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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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25/32

#25 商人として

 翌朝、朝早くからローマンは来客の準備のために、買い出しに向かう。


 そのローマンが出ていく物音でハンスが目を覚ます。

「ふあぁ~こんな朝早くからだれが……? ローマンさんかな」

 開き切らない目をこすりながら一階へ顔を洗いに行く。


「あら、ハンス! おはよう!」

「おはようシャル」

 洗面台にはすでにシャルロッテが金色の髪を梳き終わり、結んでいる所であった。

「ちゃんと寝れたかしら?」

「そんなに心配しなくても十分寝れましたよ」

 早くに起きてきたことに心配するシャルロッテに心配ないと笑顔で返すハンス。


「そうならいいんだけど。次どうぞ」

 そう言って結び終わったシャルロッテは洗面台の前を譲る。

「ありがとう」

 空いた洗面台の前に行き、礼を言って顔を洗い始める。

 でもどこか片手なのもあってぎこちなかった。


 そんな様子を見ていたシャルロッテが見てもたってもいられなくなった。

「もう! 手伝うから。ほら」

「い、いや大丈夫ですって」

「いいから! これぐらい手伝わせなさいよ」

「ええ……」

 断るハンスをお構いなしにシャルロッテが手伝う。


 そんなやりとりをしている2人に部屋の入口から話しかけられた。

「朝早くから……元気だね……」

「あ、スクルドさん、おはようございます」

「おはよう、スクルドさん」

 話しかけてきたのは髪が寝ぐせですごいことになっているスクルドだった。


「さんとかもいらないし、丁寧にしなくて……いいよ?」

 どこか間の抜けた声でスクルドが言う。


 それにハンスはいつも通り、慣れるまで時間がかかると言い、シャルロッテは風呂に入っている時にも聞いていたこともあり、軽く流しながらぼさぼさの髪の方が気になった。

「そう? そんなことより、貴女、髪はちゃんと梳くんでしょうね!」

「ん~、自然に直らない?」

 少し考えてはいたが梳く気はなさそうだった。

「はあ……分かったわ、私がやるからちょっと待ってて」

 その答えにシャルロッテは大きなため息を吐き、スクルドの髪を梳くのを手伝うことを伝える。


 その前にハンスがゆっくりと顔を洗っているのを手伝う。

「ありがとう、シャル。僕はもういいから」

 そう言ってハンスは洗面台の前をスクルドに明け渡す。


「ほら!早く顔を洗ってしまって!」

「もう、そんなに急かさなくても……」

 ぶつぶつと文句を言いながらスクルドが顔を洗い始める。



 先に部屋を出たハンスは休憩室へと向かい、机の上に置きっぱなしにしていた本の近くで椅子に座る。

(何か分かるといいんですが)

 最初の巻であろう本を自分の前で広げて軽く読み始める。


 その本のはじめに前書きとして数頁に渡って本達の説明と著者の知見が書かれていた。

 その前書きには、


 これを読んでいる者は少なからず私達と縁のあるものだろう。

 全部で11巻あるこの本を読み終えた頃には、見える世界が変わるだろう。そして君達がやらなければいけないこともね。

 それぞれの本にどんな意味があるのか、それを順番に説明する。

 1巻、これは魔術(スペル)の基礎だ。問題になりそうな部分は網羅しているつもりだ。

 2巻、一番初めにしたかったが、それよりも先に触れてもらった方がいいかと思ってこの巻に魔術(スペル)の起源だ。不要なら読まなくていい。過去の話だからね。

 3巻、動力と回路だ。これを知れば、今までの暮らしが大きく変わることだろう。でも、燃料は魔力だ。そこは気を付けて。

 4巻、兵器についてまとめている。3巻の技術を使った兵器になる。殺傷力が高いから取り扱いには注意。

 5巻、魔力の物質化、これ以降の巻はここに書ききれないから題名だけにする。

 6巻、転移

 7巻、肉体の維持

 8巻、精神について

 9巻、時間の跳躍

 10巻、別世界の創造

 11巻、結末

 時間は限られている。それだけは忘れないこと



 ここまでが本の説明だった。

 本は11冊あるはずだが、手元には10冊しかない。

「あれ? 一冊足りない……」

 表紙に描かれている巻数では揃っているように見えていたことから、最後の巻である「結末」の本がない。

(確かにあの時、全部持ってきたと思ったけど……またあそこに探しに行かないといけないかな)

