#16 根回しと帰路
日が昇り少し経った頃、大きな壁に囲われたとある施設の上空に大きな影がうろうろとしている。
そして大きな鳴き声とともに影は急降下してある部屋の窓へと向かうと、大きな羽音をさせて速度を落とすと、窓際に着地し頭を動かして回りを見渡していた。
「おぉ、お前さんはローマンの鷹じゃな」
部屋の中からしわがれた声をした老人が窓際へと寄ってくる。
その老人は学園の長であるジークハルトであった。
窓際に座り込んで胸元につけられている小さなカバンを取りやすいようにかがんでいるジークハルトほどの背丈をした大きな鷹が静かにそこにいた。
「お前さんは相変わらず賢いのぉ。どれどれ―――」
ジークハルトは鷹の頭を撫でると胸元にある小さなカバンから一枚の紙を取り出す。
撫でられた鷹は小さく鳴き声を上げていた。
取り出した一枚の紙を椅子に座って読み始めると険しい表情へと変わる。
「そうか、奴は倒したんだな。だが、次は南に行きたいと言っておるのか」
その内容はローマンから宛てられた報告書であり、今回の報告書の内容にはモンスターの討伐についてとハンスの今後の動向に書かれていた。
「このままでは南の国に行くのは5年は掛かるじゃろうな……」
そう漏らすジークハルトは熟考したかと思うと、おもむろに一枚の紙に書き始める。
「まずはローマンに返さんとな。策は考えておくから帰ったら顔を見せてくれ―――っと」
ジークハルトは独り言を言いながら書き終えると、それを丸めて紐で結ぶと鷹のほうへと歩きだす。
「ほれ、これをローマンに届けてくれんか」
そう言って鷹の小さなカバンに紙を入れる。
すると返事をするかのように大きく鳴き、空高くに飛び立っていった。
「さて、わしもやることやらんとのぉ」
鷹を見送ると、ジークハルトは慌ただしく外出の準備を始めていた。
数時間後、学園を出たジークハルトが向かった先は、国境をまたぐことができるギルドの拠点へと向かっていた。
「連絡せずに来たが、すぐ会えるとはのぉマルクス」
一際豪華な一室で待たされていたジークハルトが遅れてやってきたギルドの長、マルクスへと親しげに話しかけていた。
「ほんとにやめてくださいね、こちらも毎回都合を合わせられるとは限りませんから」
そう返すマルクスは困った表情をしているものの、何度もあったのか手慣れた返事をしていた。
「それはすまんかったな、でも今回は急ぎのようだったものでな」
「いつもそういって……それで今日はどんな要件で?」
ジークハルトが反省の色を見せないことに少しいら立ちを覚えたマルクスであったが、急ぎとのことでいら立ちを抑え話を進める。
「うちの学生を南の国へと連れて行ってやりたいんじゃ」
「あなたが国やギルドの法律や規律を知らないわけないと思いますが」
要点だけ伝えたジークハルトは、マルクスに冷たくあしらわれるが、そんなことを気にせず、話を続ける。
「まぁまて、わしかて忘れてはおらんわ。あれじゃろ? 18歳以上でかつ、ギルドに所属しているか、事前に届け出ないといけないんじゃろう?」
「えぇ、そうです」
「だから、学生の身分を利用してどうにかできないかと話に来ているんじゃ」
「学生の身分をですか。ふむ……」
内容を話していくにつれマルクスの表情は真剣さを帯び、何やら考えに耽っていた。
「……南のギルドの状況を利用すれば可能かもしれませんね」
そういったマルクスが南のギルドの状況について説明をしてくれた。
数年前に南の国の主権を握る商会が変わったことで南のギルドは、国からの圧制により資金が不足していること、ギルドに所属しているメンバーが次々と国の商会へと移籍していったことを説明していった。
「今はそうなっておるのか。南のギルドも苦労しているのぉ」
ジークハルトは他人事のように感想を述べているとマルクスは、具体的な案を出してきた。
「なので、南のギルドへ人員と資金の支援をする形ではどうでしょう? 幸い前々から支援の話は来ていました」
「そうかそうか、なら少し多めに資金をわしが提供するかのぉ。それで学生であっても文句は言えんじゃろう」
