#26 ひかり
夕食後、各々くつろいでいる所へハンスが話始める。
話そうとしている隣で、内容を知っているシャルロッテが神妙な面持ちをしていた。
「皆さん聞いてください」
その声を聞くと、各々ハンスに耳を傾けていた。
「僕は、あの本達をすべて読んだわけではないので、すべてをお話しすることはできませんが、今分かったことをお話しします」
そんな前置きをした後に、それぞれの本の役割や、一冊足りていないということについて話した。
それぞれの反応はバラバラで、深刻そうに捉えたローマンや、首を傾げながら、近くにいたシームルにひそひそと内容を確認するブルーノ。猫は毛づくろいをしながら大きなあくびをしている。
「時間に限りがあるということは分かりましたが、あとどれぐらい残っているのか...」
「ああ、なるほどな。さすがシームルっすね! それでハンスさん、なんか売り物については分かったっすか?」
考え込むローマンを横目にブルーノは、直近の問題について問いかける。
「はい、少し考えがあります。そのことで色々と相談もしたくて、こうして聞いてもらってます」
ハンスは、真剣な表情でブルーノ達を見渡す。
「何を相談したいんだ?」
シームルは、早速何を相談したいのか尋ねる。
「それはですね……これを見てください」
手に小さな木の板を取り出し、掌に載せて見せる。
それを見ていたシームルは不思議そうに眉をひそめていた。
軽く握ってシームルの方へ板の端を向ける。
「これに魔力を流すとですね、光るんです」
小さな木の板に青白い筋が浮かび上がったかと思うと、端から白い光が放たれた。
「うわっ?!なんだ……? 一回止めてくれ!」
突然の閃光に目をつむって顔をそらしたシームルが板を握るハンスの手を手探りで覆い、下に下ろさせる。
「本を読んですぐに作れそうなものを作ってみました。でも、急ごしらえで作ったので色々と雑な部分は目立ちますが……」
そういうハンスの持つ板は、パッと見はただの木の板に溝が掘られているだけの簡素なつくりであった。
夕食までの間にこの時間のために急いで作ったらしい。
「ほかにも魔力を数値化できる装置などもあるみたいですが、簡単には作れなさそうです」
ハンスが先々に新しいことをいうことに、ついていけず一旦静止が入る。
「ちょっと待ってくれ!順番に説明をお願いする」
「あ、はい。 これは投光器と言って、魔力を使って光を放つもののようです」
「魔力を光に? そんなことができるのか?」
シームルの問いかけにハンスは頷く。
「もちろん、炎や水を扱うのと似たものです」
シームルはそれの商品価値について吟味し始める。
「なるほど、それは誰でも使えるのか?」
「魔力が扱えるなら使えるかと」
「ふむ、なら十分価値がありそうだ。だが、魔力が扱えない者でも使えるようにはできないか?」
シームルの魔力が扱えない者でもということにハンスは、眉をひそめて考え始めた。
「魔力を帯びたものがあれば、もしかすると……」
そうハンスが呟くと、隣にいたシャルロッテが声を上げた。
「あの洞窟で拾った木片は?」
「!! それなら魔力が扱えない者でも扱えるかもしれないですね」
シャルロッテの提案にハンスは可能性を感じた。
それを見ていたシームルは、売り出すための算段を見積もり始めていた。
「なら、試作品と試供品を用意して、実践しつつ販売をすれば初めは売れるだろう...そのあとは、高価なものと安価なものを分けて庶民にも売れるように調整すれば、当分は金に困らないだろう」
一通り呟いたシームルは、ハンスに今後の計画を伝える。
「売る準備は私に任せてください。ですが、今回の場合、材料の調達と製造はハンスさん、あなたにお任せするしかありません。もちろん必要なものがあれば私が用意しますが……」
その内容にハンスは頷き、同意する。
その後もローマンが参戦し、ひと悶着あったが、翌日には、皆それぞれ目標に向けて動き始めていた。
