#22 一難去ってまた一難
階段を転げるように落ちたハンスは意識を失っていた。
「そんなにボロボロだけど大丈夫?」
ハンスは、聞き覚えのある声にゆっくりと瞼をあげ、大きな樹に向けて話しかける。
「また、僕は意識を失ったんですね……また会いましたねスクルドさん」
「そうね。何日ぶりかしら」
スクルドは、少し嬉しそうにしていた。
「それで僕はあなたとの約束は果たせていますか?」
ハンスは曖昧な約束であった事もあり気にしていた。
「十二分にできていると思うわ。お礼もその分しないとね」
「え……僕に何をさせたかったんですか?」
達成できていることに驚いたハンスは、何が問題だったのか尋ねるもうやむやにされてしまう。
「それは内緒だよ。それ以上聞こうとするならお礼はなしよ?」
「う、分かりました。ちゃんと約束は守ってくださいね」
先に約束を人質に取られてそれ以上聞くことはできなかった。
「もちろん。 じゃあ、直してほしい人を想像してね」
「はい」
(テオさん……ミアさん……カルラ姉さん……)
目を瞑って病院にいる3人を想像する。
「もういいよ」
「ありがとうございます、スクルドさん」
実感はないもののハンスは感謝していた。
「これからは、お互い気軽に話せそうね!」
スクルドは約束という名の取引が無くなったことが嬉しそうであった。
だがハンスは今後もこうして会うことがあることに驚いていた。
「? これからってまだ僕はここに来ることがあるということですか?」
「貴方があなたである間はこうして会うことができるよ」
「うん? それは、僕が死ぬまでは会えるということですか?」
「そうね。でも……なかなか会えないのは悲しいなぁ」
首を傾げるハンスにスクルドは寂しそうにしていた。
「じゃあ、会いに行っちゃおうかな。ここにいても最近はすることないし」
「そんな簡単に会いに来れるものなら初めからそうしたらよかったんじゃ……」
ハンスは首を傾げて口に出すとスクルドはボソッと呟く。
「これをするとあの人が怒るんだけどね」
「あの人?」
「う~ん……そうね……なんていうのが一番しっくる来るかなぁ」
スクルドは、どう説明したらいいか悩んでいた。
「育ての親かな? いつも面倒見てくれるし」
「怒られても平気なんですか?」
スクルドが怒られることを心配するも彼女は、平気だと言う。
「大丈夫! いつも最後には好きなようにしなさいって言ってくれるから!」
それは諦められているのでは? と言いかけたがハンスは言い止まる。
「じゃあ、会えるのを楽しみにしていますね」
「うん、楽しみにしててね。すぐ行くから!」
「え? そんなすぐ来れるものなんで―――す――か?」
ハンスは返事をしている途中に急激に眠気に襲われる。
「すぐいけるよ」
ハンスの耳には薄れる意識の中、その声が最後に聞こえてきた。
目を覚ますとハンスは見知らぬベットの上で寝かされていた。
「ここは……うぐっ」
起き上がろうと体を動かすと体中に痛みが走る。
体には、包帯が巻かれ治療された跡が残っていた。
「やっと起きたね」
本を読みながら座っていた女性が声をかけてきた。
「あ、貴女は……!」
痛みが走る体を無理矢理動かし身構えるハンス。
それだけハンスにとっては警戒しなければいけない相手であった。
「それだけ警戒するのも無理もないか。覚えていてくれてうれしいよ、ハンス」
その女性は机に本を置くと笑みを浮かべながらハンスに近づく。
