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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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#28 工房

 何とか売り上げを確保したハンス達であったが、これから先も売り上げを維持できるとは考えていなかった。その売り上げのほとんどは、無理やりに近い形で住まわされることとなった家の家賃への支払いへとあてがわれていた。


 家に住み始めて3か月は過ぎた頃、

「ハンスさん、提案があるのですが……」

 そう言って何やらもの言いたげな様子でシームルがハンスの元へと来ていた。

 声を聞いたハンスは、整頓自体はされているものの、そもそもの部屋の大きさと物量があっていないこともあって、部屋が散らかっているように見えた作業場で、何とか座る場所を確保して話を聞こうとしていた。


「何でしょう?」

 特に気にした様子のないハンスが正面に座っている。

「こんだけ物で溢れてしまっては作業しずらいでしょう? 別の場所を借りるのはどうでしょうか」

 その様子を作業場の入り口から見守っていたのはシャルロッテとブルーノだった。彼女らは、家で生活をすることに支障が生じてきていることを危惧していた。何せ食卓にはもともと作業場でしていた部品の加工をしていたり、部品に必要な材料は風呂場へと置かれていたりと何かしら不便が出てきていた。

 そんな事情もあり、シームルにシャルロッテ達がどうにかできないかと相談した結果、今回の話へと至った。


 ハンスはその提案に少し難色を見せる。その理由は明白だった。

「また借りるとなるとここみたいにお金が掛かるということですよね……」

 そういわれることを想定してか持ってきていた資料をハンスに見せる。そこには、街のどこにあるのかとどれだけの費用が掛かるかが書かれた資料だった。

「そう言われると思って私がよさそうな場所を見つけておきました。場所も外縁部ということで少し不便ですがかなり安い場所を選んでいます」


 渡された資料を地図と照らし合わせながら思案するハンス。

「ここなら……」

 ハンスが選んだ場所は、街の外にあるギルドの拠点からほど近い外縁部にあり、そう遠くない場所に街を出入りできる場所があった。


「なるほど、今からその場所を見に行きましょう」

「え、あ、え?」

 選んだ場所の資料を手に取ったシームルにハンスが強引に連れていかれた。

 それにシャルロッテとブルーノは同行する。

「あの、シャル……ブルーノさん、まだやりたいことがあるので助けてください!」

 同行していることに気づいたハンスが助けを求めていた。シャルロッテは首を横に振る。

「これも皆のためだから!」


 しばらくして、目的の場所に到着する。

 そこは、ボロボロの家屋が立ち並び、道端で倒れている者もいたりと、明らかに貧困層の住む場所であった。それゆえにかなり安くなっているとも言える。

 目的の場所に建っている建物も他と同じようなボロボロの家屋であった。どちらかと言えば倉庫のような印象を受ける。

「まずは中に入りましょうか」

 シームルは先導して玄関と思われる場所からきしむ扉を開ける。


「これは……」

 先に通されたハンスは中を見て唖然とする。視線の先には、壁は言わずもがな、床はほとんどが抜け落ち二階へと上がる階段は崩れ、一階から二階の全貌が見れるほどであった。

「うわっ、これはやめておいた方がいいんじゃない……?」

 遅れて入ってきたシャルロッテも同じような反応だった。


「ここまで朽ちていたら使えるようになるまでかなり掛かりそうな……なら別の場所を探した方がよさそうですね」

