#4 ギルド学園入学
鳥がさえずり朝日が差し込む中、すやすやと寝息を立てているハンスの姿があった。
だが、その安眠もアルマによって長くは続かなかった。
「ハンス、そろそろ朝食にするわよ」
部屋の外から声が掛けられていた。
その声を聞いてハンスの瞼が開き、まだ夢心地な状態で、ふらふらと動き出していた。
その動きですらぎこちなかった。
「……ん、もう朝なんだ……(体があちこち痛いなぁ……)」
しばらくして、支度を終えて食卓へと向かうと、そこにはアルマとフリッツの姿があり、ハンスが食卓の席へと腰かけると、そこにアルマから声が掛けられた。
「昨日の見学はどうだったかしら?」
アルマはまだ、フリッツから見学の内容について教えられていないようだった。
それを聞いたハンスは、昨日あったこと、即ち、強盗の協力者に捕まったことや学生と練習試合をしたことを嬉しそうに話していた。がしかし、さらっと言っているが明らかに危ない場面がある。その出来事について厳しい表情でアルマは、フリッツに問いかけていた。
「強盗があって、その協力者がいて、しかもその協力者に捕まった……と?、それはどういうことなのかしらフリッツ?」
「あー、すまない、アルマ。まさか事件があったとは知らなくってな……」
ばつが悪そうに答えるフリッツにアルマは続けた。
「まぁ、過ぎたことは仕方ないですわ。それでハンス、今日も前と同じメニューでいいわね?」
不意に話を振られたハンスは、食べるのを止めて話し始めた。
「そのことですがかあさま、昨日練習試合をしてみてわかったことがあります」
「そうなの?」
いつも以上に真剣な表情のハンスは話している。
「はい、魔力量は大丈夫だったのですが、途中から体が思うように動かなくなってしまいました。その原因は、体力不足だと思います。なので体力を増やすことがしたいです」
「確かに始めのころは機敏だったが、途中からあまり動かなくなっていたな」
ハンスの話を頷きながら聞いていたフリッツがハンスの言葉を裏付けていた。
その話を聞いたアルマは、顔に手を添えて少し考えたかと思うと、ハンスへ伝えていた。
「そうねぇ、魔法の練習をするときに体力をつけられるような方法に変えましょうか」
「そうしましょう、かあさま。できれば……明日からにしたいです」
ハンスには珍しく今日から始めると言い出さなかった。
その原因は、身体能力向上によって体中に過負荷が掛かった影響だろう---。
「ふふっ、分かったわハンス。明日からにしましょう」
アルマは微笑みながら答えていた。
こうして、これまでの練習に追加する形で体力の増強が行われるようになった。
*****
数か月たったある日。
フリッツの急な提案により、朝食後に王都から南にある草原へと馬を借りて足を運んでいた。
その草原には、大人の身長よりも数倍も大きな岩が点々と転がっており、しかもそれのほとんどが、半ばほどまで埋まっているようだ。長年そこから動かされていないのだろう。
街道から外れ、草原へと踏み入った場所に満足そうなフリッツに弁当を持ったアルマと、初めて草原へと踏み入れてワクワクした雰囲気のハンスがいた。
「たまにはこうして王都の外に出て練習するのもいいだろう?」
「そうねぇ、ハンスは今まで庭でばかり練習してたものね……。最近では庭での練習が窮屈そうにも思えるの」
そうフリッツとアルマが話している間にハンスがそばから離れ、大きな岩を見ていた。
ハンスの目線の高さに、たくさんの切り傷が刻まれていた。
「この傷跡は何でしょう……?」
ハンスが切り口に触れていると、ハンスの肩に手を置いて切り口を分析しているフリッツ。
「その位置だと、ハンスより大きい子供がつけた痕だろうな。その深さは大人にしては浅すぎる」
「ほかにもここで練習している子供がいるのですね」
ハンスは興味深そうにしていた。
「よし、ハンスもこの岩に傷跡を残そう!そしてここで練習していたやつをびっくりさせてやろう!」
フリッツは、いたずらをする子供のような笑顔でハンスへ話していた。
「どんな傷跡を残せば驚かせられるでしょう?」
ハンスも乗り気な雰囲気があった。
その二人の様子を遠巻きに見守っているアルマは、座りやすい場所を探して座っていた。
