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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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#30 計画と荷馬車

 とある会議室で、二人が向かい合って座っている。

「ヴィルヘルム、彼らの売上だが、かなり上がっているようだ」

 第三防衛隊の隊長へ呼び捨てにする彼が手に持っていた紙束を机に置く。

 それをヴィルヘルムが内容を見るために手にとる。

「ふむ、これだけいきなりだと周りは色々調べ出しているだろうな」

「それはもう……二か月前ほどからそういった話はちらほらと」


 その紙束には、これまでのハンス達が売り上げた金額が記載されており、何がどれだけ売れたなども細かく書かれている。

「そろそろ俺たちも表立って関わっていると見せてもいい頃だろう、それにこの荷馬車には興味が引かれるな」

 ヴィルヘルムが紙をめくり二枚目を見ていると、そこには軽く説明の載った試作品の一覧となっていた。


「それらのほとんどは魔術(スペル)が組み込まれているもののようです」

「そのようだな……だが、アヒム。この魔術(スペル)をどう見る?」

 ヴィルヘルムは、向かいの相手に尋ねる。


「この魔術(スペル)とはかなり有用そうです。魔力があれば、私らでも扱えるというのですから」

「アヒム……お前は、この魔術(スペル)がどう使われるのか、気にしているのか?」

「もちろん。何ができるかは彼らに聞かなければいけないでしょうが、今分かっている分でも、重量の軽減に夜間の照明と商人にとっては望まれていたものでしょう」


 商人からすると、荷台に積める量が増えればそれだけ少ない往復で大量に商品をさばけ、重量のあるものも運搬が可能になる。それに加え、夜間の移動もしやすくなるとなれば、買わない商人はいない。

「それに馬がいなくても動く荷車も作れるとも言っておったな。そうなれば魔力があるやつがそれを操れば、かなり長距離移動できるだろう。そうなれば――」

「軍事利用――ですね」

 ヴィルヘルムが話している途中で割り込むように彼は答える。


 便利なものが増えればそれだけ軍事にも利用できるだろう。

「そうだ。だが、馬がいなくても動かせるのは欲しいところだな。俺らの担当は首都の外でかなり移動しなければいけない」

「あれば見回りの回数も周回もかなり改善されるとは思います。ですが……」

「対策はしておかないとな。セーグ商会にも協力を願おう」

 そういってヴィルヘルムは手紙を書き、アヒムへと渡す。


「必ず届けます。が、今のうちにわかる部分だけでも問題点を挙げておきましょう」

 そういって彼は紙に書く準備を整え、ヴィルヘルムへ顔を向ける。

「いつにもまして……やる気があるな」

「彼らを巻き込んだ時と言い今回といい、後手に回るとかなり苦労するのが見えていますので」

 そう言い切り、アヒムは自身で分かる範囲で問題点を上げ、ヴィルヘルムへ追加を求めていた。


 ああ、これはかなり長い時間拘束されるなと遠い目をしながら気になることを挙げていく。

 前回ハンス達を巻き込んだ時、アヒムに相談なく話を進めたことを根に持っているのかもしれない。

 色んなごたごたをアヒムが片付けたから何とかなったものの、かなり苦労したらしい。

 今回は事前に相談できたことをありがたく思おう、そう心の中で呟く。




「それでハンスさん、これは?」

 シームルが机の上の紙を手に持ち内容を確かめる。


 読んでみると、題名に"仲間を増やす!"と書かれていた。

 内容を読んでみると、ハンス自身が他所の商会の闘技者として出場し、その商会と協力関係を築く。そういった内容であった。


 夜に考えたものを寝ずに書き起こし、朝である今シームルへと渡していた。

「今僕ができる中で最善だと思ったことです。これなら、票を増やせますしハンス・アルカーバーの名前も自然と出せます。そろそろ締め切りでしたよね?」


 長く息を吐いた後、シームルが険しい表情でハンスを見る。

「ハンスさん、こちらの商会の代表は……ローマンさんに頼むとして、あなたの売り込み先はかなり慎重に選ぶ必要があると思いますよ。前回ぎりぎりで残っているような商会を対象にするだけではかなり危険です。それに誰があなたをいきなり選ぶのか、そこが問題にもなります」