「では、金額はこれぐらいで……学生は公平に選ぶのでしょう?方法はどうやるんです?」
マルクスは内容を詰めようと、金額を紙に書きつつ、学生の選定方法を尋ねる。
「そうじゃのぉ…学生の実力を疑われると面倒だしのぉ……観客に一目でわかるようなものにしたいのぉ」
悩ましそうに髭をさすりながら答えたジークハルトにマルクスは淡々と内容を詰めようとする。
「そうですか。でしたら、いつどこで何をやるか、国中に知らせなければいけませんね」
その後も話し合いが続き、数日後には国中にこのことを知らせる知らせが届くこととなる。
一方、ハンスとシャルロッテは、ローマンに連れられ朝から港街にある、海沿いの倉庫へと連れてこられていた。
「大きいですね、この中にいるのですか?」
ハンスはあらましを聞かされていたのか、ローマンに尋ねるとにこやかに返事をする。
「えぇ、ここにハンスさんが仕留めたあのモンスターがいます」
「ここまで運んだんですね」
「そのことですが、後ほどお話しします。では中に入りましょう」
そう言ってローマンが中へと案内すると、そこには天井から幾つもの鎖でつるされたモンスターの姿があった。
その姿には、ハンスでは傷をつけることができなかった皮に切られた後が幾つもつけられており、調査が進められていることが見て取れる。そして、切られた腹部からは内臓が飛び出しており、血なまぐさい悪臭が倉庫内に漂っていた。
「自由に見ていいですよ。ハンスさん、シャルロッテさん」
ローマンがうずうずとしているハンスに声をかけると、悪臭など気にせずハンスは見渡すようにあちこち見て回っていた。
それを追いかけるようにシャルロッテも鼻を押さえてついてみて回っていた。
「おぉ!これがあのモンスターの全容なんですね!」
「すごく大きいね、ハンス。でも臭いが……」
「ここまで大きかったとは……! 確かに中が広かったですからね……」
「そう、中も広かったのね。……って食べられたの?!」
ハンスは見渡しながら声を漏らしているとシャルロッテが相槌を打っていたが、ハンスの発言に彼女は驚いていた。
「え? はい、戦った時の話はしていなかったんでしたっけ」
「聞いてないわよ! ただ戦って海の中でエルヴィラさんに助けられたことしか知らないわ!」
「ごめんなさい、次からはあったことを伝えますね」
「ま、まぁ今回は無事だったからいいけど……次から気を付けてね。そんなことがないほうがいいけど……」
ハンスは謝罪しているものの、シャルロッテは顔を膨らませてぶつぶつと言いながら顔を背けていた。
そんな話をしながらも一周してきたハンスとシャルロッテは、ローマンの元へと戻る。
「どうでしたか? ハンスさん」
「ほんとに大きかったんですね。それにハエトリソウ?の部分もほんとについているなんて……」
ハンスはモンスターを見上げながら話していると、ローマンがそのことについて話を始める。
「草の部分は確かに後から付けられたものとは考えにくいほど、自然とつながっていました。可能性としては生まれた時からそうであったかのように……」
そうローマンが説明していると遠くから声が聞こえてくる。
「そういうことがあってもおかしくないと思うぞ」
「エルヴィラさん?!」
遠くから聞こえてきた声の主は、倉庫の見えない場所で調査書を作成し終えたエルヴィラが話しかけていた。
「過去の技術をいくつか見たことがあったが、遺伝子?と呼ばれる体を構成するものを操作する技術があったらしい」
近づきながらエルヴィラはハンス達に過去の技術について話をしていた。
「え? それでこのモンスターができたということですか?!」
ハンスが驚いて声を上げているが、静かにローマンもエルヴィラの話した内容に驚いていた。
「詳しくはわからん。そういった技術もあった、ということしか見つけられなかったからな」
詳細は分からないとハンスの質問にエルヴィラは答えていた。
近くまで来たエルヴィラが何やら申し訳なさそうにハンスに話しかけようとしていた。
「まぁあれだ。ハンスにとって良くない知らせがあってだな……」
「なんでしょう?」