 この場所を諦めようとしていたハンスであったが、シームルが少し補足をする。

「このあたりには安価で雇える人達がたくさんいますし、彼らに手伝ってもらいながら材料を持ってくればさほどかからないと思います」

「それは……そうかもしれないですが……」

 ハンスは彼らを使うということに罪悪感に似た何かを感じて躊躇していた。


「おやおや?ここには似つかわしくないお客さんがいたものだ」

 建物の外から聞きなれない男性の声が聞こえてきた。

 外に出ると、男性とその子供と思われる女の子が寄り添っていた。


「だ、誰ですか?」

 ハンスはシームルに視線を送る。

「彼はこのあたりを取りまとめているちょっとした変わり者です」

 彼もまたここには似つかわしくない装いをしていたが、ただ着飾った装いかと言われると、ただただ質素であり、清潔感があるといった感じだった。


「変わり者とは失礼な。私は彼らを最低限支援してあげているのですよ?」

「それを変わり者というんですよ」

 旧知の仲のように軽口をお互い言い合っている。


「最低限……?」

 ハンスは少し引っかかる言葉を聞いた。

 その言葉についてシームルが説明してくれた。

「ええ、彼は、このあたりの住人に死なない程度の食事や住居を提供しているんです。ほんとに死なない程度に。でも彼の存在はここの人達からするとありがたい存在なんです」

「そうそう、それに強制労働からも救ってあげているからね?この国のルールはひどいよね、雇用側の都合で違反しただけなのに強制労働にできるなんてね」

 シームルの説明に補足し、彼はこの国への不満を口にする。


「ああ、そういえば名乗っていなかったね。私はミダース。で、この子はゾエ。よろしく、ハンス君」

 そして彼は忘れてたと言わんばかりに自己紹介を初め、手を差し出しハンスに握手を求めてきた。

「よ、よろしくお願いします……」

 それにハンスが答えるとシャルロッテにも同じように握手を求めていた。


「さて挨拶はこれくらいにして、話をするなら家に来ないかい?その様子だと私に用事があるんだろう?」

 握手を終えたミダースは、仕切り直して場所を移動することを提案する。


「ええ、話が早くて助かります。ハンスさんもそれでいいですね?」

 シームルがハンスに同意を求めているが、すでに断れない雰囲気を察したハンスは頷く。


 ミダースに連れられ彼らの家へと案内される。

 そこは同じ貧困層の場所にありながら雨風が防ぐことができる一般的な家であった。


「狭いだろうけど寛いでいってくれ」

 そういうと、机の周りに4人が座る。ゾエの遊び相手に選ばれた暇そうなブルーノは別の場所に連れていかれていた。


 ゾエの様子を見送るとミダースは早速要件を聞こうとシームルに話を振る。

「それじゃあ、そちらの考えを聞かせてもらおうか」

「はい、私達としてはあそこの小屋を使いたいと思っているのですが、なんせボロボロなので手直しをしたいんです。ですが、人手が足らずどうしようかと悩んでいた所です」

 先ほどあの場所で起こっていたことを説明した。

「ふむ……」

 怪訝な顔をしたミダースに説明を加える。

「このあたりに住んでいる方々に仕事として建て替えの作業をしてもらいたいと思っています。その間の食事もこちらで提供しますし、賃金も相応に支払います」

 シームルは不当な労働はさせないということを強調するように説明していたが、ミダースの表情はあまり好転しなかった。


「ここに集められた者が信用すればいいけどね。好条件を出せば出すほど彼らに騙された過去があることを忘れてはいけないよ」

 鋭い目つきでミダースは彼らのことを教えた。

「そうは言っても彼らの中には再起を図りたいと思っているものも少なからずいるからね。そういう部分をうまいこと引き出してあげられるなら私としては願ったり叶ったりだがね」

