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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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31/32

#31 懐柔

 西の国某所。

 見下ろせば部隊の新人だろう人だかりが、訓練所で必死に剣を振る姿が見える。

 そんな姿を見ているとノックの音がする。頼んでいた報告だろう。


「何?今になって分かっただ?」

 小綺麗な服装をした男が険しく表情を歪める。

「ええ、なんでも南の選出戦に出るんだとか」

 向かいで媚びるように手をこすり合わせながら小汚い男が答える。


 抑止力のつもりだろうか、過去に攻めてきた魔物(モンスター)をなぎ倒し街を守ったとかいう少年。

 調べた限り一人の少年が目立っているが数人の子供がいたらしいが、それらも来ているなら脅威になるな。

 数万程度の人数なら足らないだろう、魔法から守れるものでもあればかなり役立つか? ならあいつなら作れるだろうか。


 色々考えてはみたものの、考えることが多すぎる。

 深いため息とともに居場所が分かったということを受け入れる。

「居場所がわかるなら好都合。こっちはあの国の連中にかなり鬱憤は溜まっているからな、ここらで晴らさせてもらおう」

 ニヤリと口元を歪ませ、手元にあった名簿を手にし、机の端に置いてあった地図を広げる。


 名簿を見ながら地図に駒を置いていく。

「数は揃えられるな。それであいつの作った物は使えそうか?」

 小汚い男を見すらせずに尋ね、手と視線は名簿と地図を行き来する。

「いくつかは使えるものがあるかと……ですが、使い手の方が足りません」


 ある程度そんなことだろうと想定していてもやはりため息が出る。

「まぁ、あれを武器と呼ぶには理解しがたいものだからな。報告はそれだけか?」


 話を切り上げようとする小綺麗な服装の男が聞くと、首を横に振りまだある様子だった。

「もう一つございます。何やら馬車に変わる移動手段を作ろうとしているとか」

「そうか……それの出所は?」

「ヘルマン商会という最近よく聞く名前の商会です」

「またその商会か……あそこは家族で経営しているはずだが、どこからそんな技術が出てくるんだ?」

 小綺麗な服装の男が手を止めて記憶をたどる。

 確か出来て間もない商会だったはずだ。それなのにすでに新しいものを次々と生み出している。

 何かから知恵を得ているとしか思えない。


「間者から聞いた話では、本から知識を得ているようです。どこから手に入れたかまでは分かりませんが」

「ほう? なら今回のどさくさに紛れて奪ってこい」

「はっ」

 小汚い男は、丁寧に敬礼を取るとそそくさと帰っていった。


 テーブルを眺めながらこれから起こることに思いを馳せ、笑いがこみ上げてくる。

「やっとだ。やっと戦争が起こせる。これで生きている内に糞爺にも借りが返せる」




 計画を初めて早二日。

 ハンスとシャルロッテは首都の外、南の城門付近にある南のギルトが拠点へと身を寄せていた。

「おーい。待っていたもんが届いたぞ」

 朝早くからギルドの長であるヘンドリックが、ハンス達の泊っている部屋へと持ってきた。

 ちょうど準備を終えた二人がすぐに開けて出てくる。


 受け取ると、嬉しそうに礼を述べてきた。

「ありがとうございます。これで動き始めれますね」

 受け取ったハンスと3人で一階へ向かっていると、心配で声をかける。

「しかし、大まかな流れは聞いたがよ……ほんとに大丈夫なのか? その、なんだ、もう少し囲い込んでもいいんじゃないか?」

 ハンス達の作戦である、アグリア商会を協力者とすることに対して準備不足感が否めない。


「何とかしなきゃとは思ってます。自分が言い出したことですし」

 そう答える顔を見ると前線に向かう前の顔に見える。

「まぁ助けがいるなら俺たちに言ってくれ。できる限りのことはしよう」

 ハンスがまた礼を述べている間に一階についた。


 一階には食堂も兼ねているため多くの机と椅子が用意されている。

 それが埋まることはないが。


「お、ハンスじゃないか。久しぶりだな、腕は治ったか?」

 朝食を食べていたロルフが声をかけた。

 昨日までいなかった彼の声にハンスは驚いていた。

「あれ? お久しぶりです。腕はもう大丈夫です」

 そう言って腕を動かして見せる。

 ロルフはそうかそうかと言ってまた朝食を食べだした。


「お前たちの分の朝食も用意するから適当に座って待ってくれ」

 まぁそう言ってもロルフの隣にでも行くんだろうな。