そして、二人は少し話したかと思うと、岩から距離をとると、フリッツがハンスへアドバイスをしていた。
「岩に穴を開けるには、岩の一点を持続的に熱し続けなければいけないぞ。できそうか?」
「やりたいことはわかりました、とおさま。でも持続的?に魔法を使うイメージがわかりません」
「そうか……、一回やってみるぞ」
手本を見せるためにフリッツは空へ向けて手をかざし、魔法を使って見せる。
手の先からは、フリッツが止めるまで青白い光が空へと一直線に伸び続けていた。
「どうだ?今のは、ただの魔力を出すだけの魔法だがイメージはつかめたか?」
「はい、とおさま。あとはそれに燃焼の属性を追加すればよいのですね」
フリッツが放つ魔法をしっかりと目に焼き付けたハンスは、問いかけはするものの応えも聞かず、見上げるように岩へと手を向けていた。
「燃焼する魔力を打ち出し続けるように……!」
するとハンスの手から熱線が放たれ、岩へと当たる。
足元に生えていた草は、熱で萎れ、岩はみるみる赤くなっていく。
フリッツも熱そうに距離をとっている。
しばらく打ち続けていると、岩が溶け出し、熱線が岩の中へとめり込んでいく---。
ついに、岩を通り抜けた熱線が空へと打ち出される。
だが、ハンスの視線からではそれが確認できない。
「おい!ハンス!、もうとっくに穴が開いてるぞ!」
その声の主は、少し距離をとってみていたフリッツからだった。
声を聞いて慌てて魔法を打ち出すのを止めたハンスは、一息ついて、フリッツの元へと寄っていた。
「どうでしたか?!あの魔法!、自分は熱くないようにほかの魔法も使っていましたが……」
ハンスの顔には汗一つなかった。
「すごかったぞ、ハンス。熱くて途中でやめるかと思ったがほかにも魔法を使っていたのか」
そういうとハンスの頭をわしゃわしゃと撫でている。
撫でられるハンスの後ろには大人でも通れそうな穴がぽっかりと開いた岩になり果てていた。
するとアルマから「休憩にしましょ!」と遠くから声が聞こえてきた。
アルマのいるほうへと二人が向かうとそこには、お弁当が広げられていた。
「ここに来るのが遅かったんですもの、とっくにお昼は過ぎてるわ」
食べ終えて一息ついていると、先ほどの魔法についてアルマがフリッツに向けて声を掛けていた。
「あの穴を開けた魔法だけれど、だいぶ遠くまで飛んでいたみたいなの、大丈夫かしら?ほらあっちには街道沿いに街があったでしょう?」
「そんなに遠くまで伸びていたのか……、私のいた場所からだとわからなかったが……ん?」
フリッツが穴の開いた先へと視線を向けると、街道を土ぼこりを巻き上げて北上してくる集団が見えた。
「もしかしたら騒ぎになったのかもな……」
そう話しながら見ていると、少しづつはっきりと集団が見えるようになってきた。
その様子は、馬に乗り、モンスターを狩るかのような装備をし、周囲を見渡し何かを探しているようだった---。
*****
少し時間は遡り、ハンスが魔法を使った直後の王都から南側にある、街道沿いの街。
そこでは、空にいきなり赤い筋が現れ、住民たちは、混乱していた。
「おい、あれ見ろよ!」
「なんだよ、あれって……うぉ?!」
ある住民が指を指し、それを見たものが驚いている。
その様子を見ていた周りの住民をつられてそれを見て、同様に驚いている。
住民だけではなく、警備する者たちの目にも止まっていた。
「ん、あれは……!、王都のほうで何かあったのか?!動けるものを集めてこい!すぐに出発するぞ!」
そう周りに指示を出しているのは、南の街道沿いの街を警備するリーダである、ヴァルター・ウィリアムだ。
そうして集まった10数名が北の入り口にて準備を整えていつでも出発できる状態になっていた。
ヴァルターは周りを見渡して、集まったものに声を掛けている。
「これだけ集まれば十分だろう。これから、先ほど見た炎の筋の原因を探しに行くことになる!もし、モンスターだった場合、Bランク以上のモンスターだろう。出発するぞ!」
こうして、リーダー率いる10数名は北へと向けて出発した。
モンスターには、ギルドが定めたランクが存在する。