翌日、日が昇るとともにハンス、シャルロッテ、スクルドの3人は、街を出て南のギルドの拠点へと来ていた。
「街を出るだけで痛い出費ね」
2泊3日の外出券であった。それを超えると入場にお金が別途かかることになる。
そういいながらシャルロッテは財布を眺める。
「お、お前ら来たのか」
出迎えてくれたのは、ギルドの長である、ヘンドリックであった。
「お久しぶりです、マスター」
建物に通されたハンス達は、テーブル席に座り、向かいにはヘンドリックと、いつの間にかやってきたレイが座っていた。
「それで何か用か?」
ハンスは事情を説明し、例の洞窟へと行きたいことを伝える。
それを聞いたヘンドリックは、渋い顔をしていた。
「あぁ、あそこへ行きたいのか。 今は途中までしか行けないぞ」
「それってもしかして……」
言葉の意味を察したハンスにヘンドリックは頷き、話を続ける。
「見に行ったやつからの報告だが、少し入ったあたりで崩落が起きているらしい。だからどれだけ奥が崩れているかもわからん状態だ」
「そんな……」
ハンスとシャルロッテが困り果てていると、ヘンドリックが、オークのクイーンに聞いてみてはどうかと提案してきた。
「彼女らなら何か知っているんじゃないか?」
だが、肝心の彼女は、この拠点にはいないらしい。
「今どこに?」
「ちょっと待ってくれよ」
そういって席を離れると、予定表が張られている掲示板の前にヘンドリックは向かい予定を確認する。
しばらくすると、行先を見つけたのか、張られていた紙をはがして持って帰ってきた。
「ここに、向かったらしい」
そういってテーブルの上に置かれた紙には、地図が書かれており、西にある山の中腹辺りに印がつけられていた。
「この場所だと、ここから向かうとなると一日中歩くことになるだろうな」
「遠いような近いような...」
「私達、二泊三日で帰らないといけないの」
ヘンドリックは悩ましげに頭を掻く。
「それだとあまり余裕はなさそうだな」
少し考えた後にハンスは確認する。
「それは山が険しいからですか?」
「ん、まぁそうだが...」
ヘンドリックが答えると、ハンスは安心した表情をした。
「それだったらなんとかなるかもしれません。ね!シャル!」
急に求められた同意に戸惑いながら言いたいことを察する。
「え、ええ。ハンス、あの浮くやつを使うのね?」
だが、思ってたことと違ったらしい。
「確かにそれでも良さそうですね。なのでーーー」
遮るようにヘンドリックが話す。
「あー悪い、言い忘れてた。熟練の奴らでだ。もちろん、魔法が使える奴もいたぞ」
それを聞いたハンスは少し肩を落としていた。
「そうですか…ならこうしているよりも歩き始めた方がいいんじゃ…」
「そう焦るな。もう少ししたら定期便が来るはずだ。そいつに乗せてもらえばいい」
ヘンドリックは何やら策があるらしい。
しばらく待っていると、聞いたことのある鳴き声が聞こえてきた。
「この鳴き声は…!」
外に出てみるとそこには見知った大きな鷹がそこにいた。
「ヘルムート!」
駆け寄る2人に合わせて頭を下ろす。
「こいつには定期的に荷物を運んでもらっていてな」
二人の後をついてきていたヘンドリックは、ヘルムートの持ってきた荷物を回収する。
中身は書類だろうか、少し開けた所から覗いたヘンドリックは、しかめっ面をして大きなため息をついていた。
「ヘルムートよ、二人を乗せてあの山へ向かってくれないか」
山を指しながらヘンドリックが訊ねると、小さく頷いた。
ヘルムートは身を屈め乗せる体制を取った。
「じゃあ私はここで留守番かな。乗れそうにないし」
ゆっくり歩いてきたスクルドは少し残念そうにしていた。
向かうことばかり考えていたハンスは、すっかり定員について忘れていた。
「あ、ごめんなさいスクルドさん。そうなってしまいますね」
「帰りにはちゃんと迎えにきてね」
二人の去り際にそれだけ伝えると小さく手を振って見送った。
