#21 救出作戦 後編
ハンスとロルフは檻から出され、王様と王女の元へと向かっている途中であった。
その道中では、部屋のように削り出された場所でゲラゲラと汚い笑い声をあげている。
「ひぃ、もうやめてください! お、お願いし―――グフッ! ほ、ほんとにもうやめてください!」
彼らは捕えてきた人間を痛めつけながら命乞いに耳を傾けず、いたぶり続ける。
「ハンスよ、あれを見ると相容れないと思い知らされるな」
「―――っ、そうですね。これ以上犠牲を出さないためにも……」
ハンスはその光景を見て、自分のためだけではないことを改めて自覚する。
ハンス達が通り過ぎるころには、体中傷だらけで血が滲み、所々関節がおかしな方向へ曲がってしまっていた。
しばらく細い道を進んでいくと大きな扉がある部屋と思われる場所にたどりつく。
(この部屋は? それにあの扉……)
その扉はオークであっても2倍以上ある高さの扉であった。
「大きい……」
ハンスは目線と同じぐらいの高さに扉の中央に小さな窪みが空いていることに気づく。
(あの窪みは扉を開けるためのもの?)
「ツイタ。コノサキガ オウジョ タチガイルヘヤ」
ハンス達を先導していたゴブリンが立ち止まり2人に目的地に着いたことを知らせる。
「案内ありがとな」
ロルフは、気さくにお礼を言う。
「フン、トビラヲアケテクル」
だが、ゴブリンは素っ気なく、扉を開けようとしていた。
ゴブリンは扉に近づき、懐から木片のようなものを取り出すと小さな窪みにその木片を置く。
すると、小さな窪みから大きな扉一杯に青白い光が広がり、模様となって扉に現れる。
「これを見るのも最初で最後かもな」
ロルフがぼそりと呟く。
「え?」
その声に釣られてロルフの顔を見ると、どこか悲し気な表情を浮かべているものの覚悟が決まっている目つきをしていた。
青白い光を纏った扉が大きな音を立てて左右に動き始める。
「これは―――魔術?!」
光と模様を見てハンスが驚く。
「ほう……あれが噂の魔術ね……」
その様子をロルフは興味深そうに観察している。
扉が途中まで開くと、その奥から一際大きな影が現れる。
「ハナシハキイテイル。オマエタチ、ハイッテイイゾ」
中から出てきたその姿は、オークにしても大きい。
そのオークは通れと言わんばかりに扉の奥を指し、2人を鋭い目つきで視線を送る。
「中に入ればいいんだな?」
「ソウダ」
確認すると2人して開いた扉の先へと進んでいく。
通り抜けると音を立てて扉が閉まり始める。
扉が閉まっていくにしたがって段々と周りが暗くなっていく。
「やけに暗いな」
「ギャア!!」
その時、わずかに聞こえた声にハンスは振り向くと扉の隙間にオークとゴブリンが見えた。
「なっ、なんで?!」
その光景にハンスは驚きを隠せなかった。
その光景は、オークがゴブリンの頭を掴み、握りつぶしている所であった。
ハンスの声で振り向いたロルフは深いため息をついていた。
「……はぁ、そういうことか。だから誰も扉のこと知らなかったのか……」
「それってどういう――――」
「ああ、どのゴブリンに聞いても扉のことを知らなかったんだ」
「案内したゴブリンは毎回ああやって……」
2人は見た光景のことを話し合っていると女性の急かす様な声が聞こえてきた。
「お前達、そこで止まってどうした? 早く奥にくるといい」
「こうも真っ暗じゃ奥に来いと言われてもな……」
ロルフはぶつぶつと小さな声で文句を言いながらも奥だと思われる方向へ進み始める。
ハンスも見失わないようにすぐ後ろについていく。
「そこで止まれ」
ある程度進むとまた声が聞こえてきた。
その声に従い、その場で止まる。
「王女様、ここでよろしいですか?」
「ああ」
ロルフはその声の主が王女であることを知っているようだった。
「2人が今日の実演とやらをしてくれるのだな」
「はい」
返事をすると、2人のいる場所に白い光が天井から降り注いでくる。
