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C  作者: 八瀬研
23/27

第22話 決別

 分かれ道に入っていった。ワンは新しく道を開けて来たようだ。

 やがて照らさずとも小さな穴の向こうに光が見えた。




 太陽灯の光が静かに差し込むその空間にいたのはゴンザロ、カミラ、ベル、ユーゴ、ルイーズ、後は名前も朧気な奴らだった。弓士のミア、戦士に憧れていたロビンの姿はそこにはなかった。


「たった、これだけ…」


 ワンが言っていた通りに何度数えても十四人だ。十四人だがもっと少なく見える。


「何がこれっぽっちだ! てめえのせいだろうが! C! 戦うのはてめえの役割だ! 違うか⁉ あ⁉」


 立ち上がったオスカーが突如強烈なパンチを食らわしてきた。咄嗟のことに反応できず、鳩尾に直撃する。


「かっ…⁉」

「やめて⁉」


 カミラは叫ぶだけで動こうとはしなかった。鼻息を荒げたオスカーが迫ってくるのを見て、臨戦態勢を取る。


(なんだ…⁉)


 訳が分からず他のリベラの仲間を見れば、ユーゴには目を逸らされ、ルイーズには憎悪を向けられる。特にユーゴはなんて薄情なんだろうと思ったが、他の周りの人間も殺意を向けてきているから、まだましな方なんだろう。


(ああ、そうか)


 つまりは、八つ当たりだ。


「戦う力があんだろ! どうしててめえは生きてクロエは死んだ⁉ お前が戦えば沢山の命が救えたはずだろうが!」


 クロエ、考えてみても一致する顔はない。自分が今、いつか聞いた訳の分からない価値観を押し付けられていることは理解した。


「クロエって…、彼女か、残念だっ――」

「俺の娘だ!」

「は…?」


 オスカーはまだ成年もしておらず、娘を持っているようにも見えない。オスカーの顔を見ればその目は敵愾心に燃えていた。天使に向けるものと同じだった。確か次郎をなくしたベルもそんな顔をしていた。

 愕然としていると、反応が遅れて振りかぶられた右手を直に眼窩に受けてしまった。じんと鈍い痛みが走った。

 どうして自分が殴られているのか分からず、泣きたくなったのを堪えてCは鼻で笑った。オスカーはまるで自分が何も失わなかったかのように怒る、それが酷く気に入らなかった。


「知るか。守ってやれなかったのはお前だろ」


 そのとき、周囲の目が一段と冷えたのを感じた。


「てめえ!」


 憤怒の形相のオスカーが再度腕を振るおうとしたとき、それをワンが止めた。


「やめよう。俺達は仲間だ。仲間同士で争うより、これからのことを話し合おう」

「うるせえ! まだ二発しか殴ってねえ! これはクロエの分だ! まだアレンとゲスタとカイゼルの分が残ってんだ!」

「オスカー!」


 何やらもみ合いになるワンとオスカー、Cの胸中にはやるせなさが残った。




「これからのことを、話そうと思う」


 やっとのことでオスカーを落ち着かせたワンは、その場で切り出した。


「都市を抜け出す」


 その提案に誰もが息を呑んだ。


「食料は天使達に全て燃やされた。仲間は半分が殺されて、半分が連れ出された。ロレンツィオももういない。これは思いつきじゃない。リベラの設立当初から計画していたことだ」