「おまえさん、迎えに来るまでここにいるんだろう?」
ヘンドリックが確認すると、スクルドは頷いたが、その視線の先は、遠くで見送っていたレイを見ていた。
半刻もかからず目的地へと着いていた。
「確かこの辺りのはず…」
「ん、何か近づいて来る。気をつけて」
二人が周りを見渡していると、何者かが近づいて来る気配があった。
二人の前に姿を現したのは、ロルフであった。
「ロルフさん?!」
「やっぱりお前達か。おーい、もういいぞー」
ロルフはこちらの正体が分かるや否や、振り返り声をかけていた。
声をかけた方向の茂みから大きな人影が現れる。
「そんなに警戒する必要があったのか…?」
ぶつぶつと言いながら近づいてきたのは、探しにきたあのクイーンであった。
「まぁまぁ、今は見つからないに越したことはないさ」
クイーンを軽くあしらうとハンス達になぜここにきたのか気にしている。
「なんでこんな山奥に来たんだ?何か用事がないとこんなとこには来ないだろ?」
ハンスはここにクイーンに聞きたい事があって来たことを話す。
「なるほどな、あの洞窟で木片を探したかったが崩れていて入らないから、クイーンに他に何かないか尋ねに来たと」
「私達と探しているものは同じのだな」
クイーンは、探し物は同じだと言う。
「その探しものは私にとっては食糧と同義だからな。だからこうして人里離れた場所に探しに来ている」
「そうなると、取りすぎると食べるものがなくなってしまうということですね」
そう言うハンスに対してクイーンは、横に顔を振る。
「効率が悪いがお前達が食べているものでもなんとかなるぞ。そうなると戦えなくなるがな」
と説明してくれた。
「とにかく見つけないと始まらない、いいな?二人とも」
話し合う二人にロルフが探すことを促す。
すでに話を聞きながら周りを見渡していたシャルロッテが何かを見つけた。
「これって何かしら……木の根……?」
その目線の先には、大きな木の根と思われるものが山肌を這っていた。
「やけにでかいな…」
ロルフは観察を始めた。
「木の根にしては、やたらと大きい。これを根に持つ木があったとしても、そこらに生えている木々の数十倍以上はありそうだ。じゃあこの根はどこにつながっているんだ……? 数十倍もある木なら見えていてもおかしくないはずだが……」
考えている横でクイーンはその根に触れ、懐かしんでいた。
「これは…私達があの洞窟で食べていたものと同じようだ」
「!! これをですか……? でも見た目では大きい以外違いが判りませんが……」
ハンスは大きさ以外で違いが判らなかったが、クイーンは違いの見方を説明してくれた。
「お前は魔力を見ることができるか?」
「え? あの青白い光ですか?」
「ああ、そうだ。だが、この根には青白い光が見えないだろう? 魔力の動きが抑制されているからだ」
「そんなことができるなんて……」
「ほう? やっているから知っているものだと思ったが……不思議なものだな」
ハンスのこぼした言葉にクイーンは不思議そうに顔をしかめていた。
「それで、これだけのもんを見つけたわけだが、どうするんだ?分けるだろ?」
ロルフは交互にハンスとクイーンを見ていった。
「僕は……」
ハンスが言おうとするのと同じくクイーンも答える。
「半分あればいい」
「え、いいんですか?!」
「ああ、他も引き続き探すつもりだからな」
二人は半分に分けることで合意した。
「取り方わかるか、クイーン」
ロルフが採取方法を尋ねる。
「もちろん、お前達にも教えてやる」
そうしてシャルロッテを含めた三人に教えながら採取を始めた。
「これに手をつくと魔力の流れが分かるだろう。その流れに逆らわなければどこでも刃は通るだろう」
「もし逆らってしまうと……?」
「防衛機能が働いて攻撃される」
「そ、それは気をつけないといけないですね」
採取している間に木片の取り扱いについて色々とクイーンが話してくれた。
そうしていると採取している量に差が出て来る。