 11巻のことが気になるが今すぐにどうすることもできないなぁと椅子の背もたれに体重をかける。


 そんなことをしていると顔を洗っていた2人が休憩室に入ってきた。

「あら、ここに居たの」

 スクルドの髪は、後ろで一つにまとめられていた。


「はい、ちょっと読んでました」

「何か分かった?」

 興味津々なシャルロッテがハンスの横に座って尋ねる。

 スクルドは向かいに座って聞いていた。

「本について簡単な説明を読んだだけですよ? でも1冊足りていないことは判明しました」

「え、それは大変じゃない! でもそんな本すぐ見つかるようなものでもないし……」

「またあそこには探しに行かないといけないです。でもそれよりも『時間は限られている。それだけは忘れないこと』と書かれていましたし、最後の巻でもあるのでまずは、今ある本を読んでいこうかなと」

 慌てていたシャルロッテにハンスがどうしていくかを伝える。


「ま、まぁそれがいいわね。でもなんで時間が限られているなんて書いているのかしら」

 シャルロッテが呟いたことにスクルドが答える。

「ああ、それは、魔力が余り過ぎて暴走するからじゃないかな」

 突拍子もないその言葉に2人は理解が追い付かなかった。

「え? 魔力が余り過ぎるって誰が? でも魔力を取り込みすぎて暴れた者がいるって聞いたことがある気が……」

 ローマンから聞いた話を思い出す。


「でも、そんな一人が暴れたからって時間が限られるものなの?」

 シャルロッテが規模感に違和感を覚える。

「その暴走したものが、とても大きくて影響力があるものなら話は変わってくるよ」

「そんなものって―――」

 シャルロッテは見当もついていなかったがハンスは心当たりを口にする。

「それってもしかしてあの大きな樹と関係が?」

「ああ! あの大きな樹!」

 南の国に来る際に空を飛んで見えた大きな樹のことを言っていた。


「そう、あれは『世界樹(ユグドラシル)』。魔法が使えるのもその樹のおかげ」

「だから時間が限られているということなんですね」

 納得しているハンスだが、その隣で、話についていけてないシャルロッテがいた。

「え? 魔法が使えるのってあの樹が何かしてるの? それに魔力が余るって……」

 シャルロッテのためにスクルドが補足する。

「その樹は魔力を循環させるだけではなく、自身でも作っているから生産量より多く使わないと増え続けてしまうの」

「そうなんでしょうけど……」

 説明されたことで意味は分かったものの、何やら腑に落ちていなかった。



 そんな話をしていると、玄関先で物音がした。

 玄関の扉が開き、袋を抱えたローマンが入ってくるのが見えた。


「ではこちらにどうぞ」

「ああ、すまないねぇ」

 一人かと思いきや、何やら誰かを連れてきていたらしい。もてなす様なそぶりを見せていた。


「本を片づけてきますね」

 机を占領していた本を浮かせ自室へとハンスが持って帰った。


 家に入ってきたのはローマンを除いて3人だった。

 1人目の男性は杖をついており、2人目の女性は、黒い服に白い髪、肌を極力出さないような服装をしている。女性の手には、両目で色が違う白い猫が大人しく抱えられていた。

 2人共、顔を隠す様な帽子をかぶっていて、どこか怪しげな雰囲気が醸し出されている。

 最後の一人は、昨日見かけた本を運んでいたうちの1人だった。

 彼は荷物を玄関先に置くと、その中から一つ持って入ってきていた。


 ハンスが帰ってくる頃には、すでに3人は席に座り、向かいには、シャルロッテとスクルドが座っていた。

 ローマンは買ってきた袋から紅茶の茶葉を取り出したり、お菓子を皿に移したりと準備をしている。


「ここに座って」

 シャルロッテに促されるまま、シャルロッテとスクルドの間に空いていた席へと座ることとなる。