「うわっ!」
「うっ」
2人は急な灯りに目を細める。
目が慣れてきた頃、周囲を見渡すと、2人の周りにしか光がないことに気づく。
(このままじゃ作戦はできねえな……)
「本日は、王女様のお姿を拝見することはできませんか?」
ロルフは王女の姿が見えないと今後の作戦にも支障があることもあり、姿を見せてもらおうと尋ねる。
「そうだな、先にお前たちの姿を確認したかっただけだ」
王女と思われる声がそう言うと、灯りが2人の周りから広がり、部屋の全容が見えるほどまで広がっていった。
2人の前には、一段高くなった場所に椅子が2つ置かれており、そこに王様と王女と思われる者が座っている。
更にその両端には、先ほど扉から出てきたオークと同様に一際大きなオークが護衛のように立っていた。
姿を見たロルフは膝をつき、挨拶を始める。
「お久しぶりです、王女様」
「そうだな。確か……ロルフと言ったか」
「はい」
「私とは会っただろうが、我が夫とはこの姿で会うのは初めてだろう?」
「そうですね。その姿は……何かあったのでしょうか?」
ロルフは頷くと容姿について尋ねる。
王女は隠すことなく話してくれた。
「あぁ、昔から彼はこの椅子から動くことができなくてな。いつもは仮の姿で外に出ている」
今の王様の姿は、人型が椅子に座っているであろうことは分かるが全身を覆うように衣類が着せられている。
そして最も特徴的なのが、足元や手先の部分から数本の管がそれぞれ飛び出しており、その管が、椅子の裏手にある、壁際の岩に向かって伸びていた。
王女の容姿は、オークやゴブリンのような姿であったが、女性らしいふくよかさをしており、豪華な装飾の付いた服装をしている。
「は、はぁ。そんなことができるなんて思いもしませんでした」
(仮の姿……? 今まで会った王様は偽物だったということか……?)
王女が話した内容は現実的ではなく、聞いていた2人は理解することができずにいた。
そんな話をしている間も王様は、声を発することや身動きすることはなく、ただただ椅子に座り続けているだけであった。
「さぁ、前置きはもういいだろう、見せてくれるのだろう? 人の殺し方を」
王女は話を切り替えて本題に入ろうとしていた。
「分かりました。ですが、我々には武器がありません。本日は武器による殺し方をお伝えしようとしていたのですが……」
手をあげて申し訳なさそうに王女に伝える。
「分かった。こちらで用意しよう」
王女はそう言うと、隣にいたオークに伝えると、壁際に置かれた武器の山と思われる場所から剣を1つ取り出してきた。
そしてオークはロルフにその剣を放り投げる。
「おぉっと、ふぅ……あぶない」
ロルフは大げさに避けると、剣を拾い上げる。
その剣をよく見ると、あちこちがさび付いており、手入れはされていなかった。
軽く剣の振り心地を確かめると、もう1本剣を要求する。
「王女様、これだけだと一方的な殺し方しか教えることができません。それでは実践で役に立ちません。なのでもう1本貸してもらえないでしょうか?」
「なるほど、分かった」
先ほどと同じようにオークに伝えると同じように剣をロルフに放り投げる。
「ああ!だから危ないって!」
そう言いながらも剣を拾い上げるとハンスに手渡す。
その際に耳元で小さくつぶやく。
「俺が合図したら王様を頼む」
剣を受け取るとさりげなく頷いて返事をする。
(僕の剣もだいぶ錆びていますね……狙う相手はあそこですね)
ハンスは手に持った剣を見ながら横目で王様の位置を確認する。
「では、早速初めても?」
ロルフは王女に始めるか合図を待つ。
「ああ、始めてくれ」
その声を皮切りにロルフの雰囲気が変化する。
鋭い目つきに変わり、風貌に見合わないほど様になった構え。
お互い距離をおいて剣を構える。
向かい合うハンスは、今にも本当に殺されそうな雰囲気に固唾を飲んで合図を待つ。
(あれが戦いなれた人の雰囲気……!)