主に危険度を基準に定められており、AランクからEランクまでが存在している。
そしてBランクとは、一匹またはそのグループを相手に数十名単位で人数を有するモンスターである。
しばらくできる限り足早に馬を急がせていると、ついてきていた一人の人物がヴァルターへと寄り声を掛けてきた。
「モンスターが出たにしては静かすぎません?リーダー」
「それはそうだが……、警戒するに越したことはないだろう」
話しかけてきた人物へと返すと、ほかのメンバーへと叫ぶように指示を出した。
「よし、3つの隊へ分かれろ!一つは西から回れ!、もう一つは東からだ!、それぞれ王都まで行って街道に沿って帰ってこい!、残りを私についてこい!」
指示を聞いて分かれて進んでいく隊を眺めながらヴァルターは小さく呟く。
「モンスターでないにしろ、何かしら魔法の出どころを調べんとな……」
残った5人で街道を進んでいると、一人が慌てたように指を指して声を上げた。
「あれ!、あれを見てください!あの岩!」
「ん……?、あれは?!」
ヴァルターが目にしたものは、岩に大きな穴が開いている岩であった。
よく見てみると、熱に溶かされたかのような穴の開き方をしていた。
「よし、いったん止まれ!」
指示を聞いて一同その場へと停止すると、二人が不思議そうに会話をしていた。
「あれを魔法で開けたのか?しかもモンスターじゃないとすると人が……?」
「魔法士の誰かじゃないか?」
その話を聞いていたヴァルターは次の指示を出していた。
「それを調べることになるぞ。二人は、岩に開いた穴の調査だ」
「残りの2人は、私と一緒に、穴を開けた張本人を探すとしよう」
岩の調査へと向かった2人は、どんな人物が開けたのか議論をしつつ向かっていた。
街道に残った3人は、さらに街道を進むと、街道の傍らに弁当を入れていたであろう籠をおいて座っている一家らしき人影が見える。
「(あれは……、状況的にあの一家が開けたかもしれないな……、違っていても何か知っているだろう。)」
「あそこに座っている一家へ確認してくる。少し離れて待っていてくれ」
そう2人に指示を出すと、馬を降りて近くまで行き、話しかける。
「すまない、聞きたいことがあるんだが、聞いても問題ないか?」
すると一家は、お互い目を見合わせ、父親らしき人物が、肩を落として答える。
「もしかして、あの穴についてですかね……?」
「穴についてもだが、南の街に赤い筋が空に見えてな、住民たちが騒いていたんだ。それで調査に来たというわけだ」
ここに来た理由を聞くや否や、父親らしき人物は申し訳なさそうに話し始めた。
「その原因は、私たちになります。騒ぎになったこと、申し訳ない」
「そうか。それは後で話すが、なぜそんなことを?」
「私たちは、魔法士です。その練習をここでしていました」
その話を聞いたヴァルターは、いろいろと突っ込んで聞きたいところだが、原因が分かった以上、早く街へと報告に行きたいと思っているが、どう報告するかを迷っていた。
「(いろいろと気になることはあるが……、魔法士が練習してましたと報告するだけではな……。ならいっそ連れて帰るか……。)」
その間に岩を見ていた2人が、残していた2人と合流していた。
考えがまとまったヴァルターは一家へと話す。
「すまないが、まず名前を聞いても良いか?」
「フリッツ・アルカーバーです。こちらが、嫁のアルマ、そして息子のハンスです」
「そうか。私は、ヴァルター・ウィリアムだ。フリッツ殿、申し訳ないが、説明のために南の街まで同行してもらえないだろうか?」
お互いに挨拶を終えて、本題に入ったヴァルターの話を聞いたフリッツは、アルマとハンスへと振り返って話をしている---。
少ししてフリッツが答えた。
「それで話が収まるのでしたら……。ただ、この二人を王都へ送ってからではいけないでしょうか?」
「それなら私の連れてきているものに王都まで送ってもらうとしよう」
そうヴァルターが返すと、同行していた4人へ声を掛けにいった。
「君たち、すまないがあそこの一家を王都まで送ってほしい。その後に、別動隊と合流して街へ帰ってきてくれ」
「わかりました、リーダー」
「了解です」