「ええっと……」

 どういう状況か分からず、戸惑っていると、向かいに座っていた、杖を持っていた男性が話しかけてきた。

「君がハンス君かね」

「はい。僕がハンスです」

「そうか、君達に任せることになるのは心苦しいが、私達だけではどうしようもできなくてね。手伝ってはくれないか? すでに昨日ある程度話は聞いていると思うが改めてお願いをしたい」

 隙間から見える視線からは、真剣さが伝わってくるが、昨日のやり取りで強制的な状況であることには変わりない。

「僕達には断ることはできませんし、ギルドの方々に恩を返したいと思ってます」

 ハンスは思ったことをそのまま伝えると、男性の顔ははっきりと見えなかったが、微笑んだように見えた。


 それから部屋を見渡すように顔を動かし小さなため息をつくと、男性と女性は席を立ち、帰る準備を始めた。

「あ、もうお帰りに? 紅茶の準備がもうすぐ終わりますが、飲んでいきませんか?」

 ローマンが早々に帰ろうとしているを呼び止める。

 席を立った男性は、軽く手をあげていらないと合図をして一言答える。

「ああ、その紅茶の美味しさは知っているからね」


 ハンス達とローマンに聞こえるように、男性は残された一人を簡単に紹介し始めた。

「彼は、シームル。私の代わりに商人としての知識、商会との仲介、材料の調達をやってくれるだろう」

 そう紹介されたシームルは、立ち上がり、深くお辞儀をして言葉を発する。

「改めまして、シームル・セーグといいます。これからこちらでお世話になります!」

「あ……よろしくお願いします」

 紹介していた段階で何となくそんな雰囲気を感じていたハンス達だった。


 2人は、そのまま立ち去っていくと、シームルは足元に置いていた荷物を机の上に置いて、もう一度席に座る。

「急なことでほんと申し訳ない……あの2人はいつもはもっと愛想がいいんだけど、今日はなんだか緊張しているみたい」

「そうなんですか?」

「ああ、いつもならあんな帽子なんて被らないし、それにもっとよく話す人たちだよ」

 普段と違う雰囲気だということを聞かされたハンス達だったが、普段を知らないため第一印象は彼の語る雰囲気にはならなかった。


 準備を終えたローマンが紅茶を全員に配り、お菓子を机に置いて席に着いた。

 それを見計らってシームルが説明に入る。

「これで全員ですね。私のことよりも先に商会についてとこの家についてを説明しますね」

 そう言って懐から二枚の紙を取り出した。

 そのうちの一枚をみんなが見える場所に置く。

「これは、商会を作る際に必要な書類です。商会を作るためにはいくつか条件がありまして。一つ目が、身元がはっきりしていること。二つ目が、猫を所有していること。三つ目が、公式な闘技大会には必ず参加することがあげられます」


 スクルドを除いた3人は、険しい表情でその紙を見ていた。

「一つ目は、今の私達じゃ難しい? それに二つ目の猫ってどこにいるのかしら……」

「身元はすでに用意してあります。書類のここに書いてありますよ」

 そう言って紙の商会の従業員の欄を指す。

 そこには、商会主としてローマン、従業員としてハンスやシャルロッテ、スクルドが記載されていた。

 それに加えて、シームルとブルーノの2名の名前もあった。


「ヘルマン……家?」

 ハンス、シャルロッテ、ローマン、スクルドはヘルマン家という家族として書かれていた。

「はい。小規模な商会は家族経営の方が怪しまれにくいです。それにそのヘルマン家自体、正式なものでもあるので公に言っても一切問題ありません」

「え、そんなものどうやって用意を……」

 ローマンが一家分の身元を用意できたことに驚いていた。

「色々とツテがあるということです。少しは信用していただけましたか?」

「それだけ本気だということが分かりました」

(余計怪しさが増したような気が……)