作戦決行の時。
ロルフが声をあげる。
「行くぞ!」
向かい合っていたはずの2人は、ロルフの一声を機に王様と王女へ向けて駆けだす。
(まずは近寄りつつけん制を……!)
ハンスは片手で持てるように魔法で軽くさせつつ、王様へ向けて魔弾を放つ。
だが、オークは魔弾の射線に立ちはだかり、手で軽々弾き飛ばす。
「ダメか!」
それでもハンスは、走ることは止めない。
(横に回りながら放てば!)
側面に回りながら魔弾を放つハンス。
その視線の先に王女とロルフ、そしてオークの姿が映る。
「なんでこっちに?!」
ハンスが見たときには、王女の側にいたオークがハンスのいる方向へと向かってきている。
その奥では、王女に剣を掴まれているロルフが見えていた。
ハンスは一度、距離を詰めるのを止めて魔弾でけん制をしながらどうするか思考していた。
オークは飛んでくる魔弾を手で弾こうとするもその魔弾は触れると爆発を起こしていた。
(このまま攻めてもオークに阻まれる。 うまく魔法であの守りをかいくぐれれば……!)
オークはハンスの魔弾を受けつつも一体のオークが徐々に進んできていた。
(早くしないと近づかれる! やったことないけど……魔力領域で直接爆発させられれば!)
思いついたハンスはすぐに行動に起こす。
自身の周りにのみ使っていた魔力領域を広げて王様のいる場所まで広げていく。
その間にもオーク2体に今までと同じように魔弾を打ち続ける。
「これなら!」
青白い光に包まれた王様の目前で小さな球体が現れたかと思うと、すぐに大きな爆発へと変化する。
その爆発は大きな黒煙を残す。
「?!」
その爆発音に驚いた2体のオークは王様のいる方へ振り返る。
だが、黒煙の中にいる王様の安否を確認することはできなかった。
一方、王女に斬りかかるも剣を掴まれたロルフは如何に剣を折られずに放してもらえないか交渉していた。
「放してもらえないですかね、王女様」
剣を動かそうとしてもびくともしない。
「なぜ私へと刃を向けたお前の剣を放さなければならない? お前が放せばよかろう」
「それもそうだ。なら仕方ない!」
ロルフはそう言うと、剣に力をかけて持たれている刃を折り、攻撃へと転じる。
半分ほどの刃で狙った先は、首元ではなく腹部を切り裂こうとしていた。
王女は避けるそぶりを見せずにそのままロルフの刃を受ける。
「ふん、そんな錆びた刃で私には傷はつけれないぞ」
「くそっ! だから護衛がいらないのかよ!」
吐き捨てるように言いながら一度距離を取る。
「それで終わりか? お前からまだ聞きたいことがあったんだがな……」
王女は手に持っていた刃を投げ捨てながら、悲しそうにロルフを見る。
「貴女のような者が居ながらなぜ人間に対する蛮行を見逃すんだ?!」
少しでも隙を突けないか試みる。
王女は腕を組んで考え込む仕草をする。
「ふむ……なぜかって? 私達には娯楽がないからだな」
そして発せられた言葉に声を荒げる。
「共存を目指していれば娯楽も得られたろうに!」
「もうそれはできないところまで来てしまっているんだ」
王女は共存を諦めてしまっていた。
「娯楽なんて知らないだけでたくさんあるものだぞ!」
「そう……なのか? お前はたくさんの娯楽を知っているのか?」
「ああ、知っているとも! 少なからず貴女達よりはな!」
今までの考えが揺らぐことを聞いた王女は興味がすでに移っていた。
「なら、殺し合いなんてもう興味はない。 ロルフよ、その娯楽とやらを教えてくれないか?」
「今更……そんなこと言ったって!」