 そこでワンは大きく一つ息をつき、


「俺ももうじき死ぬ」


 髪をかき上げると、優男の顔つきをしたワンの左目を中心に、赤黒い血管が無数に張り巡らされていた。

 カミラが小さく悲鳴を上げる。あれだけうるさかったオスカーも、ワンのことを疑っているユーゴも瞠目した。


「体への症状は軽い。だがいつ頭に届くとも分からない。だからこそ最後は陽動作戦を行う」

「よ、陽動作戦…?」


 カミラが聞き返すと、ワンは頷いた。


「そうだ。俺が暴れて天使の注目を引き付けている間に、みんなには遠くに逃げて欲しい」

「無理だ」


 ずっと黙っていたゴンザロが口を挟んだ。


「そう簡単に逃げ出せてりゃあとっくにやってんだ。天使共の監視は強い」

「俺が地上の設備を全て破壊する」

「……」


 ゴンザロは押し黙った。代わりにワンが説明を続ける。


「壁を守っている天使はザフキエルの血族だ。座天使は今国防を担当しているが、主天使がいる」


 主天使、その階級はフィンとイルゼに魔法をかけていたザドキエルと同じ、第三位。その脅威は計り知れない。第二位の座天使がいれば絶望的だったことからまだましな状況だが、それでも主天使にはワンですら太刀打ちできない。アナスターシャが説明したことだ。


「能力は『聖壁』だ。一度発動すれば天使の意思が続く限り何者も通さない。どんな攻撃も無効にする。主天使はそれで都市全体を覆うことができる」


 その他にもたちの悪い能力はいくつかある。『衝壁』はその壁付近のあらゆる存在を崩壊させる。『操壁』は『聖壁』や『衝壁』の能力に指向性を持たせることができる、等々。


「地下探知機を破壊すれば確実に怪しまれるが、場所を特定されることはない。だが、ザフキエルの『聖壁』は地中にまで届く。だからその主天使が能力を発動する前に全てを終わらせる必要がある」


 ワンが言い切るも、皆黙考したまま口を開かなかった。カミラだけがすすり泣いていて、漠然とした悲しみが流れ始める。


「……嫌、ワン、やめて…!」


 さすがのオスカーもカミラの切ない懇願を妨げようとはしない。


「私はそんなの、嫌…! ワンがいないと、生きていけないの…」


 カミラは自らの体をかき抱いて大粒の涙をこぼす。ワンはそんなカミラの元へ歩いて、そっと抱き締めた。


 その場の誰もがカミラを憐れんだ。カミラはリベラの発足当初からのメンバーで、頼れる姉のような存在だったという。そんな彼女が子供のように泣いている姿は、哀れとしか言いようがない。

 あわれむだけで、他の誰もワンの提案した計画に異を唱えようとしない。




 作戦決行は十二時間後。それまでは何もない地下空間で体を横たえて休むしかない。地面は固く、腹も減っている。藁の布団も食料の一切もここにはない。

 今が夜か昼かの判別はつかないが、疲労の蓄積も限界に達しているのに、どうしてか眠れなかった。腹の中に何かが蠢いているように気分が悪い。

 だがそれを懐かしく感じたのは、あの収容所での日常を思い出したからだろう。いつも次の日を迎えるのが怖くて、緊張して、なかなか就寝できない。夢の世界に逃げたいのに、なかなか意識は沈まない。


(ああそうか)


 ここはもう、リベラじゃない。あのしみったれた収容所と同じだ。

 誰もが自分が生きるのに必死で、他者を犠牲にすることを厭わない。恐怖に支配された世界に自由など存在せず、『信頼』という言葉は神話になった。

目の前にぶら下がった限られた幸福を掴むために、ときには協力して他人を蹴落とす。フィンもイルゼもワンも、そうして蹴落とされていく。


 どうしたって、俺達はそうやって生きていくしかない。




「シー、起きて」


 退屈そうな声音とともに体を揺すられる。目を開けるとノエルがいた。


「おはよう」

「もう、時間か…?」

「うん。寝不足?」

「は? ああ、まあ」


 上体を起こして手で顔を拭った。ここには顔を洗う水などあるはずもなく。周りを見れば殆どのメイ達は遠くの方で起きていた。だがワンとゴンザロの姿はない。


「あと一時間」

「そうか」


 あと一時間で生死が分かたれる。いや、俺達は生きるんだ。誰を犠牲にしてでも。


「シーも不安なの?」


 ノエルが覗き込んできていた。


「……きっとこの作戦は上手くいく。上手くいかない理由がない。今までネックになっていた探知を防ぐことができて、ワンが命を懸けて天使を食い止める。天使の説明は現実的だった。お前は、何が不安なんだ?」