彼女は、過去にハンスに怪我を負わせた人物であるユーリアだった。
だが、彼女は前に対峙したときに比べ、敵意はなくただただ、ハンスの怪我を案じている様子だ。
「ユーリア……さん、手当に関しては感謝します。ですが、ここで何をしているのですか?!」
その部屋は、今までいた場所とは打って変わってハンスの見たことがない素材で整備された壁や床や天井。
そして、部屋に置かれた謎の装置には所々読めない文字が浮かび上がり、その装置に繋がれた透明な円柱状の何かに液体が満たされていた。
「ここは私の研究所よ、今わね」
「こんな所に研究所?」
この場所は、オークやゴブリンの巣窟としていた洞窟の奥に位置している。
「そうよ。 ここならあの亜人種達に邪魔されてこれないでしょ? 普通わね」
「彼らを利用したということですか?」
彼女は考えるそぶりを見せる。
「利用……そうね、でも、私が作ったものなのだから利用してもいいでしょう?」
「彼らを……作った!?」
その発言にハンスは戸惑いを隠せなかった。
「この装置を使えば……ね」
そう言って彼女の後ろにある装置を紹介する。
「この装置はね、魔力を使っていろんなものを作れるの。まぁ複雑なものであれば、相応の魔力が必要になるけれどね。 あいにくここにはあの樹からの根っこが伸びていたおかげで魔力には困らなかったわ」
「そんなものがなんでこんな所にあるんですか!」
彼女は反応に困っている。
「そんなの私に言われても分からないわ。だって私はここで見つけただけだもの。それにたまたま使い方を知っていただけよ」
「そんな偶然―――」
「あったからこうなっているの。私が作ったのは亜人種達だけではないのよ?」
彼女はほかにも作っていると言う。
「ほかに?」
「そうよ。あった事ないかしらこんな子よ」
そう言って装置を操作すると、装置から人型が浮かび上がる。
「キ、キール?!」
そこに映っていた姿は、フリッツと共に訪れた鍛冶屋にいた子供だった。
「あら、会っていたのね。あの子は、装置の操作を試す時に作ったの。私の一部を混ぜてね」
それを聞いていたハンスは、言いたいことがたくさんあったが一つを口に出す。
「な、なんでここから遠い東の国にキールがいたんですか?」
「それは簡単な話よ。私がそのあたりに送ったの」
身に着けていた鞄から本を取り出していかにもそれを使ったと言わんばかりに見せつけてくる。
「どうして一人にしたんですか?」
キールが拾われてなかったらと思うと怒りが込み上げる。
「どうしてだって? ここには必要なくなったからよ。 今ここに返ってきたのだって侵入者がいることを知ったから見に来ただけだもの」
「ならなぜ連れて行かなかったんですか?!」
ここに必要なければ一緒に連れていくことだってできただろう。
「私と一緒にいると危ない目に合うからよ」
それは彼女なりの優しさだったのかもしれない。
そんな押し問答を繰り返していると、途中で話を変えて椅子に座ってハンスに向かって座るように催促してくる。
「私はもうあの子に会うことはないわ。 それでも、怒りが収まらないなら代わりに連れて行ってあげてもいいわよ。どんだけ危険な場所なのか見れるわよ」
「貴女が何をしているか分かりませんが、僕は帰らないといけないから」
ハンスは、彼女の向かいに座る。
「そう……残念」
座った時、ハンスは机に置かれた本の表紙が目に入る。
(魔術工学書……?)