ロルフはどうしても王女の変わり身の早さについていけなかった。
「ほかのものにもそれを伝えれば人を殺さなくて済むだろう。そうすれば、お前が私を殺そうとする理由がなくなると思わないか?」
王女の提案は、ロルフがこれまで考えてきた殺すための理由が揺らぐほど大きなものであった。
「……それは、本当なんだな?」
迷った末、ロルフは構える剣を下ろす。
「ああ、約束しよう。だが、そこの夫にも――――?!」
王女が話している途中、王様のいる場所から大きな爆発がいきなり起こる。
「無事か?!」
王女は慌てて黒煙に包まれる王様の元に駆け寄る。
「はぁ、なんだよそれ……」
一人状況に取り残されたロルフは頭を抱えて呟いていた。
黒煙を見つめるオークは、驚き戸惑っていた。
「おい! 大丈夫か?! ―――え?」
王女の腕の中にいた王様は爆発によって着ていた服装がなくなり、本来の姿が露わとなった。
それを見た王女はその姿に戸惑い、一人ぶつぶつと何かを口にしていた。
「なんだその姿は……私の知っている姿ではないぞ……お前は誰だ……? なんで私はこのようなものを夫だと思っていたんだ……」
(黒煙が無くなってもオークの背中で見えない……)
黒煙が散り、オークを避けつつ見える所へハンスが移動する。
「っ?!」
王様の姿を見たハンスは唖然としていた。
ハンスが見た王様の姿は、額と思われる場所には形の整えられた宝石が埋め込まれており、青白い光が内包していた。
更に全身が骨とは違うもので作られており、管が人の形のように見えていただけであった。
「いつからだ? 何でこんなことに? 私はどうして……」
王女は、抱え上げていた王様を下ろすと頭を押さえて頭を横に振りながら取り乱していた。
王様から離れていく王女とは入れ替わるようにロルフが近寄る。
「お前は何者だ?!」
ロルフが王様の喉元であろう場所に折れた剣を突き立てる。
その様子にオークは止めにはいることはなく、王女の元へと集うだけでその成り行きを見守っていた。
王様はこの状況になっても何も言わず、なすがままだった。
「何も話さないか。その首になんの意味があるか分らんが落とさせてもらう!」
ロルフは折れた剣を首のような場所に力を込めて切り裂く。
砕けるような音と共に青白い火花のような光がはじけると頭部に当たる部分が切り離され、地面に転がり落ちる。
「なんだよこれ……人でもなんでもないな」
切った感触が気持ち悪かったのか持っていた剣を投げ捨てる。
「あ……ああ……」
少しずつ落ち着きを取り戻してきた王女にロルフが近寄る。
「落ち着いたか? 俺はあんたを殺したいとはもう思わない」
「それは、殺せないの間違いではないか?」
王女は冗談めいてロルフに返してみせた。
その様子は殺しあっていた時とは打って変わって穏やかな表情をしていた。
「ああそうだな。それだけ言えるならもう大丈夫だな。今後はあんたが仕切りなおすんだろう?」
「そう……するつもりだ。これからは極力彼らには人を襲わないように伝えよう。そして……いつか共存できるだろうか……」
「貴女が仕切り続ければ、可能じゃないかな」
ロルフが王女に向けて手を差し出すと王女もそれに答えてその手を握っていた。
「だが、その前にロルフ。お前から娯楽を色々と教えてもらわないとな」
「俺が知っていることは教えよう」
そんなやり取りをしている間、周囲を見て回っていたハンスであったが、気になる場所を見つけていた。
その場所とは、王様から伸びていた管が行きつく先の岩がある壁であった。
(なんで岩の中に?)