「シーとは、不安に思わないの?」

「何を」

「フィンと、イルゼと、ワンのこと」

「……」


 図星だった。


「大切な誰かが死ぬのは、つらいよ…」


 ミアのことだろう。ノエルの口からため息交じりの吐息が漏れた。


「……そうだな」


 この世界は何かが、決定的に間違っているのは否定しようがない。否定しない生き方もできる、気付かない振りもできる、けれど、それは逃げているだけだ。逃げることは決して悪いことじゃないけれど、それでも必ずどこかに苦しんでいる人はいる。そして皮肉なことに、それが自分の大切な人達だったりする。


「……っ⁉」


 違う。そうじゃない。


(世界じゃなくて俺の選択が間違っているんだ)


 不意にどこからか舞い降りたそんな考えが頭を殴って、ピースが嵌ったような快感とともに目を見開いた。

 今までずっと、嫌なことから逃げることばかり考えていた。この世界は嫌なことばかりで、そんな世界に住まう人間は嫌な奴らばかりだ。

 でも、もう少し視野を広げて見れば、新しい可能性があるはずだ。

そんな思考が頭をよぎって、ノエルの声でふと我に返る。


「ねえ、でも一番はシーだから」


 いつの間にかノエルは怯えたような表情をしていた。




 やがて地下空間にいる全員が目を覚ますと、仲間内で固まって小さな声で話したり、緊張で言葉を発せなかったり、そうして定刻まで待っていた。

 いつか以上に冷え切った視線が向けられる。しかしなぜか、そんな注目はあまり気にならなくなっていた。


「ワン!」


 一人が反応する、その顔が向けられる先に地下に戻って来たワンがいた。後ろからゴンザロも歩いて来る。その衣服の端々が土や泥で汚れている。


「通路は確保できた。それと、リベラの後処理も完了した」


 俺達が寝ていた間に終わらせてきたのだろう。ワンは全員を見渡した。


「いいか、ゴンザロに付いて行くんだ。何か不安なことや困ったことがあればカミラやユーゴに相談するんだ。大丈夫か?」


 ユーゴは頷いた。カミラは、


「……分かったわ」


 泣き腫らした目でワンを見据えた。その瞳には意志が宿っていた。


「全員、準備はいいか?」


 ワンは一人一人の顔を見る。その向日葵色の右目は太陽のように輝く。


「今から、脱出作戦を開始する。絶対に生き延びてくれ」


 今生の別れを告げると、ワンは背を向け、歩みを進めた。


「ワン!」


 カミラが名前を呼んだ。だがワンは後悔や後ろ髪引かれる思いを断ち切るように走り出した。


「ワン…!」


 その背中が見えなくなると、カミラは膝から頽れた。先程までは虚勢を張っていたらしい。顔を手で覆うも、その悲痛な慟哭は抑えきれずに溢れ出した。カミラはリベラの住人にとって頼もしい存在だった。少なくとも、こんな風に感情を露わにしてあわれに泣き叫ぶような女ではなかった。

 全員カミラがワンのことを愛していたのを知っていた。それでも目を逸らした。


「おい、行くぞ」


 ゴンザロにしゃがれた不機嫌な声が耳を刺した。カミラと共に感傷に浸っていたメイ達は、明らかに嫌そうな顔をして、しかしカミラを慰め始めた。


「ついに始まったね。現実じゃないみたい」


 ノエルはというと今日もCに背負わせていた。


「夢だったら良かったよな」


 フィンも、イルゼも、ノエルと仲が良かったミアも、全員消えてしまった。フィンとイルゼと別れたときですら大分心をやられていたから、ミアがいないと分かったときの心中は十分に察せられる。