「やっぱり片手では時間がかかりますね……」
持ち帰る分だけを取る間にシャルロッテとは倍近く差が開いていた。
「片手なんだから仕方ないじゃない」
「早く治らないかなぁ、片手じゃ不便すぎる」
「すぐ治るわよきっと。それに私ができる限り手伝うから!」
シャルロッテはそう言ってまだまだ取るつもりだったらしいが、後ろからヘルムートによって止められる。
「そうよね、持てる量に限りがあるわね」
お互い必要な量がとれる頃には日が傾き始めていた。
採取した木片をまとめて括る。
「よし、これなら落とさず持てそう」
シャルロッテが満足気にしているとヘルムートと一緒に待っていたハンスが労う言葉を送った。
「お疲れ様、シャル。日が暮れるまで余裕があるから休んでから帰ろう」
「ええ。そうしましょ」
「じゃあ、俺達は他を探しに行くからな。ちゃんと日が暮れる前に帰るんだぞ」
ロルフとクイーンは帰る気がなく、木々の影響でほとんど暗闇にも関わらずまだ探しに行くらしい。
「え、今から?」
ハンスとシャルロッテの驚きの声を聞いてか聞かずか手をヒラヒラ振りながら暗闇に消えていった。
それから少ししてギルドの拠点へ何事もなく帰ってきた。
その頃には辺りは薄暗くなっていた。
「おお。帰ってきたか」
物音に気づいたのか建物からヘンドリックを先頭にゾロゾロと出てきた。
「ただいま戻りました。目当てのものは見つけました」
そう報告するハンスはヘルムートから荷物を受け取る。
「暗くてよく見えないけど木片かしら?」
「これが目当てのもの……?」
ついて出てきたイリーネとフーゴが近くに寄って眺めていた。
「そうか、とはいえこの時間じゃよく見えないな」
ヘンドリックは残念そうにイリーネとフーゴに並んで見つめる。
「ハンス!ここであれの出番じゃない?!確か持ってきてるよね」
シャルロッテがここぞとばかりにハンスに詰め寄る。
「そうですね」
懐から取り出し、三人の斜め前に立つ。
「見えるようにしてみますね」
そういうと、手に握った小さな板に青白い筋が現れる。
「ん、それはな……」
言いかけた途端、握られた板から日の光の様な灯が発する。
「なんだそれ?!」
並んでいた三人は皆同じ感想だった。
「これを作るための材料が採ってきた、この木片です」
ハンスは詳しい説明を省いた。
だが、それでは三人、主にヘンドリックは説明を求めた。
「今日やってた事は分かったがその手に持ってるものはなんだ? それがあれば夜に色々と使えそうだが」
「これは……持って帰った本に書いてあった中の一つを使ってみたものです。魔術を書いた木片に魔力を送れば光ります。それに聞いた話では、時間がたてば周りの魔力を吸収して再度使えるようにできるようなことも言っていました」
「ああ……悪い、聞いた俺が悪かった」
それを聞いてヘンドリック達はそれ以上説明を求めなかった。
「今日はどうするの?ここに泊まっていく?」
イリーネはこの後どうするのか気にしていた。
「明日まで猶予はあるので止めてもらうことはできますか?」
「もちろん! ね?」
ハンスに応えるとヘンドリックに有無を言わさない同意を求めた。
「俺もそれでいいと思っていたぞ」
「よし、じゃあ早速、部屋に案内するわね」
そうして今日はここでまた泊まることになった。
案内された部屋には既にスクルドとレイがくつろいでいた。
「やっと帰ってきた!」
部屋に入るや否やレイが駆け寄ってきた。
「た、ただいま?」
「軽く夕食でも用意するわね」
そう言ってイリーネはその場を去っていった。
相変わらず家具はなく寝具だけが置かれていた。
「今日はね。スクルドからいろんな事を聞いたんだ!」
ハンスとシャルロッテの手を引いていき、四人が向かい合う様に座らせる。
夜食ができるまで他愛無い話から気になる話を話し続けた。
その日は寝るまでレイが話題の中心になっていた。
翌朝。ハンス達は帰り支度をしているとヘンドリックが寄ってきた。