 シームルの答えに対してローマンは相応な返事をする。

 ハンスとシャルロッテ、ローマンもかもしれないが内心、信用していいものかと疑ってしまう。


 話を変えて猫について尋ねる。

「その猫は、私達の手元にいないですがどこで手に入るものですか?」

「気にする必要はありません。すでにここに居ますから」

 机の上に置いていた荷物を開ける。


 すると中から黒い何かが飛び出してきた。

「この子があなた達の猫です。世話の仕方は教えますし、道具も持ってきています」

「ほんとに準備がいいですね」


 先ほどの白い猫とは目の色が反対の黒い猫がハンス達の方へ向いて鳴く。

「かわいい! こんな近くで見れるなんて!」

 シャルロッテがその可愛さに興奮している。

「触っても大丈夫かしら?!」

「ええ、この子は噛んだりしませんよ。余程のことがない限り」

「じゃあ、こんにちわ! 猫さん」

 そろりと手を伸ばすシャルロッテの手を迎えに行くように猫は頭をすり当てる。


 そのやわらかい黒い毛に触れたシャルロッテはゆっくりと撫で始める。

「すごい! この子の毛、すっごく柔らかい! ハンスも触ってみて!」

 ハンスも嫌がられない様にゆっくりと手を伸ばすと、同じように頭をすり当ててきた。

「ほんとに柔らかいですね! こんな動物が残っているなんて知らなかった……」

「知らなかったの? たまに本とか売りに来ている人が連れてたりしたけど」

「はい、興味がなかったので……」

 知らなかったことに驚くシャルロッテに苦笑いをしながら答えるハンス。


「なんで猫が必要なのかしら? 別にいなくても成り立ちそうだけど……」

 猫を撫でながらなぜ必要なのか気になっていた。

「よく言われているのは、猫は裕福な証として必要だとされていますね。猫を世話できるぐらい余裕がないと商会は続けられない――みたいな」

「そういうことね」


「名前は後でつけるとして……次に話さないといけないのは、この建物についてですね」

 そう言って残っていたもう一枚の紙を見える所に置く。


 それは、建物と土地の売買された際の明細が記載されている契約書だった。

 通常の金額が赤いインクで線が引かれ、隣に赤い数字が書き足されていた。

「これが、ここの土地と建物の金額です」


 その紙の初めに書かれていた金額は、1000万金貨は優に超える金額が書かれていた。

 そこから赤い数字で書かれている金額は、300万と書かれている。

「300万金貨……ずいぶん引かれていますね」

「ここは、中古の物件ですし、中々買い手がつかないこともあって安くなっていたものをさらに私達のセーグ商会が一部金額を支払ったのでこの金額となっています」

 シームルが言うには、元々これでも安くなっていたらしい。それに7割以上も肩代わりしてもらっている。


「月々の支払ですが、5年の契約となっていて、月々5万金貨を最低でも支払ってもらうことになります。それにこの支払が残っているうちは、売上から残り分が引かれて計算されるので注意です」

