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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第2章 南の国編

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#24 明日へ向けて

 ハンスとローマンが先に入ることになり、折れた腕の汚れた包帯を外していく。

「悪化していなくてよかった」

 骨折の具合を見てローマンは一安心していた。


「無茶な動き方はしていませんし、無理矢理使おうともしてませんから」

「とはいえ油断はできません。手伝いますよ」

 そう言ってローマンは片手で体を洗うハンスを手伝う。

「ありがとうございます」

 洗い終わると湯船につかり、久々の休息を味わう。


 ふと目に入ったローマンの体には、部位ごとに魔術(スペル)と思われる模様が描かれていた。

「ローマンさん、体に描かれているそれって……」

「ああ、これですか? ハンスさんの思っている通り、これは魔術(スペル)ですよ」

「なぜ体に?」

 ハンスは不思議に思い尋ねる。

「私はあまり魔術(スペル)が得意ではないので戦いながらは扱えないんですよ。だからこうして初めから描いてあれば魔力を送るだけで簡単に使えるようにしているんです」

「そんな方法もあるんですね! それってどうすればできますか?」

 ハンスは興味津々にやり方を聞いていた。


 だが、ローマンは顔を横に振っておすすめしないとのことだった。

「あまりおすすめはしません。これは体に傷をつけて無理矢理するわけですから。ハンスさんであれば、もっといい方法が思いつくかもしれません。なのでこのやり方は一例とだけ覚えておいてください」

「そう、ですか……そうですね。僕なりにいい方法がないか考えてみます」

 体が温まるのを感じながら後で考えてみようと記憶の片隅に残しておく。


 今はそれよりも久々の休息にホッと一息つく。

「ふぅ、こんなにゆっくりできたのがすごく久々に思えます」

 腕に気を使いながらハンスはくつろいでいた。

「色々と巻き込まれていますからね。少しでも休んでいてください。これからまた忙しくなりますから」

 ローマンは申し訳なさそうに言うとハンスはため息交じりに声を漏らす。

「そうみたいですね」


 ハンスは湯に浸かりながら今までの出来事を振り返っていた。

(僕はいろんな人に助けられてばっかりだ……僕一人では何もできない……それに、誰かを殺めることに慣れれる気がしない。でも、これから先、慣れていかないと……)

 最近の出来事を振り返ると、どうしても暗くなってしまう。


 そんなことを考えていると、不意にローマンから声がかかる。

「そう言えば、あのスクルドという方は何者か知っていますか?」

 ハンスは彼女について知っていることを話した。


「能力は本物だとしても、彼女は一体あの樹とどういった関係なのか……それに体を作ってまでなぜハンスさんの元にやってきたのか。色々と謎が多いですね」

 ローマンからすると、彼女について不信……というよりは、気になる要素が多いらしい。

「スクルドさんは、悪い人ではないと思います」

 それほど多くは話していないが、直感的にそう感じていた。

「害をなそうとしないなら普通に接しますね」

 ハンスのその言葉を聞いてローマンは、特に彼女に対して何かしら探るようなことはせず、普通に接することにした。


「彼女も確かに気になりましたが、それよりもあそこにあった装置で人を作れることと、それをユーリアがやってたなんて……! しかも問い詰められるのを分かって逃げ出した! ……なんで私達を頼ってくれないのか……」

 ユーリアのことになるとローマンはどこか感情的に、そしてどこか悔しそうにしていた。


 それを何も言わず聞いていたハンスに愚痴を漏らしてしまったことを謝る。

「申し訳ないです、ハンスさん。感情的になってしまいました」

「ぼ、僕は気にしませんから!」

 それにハンスは慌てて気にしていないことを伝える。

「ハンスさんも、もし悩みとかあれば話してくださいね。彼女みたいになる前に」


「じゃ、じゃあ一つ相談してもいいですか?」

 この機会にハンスの思っていたことをローマンに話してみることにした。


「なるほど...確かに戦った相手を殺めることができないのは致命的になる可能性が高いですね」

 ハンスは、相手を殺めることに躊躇してしまうことを相談していた。


 ローマンは自身が考えて出した答えをハンスに語った。

「確かにそれは、大体の人が通る道だと思います。そして殺めれば殺めるほど、慣れてきます。罪悪感がわかないほどに。ですが、こんなこと慣れないほうがいい。とはいえ、そう言っていられない状況になってしまうものなんですが。そう言った場合は、守りたいものの中で優先すべきものをしっかりと見極めれば、おのずと答えは出ると思いますよ」