「そういう意味で言ったんじゃないけど」


 ノエルは首に回す腕の力をぎゅっと強めた。

 カミラに手を貸さずに隣りを歩く者の中にはオスカーがいた。背負っている弓矢と矢筒は護身用に渡されたもので、二セットだけ残っていた。そう簡単に素人に扱えるものでもないが、訓練生は軒並み消えた。そこで腕力と粗暴さに定評があるオスカーが引き受けることとなった。


「カミラのところに行かなくていいのか?」


 オスカーはカミラのことを好きだ。


「あ? てめえ…!」


 まさか話しかけられるとは思わなかったらしく、はっとしてすぐに憎悪を立ち昇らせる。


「好きなら、助けに行けよ。お前にもそれくらいの力はある」


 力があるなら戦う義務がある、自分でそう言ったはずだ。


「黙れよ! てめえに何が分かる!」

「シー、何かあったの?」


 眼前で喚くオスカーとすぐ後ろで首を傾げるノエルに挟み撃ちにされる。


「……何でもない」

「死ね!」


 オスカーは吐き捨てると来た道を引き返して行った。恐らく俺の隣を歩きたくないだけだろうが。




 まるで葬列だった。誰も下手に言葉を発することができず、時々誰かが鼻をすする音がする。何かの死を悼むように沈黙して練り歩く。


「ワンの準備が終わった。とっとと歩け」


 ゴンザロが言う。ワンから受け取っていた無線による通信だ。ワンは探知機を破壊できるように、地下では探知に引っかからないギリギリの場所まで待機してからが勝負になる。残りおよそ一時間の道のりだ。


「あんた、もっと言葉を選んでよ」


 突然の一声だった。一同度肝を抜かれる。まさかゴンザロに対してそんな口の利き方をするとは。今までゴンザロに直接意見をぶつけられるメイは一人もいなかった。


「土人なんかには分からないだろうけど、ずっと前から思ってたけど、もっと言葉の選び方を考えなよ」


 やけに強気に言ってのけたのは、怖いものなしのルイーズだった。ユーゴもオスカーも驚いていた。


「……誰だてめえはぁ」


 案の定、気の短い土人は眼光鋭く、声を低く唸らせた。さしものルイーズも気圧されかけるが、気丈にも続けた。


「あ、あんたそんなだから、リベラのみんなに嫌われてんのよ。相手を見下して喜ぶなんて、天使と同じ。あんたは、天使と同じクズだ」

「そ、そうだそうだ!」「見下してんじゃねえ!」「たまたま力があるからっていい気になんな!」「最っ低」「お前なんて仲間じゃない!」


 すると、不満が溜まっていた他の者達も口々に賛同し始めた。

 こいつらはやっぱりクズだなとしみじみ思う。ゴンザロは確かにクソ野郎だが、そんな下らない言い合いしている場合じゃないだろう。本当はもっとすべきことがあるだずだ。だがいつもそれを止めるカミラは使い物にならなかった。

 するとゴンザロはルイーズへ滲み寄り、


「ひっ…⁉ 来な――ぶっ⁉」


 容赦なく顔面を殴った。それを見た他の住人は激高した。


「ふざっけんなあ!」


 オスカーが殴りかかる、が、その拳はゴンザロが地中から生やした土の壁によって阻まれた。すると他にも次々と格子状に土筍が聳えて通路を塞いだ。男衆は慌ててそれを掴むが、先程まで流動的に動いていたはずの格子はびくともしなかった。


