで、ぐいと目を合わせた。すると134は金縛りにあったように完全に動きを止め、喉を詰まらせたように荒い呼吸を止めた。――天使のメイに対するもう一つの絶対支配の魔法、『聖光』だった。


「ああそうかあ。耳を潰したのかあ。なかなかやるなあ」


 温厚そうなしわがれた声だが、その目は全く笑っていない。


「134番、私が倒れている間、お前はなんて言っていたのか教えてくれないかあ?」


 134は体を動かすことができない、当然大天使の問いには答えられない。大天使は『聖光』の能力を解除すると、134は大きく息継ぎを繰り返した。

 Cは悟った。


(殺される…)


 だがそんな絶望的な状況で134は、……笑った。


「あっはっはっはっはっはっはっは!あっはっはっはっはっはっはっは!」


 大天使に顔を掴まれ、その眼前にハサミを近づけられた134は笑う他なかった。そして刃は眼球を押しつぶすように挿入された。


「あっはっはっはっはっはああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 それがどんな痛みなのかCは分からなかったけれど、どっと後悔が押し寄せる。能力を使わないという選択は間違っていない。


(もう引き返せない…!)


 大天使は上手の舞台袖へ歩いて行くと、立てかけられていたハンマーを手に持った。柄が長く、頭の片方が平らで反対側は鋭利な形状をしているそれは、戦鎚と呼ばれるものだった。

 あれで134はミンチにされるのだろう。戻ってきた大天使が早速134の膝頭に振り下ろすと、元々ろくな物を食べてこなかった134の骨は軽い音と共にたちまち砕けた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 134は白目を剥いた。血をまき散らしながらのたうち回り、それでも意識は保っている。だが大天使は容赦なく、ウォーハンマーで煩雑に134の足の指を潰していった。その血肉と骨片は勢い余ってCの足元まで吹き飛んでくる。


 Cは目を瞑った。


(……134、お前は凄いやつだった)


 誰もが死んでいたあの収容所のなかでお前だけが生きていた。きっとあの一瞬のためにお前は、俺には到底計り知れない準備をしてきたんだろう。


 あの一瞬お前は確かに輝いていた。


(俺にはそんな真似できねえよ…)


 Cの引き抜かれた前歯と裁断された頬から溢れる血は止まらない。しかし止めどない涙は134に向けられたものだった。

 134はただ痙攣し、もう意識があるかも分からない。


(どうしたって天使には敵わない…!)


 メイは天使には勝てない。どんなに必死に生きようと、どんなに頭のネジが外れた奴でも、今俺達を囲んでいるこの世界を支配しているのは天使なんだ。



 だがそんな考えとは裏腹に、大鎚が骨盤に振り下ろされそうになったその瞬間、



「『やめろおおおおおおおおおおおおおおお!』」



 Cは何かに突き動かされるように叫んでいた。首と手首を挟んでいた枷は一瞬にして燃えて灰になると、Cは大きな火球を右手のひらに抱えていた。それは周囲のエネルギーを吸い込むように徐々に大きくなり、夕日のように辺りを真っ赤に照らす。


 最悪のタイミングでCは大火球を放った。


 見てられなかったのだ。


『じゃあ痛いときは俺が殺してやるよ』


 天使諸共死んでくれ。


 大火球はまっすぐ天使へ飛んでいく。それが地獄の炎を操る悪魔の能力、『業火』。


 最期の一瞬照らし出された134の目は煌めいた。無垢な子供のように口を開けて、憧憬を見ているようだった。


 大火球が爆ぜた。

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