「優先すべきものを見極める……」

「はい、何が一番大切にしたいのか。それを考えれば、動けるようになりますよ」

「ありがとうございます、ローマンさん。その言葉を忘れない様にします」

 礼を言った後、湯船に浸かりながら心の中で呟き続ける。

(優先すべきものを見極める……優先すべきものを見極める……)


「ああ、それと」

 ローマンは思い出したかのように付け加えた。

「対峙する相手と圧倒的な力の差を持つことができれば、守りたいものをたくさん守れますよ」

「それはそうだと思いますが……そんな力……僕にはないですよ」

「これから身に付ければいいでしょう。すでに片足は突っ込んでいるんですよ?」

「え?」

 ローマンの突然な圧倒的な力に近づいている発言にハンスは驚く。

 ハンス自身、あまり自覚していなかった。


「そもそも魔術(スペル)を知るものが少ない中、それを思うように扱えるようになれるとしたらそれは、圧倒的な力ともいえるでしょう。なぜなら、魔法の延長線上にあるのが、魔術(スペル)なわけですから」

「そんなものなんでしょうか...」

 ただ、ハンスの興味は先ほどのローマンの言葉から別のものに移ってしまった。


「ローマンさん、聞きたいことがあります」

「なんでしょう?」

「魔法の延長線上にあるのが魔術(スペル)だと言っていましたが、魔法が先に生まれたのですか?」

 ハンスが気になったものは、魔法が先か、魔術(スペル)が先か、そこが気になっていた。


 ローマンは唸り声をあげながら答えを導きだそうと考え込む。

「うぅん……どちらが先か...言われてみればよくわかっていませんね。てっきり魔法があって魔術(スペル)ができたものだと思っていたので……うぅん……」


 しばらく唸り声が続いたが、一つの答えが導き出された。

「私にはわかりません。なので、エルヴィラかユーリア……どちらかと言えば、ユーリアに聞けるといいですが、何か知っているんじゃないかなと。それか、スクルドさんに聞いてみると何かわかるかもしれませんね」