「そんなにこの本が気になるなら読んでみる?」
「え、いいんですか?」
「ええ」
ユーリアから机に置かれた本を手渡される。
本を開いてすぐ、表紙の裏面に著者が書かれていた。
「ハンス……ヘルマン?」
名前に親近感を覚えながら、本を読み進める。
ハンスは手渡された本を夢中になって読み漁る。
「そんな……ここに書かれていることは本当なんですか?」
今まで見たことや聞いたことのないことが書かれていた。
「もちろん、それが彼らの研究成果だからね」
「これも知らない…これも、これも、これだって……」
ハンスは次々とページを進めていく。
「それは途中の本だからね。確か……」
もう一度表紙をよく見てみると、5巻と書かれていた。
「あった。 これで全巻あるはずよ」
そう言って魔法で浮かべて持ってきた巻数は9巻あった。それもぞれぞれがかなり分厚かった。
「そんなにたくさん……」
「これを君にあげよう。原本じゃないしね。それに君の興味がこっちに逸れてくれる方がありがたいし」
そう言ってハンスの前に本を置く。
「そんなことで許さないですよ。でもこれは読んでみたいです」
積まれた本から1巻を取り出して読もうとしていると外が騒がしくなった。
「ハンス! この中にいるの?!」
「シャル?」
扉の向こうからシャルロッテの声と扉を叩く音が聞こえる。
「離れててください!」
扉の向こうで別の声が聞こえると、扉がへし曲げられて強引に開かれた。
「ハンス!」
「シャル!」
お互い見つけると、2人は駆け出しお互いの無事を確かめ合う。
「よかった……無事で」
「シャルもこんな所までありがとう」
そんな傍ら、ローマンとユーリアはお互いににらみ合っていた。
「ユーリア、貴女が関わっていたとは……こんな所で何を?」
「貴方に言ったら怒るようなこと。それだけは言っておくわ」
「分かっているならなぜそれを……!」
「そうでもしないと、奴らには意味がないの!」
ユーリアは、拳を強く握り体を怒りで震わせていた。
「ユーリア……」
ローマンは彼女に手を伸ばすも、勢いよく手を払われてしまう。
「もう私に関わらないで!」
そう言って彼女は本を取り出す。
「待ってください! まだ話は終わって―――」
ローマンが手を伸ばして捕まえようとするが、本から出た青白い光が彼女の周りを包むと一瞬のうちに姿が無くなっていた。
「――ない……のに。また聞けなかった……」
伸ばした手は悔しそうに空を握る。
「彼女のこと何か知っているの? ローマンさん」
シャルロッテが気になって尋ねる。
「まあ、昔馴染みですから」
そう言ってこんなことになってしまったのか知っていることを話してくれた。
「昔はずっと、ユーリア、私、エルヴィラの3人で一緒にいました。所がある時を境に、ユーリアが時々、消息が分からないときがありました。 気になって本人に問い詰めても何も話してくれなかったので、一度後をつけました。 するとある男に会っていることが分かりました」
「ある男?」
「はい、その男は、今でいう、最初の魔法士として語られているハンス・ヘルマンだったのです」
(確かあの本の……)
ハンスがふとさっき読んでいた本に書かれていた著者の名前を思い出す。
「そんなことかということで特に気にしないことになったのですが、それから数年経った頃、ある事件が起きたのです」
「ある事件って……それは今からどれぐらい前の話なの?」
シャルロッテは自身の記憶にある歴史と照らし合わせようとしていた。
「そうですね……今からだと、大体200年ぐらい前になるかと」
「そんな前の出来事と言えばギルドができた頃かしら? 確かギルドができる前にモンスターの大量発生があったとか……」
ローマンは彼女の話に大きく頷く。
「はい、その時期になりますね。ギルドが作られた理由は知っていますか?」
ローマンは2人に問いかける。
「確か、3国の間でいざこざがあって、それを解決するためにギルドが作られた……みたいな内容だったかしら」