 そう付け加えるミダースの表情はどこか親心のようなもの垣間見える。


「分かりました。心に留めておきます」

 シームルはそう答えた。無関心にもとれるその言葉とは裏腹に、必死に対策を考えていて意識がそっちに引っ張られている。


 そんなやり取りを見ていて気になったハンスが口を挟む。

「あの、ミダースさんはあそこで何をするか聞かなくていいのですか?」

 そのことに関してミダースは自信の考えを話してくれた。

「そうだなぁ……深く追求しないほうがいい場合もあるということだな。深入りして命を狙われるなんてことも少なくないからね」

 ミダースのその言葉からは、貫禄ともとれるような重みのある言葉に聞こえた。


 ハンスはその意味をあまり理解していなかった。

「えっと……自分達の近くで知らないものを作っている場所があるのは怖かったりしないですか?」

「そうだね。知らないうちに知らないものを作られていたら確かに怖いよ。でも、こうして話をして、姿を見て、自分で判断した者が作っているならそこまで怖くないよ」

 そういうミダースは笑顔で答えていたが、覚悟が決まった表情でもあった。これが彼の処世術なのだろうとハンスは聞いていた。



 それた話をシームルに戻す。

「そういうことだから君達は好きにしたらいい。まぁ強引な勧誘だけはやめてくれよ?」

「もちろん彼らの主張は尊重するつもりです」

 そしてお互い握手をしてその場の話し合いは終了した。


 話を終えたハンス一行が帰るのを見送るミダース。

 一仕事終えたとばかりに大きく息を吐くとゾエの様子を見に向かう。


 すると誰かと話している声が聞こえてきた。

「そういえば、遊び相手になっていたんだった。彼には悪いことをしたね」

 そう一人で呟くと、玩具で遊んでいる2人の輪の中に割って入る。

「君、皆帰ったみたいだよ。ゾエ、彼はもう帰らないといけないんだ」

 ブルーノは持っていた玩具を落としてその事実に驚いていた。

「俺、置いてかれたっす!ゾエちゃんまた遊ぼうな」

 慌てて準備して飛び出していった。

「あ……行っちゃった」

 ゾエの返事も待たずに帰ってしまった彼を物悲しそうに見送る。


 そんなゾエの頭を軽く撫でながらミダースは言う。

「彼らとは縁ができたからね、また会えるよ」

「ほんと?!」

「ああ、もちろん」

 その言葉にゾエの表情が打って変わって、期待の眼差しへと変わっていた。



 一方で置いて行かれたブルーノが合流する。

「ちょっと!置いてくのはひどいっす!」

「あ」

 その場にいた皆が姿を見て忘れていたことに気づく。

「すまん、すっかり忘れていた。お前のおかげで彼とは友好関係を気づけそうだ」

「それにしては忘れるとかひどいと思わないっすか?!」

「忘れていたのは嘘だ。よくやってくれた」

「ええ?!何がっすか?」

 シームルは冗談交じりに功績を褒めていたが、ブルーノは功績の内容を理解していなかった。


 帰路につきながらその意味を説明した。

「彼と友好を築けると商売がうまくいくらしい」

「えぇ?! 商人のお前がそんなこと信じているんすか?!」

 ブルーノが大げさに驚いていたが続けて話した。

「私も最初は信じていなかったよ。でも彼が協力した商売を調べてみたら確かに良い方向に商売が進んでいるんだよ」

「じゃあ、商売で友好関係を築けなかったら?」

「嫌われた話なら知っている。結末は、一か月も持たずして店じまいをしていたよ」

 シームルはため息をつきながら首を横に振っていた。


 初めて出会った時の状況にシャルロッテは突っ込む。