その管は穴があけられた場所に通されているというよりは、岩と重なるように管があるように見える。
ハンスがその岩に触れてみようと手を伸ばすと不可解なことが起こる。
「え?!岩に触れれない?!」
ハンスの手が岩の中に入り込み見えなくなってしまった。
慌てて手を引き抜くハンス。
(これは……一度、ロルフさんに相談しないと)
王女と話をしているロルフの元に向かう。
「ロルフさん、見せたいものが……」
「ん?なんだ?」
ロルフを連れて向かうハンス。
気になったのか王女とオークもついてきていた。
先ほどやったことをロルフ達に見せる。
「その先に何があるのか気になるな。ハンス、顔を入れてみてくれるか?」
「え? はい、見てみます」
ハンスは岩の中に恐々顔を入れていく。
顔を入れてみると、その先には真っ暗な下り階段があることは分かったがどれほど深いのか判断できなかった。
「下りの階段があります。でも真っ暗でどこまで続いているか分からないです」
ハンスがそう伝えると、ロルフは王女に何か知らないか尋ねていた。
「何か知らないか?」
「ん、そんな道があることすら知らなかった。……すまない、力になれなくて」
王女もその道については知らなかった。
しばらくハンスは奥が見えないか魔法で照らしたり試していると、部屋の灯りがいきなり消える。
「な、急に真っ暗に?!」
ハンスは奥を覗いていて気づくのに遅れたが、他の者は暗くなったことに戸惑っていた。
その時、慌てて動いたオークがハンスの背中に当たってしまう。
「あ、うわあああ!!」
押されたことでハンスはその下り階段を転げ落ちてしまう。
「ハンス! 大丈夫か!?」
薄暗かった光すらなく、真っ暗な部屋でいきなり叫び声をあげたハンスに安否を確認する。
それも虚しくハンスから返事が返ってくることはなかった。
ハンスを救出するために、大きな扉の前にやってきていたシャルロッテ達4人は、扉の開け方がわからずに立ち往生していた。
「開け方が分かりませんね……。カイさん、この扉の開け方を知りませんか?」
「その扉のことは聞いてないね」
ローマンはカイに助けを求めるも、彼は知らないとのことであった。
「この窪みが関係あるのでは……?」
シャルロッテが、扉の中央にあった小さな窪みを気にしていた。
「なるほど、ここが鍵となっていると……それにしても鍵を使えそうな穴がないですが……」
その穴を観察しながら、ローマンはぶつぶつと言っていた。
「何か……ここに置けるようなものがあれば……」
シャルロッテは周りを見渡して置けるようなものを探していた。
「これなんかどうだい?」
カイが死体を動かしていると何かを見つけたのか、シャルロッテに手渡す。
それは血に濡れた木片であった。
「これは木片? 血で汚れているけど……大きさ的に置けそうね」
彼女はその木片を観察すると頷き、ローマンが見ている窪みへと持っていく。
「ローマンさん、これを置いてみてもいいかしら?」
「いいですよ。それは……木片?」
首を傾げながらシャルロッテが持つ木片を見ていた。
彼女が木片を窪みへと置くと、扉に変化が起こる。
「おお!」
始めは窪みが模様が浮かび上がると徐々にそれが扉全体へと模様が広がっていった。
しばらくすると、扉が音を立てて左右に動き出す。
「それじゃ押しても開かないわけだ」
その様子を見てローマンが大きなため息をこぼす。
途中まで開いたところで模様が消え始める。
「途中まで開いたのに?!なんで?!」
シャルロッテが慌てていると、扉が閉じ始める。
「まずい! みんな!早く扉の向こうへ!」
カイが叫ぶと、4人は急いで閉まりゆく扉の奥へ走る。
4人は滑り込むように扉の奥へと入ることができた。
だが、そこは扉が完全に閉まると、真っ暗になってしまった。
「なんで閉じ始めたの……」
灯りを魔法で作りながらシャルロッテが呟く。
「憶測でしかありませんが、あの木片には魔力があったのかもしれません。そして魔力が切れたので閉じ始めたのかと」
ローマンは状況を分析したことをシャルロッテに伝える。
「ねぇ、これって戻れなくない?」
ニコラがぽつりとつぶやく。
「あ、確かにそうね……どうしよう」
「まぁほかに道があるかもしれませんから、まずは辺りを探索しま―――」