「ええ、それが一般的に知られているギルドができた理由です。ですが、もう一つ理由があるのです」
「え、じゃあ私達の知っている内容以外にも何かあるの?」
「あまり公にされたくないことは隠されるものです」
「それで、その事件ってどんなものだったんですか?」
ハンスが事件の内容について尋ねる。
「その事件の内容は……過剰な魔力を取り込み、暴走し街中で暴れるものが現れた。というものです」
「過剰な魔力を取り込んで暴走? そんなことができるものなんですか?」
ハンスは今まで得た知識では、そんなことができるとは思えなかった。
「方法はあります。ですが、それを知るものは現状私と、ユーリア、エリヴィラの当時を知るものしか残っていません」
だが、ローマンは方法はあると言い、しかも知っているとのことであった。
「その方法とは?」
「これを聞いて実践はしないでくださいね」
ハンスとシャルロッテは頷くと彼は話してくれた。
「方法としては、まず、魔力が多く集まる場所を用意します。そのあと、そこで過ごすことで人によって期間は変わりますが、1日から10日ほどで、魔力過多で暴走します」
以外にも手順は多くなく簡単にできそうな内容であった。
「思ったより簡単なのね」
「ですが、魔力が多く集まる場所が分かりません」
「確かに!」
「最近は見かけませんね。 未探索の地を探すか、人工的に作るかしなければそんな場所はもうないかもしれませんね」
それを聞いた2人はホッとした半面、残念そうな雰囲気を漂わせていた。
「それは置いといて、ユーリアのことですよね。 その時に、暴走した人と多く戦ったのが、ハンス・ヘルマンだったのです。 ですが、当時の国では人殺しとしてハンス・ヘルマンを犯罪者として扱ったのです。しかも高額な懸賞金をかけてまで」
「そんな……!」
「それに怒ったユーリアは彼を守ろうと1人で必死になっていました。 その時に私達も気づけたらよかったのですが……丁度その時、潜水艦の残骸や過去の遺物を見つけたこともあり、手を貸すことができなかったのです」
ローマンは暗い表情に変わっていた。
「それから数か月経った頃、守り切れずにハンス・ヘルマンは殺されてしまいます。 その時に、彼女は捕まってしまい、国の牢屋に閉じ込められていたようです。それから数十年前に脱獄したらしく、正体を隠して過ごしていたそうです。その時にフリッツさんとも知り合ったらしいです」
「とおさんと……?」
「はい、それから数年経ったとき、フリッツさんと一緒にいた仲間たちに対して魔力の暴走をさせたようです。 遅れて私もその場に居合わせましたが、当時生き残っていた者は、5人ほどで元々40人近くいたそうです」
「じゃあ、生き残った人たちが、暴走した人を殺したということに?」
「はい、私がついた時にはすでにユーリアの姿はなかったですが、フリッツさんが姿を見ていました」
ハンスは気になっていた。
「なぜその時は暴走させることができたんでしょう? 最近魔力が集まる場所なんてないって言っていたのに……」
「彼女しか知らない方法があるのかもしれません……」
ローマンはそれ以上何も知らなかった。
「ユーリアさんのことが少しわかったような気がします」
「ありがとうございます、ハンスさん。もし彼女が窮地に追い込まれていた時は助けてあげてください」
「でも! あの人がやった事は忘れないからね!」
ハンスの隣で根に持っているシャルロッテがいた。
困った表情でローマンは助けるかどうかは任せると言っていた。
「込み入った話をしている所悪いんだけどもういいか? 残してきた奴らが心配だ」
扉の前でずっと外を警戒していたロルフが声をかけてきた。
「外で何かありましたか?」
「さっき小さく揺れたような気がしてな……もしかしたら大きな揺れが来るかもしれん」
その場にいたロルフ以外の者は話に夢中で気づいていなかった。
「それはまずいですね、崩れられると出れなくなるかもしれない……ハンスさん外に出ましょう」
「これだけ持って行っても?」