 ハンスの名前の価値を知っている者であり、現状に不満がある相手ということ、そしてこちらの勢力と敵対まではしていない商会を探す必要がある。それらの内容をハンスに時間をかけて伝えていく。


 一通り伝え終えた後、シームルはぶつぶつと独り言を言いながら相手の商会について考えていた。

「そうすると、こちらにつきそうなのは2つ。だけど現状に満足していそうだが……それにこちらの勢力が増した時に勝手に鞍替するだろう……なら――」



「国家運営権を持つ前回7位だったアグリア商会。ここにしましょう」

「え?」

 相手の商会を決めるのは今度になると思っていたハンスが、いきなり決まったことに目を丸くして声を上げてシームルを見た。

 その顔はすでに迷いなどは感じなかった。


 なぜその商会なのか、気になって聞いてみるとあまり知りたくなかったことも含めて教えてくれた。

「その商会の長はこれまで女性だったらしく、子供達も全員女性となるそうで長女以外はほとんどが交渉を進めるための駒として使われるそうです」

「そんな……」

「そのつないだ縁を使って今の順位を維持していることは情報に通じている者なら知っていることです」

「それだけで?」

「いえ、商売としては、東西の行き来する品を模倣して売る商売が主軸のようです。とはいえ、一応自分達で作った物も売っているみたいで職人はそれなりの数を揃えているようですね」


 ここまでの話でハンスは、仲間になってくれそうな雰囲気を感じているものの、険しい表情のまま固まっていた。

「なるほど……でもどう取り入るのかが全然わかりません」

「今後の作るものの有用性とその販売と製造の権利をチラつかせる。といったこちらの手の内を晒しながらやるしかないでしょう。それとは別にハンスさんが闘技者として勝てることを証明し、選んでもらうことも必須でしょうね」

「今の話だと権利だけでもこちらについてくれそうな?」

「それだけだと今後の信用や信頼といったものが足りないですね」

 ハンスの問いにシームルは顔を横に振る。


 シームルはハンスにもわかりやすいようにアグリア商会がとりうる行動を一つ例に挙げる。

「例えば……今後の作るものの内容をある程度教えることになるので、それを基に勝手に作って売る。でも、こちらの提案には反対する。アグリア商会としてはハンスさん達との関係はなかったことにする。みたいな逃げ道があるわけです」

「だから確実に表明させるためにも闘技者を今までの者から変えて新しい者にしたという事実がいるんですね」

「そうですね。それに情報通であればあるほど、闘技者の素性は分かるでしょうから。それに西へのけん制も兼ねれますし」


「これで国家運営選出戦までは安全ですね」

 ハンスは少し息を吐き、緊張感が抜ける。

 これからですよ。とシームルは微笑んだ表情で言う。


「それじゃあ、今日はその辺りを詰めるとして時間はありますか?」

「僕は大丈夫です。でも、シームルさんの方こそ大丈夫ですか?」

「私の最優先はこの内容ですので問題ありませんよ」

 すでに朝から昼飯前まで話し込んでいた二人であったが午後からさらに話を詰める。



 午後、話を詰めている途中、来客が訪れる。

 机へと案内し、来客対応の準備を進め、お互いに挨拶を済ませて椅子へと座る。

「忙しい中すまないな、こうして時間を取ってもらって」

「いえ、こちらに出向くなんて珍しいですね。ヴィルヘルム隊長にアヒム副長」

「急遽決めたことだったのでな、直接話せば時間もかからんだろうし。早速出してくれアヒム」


 アヒムが足元に置いていた鞄から紙束を取り出し、ハンスとシームルの前に差し出す。

「こちらが、私達が考えてきた商品提案書と購入に向けた資料です」

 紙束は大きく分けて2つに分かれている。


 商品提案書と表紙に書かれている側が枚数が多い。

 だが、それに匹敵するほどの量がその隣にも積まれている。


 軽く二人とも目を通してみる。

「なるほど。これは以前にお渡しした試作案の一つですね」

「これって魔力量の問題とか面積の問題があって試作案だけだしたやつですよ?」

「素材の耐久力も不足気味だったはず」

 二人は唸って紙を眺めている。


「これができればいいんだが、目的としては我々と協業して商品を開発しているということも知らしめることも含まれている。とはいえできることには越したことはないんだがな」

