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C  作者: 八瀬研
14/27

第13話 悪魔

 次郎の死体は墓場に埋められ、小さい部屋の土の山は一つ増えた。ここで腐って病気を広めないように、亡骸はもっと地下深いところに埋めてあるらしいが。


 うるさい奴が死んだことで少しはこの地下生活も風通しが良くなった。しかし今日から畑の仕事はなくなった。自分でもどうかしてると思う。散々嫌だったはずだ。

 畑仕事もないから意味もなく墓場に足を運び、実際何もない土の小山を見たCは意味がなかったことに気付いた。


 そのままの足で向かったのは墓参りに比べれば意味のある用事だった。六畳一間に藁葺きベッドが一つ、その上で寝ていたノエルはにぱっと笑った。


「ああ、来たんだ。久しぶり」


 久しぶりというほど日は空いていない。あれからまだ三日、膝下からあるべきものが無くなったはずだがノエルは落ち着いていた。

 Cは入口付近のノエルに近すぎず遠すぎない距離で問う。


「大丈夫なのか?」

「ノエルは機人の作ったメイだから、丈夫にはできてるよ」


 焼いて血を止めたらしいが、普通の人間ならとっくに死んでいるところだ。この怪我で、晴れてノエルは戦場から離れることとなった。畑仕事や洗濯、掃除炊事などはできないだろうが、道具の整備や編み物の仕事はあるらしい。同じように身体が不自由なメイが従事している。


「聞いたよ。戦うって」


 ノエルは自らに起きた悲劇に気付いていないのか、呑気に頬を緩めている。Cは眉を顰めた。


「なんで嬉しそうなんだ」

「シーならきっと逃げられる。天使がいないどこかに」


 夢心地に語る姿に、Cはいよいよノエルの正気を疑う。


「……質問の答えになってない」

「ずっとこの狭い場所にいても何も変わらないでしょ。でもシーは変わることを選んだ。そしたら変わるよ」

「選んだんじゃない。消去法だ」

「消去法で選んだんだよ」

「……」


 逃げられるかどうかなんて分からない。Cはノエルが自分のことに対してポジティブなことで損をするわけでもないから放っておくつもりだったが、損をするわけではないのにどうしてか気に入らなかった。


「……お前は、足手纏いだって言われてるぞ」


 口下手なCから出たのはそんな嫌味だった。だがノエルは、何も気に留めていないように満足げに答える。


「うん。まあね」


 自分と同じだ。ノエルは他のメイとは種族が違う。戦えない異種族に価値はないとする意識がリベラの人々の片隅にあって、戦えないどころか一人じゃ移動することすらままならないノエルは一部の住人に白い目で見られ始めている。


「近いうちに死ぬぞ。その足じゃ…」


 Cはそこまで言って黙った。自分がいくら残酷なことを言おうと、ノエルはにぱっと笑うだけだった。


「うん。死ぬと思うよ」

「……」


(ああ駄目だ。俺はこいつに同情している)


 Cはどうして自分がノエルのこの態度が気に入らなかったのかを気付いた。同情してしまっているから、ノエルが自分自身のことをなんとも思っていないような態度が嫌だったらしい。


「でも、つらいことばかりじゃないよ」


 ノエルは眩し気に目を細めたが、やはりそこに悲壮感はない。


「何も出来ないから諦められる」


 ああ、自分自身のことに関してはなんて後ろ向きなんだ。嘆いても仕方なく、Cは珍しく励ますようなことを言おうとする。


「諦めることは今は楽でも、後からつらくなるだろ」

「諦めなければ今も後もつらいよ」

「……はあ」


 相変わらずの屁理屈だ。Cはため息を吐きつつも少し安心した。そのとき、


「ノエル」


 芯の強い声音。Cの他にも見舞いに来る者がいた。後ろで髪を結わえており、鋭い眼つきをしているその女は、弓士のミアだった。リベラにきた初日以来言葉を交わしたことはないが、ミアはこちらを見るや、少しだけ目を見開いた。