「ちょっといいか、昨日の見せてくれたやつなんだが……」
夜に見せた光についてだった。
手を止めてヘンドリックへ向く。
「何でしょう?」
「あれを売るために集めてたんだろう?だったら俺らにも売ってくれないか?いくつか買いたい」
「いいですよ。売るんじゃなくてあげても……」
「いやいや、流石にそれはできない。それにお前達は金がいるんだろ?だたただ渡すだけでは奴らに目をつけられかねない」
「そ…そうですね。出来たら持ってきます」
色々と世話になっているからとあげようとと思っていたハンスだったがそう言われては売らざるおえない。
ハンス達は、予定通り街に帰ってきていた。
「なんか目立ってますね」
「木片を運んでいたら目立つわ。それに運び方も運び方だし……」
街に入ったハンス達は目立ってる。
まとめた木片を魔法で浮かせながら歩いていたらイヤでも目立つ。
そんな奇妙なモノを見る様な目線を浴びながら家にたどり着く。
「お。戻ったか」
「おかえりっす、三人とも」
家にいたのはシームルとブルーノだった。
ローマンはおらずどこかに出かけているらしい。
「これが言っていたモノです」
作業場へ運んで下すと一つとって二人に見せる。
じっくりと観察するシームルと早く触ってみたそうに横で見ているブルーノ。
「なるほど……これだと見た目だけでは区別がつかないな」
「ちょっと!俺にも見せて欲しいっす!」
シームルが見終わるとせっつくブルーノに渡す。
「売り方に工夫がいるな……」
ハンスと向かい合いながらボソリと呟く。
「商品として見た目でわかる様にするということですか?」
「ん、そういうことだが、どうするのがいいか迷っていてな」
二人して考えているとハンスは一つ思い出す。
「なるほど…ならこの木片をはめると光るものを作ってみたらどうでしょう」
「いい案です。それでいきましょう」
シームルはハンスの案に頷く。
その日は詳細を決めると次の日から試作品の作成に取り掛かった。
一方、街に出かけていたローマン。
「確かこの辺りに……あった」
目指していた先は以前にブルーノから聞いていた闘技場だった。
中に入ると、明らかに闘技場の出場者だとわかるものや、お金を握りしめながら集まっているもの達もいる。
そんな人らに目もくれず受付へと足を運ぶ。
「いらっしゃい。始めてかい」
近づくと受付にいた老人が挨拶してきた。
「ええ、初めてです」
「闘技者か?それとも賭けか?」
「闘技者です」
「ほう…ちょっと待ちな」
周りにあった紙と書く物をローマンに渡すと一言添える。
「これに書けば誰でも出れる」
「ありがとうございます」
書いていると老人が世間話をする。
「だがまぁ、最近は一強でな。賭けにならんのだ。お前さんには期待しているぞ?」
「期待に応えられる様に頑張ります」
書き終えたローマンは返す時に笑顔を浮かべながら一言伝える。
「そうかいそうかい。じゃあ順番になったら呼ぶからそこら辺にいてくれ。くれぐれも争いは起こすなよ」
「おい、見ない顔だな」
受け受けを終え、椅子に座っていると急に声をかけられる。
「何でしょうか?」
「何でしょうか? じゃねぇよ! 俺を見て何かおもわねぇのか?」
そう言う彼の手にはまだ手をつけていない料理を持っていた。
「ああ、すみません気づきませんでした。ほかの……」
謝罪し他の席を探してみるとほとんど埋まっていた。
「では向かい合うことになりますが座ってもらっても構いませんよ」
二人席に座っていたローマンが向かいの席を使ってもいいと伝える。
「チッ、他空いてねぇし仕方ねぇ」
大きな舌打ちをしながら渋々ドカッと席に着く。
「貴方はよくここに?」
食べている彼に暇つぶしで話しかける。
口に入れている分を飲み込むと返してくれた。
「そうだ」
それだけ言うとまた口に料理を運ぶ。
「聞いた話ですが、最近は一強だと聞きました。何か……」
続きを話そうとすると机を強く叩いて睨みつける。