 難色を示す二人にヴィルヘルムは冗談交じりに思惑を伝える。

「最近、嫌がらせまではいかない妨害が増えてきたことと関係がありそうですね」

 シームルは心当たりがあるのかヴィルヘルム達がやりたいことを察する。


「ですが、今の私達には少々時間が足りないです」

 そう言ってシームルは午前中から話をしていたことのあらましを伝えた。


「そうか、色々と試作する時間はなさそうだな……」

「だが、今回のこのたくらみも今の時期だから効果がある」

 妨害工作自体、国家運営選出の大舞台を邪魔する目的でされているものだろう。

 でも現状被害はあまりないとはいえ、好きにされているのは気に食わない。

 それでも両方のことに携われるのはハンスが一番適任だ。次点でシャルロッテだろう。


「何とかしてみましょう。成果はなくても多少なりとも効果はあるでしょうし」



 その日の夕食後、昼間にあったことを皆へと一部を除いて話す。

「え?私はハンスについていくわ。だからアイネアスさんとスクルドさんに任せます」

「「え?」」

 話に上がった二人がシャルロッテへ視線を移す。


 すでにこれからの計画を話し終えていたこともあり、シャルロッテが荷車の設計開発に携わることは決まっていたものだと思われた。一方的に話を進められていたこともあり、シャルロッテの意見はその計画に含まれていなかった。