「え、じゃあ初めて会った時になんであんな会話だったの?」

 シームルは視線を逸らしながら弁明を述べる。

「あー、彼とは昔に……関わったことがあってですね。見習い時代に何回か話したことがありまして彼には色々教えてもらったりもしていたんですよ?ですから―――」

「もう大丈夫!シームルさんは仲良かったからなんだね!」

 シームルが延々と弁明をしようとしていたが、シャルロッテはそれを強引に打ち切らせる。


「はい……彼は人を見る目が優れています。なので、こうして顔合わせすることは、今後の行動に良い影響を与えると思います」

 そんな話をしていると家についていた。

「ハンスさん、無理やり連れだしてしまって申し訳ないです」

 家に帰ってきて作業場へと戻っていくハンスに謝罪する。

「いえ、こちらこそありがとうございました。おかげで場所の確保に四苦八苦しなくて済みそうです」

 お礼を言うと、ハンスは作業場へと吸い込まれるように帰っていった。


 詳しい話は翌日に詰めることで全員解散していった。



 翌朝、ハンスが作業場で寝ていると、家の扉を叩く音で目が覚める。

「ん、こんな時間から誰……?」

 寝ぼけた様子で扉の前に行き、扉を開ける。

「どちら様でしょうか?」

「やあ、昨日ぶりだね」

 そう返事をしたのは、昨日のミダースであった。だが、その隣には、ゾエと見知らぬ瘦せこけた男性が立っていた。

「家の中で話したいんだけどいいかい?」

 痩せこけた人物を疑問に思いながら見ているとミダースが話がしたいと言ってきた。

 断る理由もなく、ハンスは彼らを招き入れる。

「どうぞ、まだほかの方は寝てると思いますが……」

 ハンスは眠たそうにしながら案内していた。


「あの……」

 案内を終えたハンスが、もてなす準備をしていると後ろからゾエに声をかけられた。

「どうしましたか?」

「昨日遊んでくれた人どこ?」

 ゾエはブルーノを探していたらしい。ハンスがブルーノの部屋を教えるとゾエは一目散に走っていった。

 しばらくしてブルーノの驚く声が聞こえてきた。


「どうぞ」

 ハンスは二人分の飲み物と置いてあったお菓子を並べると向かいに座った。その頃にはだいぶ意識ははっきりしていた。


 ミダースは礼を言いながら飲み物に一口つけると、話始めた。

「君たちのやっていることに前々から興味があってね、こうして話せる機会が得られないか模索していたんだ」

「それであそこにいたんですね」

「そうだね、少し細工はさせてもらったけどね。それで、君たちには手先が器用な―――というか魔力を器用に扱える人材を集めていたりしないかい?」

「え?」

 ハンスは驚きを隠せなかった。が、少し求めている人材とは違っていた。

「僕たちが求めていた人材はどちらかと言えば、魔力を多く扱える者ですね」


 その答えにミダースは、驚きと戸惑いの表情をしていた。

「おや?私が見てきた限りであれば、今後必要なのは、魔力を器用に扱える者だと思ったんだがね……」


「では、どういう用件で魔力を器用に扱えるものが必要だと思ったのですか?」

 ブルーノの声に起こされたシームルが下りてきて話に入ってきた。


 ハンスの横にシームルが座るのを確認すると、ミダースがその問いかけに答えた。

「君たちの商品を見たよ。綺麗な出来栄えだった。それにあの値段だろう?安く正確に作れる方法があることは分かった。そして、その置き場を求めてあそこに来たということもね。なら今後、あそこの倉庫もいっぱいになったら?また借りるのか?それとも、一つずつを小さくするのか?どちらかだろうと思ってね」