「おい、それ以上その話はするな。他のことなら飯食ったら聞いてやるから待ってろ」
そういうと食べ始めて話をしても聞いてくれなかった。
「ふぅ、食った食った。それで何を聞きたいんだ?」
しばらくして、食べ終えた彼は満足気な顔をして話を聞いてくれる様だった。
「ここに来るのは初めてでして、ここのルールとかあれば聞いておけたらなと」
「ほう?なら俺に聞いたのは正解だな。なんせ俺より古いやつはいねぇからな」
彼は誰よりも知っているという。
それもあってか彼がきてから周囲の視線が集まるのがよくわかる。ただ、関わろうとするわけでもなく、ただただ遠巻きに観察されている。
「ああ、それでさっき一強の話をしたら嫌がったのですね」
「またその話か。チッ、仕方ねぇ話してやるよ」
凄く不機嫌なまま話してくれた。
「ここ5年ぐらい奴が現れてから一度も勝った奴がいない。俺は無駄な消耗はしたくないから奴と当たったら棄権していた。すると俺のことを腰抜けだと言う奴が増えてきやがった」
「なるほど、賢明な判断ですね。それほどに強いと?」
「これまで奴に傷を負わせたやつはいない」
彼はそう言って周りの視線を送る者たちへ鋭い視線を送り返す。
周りの者たちはその視線に気づくとそっぽを向いて視線の届かない場所へと逃げていった。
「どんな相手か見て……」
ローマンが何か話そうとすると大声で呼び出すこえがきこえてきた。
「ローマンという奴はいるか!?いたら控室へ向かえ!」
「ん、呼ばれてしまいましたか」
「お前、ローマンというのか。まだ名乗ってなかったな、俺はアレックスだ」
彼はアレックスと名乗った。
「アレックスさん、いってきますね」
「見ていてやるよ。潰されるなよ」
去り際にそんな会話をしてローマンは控室へ向かう。
会場は盛り上がってはいるが少し冷え切った様子がある。
「今日の挑戦者は誰だ?」
「初めてみる名だな、ローマン?」
「へぇ確かに知らないな。なら今日もあいつが勝つんだろうな」
「そりゃそうだろ。物好きじゃなければ他を選ばんだろ」
そう言った声もあれば、
「お願いします!お願いします!もうこれで当てるしかないんだ!当たらないと生きていけない!」
ぶつぶつと祈る様に人生を賭けた者もいた。
そんな会場の声に耳を傾けていると司会の声が飛び込んでくる。
「お待たせしました!対戦の用意が整いました!」
「それでは、入場してもらいましょう!」
「赤ゲート! 無敗記録更新中のこの方!アレクサンダー!」
姿が見えるとそこに歓声と罵声が降り注ぐ。
そんな声を気にすることなく堂々とゲートから出てくる。
「青ゲート! 今回初参戦でこの相手と闘う事となるとは運がなかった! その方は!ローマン!」
先ほどとは打って変わって同情に近い歓声がローマンに向けられる。
先に待つアレクサンダーのいる中央へ向かう。
向かい合うと体格の差がよくわかる。
ローマンが子供に見えるほどにアレクサンダーは大きかった。
「ふん、早く始めろ、審判」
アレクサンダーは顰めっ面のまま早く始める様に催促する。
そんなことの無視してローマンは握手しようと手を差し出す。
「よろしくお願いします」
「すぐいなくなる奴とよろしくするつもりはない」
その手を無視して開始位置へと向かう。
「両者、準備はいいか?」
審判は開始の確認をする。
「早くしろ」
「ええ、いつでも大丈夫です」
「両者!構えて、試合開始!」
審判が開始の合図をする。
最初に動いたのはアレクサンダーだった。
「ふん!」
その大きな体格から拳を振り下ろす。
ローマンは避けずに受け止める。
辺りには砂埃が舞い上がり一瞬ローマンの姿が見えなくなった。
「あーあ、あれを喰らって立ってた奴なんかいねぇ」
観客はすっかり諦めかけていた。
だが、その観客の期待とは裏腹に砂埃から姿を見える。
「なるほど、これは確かに人にしては強い様ですね」
「あ?」
振り下ろしたはずのアレクサンダーも違和感を覚える。
「少し本気で殴っても大丈夫でしょう」