 ハンスとシームルは無言のまま向き合って眉間にしわを寄せていると、シャルロッテがハンスを鋭い視線で圧力をかける。

「そんなについて行ってほしくないわけ?」

「……危険かもしれないし……」

「それは今に始まったことじゃない」

「じゃあ他にもやってほしいことがあるし……」

「それはそうだけどハンスと離れるのはいや」


 ハンスが説得をしてみるも簡単には首を縦には振らない。


 大きく息を吐くとシームルは計画を変更することを告げる。

「分かりましたシャルロッテさん。アイネアスさんを主軸に荷車の開発を進めましょう」

「ええ?!」


 やはり話題に上がっていながらも、話が勝手に進んでいくアイネアスの扱い。

「今は人手も限られています。戦力として期待していますね、アイネアスさん」


 シームルが期待を寄せる言葉をかけるが、アイネアスは渋い顔したまま頭をガシガシと掻き毟る。

「そういってもらえるのはうれしいんですが、試作の資料を見てもどうしたらいいかなんてパッと出てこないですよ?」

「まぁそこはスクルドさんもいますから」


「いや……(そうだけど、あの人何できるのか分からないけど?)人手はあった方がいいですね」

 色々と飲み込んだアイネアスが大きなため息とともに、明日からの自分のあり方を見つめて背もたれに体重を預け天井を見上げていた。


 それから、改めて計画の内容を告げた。

 ハンスとシャルロッテがアグリア商会へと出向く。

 アイネアスとスクルドが荷車の開発と設計を。

 シームルとローマンは根回しを主に両方の補助。

 そして割り振られなかったブルーノ。


 ぼそっとブルーノが自分を指しながらシームルに呟く。

「あれ?俺は?」

「俺の雑用」


 それらの計画を元に明日から動き始める。


 朝日が昇り始めた頃、アイネアスは動き出す。

 早くから準備を初め、鞄に詰める。

 仕上げが残っているだけの倉庫へ小走りに向かう。


 中に入るとまだ、薄暗い。

「明かりを……あった」

 大きめの作業机の端にある明かりのスイッチを入れる。

 これは、最近普及している机の端から上部へと延びた先に明かりがつく装置付き。

 ハンスさんのように魔力があるわけじゃないので、木の根の部品もばっちり組み込み済み。


 明かりがついた部屋には、寝起きしている家から持ち込まれた資材や試作品が部屋の隅に並べられていた。

 このまま増え続けるといづれここも手狭になるんだろうな。

 そんな感想を抱きながらも、持ってきた鞄を作業机の上に置き、中身を広げる。

「よし、まずは試作案の内容を理解するところから始めますか」

 今はここがアイネアスの作業場だった。


 しばらくハンスが作った試作案とにらめっこをしていたが、中々理解するのが難しい。


魔術(スペル)の複雑化や面積の問題、それに合わせた形状の構築……さらには魔力の消費量が多いと……」

 試作案で止まっていた理由がなんとなくだが理解はできる。彼らでも解決できない問題が、果たして自分にできるのだろうか。そんなことを思いながらも、できることを考えてみる。