ローマンが探索の提案をしている途中で暗闇の中から近寄ってくる何かに話しかけられる。
「おい!あんたらは何しにきた!」
その姿はぼさぼさの髪に伸び放題の髭を蓄えた薄汚れた男性であった。
4人は咄嗟に構える。
「あなたこそ何者ですか?」
お互い、尋ね会った結果、少しの沈黙の間が生まれる。
だが、薄汚れた男性は、カイとニコラを見ると、親しそうに話しかける。
「お! お前らはカイとニコラか?! 俺だよ! ロルフだ!」
「その見た目は何だよ! フフ、アハハハ!、それじゃ誰か分からないじゃないか!」
それを聞いたニコラは笑い声をあげる。
その笑い声を聞いてその場にいた者は構えるのを止めた。
「ローマンさん、彼は私達と同じギルドのメンバーだよ。ロルフと言って、見た目はちょっとフフ、そう見えないけど」
カイは笑いを堪えながら紹介している。
「なるほど。私はローマン。こちらはシャルロッテ、ハンスと言う子供を探しています」
ローマンが自分達の紹介をしてハンスを探していると伝えると、ロルフは驚いた表情をしたかと思うと少し気まずそうにしていた。
「ああ! ハンスか! さっきまで一緒にいたんだが……」
「ここにいたの?! 無事なの?!」
シャルロッテはいたことを知るとロルフに問い詰める。
「元々怪我をしていたぐらいでそれ以外は特に何もなかったぞ」
「そう……それならよかったわ。……でもどこにいるの?」
彼女は大きく息を吐くと周りを見渡していた。
「それはそうと、俺以外にもまだいるんだが紹介していいか? そうしないとお互い困るんでな……」
「ちょっと!」
シャルロッテの話を途中で切り上げてロルフはほかにもここにいて紹介しておきたいとのことで確認してきた。
「構わないけど、そんなに困るものなのかい? ロルフ」
ロルフの言葉にカイは不思議に思う。
「まぁ見てもらったら分かる。だが、絶対の攻撃はするなよ!」
「あ、ああ」
ロルフはその場にいた者に釘を刺す。
「おーい!こっちに来てくれ、紹介するから!」
暗闇に向かってロルフが叫ぶ。
「ほんとにいいのか?」
暗闇から心配そうな声を出しながら灯りの中に入ってくる。
「そういうことね。そりゃ念を押して確認するわけだ」
カイはため息をつきながらその者を見つめる。
「紹介するぞ、彼女はオークやゴブリンの王女だ。その後の奴らは彼女の護衛だな」
「よろしく頼む。むやみに襲うことはないことを誓おう」
紹介された王女は、攻撃する意思がないことを宣言すると手を差し出し握手を求める。
「僕はカイ、よろしく」
カイは特に気にすることなく王女の前へと進み、差し出された手を取る。
挨拶を済ませると、現状の状況をお互いに共有する。
「なるほど、大体わかりました。では、シャルロッテさん。ハンスさんが居なくなった場所へ向かいましょうか」
「そうね。灯りは……」
シャルロッテは魔法を使って新たに灯りを作り、他の者の近くで留める。
「私達は隠し通路を探してきます。ロルフさんとシャルロッテさん以外はそこにいてください」
「こんな真っ暗じゃ自由に動けないからね。ここでおとなしくしてますよ」
ローマンが仕切り、部屋の隠し通路へと向かう。
「確か……この管があるからこのあたりのはずだぞ」
ロルフは灯りを頼りに隠し通路の場所を見つける。
「ここが……?」
「まぁ見てなって」
ロルフはそう言うと壁際にある岩に手を伸ばしていく。
すると、手が岩に触れてしまう。
「あ、あれ? ここのはずなんだがな……」
ロルフは足元を再度確認すると、管は確かにそこにあった。
「ロルフさん、ほんとにここなんですね?」
「もちろんだ!」
「ならこの岩を動かせないか試してみましょう」
ローマンは岩を動かそうと両手で岩を掴む。
「んぐ―――」
音を立てて岩の周りからボロボロと小さな石が崩れてくる。
「危ないので離れてください!」
「お、おう」
離れたのを確認すると、激しい音と共に岩が持ち上がったかと思うと、別の場所に岩を鈍い音と共に置く。
「ふぅ」
一息ついたローマンと2人は隠し通路があった場所へと近寄る。
「ほんとにあったわ! この先にハンスがいるのね」
「灯りがあるなら下りれそうだな」
「行ってみましょう」
そうして3人は隠し通路の階段を下っていった。