「何しやがる⁉」「本性表したな⁉」

「歯向かう雑魚はいらねえ。反省すれば戻す」


 ゴンザロは正気でそんなことを言い放った。性根から腐っている。


「くっ…」


 男達は今ここで取り残されることの意味を理解し、歯噛みした。土人の能力がなければこの先どうしようもない。しかしその中でもオスカーは歯向かおうとした。


「黙れデ――」「オスカー!」


 歯向かおうとしたが、ユーゴが慌ててその口を塞いだ。みな黙従を選んだ。最初は威勢が良かったルイーズは、地べたに転がったまま殴られた頬を抑え、涙を流していた。


「……ここは従おう」


 ユーゴの言葉と、他の仲間の気まずそうな沈黙に気付いたオスカーは、格子を殴りつけてから、渋々引き下がった。

 全員が意気消沈したのを確認してから、土人はふんと鼻を鳴らして術を解いた。




 どれくらい経っただろうか。


「クロエはな、元いた施設のガキだった。奴らは道楽で産まれたばかりの子供を買ってきた。その世話をさせられたのは当然俺達だった。おしめをかえるときの臭いは強烈だったけどな、笑った顔は世界で一番可愛いんだ。言葉を喋られるようになってからは、俺のことをぱぱって呼ぶんだ。最初はやめろって言ったけどな、もうそう呼ばれるのが嬉しくなっちまった」


 オスカーは心底嬉しそうに息を吸い込んだ。


「これくらい大きくなったころには、俺達の顔色を見て心配するようになった。心配させたくはなかったがな、なんて愛らしいんだろうって思ったよ。将来俺のお嫁さんになりたいなんて言い出したときにはそりゃあ嬉しかったさ。嬉しかったけど悲しくもあったんだ。ずっと読んでた子育ての本にな、反抗期ってやつが来るって話が書いてあったんだ。反抗期ってのは家族のことを嫌いになっちまう時期らしい」


 オスカーは右手で両目を抑えた。


「杞憂だった」


 深い、深いため息が吐かれた。


「俺はもしメイだけの国に辿り着けば、そこで戦力を揃えて、またここに戻って来る。それまで待っててくれ、クロエ…!」


 すると、話を聞いていたカミラが再び泣き出した。


「ど、どうした⁉」


 オスカーが慌てる。カミラは気にせず足を前に進めた。


「ワンが死ぬの…!」

「……」


 オスカーにはその涙をどうすることもできず、目を逸らした。またカミラの発作が始まったと思えば、名前も知らない男が口を挟んだ。


「それならまだましだっての! 俺の大切な人はもう死んだんだ! そこの悪魔が何もしなかったせいでな!」

「――は?」


 突如として話題の矛先を向けられて反応できなかった。ノエルがぎゅっと首に回す手の力を強めた。今度は他の男が言葉を発する。


「お前らは力を持っているくせに、全部自分のためにしか使わない! 俺達を見下して笑うための力じゃないだろ!」


 するとルイーズも声を上げた。


「最初からあんたなんて助けなければよかったのに!」


 ついさきほどまで客観的に眺めていた悪意が全て、自分の元へ向かっている。


「黙ってねえで何か言え!」「助けてやった恩を忘れんな!」「最っ低」

「……」


 この狭く閉じられた空間では、偏見に満ちた多数決が全てだから仕方ない。


(おかげで、踏ん切りがついた)


 間違っているのは世界じゃない。

 自分の選択の方だったんだ。

 全部誰かのせいにするのは止めてくれ。

 優しい誰かを犠牲にするのは止めてくれ。

 良い奴らから消えていったら、この世界に残るのはクズだけになる。

 そんなのは間違ってる。

 ここはもうリベラじゃない。自分が生きるために誰かを踏み台にしてしまっている。


 ――でも、自由のない世界でも、俺の意思だけは自由だ。


「ユーゴ」

「どうした?」


 呼ぶと、ユーゴは警戒しつつ対応した。


「ノエルを頼む」

「えっ…」

「……っ、頼まれた」


 動揺するノエルの腕はすぐに外れた。ノエルを降ろして、立ち上がった。


「最後に一つ言わせろ」


 見渡す限り、全員奇怪がってこちらを見ていた。


「お前らは全員クズだ。嫌なことを他人に押し付けてばっかで口だけだ。自分が助かることしか考えていない。全部投げ出してまで自分で助けようともしない。毎回凝りもしないで自分論理を押し付けてばっかりだ…。俺もお前らと同じクズだった」


 Cは背を向けた。


「シー!」


 呼び止められて振り返ると、ノエルはにぱっと笑った。


「絶対に、戻って来て!」


 そういえば、ノエルの涙は見たことがなかった気がする。

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