 そうしてふと雇われた時のことを思い出した。

「そうか……あの人たちにできなくて自分にできることがあるじゃないか」

 思い立ったならすぐにでも動く。

 必要なものを手早く鞄に入れるとすぐに出発した。



 まだ人通りの少ない露店の準備を進めている路地から少し逸れ、奥まった所にあるガラス工房へと到着する。

「ごめんください!」

 工房の炉はまだ稼働していないのか小さく燻っているだけだったが、アイネアスはここの職人が住まう奥へと声をかける。


 しばらくすると、物音が奥の扉から聞こえてきた。

「ったくよぉ、こんな朝っぱらから誰だ?」

 不機嫌さを隠さず、しかめっ面な男が奥から出てくる。

「朝早くに申し訳ない。一つ作ってもらいたいものがありまして」

「ッチ、それなりの用意はあるんだろうな?」

「相応の対価は用意しています」

「分かった、話は聞いてやる。やるかどうかはそのあとだ」


 アイネアスは、作ってもらいたい物の内容を伝えると、職人が少し困ったような表情へと変わった。


「はぁ? ガラスで正方形のものが欲しいって?しかも膨らませるわけでもなく、塊でか」

「そうです。中に模様を入れたいと思いまして」

「それなら水晶でも買った方が安いんじゃねえか?」

 それとなく理由を伝えるが、代わりに水晶が進められた。


「ですが、水晶だと加工が難しいです。なのでできれば、ガラスのような加工のしやすいものがほしいのです」

「お?おう。加工がしやすいのかは分からんがガラスのがいいことは分かった」

 首を傾げているものの、何とか納得はしてくれたらしい。


「お前さんが欲しがっている大きさだと、10金貨は余裕で超えるぞ?」

「たっ―――(どうする?一応、経費である程度は使ってもいいと言ってたけどさすがに一個でこれは……)」

 思ってた以上の金額だったアイネアスが、言葉に詰まる。


「ほかに透明な物ってありますか?」

 さすがに試しに使うのには気が引ける。

 ほかに同じようなことができそうなものがないか、聞いてみるも、困り顔でぽつりと答える。

「そう言われてもなぁ。安価なもんていやぁ、氷なら似たようなもんだろうが、溶けちまうからなぁ」


 それから色々と考えてくれていると、思い出したかのように代案になりそうなものを口にする。

「ああ、樹脂を使ったアクセサリーとか作ってるやつがいた気がするが、透明かと言われると何とも言えんが」

「樹脂ですか……これまた大きなものとなると大変そうだ。その作っていた方は?」

「さぁ?どっかで野垂れ死んだが、雇われて別のことでもしてんじゃねぇかな」

 彼も作っていた者の居場所までは知らなかった。

 だが、よい材料となれそうなものを教えてもらった。


「ありがとうございます。お礼に……」

 お礼を述べ、手持ちにあった2金貨を渡す。

「おう。今度は俺の売りもん買ってってくれ」

「その時はぜひ」


 そういってガラス工房を後にする。

「まず当たるならシームルさんに聞いた方が早そうだな」

 樹脂の取り扱っている商会や職人を探すにしてもまずは、シームルに聞いてからの方が二度手間にならなくて済む。

 そう考えて、いつもの家へと帰っていく。


 家に帰るとちょうど5人で朝食を取っている時だった。

「朝早くからご苦労様です」


 シームルが、入ってきたのに気づくや否や挨拶をしてきた。

「ええ、ありがとうございます。ちょうど聞きたいことがあるのですが今でも?」


 席に座るとき、朝食もいるか聞かれるが、紅茶だけもらうことにした。

「聞きたいこととは?」

「樹脂を取り扱っている商会はありますか?」

「ふむ……樹脂ですか」

 シームルは、記憶の中を探す。


 しばらくして。

「確か5年ほど前にはいたはずですが、最近は聞きませんね。手間暇のわりに儲からなかったのかもしれません。私達でも、そうそう取り扱わないですし」

「なるほど。これから依頼してこれぐらいの大きさの正方形でほしいんですが可能ですか?」