 厨房へと向かいありもので手軽にできるものを調理する。




「どこにしよっか」

 シャルロッテが明るく言うとハンスは見渡す。


 席は沢山あるが、わざわざロルフから離れた席に座るのも気が引ける。

「ロルフさんのとこにしよう」

 ロルフの向かいに二人して座る。


 座ると早速朝食を食べているロルフに話しかける。

「今日はいつぶりに帰ってきたんですか?」

「ん、一か月ぶりかな。それに昼頃にはまた出る」

「今度はどこに?」

「……最近、中央の山裾付近の森が騒がしいらしくてな、ちょっと調査に行くことになる」

「騒がしい……?」

 魔物(モンスター)が動き出したのか、それとも野盗でも増えているのだろうか、そんなことを考えていると横のシャルロッテが、不安そうにハンスの袖を引っ張る。

「それって魔物(モンスター)がまた出始めたってこと?」

「僕にも分からないけど……まだ野盗かもしれないし」

「どちらにしても大変そうね」

「うん」

 首を傾げて答えていると向かいのロルフが食べ終わったらしい。

 食器を軽くよけると前のめりに話をし始めた。


「ここだけの話だがな? 魔物(モンスター)を操っている奴がいるとか――――」

「おい! 機密をペラペラとしゃべるな!」

 自分達の朝食を持ってきたヘンドリックが割って入り話を遮る。


「彼らだって他人ではないんだしちょっとぐらい」

「ダメなものはダメだ。と言いたいところではあるが二人がギルドに入ってくれるなら話は変わるんだがな」

 二人の前に朝食を並べながらそういった。

「まだ僕たちの歳だと試験も受けれないって……」

 苦笑いをしながら答えているとヘンドリックは不思議そうにする。

「お? 東ではそうなのか。まぁ技能の問題と身体の問題もあるからなぁ」

「ここでは違うの?」

 シャルロッテが聞き返すとああと帰ってきた。


「こっちじゃ俺が良いっていえば何とかなる。なんせ人手なんてほとんどないわけだしな」

 事情ありきではあるが確かに今なら入れそうだ。


「今はちょっと……できれば今の状況をどうにかしてからかと」

「それもそうだ」

 ハンスが困ったように返すとヘンドリックは大きく笑った。


 ロルフの横にドカッと座ったヘンドリックに隣から邪険そうに肘打ちされる。

「あのなぁ向かいの子供ならまだしもデカい大人が同じ幅で二人並んだら狭いんだ」

「わ、わりぃ」

 ヘンドリックが少し席をずらして座りなおす。


「俺たちができることはここにいる間までだから気をつけろよ」

「ああそうだぞ、俺なんか結果を見ることぐらいになるだろうしな」

 二人して過保護な親のように言ってくる。ヘンドリックに至っては一日一回は聞いてくる。


「大丈夫です」

 いつものようにそれだけ答えてその話は終える。


「そういや持ってきた本はこっちに置いておくのか?」

 ハンスはこっちに来る際、大事な本を全部持ってきていた。


「念のために持って行けってシームルさんが。みんな忙しそうですし何かあった時に無くすのは困ります」

「確かにな、俺たちは暇しているからないつでも見ていられるぞ。それにここに何かあても優先して持ち出してやれる」

 ヘンドリックは笑顔で頼もしいことを言ってくれているがほんとに暇なんだろうか。


「ギルドにはほとんど面倒ごとしか来ない上に、残ってる三人……いや今は四人と少しかで回せているからな、大体は」

 ロルフが補足しているがそんな人数で回せるのだろうか。

「拠点で書類仕事もれっきとした仕事だからな、残ってる二人には感謝しかない」


「ほんとそうですよ。少しは書類に目を通すぐらいはしてほしいものですね」

 起きてきたイリーネが口元だけで笑って割って入ってきた。その後ろには眠たそうなフーゴがついてきている。

「俺は、料理人だからな。起きてきたなら飯作るから座って待ってろ」

 ヘンドリックはそう言い残しまた厨房へと消えていった。


「もうまた逃げられたわ」

 軽くため息をしながらロルフの隣に二人が座る。


「あの人ね、書類仕事がいやだからって掃除とか料理とか雑用を全部やっているのよね」

 成り行きでなったとはいえ、ギルドの長がそんなことでいいのだろうか。

「最近だと人員の受け入れるためだと言って土木作業までやりだしたし」

 少ししかめっ面のイリーネが文句を漏らしている。


「そのおかげで書類仕事に専念できるから」

 フーゴが何とかフォローを入れる。

「二人には助けられているぞ。心より感謝」

 ロルフが二人に丁寧に礼を述べているがイリーネとフーゴの表情は笑っていない。


「一番の問題はあなたです、ロルフ。こちらに請求を回すのはいいのですが少々金額が――――」

「あ! わりぃ用事を思い出した! それじゃ!」

「ちょっと話は終わってませんよ!」