ローマンに急かされる中ハンスは、ユーリアがくれると言っていた本を魔法で持ち上げて尋ねていた。
「遅れるようなら捨ててくださいね」
そうしてハンス達は部屋から出ようとしていると、不意にボコボコという水音が聞こえた。
「なんの音……?」
その場にいた者が全員水音のする円柱状の装置に視線を送る。
次第にボコボコと言う音と共に気泡が多くなり、中身が気泡で見えなくなっていった。
「ユーリアさんがあれでなんでも作れるって言っていたけど何を作っているんだ?」
「なんでも作れるの?!」
「あのオークとゴブリンもこれで作ったって……」
「そんなことができるなんて……!」
ハンスとシャルロッテが気になって足を止めていると、ローマンとロルフが急かす。
「2人とも、早く出ましょう」
「そうだぞ、出れなくなっても知らないからな」
「なら、先に行ってください。僕は後から追いつきますから」
「それじゃ俺達が来た意味がないんだって! ったく……」
ハンスが残ろうとしていると、頭を抱えたロルフがため息交じりに言う。
「ほんとに危なくなったら担いででも逃げるからな。それでいいかい?ローマンよ」
「仕方ないですね……私は一足先に待たせている彼女らに説明しに行きます」
そう言ってローマンは先に階段を上っていった。
「それで、何ができるか見当はついているのか?」
ロルフは、ハンスの隣で一緒に眺めていた。
「心当たり……は一つだけあります」
「それは?」
「人です。多分僕のことを知っている……」
「ほう、なんでわかるんだ?」
ハンスは、気絶していた間にスクルドと話していたことを伝える。
「なるほどな……すぐに会いに来ると言っていて人も作れる装置が動いているとなるとそう思うよなぁ」
「ハンス、もしその子ならどうするの?」
シャルロッテが回答次第では怒りそうな目つきをして尋ねてくる。
「えぇっと……」
答えるのに戸惑っていると、気泡で満たされていた装置に変化が起きる。
気泡がなくなり、代わりに白い霧上のものが充満している。
すると装置から「ピー、ピー、ピー」と甲高い音と共に、透明だった円柱状の装置が開く。
中から白い霧が溢れてくる。
「ここで合っているかな……」
ペタペタという足音と共に声が聞こえてくる。
「スクルドさん?」
その声を聞くと、足音が止まる。
「ハンス!」
そう言うと中から飛び出し、ハンスへと飛びつく。
「やっと会えたね!」
「なっ?! ちょちょっと! ハンスから離れなさい!」
シャルロッテが慌てて引き離そうとする。
身長差的に胸元にハンスの頭があり、苦しそうにもがいていた。
「ああ! ごめんなさい! ついうれしくって……」
「ゲホッゲホッ……死ぬかと思いました……」
「ロルフさん!こっち見ないでください! ハンスも!」
シャルロッテは慌ててスクルドの体を隠す。
何せ何一つ服を身に着けていなかったからだ。
「あ、ああ! 何か着れるものがないか探してくる」
ロルフはその場から逃げるように服を探しに行った。
背を向けてハンスは話しかける。
「すぐってほんとにすぐなんですね」
「ほんと偶然にもこんな近くに生成装置があるなんてね」
「これからどうするんですか?」
「今すぐってわけじゃないけどハンスを私の故郷に連れていきたいな。それまでは、ハンスと一緒にいたい」
「ダメ! あっいや……あれ?なんで……」
シャルロッテは自分の発した言葉に驚いていた。
「どうしたんですか? シャル?」
「なんでもない……なぜか良くないって思っちゃって」
「いつも守ろうとしてくれてありがとう、シャル」
「なんでそんなことを今言うのよ! う、嬉しいけど……」
シャルロッテは恥ずかしそうにしていた。
「それで、スクルドさんの故郷ってどんな所なんですか?」
話を戻したハンスがスクルドに故郷について尋ねる。
「そこはいつも争いが起きていてどっちかが勝つまで続くような場所。ずっと終わらない争いをしているの」
「すごく危険な場所なんですね」
「ええ、だからハンスに終わらせてほしいの」
「僕にそんな力はないですよ」
「今はなくても、いずれ力をつけるわ」