それぞれの返事を聞くと、アルカーバー一家の元へと4人をつれて戻る。
「この者たちが、王都へ送ってくれる。それならすぐについてきてくれるか?フリッツ殿」
フリッツは頷くと、アルマとハンスへ一言何かを伝えていた。
その間にヴァルターは馬へ乗る。
伝え終えたフリッツが馬へ乗ってヴァルターと合流し、南の街へと街道に沿って、向かっていった。
同時に、王都へとアルマとハンスを乗せた6人は、王都へと向かう---。
少しして、誰もいなくなった岩の元へと、何も知らない少年がやってきた。
「なっ?!、俺がいつも練習に使ってた岩に穴が開いてる?!」
驚きのあまり手に持っていた、練習用の得物を落としていた。
「(いったい誰が……。魔法でこんなことまでできるのか。俺なんか魔法なんて使えないのに……。)」
「まぁ、俺が使ってる部分と関係ねぇし、練習するか!」
驚きはしたものの練習するのに問題がなかったため、そのままそこで練習を始めていた。
*****
年月が過ぎ、ハンスが10歳となり、入学式の日を迎えていた。
すでに合同訓練所では、人がたくさん集まっている。
観客席には、新入生の両親や、在学中の生徒など所狭しと座っており、舞台には、半分に大きく分かれている。一方には新入生が、もう一方には、学園関係者が集まっていた。
そして入学式の進行役が準備できたのを確認すると話し始めた。
「この場へお集りの皆様、お待たせしました。これより入学式を行いたいと思います」
進行役がスケジュールについて話し続ける。
学園長の話、学園のバッチについて、移動して能力テストがあることをひとしきり伝えると学園長へと話のバトンを渡す。
すると学園長は、一段高く作られた壇上へと足を運ぶと周りからは拍手が送られる。
それを静止し、静かになったところで学園長が話し始めた。
「我が学園へようこそ、わしは、学園長のジークハルトである。おぬしらを歓迎する。これからおぬしらは、多くのことをこの学園で学んでもらうこととなるじゃろう。時に挫け、またある時には喜び、そんな日々がこれから8年は続くじゃろう。そして---」
しばらくの間、学園長の話は続いていた。
新入生たちに疲れが見え始めた頃、進行役へと視線を送り、終わりの合図をして締めの言葉を贈ると、学園長は壇上から下がっていった。
「では、おぬしらの成長に期待する。わしからの話は以上だ」
学園長が下がっていくのを拍手で見送る。
学園長が席に着いたのを確認し、進行役が次の話をし始めた。
「次は、バッチについて説明します。専攻するものによって、戦士は剣、近衛兵は盾、魔法士はローブ、狩人は弓の模られたものになり、能力によって、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナに分けられるので、バッチを見ることでその人の専攻するものと能力がある程度把握することができます。そのため、在学中は、必ず身につけておいてください」
そう進行役が言いきると、新入生たちは、真剣な表情へと変わっていた。
その変化を見渡して話を続けた。
「この後の能力テストの結果によって、素材が変わります。そして1年に一回、能力テストを行います。そこで能力が認められれば、ブロンズだったものが、シルバーに、ゴールドにだってなれるかもしれません。それに、それぞれに定員はありません」
新入生たちは、思い思いにやる気を漲らせている。
進行役は、その間に合同訓練所から移動する案内を観客席へ向けて出すと、ぽつりぽつりと動き出している。
「我々も移動を始めようか」
そういって学園関係者は、合同訓練所から移動を始めた---。
*****
一方観客席では、慌てた様子で飛び出していった人影があった。
「まだ起きてこないの?カルラちゃん……。せっかく弟の姿が見れるって喜んでたのに……」
その人影は、カルラと同室である、ミア・カペルであった。
彼女は入学当初からの同室であり、バッチはシルバー、カルラが寝坊しそうな所を毎回起こす役目を担っており、世話焼きな性格である。
合同訓練所を出て魔法士の寮へと向かおうとするときに一度足を止めていた。
「うっ、今日も日差しが強いなぁ」
そう呟くと、フードを深々と被ってまた、走り始めた。