 シームルはため息をつきながら頷く。

「ええ、確かにそのような構想もあります。あなたはいつから目をつけていたんですか?」

 その問いかけに首を傾げながらミダースが答える。

「ん?君たちがここに住み始めるときからかな。興味深い行動をしていたからね」

「できる限り内密に動いたつもりでしたが……邪魔はしないでくださいね?」

「もちろん、どちらかと言えば協力したいぐらいさ。こうしてね」

 そう言って隣に座っていた痩せこけた男性を見る。


「あ、アイネアスです。よろしくお願いします」

 彼は縮こまりながら小さく挨拶をした。

 戸惑いながらもハンスとシームルは挨拶を返す。


「そうだ!どんなことができるか見せてあげたら?」

 思いついたかのようにミダースがアイネアスに提案するが、きょろきょろと伏せがちな視線で見渡す。

「でも……ちょうどいいものなんて……」

「ガラスの器とか何かない?」

 ぶつぶつと言うアイネアスを放置してハンス達に必要なものがないか尋ねる。


「それなら―――」

 そう言ってシームルが食器を一つ持ってきた。それは、ガラスでできた容器であった。

「ちょうどいいのがあってよかった。これならできるでしょ?」

 手に取った容器をアイネアスに渡すと詳しく見始めた。


「これならできると思います」

 そういうと、容器を覆うように持つと青白い光が小さく煌めく。


 しばらくその様子を見守っていると、アイネアスが視線を上げる。

「できました」

 そうして見せられた容器には先ほどまでなかった装飾が施されていた。それは、所狭しと彫り込まれた花と草木であった。


「これは――――」

 ハンスとシームルが驚いていると、本人以上に自慢したそうにミダースが説明する。

「すごいでしょ。それ、ガラスの中に彫られているんだよ」

 そう言われたハンスとシームルはガラスの両面を触ってみて窪んでいないことを確認して驚いていた。

「確かにすごい!」

「これは、確かに中々できるものではないですね」


「で、彼を雇う?」

 その問いにハンスとシームルは顔を見合わせる。

「少し話をさせてください」

 そういうとミダースは頷く。

 ハンスとシームルは作業場へと向かい、小声で相談を始めた。


「どうしますか?シームルさん」

「どうしましょうか、彼のあの技術は惜しい。でも、今すぐ雇ってもすぐには活躍の場は来ないでしょう」

 とはいえ、今必要かどうか悩んでいるシームルであった。

「できることを作るにしても、彼に細工をしてもらい、それを販売するとかなら雇えると思いますが……」

 シームルは何か引っかかることがあるようで言葉数が減っていき、思考に重きを置きだした。

「シームルさん?」


 ハンスの呼びかけにハッと我に返る。

「あ、すいません、考えすぎてました」

「何か思うところが?」

 ハンスが尋ねると、まとまり切っていないなりに話を聞かせてくれた。


「私としては、あれだけの技術があれば、ある程度の顧客がついていてもおかしくないんです。それに設備がいらないから元手も少なくて済む。なのにどうして私達を頼るのか。それがわからないのです」


 その話にハンスは分からないなりに理解をしようとした。

「問題を起こしたとか不正をしたとかがあったかもしれないと?」

「それも可能性の一つです。それに彼の元にいるということは、雇用していた側が何かしたとかがある可能性も」

 シームルも話す内容が可能性の域を出ない。


「ハンスさん、やることが増えてしまうのですが、一つお願いしても?」

 そう言うシームルにハンスは頷く。

「彼の技術に合わせた魔術(スペル)を考えてみてもらえますか?材料は先ほどのガラスで。それができるまでは倉庫の修理とハンスさんの助手ということで雇いましょう」


「わ、わかりました。でも、それまでの給料は?」

 ハンスは納得したものの、ハンスが設計を完成させるまでの間にかかる、彼への給料について気にしていた。

「私が提案してますし、私が出しましょう。売り上げが出ればその時に返してください」

 そうして意見がまとまった二人は、ミダースとアイネアスの待つ食卓へと戻る。


「お待たせしました」

「話はまとまったかい?」

 待っていたミダースは笑顔で迎えた。


「それで雇用についてですが、彼を、アイネアスさんを雇うことで決まりました。仕事の内容は、倉庫の修理とハンスさんの補助です。正直、まだしっかりとその技術を生かせる仕事がないのが現状です。アイネアスさんはそれでもよいでしょうか」