 慌ててロルフが立ち上がり、制止も間に合わず建物から飛び出していった。


 呆気に取られていると二人の朝食を持ってきたヘンドリックが厨房から戻ってきた。

「あれ? ロルフは?」

「請求の話をしたら逃げられました」

「そうか」

 ヘンドリックは軽く頷くだけで二人の朝食を机に並べて、イリーネとフーゴの隣に座る。

 しっかりと間隔は開けて。


「そんなに高額な請求が……?」

 シャルロッテがぽつりと口に出してしまった。

「そういうことを聞いちゃ――」

「別に今回のは言っても困ることでもないぞ」

 ハンスが止めようとするが内密なものではない。


「あいつがこっちに請求を回してくるときってだいたい村の修繕費だったり村人の医療費だな」

「優しい方ですね」

 シャルロッテがうんうんと頷きながら答える。

「ほんとにな。だが、優しいのはその受けた相手だけだぞ。俺たちにはあいつが金遣いの荒いお人よしにしか見えん」

「ギルドのお金を使っているわけですし」

 ヘンドリックとイリーネはため息交じりにそういった。

 そんな隣で黙々とフーゴは飯を食べていた。



「それじゃ僕たちはもう行きますね」

 ハンスとシャルロッテが早々に食べ終わると出発ことにした。

 色々と本音の漏れるこの場所にいたら少し気まずい。



 ギルドを出た二人は、首都の主要な出入り口の一つである東の出入り口へと来ていた。

 ここは湖の上に橋を架け、その橋から通るような形となっている。

 南側からだと湖の外周を回りながら進むことになり、馬車で連れられてきてもすでに昼を回っていた。


「次」

 門番が次々と入場審査をしていく。

 とはいえほとんどが中に入る目的と入場金を受け取るだけで、それなりに捌けている。

「次」

「はい!」

 ハンス達の番が来た。

「目的は?」

「商会の勉強に」

「そうか、なら一人五金貨だ」

 懐の革袋から金貨を十枚取り出し門番に渡す。

「……通っていいぞ」

 枚数を確認した門番は通るように促す。


 通った後、少しいった場所で二人はため息をつく。

「はぁ、相変わらず一人五金貨とか高すぎるわ」

「そうですね。東だと一年は過ごせます」

「じゃあここで少しでも稼いで帰ったらかなり贅沢に暮らせるかも?!」

「かもしれないですが、贅沢してたらすぐなくなりますよ? 贅沢品はここからきている物が多いですし、その場合かなりの値段なのでは?」

「あー、そっかそうなるわね……質素に贅沢しましょ」

「うん」

 ハンスはゆっくりと頷く。


 そんな話をしていると、目的地に到着する。

 いや、すでに到着はしていた。

 途中から常に右手にあった高い塀、それが目的地から続いていた。


 やっと見えた塀の切れ間、そこには門番が二人。

「それじゃ打ち合わせのように」

「ええ」


「何用だ?」

「こんにちわ、門番の方。えっと、この手紙を預かってまして……こちらの商会長に読んでいただきたいです」

 目の前に立ったハンスが門番に手紙を差し出す。

 状況を知らされていない門番は不審気に手紙を受け取る。

「商会長に渡す前に読んでもいいか?」

「もちろん」

 ハンスが答えると、門番は手紙を開き、中に入っていた折られた紙を開いて読む。


 読んでいる途中、ハッと目を見開き紙を折り目に沿って折り直し手紙に戻す。

「内容は分かった。渡してくるから待っていろ」


 もう一人の門番に耳打ちすると、そのもう一人は敬礼して中に入っていく手紙を読んだ門番を見送る。


 姿が見えなくなると敬礼を解き、ハンス達に話しかけてきた。

「どんな用事できたのかな?」

 内容までは知らされてなかったらしい。


「勉強をしにきました」

 それだけ答えた。

「勉強かぁ、珍しいね、外から来たんでしょ?」

 ハンスは頷く。外からというのは間違いではない。

「そっかぁ、ここにきてまで勉強するとなると……商会の勉強かな?それとも、商会を調べに来たとか?」

 ハンスは首を傾げる。商会を調べに来たとはどういうことなんだろうか。

「商会の勉強に来たんです。少しでも贅沢な暮らしがしたくって」

 反応に遅れていると、シャルロッテが変わりに答えてくれた。


 門番はうんうんと頷く。

「そっかそっか。ここで過ごすなら商会を作って人を使った方が贅沢に暮らせるからね」


 話をしていると中からさっき入っていった門番か帰ってきた。

「二人とも、入っていいぞ」


 二人は門番に連れられて中に入っていく。

 それを見送る門番は手を振っている。

「頑張ってね」



 入り口から入ってすぐ、周りを見渡すと三つの建物が立ち並び、左手の建物は人と物の出入りが激しく、右手は外壁に剣や盾などが立てかけられていることを見るに兵舎のような場所だろう。