「ローマンさんも分かりませんか……すぐに聞けそうなのはスクルドさんですね」


 それからも少しの間、ああだこうだと言いながら湯船に浸かっていると、ローマンが区切りをつけた。


「さて、そろそろ上がりましょうか」

「はい!だいぶ待たせてしまってますね」


 2人は湯から上がり次に待っているシャルロッテとスクルドへと入れ替わる。 



 ハンスとローマンが上がった後、少しして女子2人が服を脱いで入る準備をする。

「貴女は一体何者なの? 体だって特に変わったものはないし……」

 服を脱いだスクルドの体をまじまじと見ていた。

「ん? 私か? そうだな……ちょっ、ちょっとやめて!」

 答えようとするスクルドの体をシャルロッテは触ったりつねったり、感触を確かめていた。


「変わりないわね。それどころか綺麗すぎるぐらいね」

 その体には傷一つなく、肌の触り心地も心地の良いもので手入れをしていてもここまで触り心地がいい肌は作れないほどだとシャルロッテは思っていた。

 髪は闇夜のような紺色をした髪で背中の中ほどまで伸ばされている。

 その髪の触り心地もこれまで触った事のある髪の中で並ぶものがないほど触り心地がよかった。


「もう! この体はさっきできたばかりだからきれいなの!」

「ほんとにあの時に……」

 シャルロッテの手から逃れ距離を離れて体について話す。


「そう! でも中身は400年ぐらい古い人だけどね」

「400……歳?」

「ちっ違わないけどそう言われると嫌だなぁ。じゃあ私の歳は20歳ということで!」

 シャルロッテの言った400歳に顔を膨らませて怒っていた。


「え、なんで20歳なの?」

「なんでも自由にできる歳でしょ?」

「それなら30でも40でも……」

「それはいや! 20歳がいい」

 そして20歳だということにしたいらしい。


「それでいいわ! あ、年上ならちゃんと話した方がいいかしら?」

 普段ハンス達と話す話し方で接しようとしていたが「気にしなくていい」ということだった。


 そんな話を終え、体を洗い終わり湯船に浸かる。

「ふあぁ、こんなにゆっくり入ったのはいつぶりだろう」

 体を伸ばせるだけ伸ばしてシャルロッテは堪能していた。


「こんなに心地いいものだとは……」

 スクルドは驚きつつも、同じように堪能していた。


 少ししてスクルドは昔話を思い出すようにシャルロッテに話し出す。

「こうしてここに居られるのはシャルロッテのおかげだなぁ」

「それはどういうこと?」

 身に覚えのないことを言うスクルドに首を傾げて聞き返す。


「ああ、そっか。覚えていないか」

 そう言ってシャルロッテに向けてにっこりと笑顔を向ける。

「え? 私が何かしたの? 何も覚えていないのだけれど……」

「あ~...ごめん! 覚えていないのも仕方がないから気にしないで!」

 なぜが聞いても謝るばかりで答えてくれなかった。


 シャルロッテは仕方なしに、他のことを聞いてみることにした。

「そう言えば、スクルドさん、どうして故郷にハンスを連れていきたいの? ほかの人ではだめなの?」

「それもまだ知らなくていいかな~」

 これもスクルドは答えるのをはぐらかす。

「なんで?! 私は知らなくていいの?!」

 何も答えてくれないことに煩わしさを覚えるシャルロッテ。


「知りたいなら教えてあげるけど...後悔するかもよ?」

 そう言う彼女の表情は真剣な表情をしていた。

「後悔って……どんなことに?」

 スクルドの言葉に困惑する。 


「貴女がした選択にかな。今の貴女じゃなんでそんなことをしたのか理解できないと思う」

「何よそれ...それこそよくわからないわよ」

 スクルドが何を言いたいのかさっぱり分からないでいた。


「そうだよね。教えられる部分はなくはないけど……」

「それでいいわ! 教えて!」

 シャルロッテは躍起になって少しでも聞き出そうとし始めた。


 その勢いに押されて少しだけ話をしてくれた。

「じゃあ、少しだけね。発端となったのは貴女よ、シャルロッテ。受け入れられなくて救いを求めて貴女は次の貴女に記憶を託そうとしたの」

 そう言う彼女の髪は闇夜のような紺色だった髪色にもかかわらず、青白い光を含んで昼間のように明るい青い空の色をしていた。

 彼女の片手には球体のように集められた青白い光が集められている。

「どうしたの?! その姿!」

 その姿の変化にシャルロッテは驚いていた。


「貴女も違和感を感じたことはあるでしょう?」

「急に不安になったりしたことはあったけど……託した私ってなんなの? それじゃあ、私が二人いるみたいじゃない」

 話の内容についていけないシャルロッテにも解るように説明する。

「そうね……将来、彼は私と一緒に来るわ。その時貴女は置いて行かれたの。それが嫌でこうして私に託したのよ」

 未来を知っているかのような口ぶりで説明していた。

「将来? 未来のことをなんで知ってるの? それにハンスに置いて行かれたって……」

「詳しくは教えてもらえなかったかな。だって貴女が私に託す時に少し話しただけだから」

「そうなのね……その手にあるものは?」

 スクルドの手元にある光の球体に視線を送る。


「これはね、貴女が私に託した記憶……かな」

「そんなことまでできるの?! 全く想像できないわ……」

 到底信じられるようなことではなかったが、今はそう思って話をしないと理解していけないことをシャルロッテは何となく察する。

「信じられないかもね。でもこれを貴女が受け取れば色々と変えられるかもしれない。……でもこれを受け取ったらこれから先、楽しいこととか初めての体験が失われるかもしれない。だから今は知らなくていいことだと思う」