 少し身振り手振りで大きさを伝えながら依頼が可能か聞いてみる。


「技術が残っているかどうか……一度ギルドに尋ねてみるのもいいかもしれませんね」

 ほとんど扱われていないということもあり、入手方法や樹脂の知識など、継承されていない可能性もある。

 唯一そういった依頼を受けていて、技術や知識を残している可能性があるところがギルドであった。

「その辺り、ブルーノに調べてもらうとしましょう」

「了解っす、入手方法から製法に販売ルートまで色々調べてくるっす」


 アイネアスはホッと一息を吐いて安堵すると、ほかにも考えることが残っているため、もう一度倉庫へと向かおうとして一気に紅茶を飲み干す。


「ちょっとまって、準備するから」

 呼び止めたのはスクルドだった。

 一緒に倉庫に行くのだろう。だが、何ができるのかさっぱり分からないアイネアス。

 それもあって早めに出て作業ができそうなものを用意できればと思っていたが、うまいこといかない。


「お待たせ」

 しばらく待っていると、動きやすい服に着替えて髪も梳かされ、首元で纏められていた。


「思っていたより早かったですね」

 女性の準備には時間が掛かるとよく言われている。だが、スクルドは10分もしない内に戻ってきた。

「ふ~ん?そういう風に見てたんだ?」

 素直に言うと、スクルドはニヤニヤした顔でからかうように返してきた。


「ちっちがっ!一般論の話です!一般的な!」

 慌てて反論するアイネアスを、やはりどこかからかいを残したスクルドが玄関の扉を先に開けて言う。

「そうなんだ、どっちでもいいんだけど。早くいこっか」

 慣れた足取りでスタスタとスクルドが歩いていく。


「ちょっと!先に行っても鍵は私が持ってますから!」

 そう言いながら慌ててアイネアスが追いかけていく。


「あの二人大丈夫っすか?」

 ブルーノは心配そうにつぶやく。

「ただじゃれてるだけだと思うけど……」

 一番仲良くしているシャルロッテが少し自信なさげに漏らす。


「とにかくあっちはあっちで頑張ってもらいましょう」

 朝食の片付けをすると、それぞれ自分の役割を果たすために動く。



 倉庫についた二人は作業台の前へ集まった。

 そしてアイネアスは単刀直入に聞く。

「スクルドさん、これからの作業のことで正直な話をします」

「何?」

「スクルドさんは何ができますか? 何ができるのか分からないので作業を分担するにも難しいんです」


 ふむ、とスクルドは考える姿勢を取る。


 だが、中々返答がない。

 それに時間が経つにつれ、困り顔になり目がかなり泳いでいる。


「えっと、質問を変えます。魔術(スペル)はどれぐらいできますか?」

「ハンスぐらいは……たぶん」

「荷車の設計……というより設計自体は?」

「ない。けど魔術(スペル)の規模次第だと……思う」

 スクルドは答えてくれるが、かなり視線が彷徨っている。それに、どこか無難な回答を探しているかのようだった。

「ではもう少し具体的にいきますね。荷車の構造で、魔力で動かす際に問題になりそうな箇所は?」

「……車輪周りの耐久性と、加減速の機構」

「ならそれらの機構や構造を設計に起こせますか?」

「それぐらいなら……」


 アイネアスは内心かなり驚いていた。

 さっき上げた内容はほとんどが白紙の状態であり、かなり問題視していたが手の付け方が分からない部分であった。


 だが、やはり見てみないことには確証は得られない。

「なるほど、そういうことでしたら、車輪周りの耐久性と加減速の機構について作っていただいても?」

「分かった。やってみる」

 その返事をする時は、しっかりとアイネアスに向かって頷いていた。


 とはいえ、アイネアス自身現状すぐに取り掛かれるものがない。

 向かいでは、すでに白紙の紙を広げて描き始めようとしていた。

(困った。試すようなことを言ってやらせたのはいいけど、私自身特にできることがないんですよね……)