「この支払がある限り不利になると……」


 猫の話題から一転して明るい雰囲気から、暗い雰囲気へと変わっていた。

 その雰囲気を察してかシームルは、補足する。

「とはいえ、上位へ入るためには売上は必ず必須ではありませんし、何とかなりますよ」

「売上があると何が変わるんですか?」

「簡単に言うと闘技者の負担が減るといった所でしょうか。戦う回数が売り上げが高いほど少なくなります」

「売上があるに越したことはないということですね」

 ハンスの質問に答えてシームルは頷く。


「私達の状況は分かりました。それで貴方はここで暮らすつもりで?」

 そしてやっとシームルの話へと回ってきた。

「そのつもりですが……ダメでしたら近くを借りてそこから通うようにします」

「どうします?」

 ローマンはハンス達に意見を求めた。

 ハンスとシャルロッテは話し合った結果、開いている部屋にシームルが住むことを承諾した。


「ありがとうございます。手伝いとして頑張らさせていただきます」

 スクルドに頼んでシームルを開いている部屋へと案内する。

「ここ空いてる所だから」

「じゃあ荷物を持ってきますね」

 玄関に置いていた残りの荷物を仕分けながら部屋に持っていくものとほかの部屋で使うものを移動させていく。


 その間ハンス達は、猫と戯れながら話し合っていた。

「契約書には、月々の支払を連続で未納だった場合、強制労働を課すようですね」

「必ず支払いたいですね」

「今月分はすでに支払い済みのようなので約2か月の猶予ですね」

「5万金貨ってどんだけ売ればいいのか想像できないわね」

「まず売るものがないですし……」

「う~ん……」

  ハンスとシャルロッテは、物価の違いに戸惑っていた。


 皆して唸り声をあげていると、玄関の扉を叩く音と、呼びかける声が聞こえてきた。

「誰かいますかー?」


「私がでますね」

 そう言ってローマンが玄関へと向かい、扉を開ける。

「あ、俺、ブルーノっていうものっす。隊長から言われてきたっす」

「貴方は昨日の……それで何用で?」

「確か、住み込みで手伝いをして来いって言われたっす」

「なるほど……状況は分かりました。中へどうぞ」

「失礼しまっす!」

 元気よくブルーノが入ってきた。


 ハンス達のいる部屋へと案内すると、猫を見てバタバタと近寄っていく。

「猫がいるじゃないっすか! 懐かしい。 触ってもいいっすか?」

「え、ええ」

 ブルーノの勢いに押されながらもシャルロッテが猫を触れるように差し出そうとする。


「ニ゛ャア!」

 ブルーノが伸ばしてきた手を猫は前足で応戦して触れられない様にしていた。

「えぇ! この子もダメなんすね……」

 落ち込んで落ち着いたブルーノにローマンが説明するように促す。

「ハンスさん達に話をしていないですよね」

「そうだった! 昨日ぶりっすね! ブルーノっていうっす! 隊長から言われて手伝いにきたっす!」


 軽く挨拶を済ませると、席に座ってブルーノが経緯を話してくれた。

「昨日あの後、隊長に呼び出されて、特別な任務を与えるって言われたんすよね。それで、その任務は一人で行けって言われてきたんすけど、残してきたシームルが心配なんすよね。いつも一緒に怒られてたんで一人にして大丈夫かなって」