 それを受け取れば、これから先のことを知ることはできるという。ただ、それは、目新しさはなくなることを意味していた。

 それ故にスクルドは、教えることに躊躇していた。


 シャルロッテはその記憶を受け取ることに好意的ではなかった。

「それはあまり嬉しくないわね……」

「どうする?」

 光の球体をシャルロッテの前に差し出して尋ねる。


 シャルロッテは考えた末に、一つ尋ねる。

「おいて行かれるのはいつ?」

「そうねぇ、貴女達に子供ができた時かしら」

「っ!! そんなのいつか分からないじゃない!」

 スクルドの言葉に赤面してシャルロッテが言葉を荒げる。

「詳しい話はしてくれなかったからそれぐらいしか分からないの! それに同じように辿るとは限らないでしょう?」

「そう……だけど! うぅん……」

 ごにょごにょ言いながら湯船に顔を沈めていた。


「それでどうする?」

 もう一度訪ねるスクルド。

「今はいいわ。大人になるまでまだ時間はあるし、それまでこのままでいたいの」

 湯船から顔を出したシャルロッテは顔を横に振って答える。


「そう。もし必要なら教えてね。 いつでも渡すから!」

 スクルドは手元にあった青白い光を自身の中に取り込むと、髪色も元の紺色へと戻っていった。


「あ、あれ~?目が回るような~」

 元に戻ったスクルドだったが、何やらふらふらとし始めた。

「これ以上は危ないから出ましょう! スクルドさん! その症状はのぼせているの!」

「何それえ?」

 シャルロッテが無理矢理に引っ張ってスクルドを外に連れていく。

「ちょっと! しっかりして! 少しは自分で踏ん張って!」

「ええ? すごくじめんがかたむいてるよお?」


 それぞれ疲れを癒し終えた。



 湯上りからだいぶ経ち、日も暮れて落ち着いた頃、ローマン達は集まっていた。

 集まった理由は今後の相談をするためだ。


「私達の今後のために、一旦状況を整理しましょう」

 そう言ってローマンが仕切り、今の状況を話し始めた。

「私のせいで半ば強引にここへ連れてこられて、商人をさせられそうになっている。そして私達には売るものがない。準備期間は1か月……ということが今分かっていることですね」

 シャルロッテが付け加える。

「明日になったら説明してくれる人が来るんでしょう? それまでは何もできないわよね」


 その話にローマンは頷く。

「えぇ、なのでそれからでも遅くはありませんが、せめて売れるものの手がかりでも掴めたらなと思って集まってもらっています」

「売れるものねぇ……」


 思い思いに何かないか考えていると、ハンスが声をあげる。

「ならあの本に書いてある内容を使えば何か売れるが作れたりしませんか?」

 多少中身を知っているハンスが本を使えないかと言っていた。


「内容を理解して作れるようになれますか? 1か月で」

 ローマンは準備期間内にできそうか尋ねる。

「それは分かりませんが……僕にできそうなことはそれぐらいなので」

 自身なさそうに答えるハンスであったが、ローマンはハンスの肩に手を置くと一言伝える。

「ハンスさんならできますよ」


 それからシャルロッテとスクルドにハンスと一緒にこの家で手伝いをしてほしいと伝える。

「分かったわ」

「うん」

 二人は頷いて返事をする。


「でもローマンさんは?」

「私は、お金を稼ぐ方法を色々探してみます。うまくいけば、準備期間を伸ばせるかもしれませんし」

 ローマンはお金を稼ぐために色々と動こうとしていた。


「ある程度やることは決まりましたし、明日に向けて休みましょう」


 皆、各部屋に戻って各々好きに休み始めた。

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