「じゃあ、俺はこれで」

「また来てね」


 そんな保証はなかったから、Cは何も返さずに部屋を出た。




 午後になるとCはロレンツィオの森を訪れていた。ワンが予め集まるように伝えていたからだ。先にいたゴンザロは蔑むような視線を一つ寄越すだけで、ロレンツィオとミアは興味なさそうに地面に腰を下ろしている。


「全員集まったな。作戦を説明する」


 ワンは確認すると神妙に口を開いた。


「今回の救出目標は大戦から拘禁され続けているヨウだ。相手は中位三隊の主天使、ザドキエルだ」

「……っ⁉」


 説明の頭から信じ難い内容だった。

 ザドキエルは壁の番人ザフキエルとは一字違いだが、同じ主天使の階級となればその脅威は同等のものだ。一説によると天使の階級とは最終的に死ぬメイの数を規定するものとも言われており、最下位の天使一人の存在で五人のメイが犠牲になり、第四位の主天使一人ならば一千万人のメイの死を招く。


 Cは毎度こんな無茶な相手と戦っているのかと周りを見れば、森人、土人、ミアも信じられないように唖然とした表情をしていた。

 Cはワンが正気か疑わしく思って見やる。ワンの雄々しい顔つきは次郎が死んでから幾ばくかやつれているものの、瞳に宿る決意の炎は揺らいでいない。Cはますますワンの正気を疑う。


「無理だ」


 他の誰も言わなかったから、代わりにCが言った。それならせめてこの天使の都市から脱出するべくザフキエルを相手に戦った方がいいだろう。どちらと相まみえても全滅は免れないが。

 主天使とはそれほど一般的な人間とは隔絶された存在だ。ワンがそれを知らないはずはないが、主天使を相手にするなど馬鹿げている。


「主天使はただの天使なんて比にならないくらいに危険だろ。特にザドキエルの支配能力はメイ以外にも有効だ」

「詳しいな」

「常識だ」


 ザドキエルは『支配』『統治』を象徴する天使の血族だ。ケセドのセフィラの守護天使である。セフィラは世界の根源とされるもので、ケセドとは愛のことだ。それがどんな形をしているものかは誰も知らないが、天使のメイに対する愛とは虐げることや殺すことだ。天使自身それがメイへの慈しみであると自らの行いを解釈をしている。


 ザドキエルの血族に備わる特殊な能力は『支配』だ。階級による能力の強さや違いはあるが、その『支配』はメイのみならず他種族までに及び、『預言』や『聖光』の上位互換の能力と言える。

 すなわち、ザドキエルの血族はメイへの支配を司っている。これらは収容所でも得られた知識だ。

 しかしワンは反論を予想していたように落ち着いて答えた。


「基本的に天使が持つ能力は『預言』『聖光』『飛翔』『迅雷』の四つだ。それに加えて階級の高い天使は特別な力を持つ。Cが収容所の大天使、サリエルも特別な『治癒』の能力を持つ」

「……」


 Cは奴がサリエルの血族だったことを今更に知る。それは驚くべき事実だが、


「それがどう関係するんだよ」

「能力は『支配』と『慈悲』と『生贄』だ。『支配』は相手を意のままに操れる。『慈悲』は何もせずともメイに『痛み』を与えられる。『生贄』は『慈悲』の能力を必中にする」


 ワンはさも当然のように答えたが、Cは驚愕した。


「なっ、お前、どうしてそんなもん知ってんだ⁉」


 ワンはやけに確信を持った口調だった。周りの奴らは誰も不思議に思う様子はない。だが、不用意に情報を漏らさない天使がそこまで詳細に能力を暴露するはずがないのだ。ましてや地下でこそこそと逃げ回る人間が知る情報ではない。