スクルドは自信に満ちた表情で言い放った。
「……」
ハンスは応えることができなかった。
「おーい! 服というか羽織るものを借りてきたぞ」
ロルフが扉のあった場所で羽織るものだけ出して渡そうとしていた。
「ありがとうロルフさん」
シャルロッテは受け取り、スクルドに羽織らせる。
「よし、これで大丈夫」
「では、準備ができたなら早くここから出ましょうか」
皆頷くと分かれた者達と合流するため、移動する。
「真っ暗になったままなんですね」
ハンスは状況が変化していないことを確認すると、魔法で灯りを作る。
作った灯りは大きく、辺りを見渡すには十分であった。
「そんなに魔法を使ってて出口まで持つのか?」
ロルフは本を浮かせながら灯りを作っていることに外に出るまで持つのか気にしていた。
「これぐらいなら一日中でも大丈夫ですよ。今はこれしか取り柄がないので……」
悔し気にハンスは答える。
だが、ロルフは素っ気なく言い放つ。
「そうか? これからどうにでもなるだろう」
「……ありがとう……ございます。ロルフさん」
その素っ気ない言葉にハンスは気づかされる。
(そうですよね……これから……ですよね)
少しして待たせていた者達と合流する。
「ちゃんと連れて帰ってきたぞ」
「それは良かった。こっちも色々調べてみて分かった事があるよ」
カイは調べたことを共有してくれた。
「ほかに出口はなさそうなこと、それに唯一の出口であるこの扉も僕じゃ開けられなさそうなことが分かったかな」
「どうして開けられないんだ?」
「僕が動けなくなってもよければ開けれるかもしれない」
「はぁ? じゃぁあの木片にはどんだけ魔力があるんだよ……」
ロルフは呆れた様に頭に手を当てている。
そんな中、一つの声が上がる。
「僕が、開けてみます。シャル、灯りはお願いします」
「まかせて!」
そう言ってハンスは扉の前に立ち、窪みに手を置く。
「始めますね」
その一声からすぐに窪みから青白い光が扉全体に広がっていく。
「これなら開きそうか?!」
扉一杯に広がると、音を立てて扉が動き始める。
「準備はできているな?」
ロルフは見渡して全員を見渡す。
「送っても溢れてる……もう魔力は必要ないみたいですね」
「いつ閉じるか分らん!早く抜けるぞ!」
ハンスは皆が通り抜けるのを見届けられるように正面からずれる。
「ハンス!あなたも!」
通り抜ける際にシャルロッテはハンスに声をかける。
「最後に向かいます」
「ふぅ、何とかなったな……」
全員が通り抜け、一息ついている。
周りを見渡したロルフはカイやローマン、助けに来た者達に問いかける。
「お前達は何人でここに来たんだ?」
「確か―――」
ローマンが説明しようとするとカイが割り込んで説明を始める。
「ローマン、僕が説明した方が角が立たないと思うよ」
「そうですか。ではお願いします」
カイの言葉に少しムっとした表情をしていたが説明を任せることにした。
「僕達合わせて全員で35人、他の者達は元ギルドメンバーかな」
「そうか……見覚えのある顔の死体があるわけだ……」
ロルフは、死体を見て悲し気にしている。
「皆、このローマンに雇われた形で参加したから自分の意志だよ」
「彼らも苦労していたんだな……わざわざこんな危険なことに参加しなきゃいけないなんてな」
「そうだね……」
しんみりした空気の中、ニコラが2人に声をかける。
「死んじまった者は仕方ないよ。だから私達も早く出ようよ」
「あ、あぁ。相変わらずだなニコラ」
「何が?」
「いや…何でもない」
一息ついた彼らは、地上を目指して歩き出す。
道中何人か、捕まっていた者や生き残っていた者を連れて出口へとたどり着く。
「はぁ、やっと出られ……」
やっとの思いで出てこられたが一息つく間もなく異変に気付く。
「それ以上動くな!」
外には甲冑に身を包んだ者達が武器を構えて待ち受けていた。
一行は手をあげて抵抗の意志がないことを示す。
ただ、王女含めオーク達はその様子を見様見真似で手をあげる。