 シームルは一通り説明をして、アイネアスの同意を求めた。


 それを聞いたアイネアスは、パッと表情が明るくなったかと思うと目からは涙が零れていた。

「ありがとうございます……それで大丈夫です……」

 そんなアイネアスの肩を叩くミダース。

「よかったじゃないか、やっと仕事が見つかってさ」

「はい……」

「あとは君たちに任せるよ。私は、ほかにもやることがあるのでね」

 そう言って席を立つと、二階にいるゾエに向かって呼びかける。

「おーい!帰るぞー」


 ギャっというブルーノの声と扉が開く音が聞こえ、ゾエが二階から降りてくる。

「それじゃまた」

 合流したゾエを引き連れてそう言い残して帰っていった。


「あの人はもう帰りましたか?」

 泣き止んだアイネアスが不安そうに尋ねてきた。

「ええ、今帰りましたよ」

 シームルがそう答えると、大きく息を吐き、体の力が抜けていた。


 何か事情がありそうな雰囲気があったが、シームルが先に食事や身支度をするよう促す。

「色々話したいこともあるでしょう。その前にお風呂に入ってはどうでしょう?着替えも用意しないといけませんね。上がってきたら食事にしましょう」


 それを聞いたアイネアスは泣きそうになっていたが、泣き始める前にシームルは風呂場へと案内する。

「さて、彼に会う服も見つけないといけませんね。時間的に私かブルーノのお古になるでしょうが……ハンスさん、探している間に食事の準備をお願いできますか? シャルロッテさんもそろそろ起きてくるでしょうし」

 ハンスに食事の準備をお願いすると二階へとシームルが上がっていった。それと入れ替わるようにシャルロッテが下りてくる。


「やっと、ひと段落したのかしら?」

 下りてきてそうそうハンスにそう尋ねる。

「はい、でもなんで?」

「起きてても降りて来づらいでしょ!あの状況は!」

 シャルロッテは起きていたが、空気を読んで下りてこなかったらしい。

 ハンスがいつから起きていたのかを尋ねると、ブルーノが驚く声を上げたときから起きていたとか。


「あ、早く食事の準備を始めないと!」

 ハンスが思い出したかのように、慌てて準備を始めた。

「私も手伝うわ」

 そう言ってハンスと一緒に食事の準備を始めた。



 しばらくして、ダボダボな服を着たアイネアスが、食事にがっついていた。

 皆それに驚きつつも、先に食べ終えて見守っていた。


 食べ終えたアイネアスが食器を見ながらぽつりぽつりと話始めた。

「僕は、あそこでの暮らしは地獄だと思っていました。もらえるだけましだと思って与えられる食べ物を食べていたけど、それ以外への気力が一切湧かなかった。このまま死ぬのかと思いながら一年ぐらいはいたと思う。でも、死ななかった。どうしても目の前に出される食べ物を食べてしまって」

 そう言うと、拳を強く握りしめた後、掌を眺めていた。


「でも今日、いつもより多めの食べ物を持ってきてこう言われたんだ。お前さん次第で仕事が見つかるかもなって。彼からすると、僕たちは駒に過ぎないのかもしれない。それでも、今の状況から変わるならと思って……ついてきて、久々に魔法が使えて、やっぱり出来上がったものを見たら楽しいなって」

 話すだけ話すと、最後に立ち上がり、深々と頭を下げた。

「だから、僕を雇ってくれてありがとうございます!できる限り恩を返していきたいです!」


 皆は迎え入れるように拍手をしていた。

「あ、でも部屋は? ここの部屋は埋まってるよね」

 シャルロッテが二階の部屋が埋まっていることを思い出す。


 それならとスクルドが手を挙げた。

「なら私がシャルロッテの部屋に移動するのは?」

「そんなことしてもらわなくても、空いている場所で寝かせてもらえたらそれで僕は!」

 慌ててアイネアスが遠慮して首を横に振って止めようとする中、ハンスも部屋を譲ろうと手を上げる。


「僕の部屋を使ってもいいですよ。作業場で最近寝てますし」

「それこそよくないですよ!それに、ちゃんと横になって寝てくださいね?!」


 そしてさらにもう一人、手を挙げた。

「なら私が部屋を空けます。最近あまり帰れていないですし、ほかの場所で住めるぐらいには稼ぎましたので」

 ローマンがそう言う。

「なら……」

 全員の意見は一致した。アイネアスを除いて。

「いえいえ、わざわざ僕のためにそんなことしてもらわなくても……」


 こうして新参者の言うことは聞かれることはなく、ローマンは別の場所に住むこととなり、新たにアイネアスが、空いた部屋へと住むこととなった。


 部屋の決まったアイネアスにシームルが給料について話すがお金は受け取らないと言う。

「着るものと食事と仕事があればそれだけで十分です」

「お金も必要な時があれば言ってくださいね」

「ありがとうございます」

 そう言って二人は契約成立の握手をしていた。


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