「条件は?」


 土人が低く問う。


「全て発動条件はザドキエルが対象の相手を意識したときだ。ただし『慈悲』に関してはいくつか祈りを捧げる必要がある」


 Cの疑問は解消されないまま話は進行する。祈りがどんなものかは知らないが、初動まで時間がかかるということだろう。ワンの言っていることが嘘か真かはさておき、いずれにせよ『支配』の能力が強力過ぎる。ワンですら対処のしようがないだろう。やはり主天使を相手にするのは不可能だ。


「主天使一人の能力を知っていたとしても無理だ。それに他にも天使は沢山いるだろ」

「話は最後まで聞け」


 Cが疑問を呈すと土人が制してきた。


「疑問に思ったらいつでも質問してきて構わない。『支配』の能力に関しては問題にならない。意識で支配する能力には限界がある。ザドキエルは意識を集中させなければ能力は発動できない。必ず一瞬の隙が生まれる。そこを攻撃すればどうということもなくなる」

「……主天使だぞ。そんな簡単にいくわけがない」

「それよりも『預言』と『聖光』の能力が問題になる。ザドキエルの『預言』は下位天使のものより強力だ。ゴンザロとロレンツィオには効かないが、俺達には効く。『支配』は天使が意識する必要があるが、他二つの能力は言葉や視覚が脳に伝わるだけで効果が発生する」


 ワンは地図を広げて指さす。


「今回は地下から直接施設内に侵入する。そこからヨウを探し出して拘束を解き、リベラに戻る。ザドキエルのいない時間を狙う」


 ヨウ、つまりメイのような無能力ではなく、このどん詰まりの状況を打開するような他種族の能力者だ。たかが奴隷を保持しておくための施設に主天使レベルの天使がいるのも合点がいく。

確かにワンの言うように主天使という最大の脅威さえいなければどうとでもなるだろうことにはCも同意する。すると土人が口を開いた。


「どいつを仲間にするのかは決めてんのか」

「施設内部の詳しい情報までは得られなかった。施設には機人以外の全種族が監禁されているらしい。年齢も幅広い」

「お前が知っているのはザドキエルの能力と散歩の時間だけってか」

「それと建物内部の構造だ。建設時のデータのみ入手できた」

「……」


 土人は眉に寄せる皺を一層濃くさせ、沈黙して考え込む。代わりにCが声を発する。


「お前の情報源を知らなければ、俺はお前を信用できない」


 ザドキエルの血族の能力などは収容所でいくら調べても見つかるものではなかった。ましてや外出時間のような個人的な予定など、張り込みでもしない限り分かるはずがない。

 だがワンではなく土人が口を挟む。


「臆病なお前がいると話が進まねえな。命張って地上から持ってきてんだ」

「天使の情報統制は厳しいはずだ」

「今までここで死んだ奴らだって馬鹿じゃねえ。古文書に天使の能力を残した。個人的な予定なんてものは調べりゃ出てくるもんだ」

「どうやって調べた」

「インターネットだ。今時天使の一人一人の行動は監視されてるもんだ」

「インターネットなんてどこにある?」

「地上だ」

「どうしてそれをワンが使えるんだ。わざわざ地上に置いておく必要はない」

「――C」


 沈黙を保っていたワンがついに口を開いた。


「後で説明しよう。だから今は俺を、信用してくれ」


 懇願するような声音、切実に訴えるような目だった。Cは愕然とする。


「お前信用なんて、宗教だぞ…?」


 だがワンは返答しないまま、


「ゴンザロ、一人だけでもいいんだ。それに少しでも危険が迫ればすぐに撤退を決める。今俺達に必要なのは、この都市の壁を超えるための強力な仲間だ」

「……」


 土人はやはり黙考する。Cは土人が何を考えているのは分からなかったが、勝手に話を進められていることでワンに対する不信感が膨らんでいた。

 他の誰からも反論が出る気配はなく、ようやく土人が言った。


「……C、お前の能力を教えろ。それ次第だ」


 ぎらりと刺すような眼光を向けてくる。散々人の話は聞かないくせに、自分の主張だけ通そうとする土人に対してCは殺意すら覚えたが、しかしワンがコクリと頷いた。


「ここは狭い。森まで移動しよう」


 ここで駄々をこねたところでどうにもならない。本当に危険ならば作戦に参加しなければいいだけだ。




 森、と言っても木々は高くて五メートル程度、成人したメイのおよそ三人分の高さで、天井が五十メートルはあろうかと吹き抜けている分、森と呼ぶには木々はいささか背が低く見える。ロレンツィオの管轄しているその場所へ辿り着くと、外周を走っている訓練中のメイ七人とばったり出会った。