 正面は装飾の凝った外壁を持ち、入り口の扉も装飾が施されており、左右に人が立っている。



 門番が左右に立っている人に話しかけると、代わりに引き継ぐとして二人に案内され、門番は仕事に戻っていった。

「それではまいりましょう」

 扉を開け中に入ると外の装飾通りの内装をしており、こちらも豪華さが際立つ。

 そして二階の一室へと案内される。

 その道中明らかに高そうな調度品や壺に絵画が並んでいた。


「彼らをお連れしました」

 ノックした彼がそう告げると、中から声がした。


 その声を聞いた彼が扉を開け放ち、もう一人が中に入るように促している。

 礼を述べつつ小さく会釈して中に入る。


 入ってすぐには机に長椅子、その向かいには一人用の豪華な椅子が二つ置かれている。

 その奥には出入り口が見える向きに座って机で書類に目を通している女性がいた。

 机には山と書類が積まれている。


「よく来てくれた。と言いたいところだがこちらもいきなりのことで戸惑っている。だがまぁ、まずはそこに座ってくれ。少ししたら菓子でもそこに並ぶだろう」

 ハンス達が長椅子に座ると、書類の置いてある机から離れ、向かいにある豪華な椅子の一つに腰を下ろす。


 彼女の赤い艶やかな髪が目を引く。

 手には先ほど渡した手紙と中に入っていた折られた紙があった。

「さて、菓子が来るまで少し雑談と自己紹介としよう」

 そう言って手紙と紙を机に置き、先に自己紹介を始めた。

「私は、アグリア商会の長を務める、フィヨルド・アグリア。五年前に会長になった。というのが肩書かな。私も例にもれず娘が二人いる」

 聞いていたこともあり、言っていることも分かる。これは反応を見ようとしているのだろう。

 ハンスでもなんとなく理解していたが、すでに顔に出た後だった。

「なるほどな、君たちも知っているのだな」


 だがシャルロッテは知らない。

「え?何のこと?」

 驚いた彼女が小声でハンスに尋ねる。

「えぇっと……一旦その話は自己紹介が終わってからで」

 そう言って話を切り替え、フィヨルドに向かって自己紹介をする。

「僕はハンス・アルカーバー。東の学園から商会について学びにきました」

 シャルロッテも後に続く。

「私はシャルロッテ・ローデンヴァルト。同じく東の学園から商会について学びに来ました」

 事前に決めていた内容を二人とも言うと、フィヨルドは笑みを浮かべる。


 お互いによろしくと言い合うとフィヨルドは話を戻す。

「君たちはどこまで知っている? 隠してもいないから遠慮なんてしなくていい」

 ハンスがそれに遠慮なく答える。

「商会長は一族の中から選ばれる。でもその一族は常に女性しか生まれない。それぐらいです」

 シャルロッテはこれを聞いてさっきの内容に納得がいった。


「娘を商売道具にしていることは?」

 そうフィヨルドが目を細めて尋ねる。

「聞いていました」

 目を逸らしながらハンスが答える。


 フィヨルドが長く息を吐くとさらに尋ねてきた。

「それを聞いてどう思った?」

「ひどい話だと思いました。そこまでして商会を大きくしたいのかと。何か理由があったんでしょうか?」

 理由があってもいいという話ではない、シャルロッテは横で聞きながら顔をしかめていた。


 背もたれに深く身を預け、語るように話し始めた。