砂埃に紛れて青白く光を纏うローマンが拳を戻そうとするアレクサンダーへ拳を突き立てる。
「ふご?!」
今まででに感じたことのない痛みに襲われる。
次の瞬間にはゲート横の壁にめり込んでいた。
今まで負け無しで無傷だった相手が壁まで吹き飛ばされている。そんな光景に観客が呼吸をするのを 忘れるほど状況が読み込めずにいた。
間をおいて理解した者たちが歓声をあげる。
「な、な、なんと!驚きです!まさかの新人がやってくれました!これまでにここまでダメージを与えたことがあったでしょうか!」
司会も興奮気味に声を上げる。
壁から出てきた彼はほとんどダメージを受けている様子はなかった。
「ちっ、観客どもはうるせぇな」
「まだまだ元気そうですね」
「当たり前だ、こんなことで倒されてたまるか」
そんなことを言い合いながら開始時と同じ距離感まで歩いて近寄る。
「もう油断はしねぇ」
「そうですか」
二人は打って変わって構えたまま動かなくなってしまった。
そんな様子を見ていた観客はヤジを投げる。
「おい!もう終わりか?!」
「さっきのやつでやっちまえ!」
「言われてますよ」
「知るか」
「「……」」
「このままでは埒が空きませんね」
「ならどうする」
アレクサンダーは頑なに先手を取ろうとはしなかった。
それを察したローマンが動く。
構えを解いてアレクサンダーの懐まで歩いていく。
「あ?」
アレクサンダーは、その奇妙な動きに寄られることを警戒して後ずさる。
「なぜ下がるのですか?無敗記録中なのでしょう?」
ローマンはそういいながら変わらず歩く。
「チッ厄介な奴だ」
壁の近くまで追い込まれてきたアレクサンダーは反撃に出るしかなかった。
隙だらけのローマンに小ぶりな攻撃でけん制する。
それを軽々とよけ、アレクサンダーの真ん前まで寄り、見上げながら煽る。
「そんなものですか?」
頬に汗を垂らしているがしかめっ面でアレクサンダーは答える。
「お前……人か?」
この状態に持っていかれたアレクサンダーは何をしても先手を取られることを察していた。
だからこそ、むやみに行動するより口を動かしていた。
「確か、俺を作った連中が言っていたな。肉体に魔力を通して強化するやつがいるとか」
その声はローマンにしか聞こえない声量だった。
「それぐらいなら私も見たことありますよ」
「だが、お前のは違うだろう? なんせそいつらは体にそんな光る線は出なかったからな」
「さぁ?どうでしょう?」
ローマンははぐらかして答える。
話をしてスキを突こうと狙っていたアレクサンダーだが、勝てる算段が持てなかった。
「俺が負けてもいいが、このことは報告させてもらうからな」
「誰にです?」
「……」
アレクサンダーはさらに小さな声でローマンに囁く。
その名前にローマンは目を大きく開いて驚く。
「それは困りますね。報告できないようにしないといけませんね」
ローマンが言い切る前にアレクサンダーは審判に言い始めていた。
「俺の……?!」
アレクサンダーは急に宙へと浮き顎に激痛を覚える。
その真下では、ローマンが拳を上げた状態で立っていた。
その目には殺意が籠っていた。
慌ててさらにアレクサンダーは負けを認めようと発しようとするが、その都度妨害される。
観客はその様子を見て慌てふためいていた。
「おいおい、これってどうなっているんだ?」
「俺が知るかよ。これまで八百長だったのか?」
「これならあの新人が勝てるんじゃ……?」
「そこまでだ!」
異常を察した審判が止めに入る。
「何でしょう?」
審判に止められたローマンは不思議そうに審判を見ていた。
「ここが闘技場だということを忘れるな。これ以上は彼が死んでしまうぞ」
「どういうことでしょう?闘技場とは死闘を行う場所でしょう?」
静止された理由を聞いてもまだ反論する。
「昔はそうだったが今は違う!」
「そうですか、今はそうなのですね……」