「リーダー⁉」


 そのうちの一人、Cと同程度の背丈の青年は吃驚して足を止め、乱れた息のまま滝のような汗を拭う。その他の訓練生も青年に合わせて歩度を緩める。

 Cは名前は知らなかったが、その青年がちらりとこちらへ敵意の宿る目を向けてきたことで、この前すれ違いざまに臆病者と罵ってきた奴だと分かった。


「ロビン?」


 ワンはロビンと言う青年が足を止めたことに心当たりがないようだったが、ロビンはやけに決意に満ちた凛々しい顔をした。歯を食いしばり、拳を握る。


「次郎さんの次、俺にやらしてください」


 その言葉を聞いた瞬間、ワンは憎々しげに顔を歪めた。


「……っ、駄目だ」

「――っ」


 ロビンは裏切られたとばかりに絶句した。Cはロビンの言動から次郎と同じ死にたがりの気を感じ、眉を顰める。

 ロビンはすぐに意気を取り返して必死の形相で訴える。


「どうしてっすか⁉ 次郎さんの代わりになるのは俺しかいないんすよ! 体力も弓の腕も次郎さんに負けずとも劣らない!」


 苦い顔をしたワンが次の言葉を紡ぐより先に、ロビンはCを睨んで指差した。


「俺はこの臆病な悪魔よりよっぽど勇敢で腕が立つ!」


 こいつは天使と同じだ。人を見下して蔑んで満足する人間だ。Cは胸の内で反芻する。


「……次の作戦は少数で挑んだ方がいい。ロビンの参加はリスクが高い」


 ワンは申し訳なさそうに答えた。死に急ぐ馬鹿の気持ちは分からないが、ワンがロビンを死なせたくないと思っているのだろう。ロビンはいっそのこと泣きそうだった。


「そんな…」


 次郎と似たような馬鹿なのだから参加させればいいだろうに。一緒に戦うのは御免だが、自ら進んで人柱になろうとする奴を止める理由はない。こんな面倒な奴はいくら死んでも構わない。自分以外の奴らがいくら死んだって構わないし、他の連中も自分さえ助かればそれで不満は言わないだろう。


「俺は逃げません! 最期まで戦い抜きます! 天使の包囲が強くなっているのは聞いてるんす! ミアさん一人じゃ危険じゃないすか!」

「俺はロビンに賛成だぞ」


 すると土人が口を挟んだ。また下らない暴論を披露してくれるのだろう。


「ゴンザロさん…」


 ロビンは味方を見つけたような顔をした。


「ワン、てめえが弓士二人を付けるようになったのはメイ共を助けるためだろ。てめえが戦って他が助ける。一人で助けて弓を番えるなんてことするつもりか? 数は大いに越したことねえっつったのはてめえだ」

「そういう意味で言ったわけ――」

「日和ってんだろうがよお。次郎が死んで日和ってやがる。お前が提案した作戦を実行するなら探す奴らは多い方がいい。無能が死のうが関係ねえ。有能がいなけりゃ始まらねえってのは俺も同意してんだ」