彼女の服装は、肌の露出をできる限り抑えた服装をしていた。それは、ほかの服装に比べて、動きにくそうな印象を受けるが、彼女の足取りは、それを感じさせないほどの速さをしていた。
そうしてカルラの寝ているであろう部屋へとたどり着いたミアは、勢いよく扉を開け大きく声を掛ける。
「カルラちゃん!起きてる?!そろそろこっちの訓練所に来ちゃうよ!」
「……はえ?」
気の抜けた声を返してきたのは、ベットから上半身だけ起こして座っている、寝ぼけたカルラからだった。
「ほら!、顔を洗って準備をしてね!髪は私が結ってあげるから!」
ミアにせかされ慌てて準備を始めるカルラ。
「よし、これで大丈夫!」
「ありがとうミア」
準備ができるまでにだいぶ時間が掛かってしまっていた。
「急ごう!たぶんもう始まってるよ!」
ミアはカルラの手を引いて部屋を飛び出した。
カルラの胸元には、ゴールドに輝くローブのバッチがあった---。
ミアとカルラが訓練所へと着いた時には、すでに能力テストが始まっていた。
「ふぅ、もう弟くんの番は終わっちゃったかな?」
「どうだろう……」
そう話していると、訓練所の舞台から、指名する声が聞こえてきた。
「次!、ハンス・アルカーバー」
その声を聞いてミアとカルラは安堵して、観客席の前へと寄っていく。
そしてハンスは、所定の位置へとついて、訓練用の案山子へと向き合った。
ミアとカルラのいる観客席では、名前を聞いてざわめきが起きていた。
主に在学生からであったが、あの教官の息子が今年入学するということで、例年よりも多くの在学生が見に来ていた。
*****
少し時間が遡り、ハンスが訓練所へと着いた頃。
案内人から、説明を受けていた。
「これからは、私が話しますね」
手には名簿と思わしきものを持って説明を始めた。
「私が名前を呼んだものから前に出てきてください。能力テストの方法は、あの案山子へ自身のできる最高の魔法を使って攻撃してください。案山子は壊しても問題ありません」
「では---」
そうして、次々と能力テストが行われていき、案内人はその都度手に持っていた紙に、何かを記録していた。
だが、なかなかハンスの名前が呼ばれなかった。
「まだかなぁ」
呟くハンスを他所に次々と周りの者が呼ばれていく。
そして周りがひとしきり呼ばれる頃についにハンスが呼ばれる。
「次、最後!ハンス・アルカーバー」
「はい!」
返事を返し、前へ出て、配置につくと案内人が開始の合図を送る。
「では、始めてください」
ハンスは手を前に出し魔法を打ち出す準備を始めた。
「(魔弾で案山子に当てて、その後にこれぐらいの範囲爆発させて……、さらに爆風が周りに広がらないように真ん中に集める……)」
すると、ハンスの手からは、青白い弾が打ち出される。
案山子に青白い弾が着弾すると、瞬く間に爆発が起こった。その爆発を見ていたものすべてが、爆風に備える。
だが、待てども爆風が来ない。
恐る恐る覗き見るように確認した案内人は、唖然としていた。
ハンスから声を掛けられて我へと返る。
「あの……、こんな感じで良いでしょうか?」
「……え、あぁ、問題ない。(案山子どころか床まで抉れている……?!)」
ハンスの放った先には、案山子を中心として、円状に刳り貫かれており、案山子があってであろう場所の下には、瓦礫の山が積まれていた---。
*****
観客席で見ていたミアとカルラ。
「ねぇ、カルラちゃん。弟くんてすでにゴールドになれるほどの実力がありそうなんだけど……」
「そうみたいね……」
ミアが話しかけるも険しい表情のカルラは、案山子のあった場所から目を離せずにいた。
「(あんな魔法が使えるなんて……!、いったい何をしたらそうなるの?!)」
しばらくカルラの様子を見ていたミアだが、ふとハンスへと視線を送ると、そこでは、案内人にどこかへ連れていかれる途中であった。
「ねぇ、カルラちゃん!、弟くんがどっかに連れていかれてるよ!どうする?!」
「追いかけましょうミア!」
ミアは頷くと、カルラと一緒にハンスの連れていかれた先へと向かう---。
舞台を横目に進んでいると、舞台に別の案内人が現れて場を取り仕切っている様子が伺えた。