その視線の先に転がっているアレクサンダーは喉や顎など発声にかかわる部分を重点的に狙われていた。
「おい、大丈夫か!続けるか?」
審判がアレクサンダーに近寄り問いかけると、彼は何回も顔を横に振っていた。
審判がローマンの手を取って声を張っていう。
「勝者、ローマン!」
事の異常さに観客の反応が遅れ、時間差で歓声が上がる。
「医療班!早く連れて行ってくれ!」
審判はてきぱきと指示し、アレクサンダーを医務室へと運ばせる。
「ローマンといったな、ちょっと控室へ来てくれ」
ローマンは審判に言われるがまま、控室へついて行った。
「彼にやったことは違反に近いが、彼も同じようなことをしていたから咎めはしない。
だが、それ以上に困ったことがある。聞いてくれるな?」
審判はそういって断りずらい状況を作っていた。
「何でしょうか?」
「ここ数年間、ずっと彼が勝ち続けていたことは知っているな?」
「はい」
「今回はくじ引きでの対戦だったが、この後に彼への挑戦状として戦いたいもの達との対戦を予定していたんだ。彼に勝てたものがこれまで挑戦に使われた分の掛け金をすべて渡すような形式でな」
「それはかなりの額になりそうですね」
負けることを想定していない予定だったこともあり、その辻褄合わせをローマンにさせようとしていた。
「ああ、かなりの額だ。この闘技場の運営が傾くほどに。だからこそローマン、あんたに頼みがある」
「その挑戦の相手をしろと?」
「それでもいいんだがな。望みとしては、この敗北を機に掛け金の清算とこんな形式の賭けはなくしたい。この場合はあんたに分割して支払っていくことを同意してもらわなければいけないが」
そんなことを一審判が言っていることに疑念を覚える。
「あなたは、この闘技場の何なのでしょう? ただの審判ではないのでしょうか?」
「ああ、俺か? 俺は、2年前にこの闘技場の管理を引き継いだものだ。もともと審判として雇われていただけだったんだがな」
それを聞いて先の話の疑念が晴れた。
「なるほどあなたが話を持ち掛けた理由は分かりました。あなたとしては分割支払いでよければそちらがいいのですよね?」
審判はその問いかけに頷く。
「分かりました。ではその掛け金の受け取りはします。分割でいいですが、そちらが問題ない範囲での支払いでお願いします」
「それは助かる。ありがとう」
審判はローマンに深々と頭を下げた。
その後詳しい話を詰めていき、帰れるようになったのは、日が暮れ始めたころだった。
闘技場から出ようとすると、出口をふさぐように数人が立ちはだかった。
「あんたがあのでかぶつを倒したっていう奴だろ?」
「違います、どいてください」
早く帰りたかったローマンは嘘をついて通り抜けようとするが阻まれる。
「そんな嘘が通じるか! 俺たちと勝負しろ! しないなら付きまとうぞ」
「それは面倒ですね……それで勝負とは?」
仕方なしに答えるローマン。
「あのでかぶつと戦ったように俺たちとも戦ってくれたらそれでいい」
「ただの戦闘狂ですか?」
「ち、違う!ただ、戦えず不完全燃焼なだけだ!」
「ならあなた達同士でやればいいのでは?」
「そ、それは……また違うというか……」
なんともはっきりしない答えを返す彼らにローマンは呆れる。
「はぁ、よくそんなので戦おうとしましたね。全員相手してあげるので準備してください」
ここで断っても明日以降も絡まれそうだったため、ローマンは受けることにした。
結局集まった者は20人程度だった。
「それで全員ですか?」
「ほかにもいるが今はこれだけだ!」
「そうですか、じゃあ遠慮なく一斉にかかってきてください」
そういってローマンが構える。
「後悔するなよ!」
戦いが終わるまでそんなに掛からなかった。
「これで終わりですか?」
余裕そうに服についた埃を払う。
「そ、そんな……これじゃあのでかぶつより化け物……」
「それでは後片付けはお任せしますね」
そういって20人ほどの人間がのびた闘技場を去っていった。