 すでにできそうなことは朝のうちに考えて、行動してしまっている。

 残っていることは基本よくわからないものしかない。


 机に手をつき大きく唸る。

 分からないついでに色々記憶を探っているとふと分からない物を思い出した。

「そういえば、根の部品ってなんで周囲の魔力を集められるんでしょうか……」

 アイネアスは考えていたことを口に出してしまっていた。


 それに答えるように向かいから返事が来た。

「知りたい?」

「え?聞いたら教えてくれるんです?」

「簡単になら」

「ではお願いします!」

 今は少しでも時間が惜しい。聞けるなら聞いて設計に生かしたい。

 アイネアスはスクルドに教えを乞うことにした。



「はい? えっと、もう一度お願いします」

 アイネアスは一度で理解することができなかった。

「空気中の魔力は誰の者でもないから操れないの。でもそのままにしてるといいことないから回収してるの。その方法の一つとして木の根というか特別な木が集めて再分配してるの」

 アイネアスは、頻りに首を傾げては唸り声をあげている。


「うーん、簡単にしたせいで余計分かりにくい?」

「何かほかの例え方ってできますか?」


 しばらく考えた後スクルドは、例えてくれた。

「人が使う魔力は川から掬った水だとして、川に水を垂らすとどうなると思う?」

「少しだけ垂らしたことがわかるけど、すぐに川の水と一緒になってしまう……」

「そういうこと。手元にある分しか人は扱えないの」

「でも川から水を掬うことができれば……」

「かなりの量の魔力を扱えるでしょうね」


 そこまでわかっているなら、もしかするとスクルドならその方法を知っているのかもしれない。

 さっきごまかしのために魔術(スペル)がどれだけ使えるかについてハンスさんほどと言っていたが、それって今知りうる中で一番理解している人と同じということでもある。

 最低でもそれぐらいはあると考えると知っていてもおかしくない。


 アイネアスは、少し素直に聞いてしまうことに抵抗を覚えてしまった。

 聞けばなんでも解決できそうな気がしてしまい、甘えてしまいそうだった。


 それでも時間や期待、それらを自分のプライドのためだけに犠牲にするのはそれはそれで違う。

 そんな考えを持てるほど、今はゆとりがある。それがアイネアスにとって嬉しかった。


 少し悲し気な表情をしながらも、軽く微笑みながら聞くことにした。

「ならその魔術(スペル)を教えてもらえますか?」


 アイネアスの目を見て葛藤に気づいたのか、少しの間をおいて頷く。

「……分かった。でもしっかり理解すること、いい?」

「はい!」


 それから始まりの日を含め二日間は、みっちり教えられることとなった。


 次の日の朝。

「うん。それだけ分かれば大丈夫」

「はあ、やっとですか」

 前日に渡されていた課題をスクルドに渡して、その内容を確認した結果が何とか及第点だったらしい。


「まだまだ気になるところはあるけど、考え方は様になってきたと思う」

「これでやっと基礎部分が作っていけそうだ」

 机に置かれた紙を見ながらアイネアスは頷いていた。

 その紙には、みっしりと魔術(スペル)―――周囲から魔力を集める魔術(スペル)について書きこまれている。


「そういえば私の描いてた車輪周りの耐久性と加減速の機構なんだけど、これでいい?」

 スクルドは合間で教えながらもしっかりと自分の作業もこなしていた。


 受け取った設計図を見ると、細かな部品の図面がいくつかあり、それらを組合した形まで描かれている。

 これは多分、加減速の機構についてだと思われる。

 それとは別の場所には、耐久性についての案がいくつか書かれている。

「どれもやってみないと分からないか」

 耐久性の高い木材の記述や鉄製での製作、魔術(スペル)を組み込んだ車輪など、具体的な内容も含めて書かれているが、どれが一番良いのかやってみないことには分からない。


「じゃあこれらの部品を発注してもらえるように頼んできます」

「お願い」

 設計図をもって倉庫を出ると暇そうにしていた大工たちがいた。

 彼らは倉庫を建てるのを手伝っていた人達である。


「アイネアスさんや、うちらにも何か仕事はないかい? 暇で暇で仕方ねぇ」

 彼らは彼らで自分達の家も改装していたらしいが、それすらも終わって暇をしているらしい。


 ならと、アイネアスは先ほど持っていた設計図を見せる。

「なら、これらの部品を作れますか?無理そうな部分は別の方に頼みますが」

「……こりゃかなり細かいな、できなくはないだろうけど設備がないと綺麗なものは難しいな」

 設計図の中身を確認した彼が渋い表情でそういった。

「そうですか、今後こういったことが増えるでしょうし、お暇ならそういった設備を整えた環境を作ってみては?役に立つものならしっかり給料はお支払いしてもらえると思いますよ」


「大工仕事だけが俺たちの仕事じゃないからな。ちょっくらシームルの旦那にでも相談してみるかな」

 それなら用事があるから一緒に伝えておくからと言って先に準備に取り掛かってくれとアイネアスは伝えると、足早にシームルが家から出発していないことを祈りながら向かう。


「あ、アイネアスさん」

 丁度玄関から出て歩き出した所だった。

「今から少し相談がしたいんですが……」

 アイネアスがそういうと、シームルが迷った様子を見せる。

「あー、これから用事があっていかなきゃいけない所があるんです。それについてきてもらえれば話はすぐに聞けますがどうします?」

 断られるわけではなかったがシームルについていけば話が早くできそうだ。

 だが、そんな用事について行っても大丈夫なのだろうか。とも考えたが、だめならそもそも断るだろうということで、ついていくことにした。

「じゃあお願いします!」


 向かいながら大工仕事をしていた方々のことを話していると、用事のある場所へとついた。

「こ……こ……?」

 一番人通りが多く、その建物にもかなりの人が行きかっている。

 そこはかつてギルドが所有していた場所であり、今はこの街の役場的な場所となっている。


「はい、今日は選出戦の出場登録をするために来ました」

「今までしてなかったんですか?」

 今までしていなかったことに驚くと、シームルは理由を説明してくれた。

「それはまぁ、政治的なと言いますか、今まで誰が戦うか決まっていなかったのもあってしていなかったんですよ。誰が戦うかは後でも変えられるんですけどね」

 そう言いながらも受付につくと簡単に手続きを済ませる。


「さて手続きも終わりましたし、どこで話を聞きましょうか」

 そういってあたりを見渡すと、ちょうどいい所に空いている席があった。

「そこで話を聞きましょう」

 その席は防音や大事な話をする場所からはかなりかけ離れた席だった。

「えっと……こういった場所で話していいものなんでしょうか。この話って……」

 アイネアスは机の上に設計図をこっそりと出す。


 出された設計図を覗き込むように身を乗り出すと、ぼそりと呟く。

「あえてここで話すんです。これも政治的なやり取りの一つですよ」


 そんなもんかなぁと思いながらもとりあえず、持ってきた設計図のことを説明する。


「ふむ、なるほど。車輪の耐久性についてですか」

 部分的に内容を声にだして確認していた。

 すると周囲にいた者達のざわめきが小さくなったような気がしたが、気のせいかもしれない。


「はい、なのでこの木材で作ってみたいんです。じゃないと今のままでは耐えれない可能性もありますし」

「分かりました、その木材を手配するとしましょう。明日には届くと思います」

「ありがとうございます」

「では、続きはまた今度しましょう」

「ええ」

 当たり障りのない範囲で話を切り上げて席を立つ。


 役場から出て家への向かう。

「さて、これで何が釣れるかな?」

 シームルは悪だくみをしたような笑みを浮かべる。


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