「私は、これまでの行いに報いるためにもこの商会を存続させなきゃいけない。私の姉妹も他所の国に出されているし、この状況を生かすしかない」

 それは商会長としてなのだろうか、それとも姉妹への義理なのか、覚悟を決めているのだろう。

 そこから続く言葉にはさらに力が入っていた。

「私の娘たちにはそんなことをさせたくない。そう思って歴代の商会長もやってきたと思いたい。だから!私の代でそれを終わらせる」

 フィヨルドは手を強く握り白くしながら言い切った。


「模造や高額で転売をしてでも?」

「ああ、今はほかにないからな」

「新たに作れるものがあったら?」

「売れるなら喜んで取り入れよう」

「いいものがあります」


 ハンスがそう言って鞄を取り出そうとしたとき、扉からノックの音が聞こえた。

「それは後で聞くとしよう」


 フィヨルドがノックに返事をすると、扉が開き、カートにたくさんのお菓子と紅茶が運ばれてきた。

 それが机に並べられるの待ち、並べ終えるとカートとともに従者が帰っていった。


 机には色とりどりのお菓子が並んでいる。

「わぁ!」

 それにシャルロッテが目を輝かせているとフィヨルドは微笑み、食べるように促す。

「好きなだけ飲んで食べてくれ」

「ありがとうございます!」

 しばらくお菓子と紅茶を堪能する。



「さて、そろそろいいかな?さっきの話をしたいんだが?」

「あ、ごめんなさい」

 シャルロッテがお菓子から手を放し手を拭いて座り直す。


 あまり食べていなかったハンスは軽く手をふくと鞄に手を伸ばし、中から紙の束を取り出す。

「こちらが設計図になります」

「設計図?」

 彼女は取って中身を確認する。


「ほう、これはまた……なるほどな。色々合点がいった」

 何かを納得したフィヨルドがハンスに顔を向ける。

「君たち、ヘルマン商会の人間だな?それにギルド再興派だろう?」

「えっと……(誤魔化すか?話を逸らすか?)」

 ハンスが反応に困っていると、フィヨルドが続ける。

「新規商会が急激に売り上げを伸ばしていると聞いていたが、その一端がこれか」

 彼女が紙を軽く手ではじく。


 ここまで確信めいたことを言われるともう誤魔化してもこじれるだけである。

 そう悟ったハンスが、正直にここに来た理由を話す。

「その通りです。ヘルマン商会のハンスでもあります。ギルドの再建に向けて手を貸してほしくて来ました」

 事前の作戦でもばれることの想定はしていた。だが、見てすぐにばれるとは思わなかった。

 それだけ彼女が情報に聡く理解しているのだろう。


「ギルドの再建か……この商会に頼みに来るとは中々に挑戦的なことをする」

「反対派だからですか?」

 そのことなら挑戦的とはいえるのか、仲間を増やすなら必要なことだと思う。


 ハンスの質問にフィヨルドはニヤリと笑みを浮かべる。

「いや、そうじゃない。南のギルドをつぶした一端……いや先導したのはこのアグリア商会だからな」

「え……そんな話聞いてない……」

 ハンスが驚いて固まっていると、彼女は続ける。

「何代前だったかな、その時から疎ましくて仕方なかったらしい。何せ、他ほど優れた技術もなく、開発能力もなく、販路も乏しい商会からするとギルドはかなり目障りだった。小さな仕事もクエストとして処理されてこっちに回ってこないからね。だから連合を組んでギルドを追い出した。前の代にはすでに外に追い出すことはできていたな」