 今も部屋で荷物の整理をしているシームルと仲がいいらしい。

「シームルさんと知り合いなんですね」

「第3防衛隊に入った時から一緒っす! なんで5年以上一緒にいることになるっすね」

 そのあともシームルがどうのこうのと話していてすごく心配しているらしい。


 当の本人は2階にシームルがいることをブルーノは知らない。


「そう言えば荷物は?」

 ローマンがブルーノが来た時に、手ぶらだったことを思い出して確認する。

「あ、特に私物はないんで持ってきてないっす。ほとんどの給料は遊ぶのと飲み食いに使ってたんで」


 ブルーノのことが多少心配になりつつも、同じようにスクルドが2階の部屋へと案内する。


 すると丁度部屋から出てくる所だったシームルと鉢合わせる。

「「え、なんでお前がここに?」」

 お互いの反応は同じだった。


「あれ?これって俺一人の任務って言われたっすけどなんでシームルがいるんすか!」

「はぁ、やっと世話しなくて済むと思ったんだが……私はお前と違って仕事で手伝いに来ているんだ」

「ええ! 俺も仕事だって!」

「ほんとにそうならお前もここに住み込みで働くのか……?」

 シームルが嫌そうな表情で確認する。

「嘘は言ってないっすよ! 俺もここに住み込みってことになるっす! いやあ、また一緒に居られて安心っすね!」

 そんな表情を気にすることなく言いたいことを言うブルーノ。

「そうか……あとでちゃんと話そう」

 そう言ってシームルは残りの荷物を取りに玄関へと向かった。


 そのやり取りを見ていたスクルドが不思議そうな表情をしていた。

「ほんとに仲がいいの?」

「え? いつもあんな感じっすよ?」

 ブルーノはその質問にキョトンとした表情でいつも通りと答えた。


 ハンス達の住む建物に2人の住人と1匹の猫が増えてにぎやかになった。

 だが、当面の金策方法がなく、不確実なハンスの本に頼ることしか手立てがなかった。


 そんな中、ブルーノが嬉しい情報を教えてくれた。

「そう言えば、お金に困っているんすよね。公式な試合がない時に野良で試合とかがあるのは知ってるっすか? そこで最近、賞金を懸けて催しをやってるみたいっすよ」

 公式な大会とは、国が企画した大会のことであり、それ以外のものを野良と呼んでいるとのことだった。

「そんな催しがあるとは……それっていつ頃やってますか?」

 ローマンは興味津々にその情報を深堀していく。

「確か直近なら明後日の昼だったかな。最近は週一回やってるみたいっすよ」

「明後日ですか。どんな内容かはわかりますか?」

「聞いた話だからホントかは分からないっすけど、数年前から野良に現れた無敗の闘技者がいて、その闘技者に対してどうこうするみたいな内容だったはずっす」

 途中曖昧だったがその無敗の闘技者と対峙して何かするものだろうとローマンは理解した。

「貴重な情報ありがとうございます。ちなみにどれぐらいの賞金か分かりますか?」

 それについては首を傾げて「数字のことは分からないっす」ということだった。



 全員が落ち着いた頃には昼になっていた。

 昼食を取り終え、ハンスは作業場を使おうとしていた。

「作業場で本を読んできてもいいですか? あそこなら物も少ないですし、色々試すのに丁度いいかなって」

「いいですよ」

 特に反対する者もおらず、ハンスは急いで自身の部屋に持って帰った本をもって作業場へと向かう。

「私も一緒に読むわ」

 そう言ってハンスと一緒にシャルロッテもついてきた。


 残された4人は家事やら買い出しやらそれぞれできることをして過ごしていた。

 主に動いていたのは、ローマンとシームルだった。

「では、これを買ってきてください」

「分かった。いくぞ、ブルーノ」

「しかたないっすね」

「スクルドさんは――――」

 家事はローマンが主導しスクルドが指示されたことを淡々とこなしている。

 シームルとブルーノは、ローマンから渡された紙に書かれたものを買いに出かけた。


「おい! そっちに買う予定の物はないぞ!」

「ええーでもこっちにおいしい食べ物が売ってるっすよ」

 シームルは書いてある物が売っている場所を覚えているらしく、そこへ向けて進もうとしているが、ブルーノが寄り道をしようとウロウロする。

「今はダメだ。それはまた今度にしよう」

「買うもの買ったらいいってことっすね! じゃあ早く買いにいくっすよ!」

 ブルーノの変わり身は早く、シームルの言葉を湾曲して解釈する。

「ああ、それなら早くいくぞ」

 だが、意外とシームルとしてはそれでもいいのか、特に否定しなかった。


  日が暮れるころには、紙に書かれたものといい匂いをさせた食べ物を抱えて2人は帰ってきた。

「これおいしいから食べてみてほしいっす!」

 全員分買ってきたのか、皆に配り歩いていた。


 この国では有名なものらしく、ここに訪れるものは必ず食べるぐらいのものらしい。

「んん! ほんとにおいしい!」

 その話は本当らしく、作業場にいたハンスとシャルロッテは、あっという間に食べ終えた。


 食べ終えるまでニコニコとしながらブルーノが見ていたが、食べ終えたのを見計らって本を指して声をかけてきた。

「何か分かったっすか?」

「はい、ですが、どういえばいいか……」

 ハンスは頷くもどう話していいかまとまっていなかった。

「そりゃそうっすよね。また聞かせてくださいっす」

 ハンスの反応を見て、すぐに諦めて作業場から立ち去って行った。

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