「そ、それ以上動くなよ! た、隊長!」
その声はどこか震えており、隊長へと次の指示を仰いでいた。
「まずいな……彼らは国を守護する部隊だ。このままだと捕まえられる」
カイがローマンにこのままだと捕まってしまうことを伝える。
「話し合いで何とかできればいいですが……」
(最悪、ハンスさんとシャルロッテさんだけでもこの場から逃がせれれば……)
そんなことを話していると武器を構えている者達が道を作り、奥から一人が前に出てきた。
奥から出てきた者は一際豪華な甲冑に身を包んでおり、隊長と呼ばれるには相応しい雰囲気を醸し出していた。
中から出てきた者達を一通り見渡すと、カイとニコラを見て鼻で笑う。
「お前達が絡んでいたか。余計なことはするなと言っていただろう」
その言葉にニコラは反応する。
「ただ、私達は人助けしただけだ! あんたたちがいつまでも野放しにしてたからこうなったんだ!」
ニコラの言い分としては存在を認知しておきながら放置していた彼らに問題があると言っていた。
そのことに隊長は、ため息とともに一言小さくつぶやく。
「何も知らん奴が……」
「何? 何か言った?」
「だからお前達は、国から嫌われるんだ」
鋭い眼光をニコラ達、ギルドに所属するものに向ける。
「はぁ? 何で―――」
「ストップ、ニコラ。 それ以上言っても無駄だよ」
それでもかみつく勢いで突っかかるニコラをカイが抑える。
そんな彼らを尻目にローマン達へと話が変わる。
「お前達、何をやったのか自覚はあるか?」
「脅威の排除、人質の救出ですが?」
隊長は、ローマンに問いかけるとここへきてやった事を答える。
「お前達がやったことは、倫理的には正しいことだろう。だが、この国の政治的には、ギルドの解体を進める一派を止める手段がなくなったということだ」
隊長は、ギルドの存続のためにこの場所をあえて見て見ぬふりをしていたということだった。
「ですが、他にもモンスターはいるでしょう? 最近動きがあまり見られませんが」
「だからだ。戦力はそれぞれの商会が確保しているのにギルドへの多額な支援金を払うわけがないだろう?」
「はぁ? そんな話聞いてないけど?!」
二人のやり取りにニコラが割り込む。
「当たり前だ、言っていないからな。言った場合、国に抗議し始めるだろう。そうすれば、さらに立場が悪くなっていたことだろう」
「そりゃ文句を言いに行くけど……」
そしてまたローマンに話が戻る。
「そこでだ。あんたたちに協力してもらおうかと考えている。断るなら色んな罪状をつけて捕まえることはできるぞ」
「断ることができないわけですか……」
有無を言わさない交渉?にローマン達は従うしかなかった。
「よし、お前達は先に俺達の拠点に来てもらう。 誰か、彼らを案内してやってくれ」
そう言って隊員に4人を案内させた。
残されたオーク達とギルドの面々。
「お前達は敵対しないのか?」
オーク達に向けて不思議そうに見ていた。
「ああ、私達も襲う必要がなくなったからな」
隊長は少し考えると、オーク達に言う。
「……そうか。ならお前達も協力してくれないか?」
「協力?」
「そうだ。ここが壊滅したことを知られるのはまずい。それを隠蔽するために、お前達には襲うフリをしてもらいたい」
「?……それは……ふむ……言いたいことは分かったぞ。そうしてもいいか?ロルフよ」
オークの女王は、状況を飲み込むのに苦戦するも何とか理解ができた。
許可を取るようにロルフへと問いかけると、彼は少し渋ったが力なく頷いた。
「あぁ……」
「そういうわけでよろしく頼む。詳しくは後でギルドに伝える。お前達も一旦拠点に帰れ」
そう言って隊長は、その場を去ろうとしていると、その背中に一言、カイが投げかける。
「貴方はいつまでそうしているつもりですか?」
「方が付くまでだ」
背を向けたまま一言返すと、他の隊員をまとめて立ち去っていった。
こうしてハンスを救出するために始まった救出作戦は幕を閉じた。
だが、新しい問題に巻き込まれていくハンスとシャルロッテ。