 どうしてこの土人はこうも人の神経を逆なでするのが好きなのか。しかし不機嫌なゴンザロの威圧を受けたワンは揺らがなかった。


「今回の作戦は少数に限る。俺はこれが最善だと、確信している」

根拠の説明がない言葉だが、

「けっ」


 ゴンザロはそれきり引き下がった。ワンはロビンへ向き直る。意志が固いのは誰が見ても明らかだった。


「ロビン、今回は我慢して欲しい。必要になったら力を貸してくれ」


 二人の剣幕に圧倒されて黙っていたロビンは、


「は、はい…」


 納得はいかないようだがようやく引き下がった。


「C、てめえの最大火力を見せろ」


 一連の騒動が終わったのを見届け、ゴンザロが言い出した。


「な、なにをするんすか?」


 それを聞いたロビンはワンへ説明を求める。


「……Cの魔法について俺達は把握する必要がある」

「……なっ⁉」


 Cは憎々しげに視線を向けるロビンを背に、一行から少し距離をとる。見世物ではないが、ロビンとその仲間達に見られるのは不思議と嫌ではなかった。

 土人に指図されるのは腹立たしいが、ふざけたことばかり言うロビンの肝を抜くことができる確信があった。ロビンは己に力があると信じ込んでいるからこんな無鉄砲なことばかり言う。


(そんな馬鹿に現実ってものを見せてやる)


 遠方の土壁に手を向けて、静かに意識を集中させる。四分の一の悪魔の血は二つの能力しか使えない。一つは天使と同じようにメイを支配するための能力で、天使と戦うには使えないが、もう一つの『業火』という炎を操る能力があれば天使を殺すことが出来る。

 ただ放出するだけでは人など到底殺せないが、炎を圧縮させることで爆発的に相手を吹き飛ばすことができる。


「なっ、なんだよこれ…」


 ロビンが茫然と呟いた。他の連中も同様に打ちひしがれながらそれに魅入っているのをCは横目に見た。

 Cの手のひらには半身程の火球が揺らめいている。眩い光を放つそれを時間をかけてさらに膨張させる。ぎりぎり制御できる限界まで能力を使ったことはなく、いつ爆発するかも分からないが、Cは火球を大きくするのに夢中だった。

 冷や汗が背を伝うなか、火球はおよそ2メートルに達する。そこでCはこれ以上力をつぎ込むのは無理だろうと判断した。

 放出する。


(……っ⁉)


 だが制御が上手く利かなかったらしく、火球は土壁に届く前に綻んでしまった。


「わあっ⁉」


 誰かの騒ぐ声が聞こえた。圧倒的なエネルギーが宙で爆散すると、耳を劈く破裂音と、火球を構成していた火の粉、遅れて熱風が襲ってきた。

 心地よく、ちょっとした疲労感。奴らはどんな顔をしているだろうかと顔を向けたそのとき、Cはぐいと胸倉を掴まれていた。


「てめえ、何笑ってやがる」


 眼前に土人の巌のような顔があった。こいつは人を脅すときは汚い顔を押し付けるしかパターンがないのか。いやそれより、


(――なんて言った?)


「あっはっはっは、っは、……は?」

「何笑ってやがるって聞いてんだ⁉」


 見渡せば訓練生達の目には怯えが浮かび、ミアの目は瞳孔が開いたままこちらから逸れることがない。


「――」


 口を噤んだ。思い返せば、笑っていたような気がする。


「悪魔…」


 誰かがぼそりと呟いた。ただ気持ち良かったことだけは覚えている。しかし、そんな目を向けられるような謂れはない。それは天使に向けるべきものだ。

 恐怖に見開かれた無数の目を前にして、どくどくと心臓が脈打った。


「……お、俺は悪魔じゃない」


 焦燥に駆られ、咄嗟に弁明する。頭のなかでぐるぐると言葉が巡る。

なんだよ。戦えって言ったのはお前らじゃないか。なのに戦うことを選んでもそんな顔をするのかよ。

 天使はお前達だ。人に理不尽を押し付けて快楽を覚える、そんなお前らこそ天使で、俺は天使じゃないんだ。

 縋るような気持ちだった。


「『なあ、そうだろ?』」


 全員が、首を縦に振った。そうしてCは、


「……っ⁉」


 自分の口角が吊り上がっていることに気付き、頭を襲った鈍い衝撃に気を失った。

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