「今もその気持ちはありますか?」

 シャルロッテが遠慮がちに尋ねる。

 だが、即答することなく首を傾げて答えていた。

「私は先代から、かなり疎ましかったという話は聞いていた。けれど、今となっては彼らに取られるような仕事はしていないし、私自身も別にどうでもいい」

「え、なら……!」

「でも、無条件で覆せない。色々とあるからね」

 フィヨルドは目を伏せて小さくこぼす。


「なので、こちらの設計図とその製造から販売までそちらにお願いします。利益の分配もいりません」

 この内容は事前にシームルとも話している。これはこちらからできる最大の取引手段である。

「売れるという保証は?」

「すでに中央銀行にも取り入れられていますし、事務仕事でも少しづつですが広まっています」

「そうか、この照明机の権利をすべて渡すと?」

 それはアイネアス達が使っている倉庫に置いてある、魔力がなくても使えるようにした照明を備えた机だ。命名はハンスがつけた。ないと困るからと。


「はい、それに改良版ができた場合もそちらで製造も含めてお願いすることになります。それに今後僕たちでできた新しい試作品をそちらで商品にしていただければと……」

 いいようによっては下請けの契約ともとれる。


 だが、何もなかったというアグリア商会にとっては変化の兆しにもなる。

「そうか、それで手紙に書いていたのか……」

 何か納得したフィヨルドが呟く。


「手紙に何が?」

「読んだら分かる」

 そう言ってフィヨルドは手紙を渡してきた。


 要約すると、

 差出人は、学園長のジークハルト

 1.学園として二名の生徒を商会について学ばせるために向かわせる

 2.二名は魔法技能が高く学習意欲も高い

 3.もし、販路で困ったことがあればローデンヴァルト商会へ連絡を

 追記:商会員の二名にもよろしく


 そういった内容が丁寧な文章で綴られていた。

「え?私の家に商会なんてあったかしら?」

 シャルロッテが知らない商会の名前に驚いている。

「たぶん今回のことを知って急遽作ってくれたのかも……」

 ハンスは申し訳なさそうにありそうな理由をつけた。


「個人との取引より、商会を通しての方がはるかに信用度は高い。それに名を知らないやつは無能と言われるほどのジークハルトが推薦する商会と言えばかなりのもの」

「えっと?」

「そこの商会員がこうして好条件で提案してくれているんだから乗らないわけにはいかない」

 そう言ってまた設計図を読み始めた。


 手紙を持ったまま固まっているハンスとシャルロッテ。

「これって成功ってことでいいの?」

「たぶん?」

「最後に闘技者としての話もしないとね」

 こそこそ話していたがハンスはフィヨルドに向き直す。

「フィヨルドさん、お願いがあります」

「何だ?」

「僕を選出戦の闘技者として選んでもらえないでしょうか?」

「断る」

 フィヨルドは即答する。

 それに慌ててハンスが理由を尋ねる。

「ど、どうして?」


「それはもちろん、金の卵を怪我をするのがわかっている所に連れていく馬鹿はいないだろう?」

 フィヨルドにもっともな理由を述べられ、これ以上強く言いづらい。だが、フィヨルドが理由を尋ねてきた。

「どうして選ばれたいんだ?」

「僕がここにいることを西の人達に知ってほしいんです。戦争を起こさないためにも」

「そういうことか、それで名前が公表される選出戦の闘技者に選ばれたいと」

 ハンスの言いたいことを理解したフィヨルドが代案を出す。

「なら、代わりとなれるか戦ってみればいい」

 フィヨルドは諦めてくれるよう祈りを込める。

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