「ハンス、君と一緒に作った潜水艇なんだが、このモンスターを運ぶ際に壊れてしまったんだ」
「えぇ?! まだ乗れてなかったのに……」
エルヴィラが話した良くない知らせを聞いたハンスが、肩を落として落ち込んでいた。
そのことに、慌ててエルヴィラが取り繕おうとハンスに話しかける。
「ま、まぁ今すぐに乗れなくてもだな……修理すればまた乗れるようになるはずだよ! たぶん……」
「そうですか……壊れたのなら仕方ありませんね……」
その声には覇気がなく誰が見ても落ち込んでいる様子であった。
「あ! そうだ、良い知らせもあるぞ。なぁ」
エルヴィラはそう言ってローマンに助けを求めた。
「あぁ、確かに」
ローマンがそういって倉庫に置かれていた荷物の中から布に覆われた何かを取り出してハンスに手渡した。
「これは……!」
ハンスが手に取って布を取ってみると、それは彼がなくした剣であった。
「ありがとうございます、ローマンさん、エルヴィラさん」
ハンスは手に取った剣を大事そうに布をかぶせ直してローマン達に礼を述べる。
「気を取り直してくれてよかったよ」
エルヴィラはぼそりと声を漏らす。
そんな話をしているとハンスの背後から小さな声が聞こえ、服が引っ張られる感覚があった。
「ねぇハンス、そろそろ私……限界かも」
「なら外に出ましょう」
口を袖で押さえたシャルロッテは臭い部屋の中にいるのがつらいのか青ざめた表情へと変わっていた。
ハンスとシャルロッテはローマンと共に倉庫から外に移動するが、エルヴィラはやることが残っているからとついては来なかった。
シャルロッテは外に出て少し休憩した後に大きく息を吸い込む。
「すぅ…はぁ」
「もう大丈夫?」
「えぇ、もう大丈夫、ありがとうハンス」
ハンスは心配そうにシャルロッテを見守る。
落ち着いたシャルロッテがハンスと一緒に遠巻きに見守っていたローマンの元へと近寄る。
「大丈夫そうですね、シャルロッテさん」
「はい、ありがとうございます、ローマンさん」
ローマンはシャルロッテの返事ににこやかに返すと、2人に用事が終わったことを伝える。
「これで私が予定していた用事は終わりました」
それからハンス達は、ローマンが学園長に宛てた伝書の返事が来るまでカルラ達に挨拶へ行ったり、街を観光して返事を待つ。
日が暮れ始めた頃、街を歩いているハンス達にローマンが呼び止める。
「ハンスさん、シャルロッテさん。学園長から返事が着ました」
その内容は、学園で南に向かえる様に準備をするから一度帰ってこいとのことであった。
それを聞いたハンスとシャルロッテは、日も暮れ始めていることもあり、明日この港街を立つことを決めた。
その夜、帰宅したエルヴィラが明日に立つことを聞いてハンスに3つの魔石を渡す。
「え? もらっていいんですか?!」
「いいぞ、まぁそれは潜水艇に乗せる前に壊してしまったお詫びみたいなものだから」
「ありがとうございます、エルヴィラさん!」
ハンスは、大事そうにカバンへと入れる。
翌朝、ハンスとシャルロッテは港街を出発し、帰路についていた。
この街まで来たときに乗ってきた荷馬車をシャルロッテが手綱を握っている。
手綱を握るシャルロッテと背中合わせに座るようにハンスが申し訳なさ気に腰を据えていた。
「シャル、僕も操れたらいいのですが……」
「荷台が軽いからそんなに苦労はしないわ。でも、そうね―――」
シャルロッテは気にしていない様子であったが、交換条件を提案してきた。
「ハンス、荷馬車の操り方を教えるから、魔術について教えなさいよ」
「わかりました。僕の知っている内容でよければ、伝えますよ」
「そう、なら横に来て。早速教えるから」
約束を取り付けたシャルロッテは早速、荷馬車の操り方について説明を始めた。
その日は次の街まで近かったこともあり、道中ハンスへと手綱を渡して操らせたりと、ゆっくり歩を進めていった。
次の街へ着いたハンスとシャルロッテは荷馬車から降りて一息ついていた。
「ふぅ……何とか歩かせるだけならできるようになれました。ありがとうございます、シャル!」
ハンスは嬉しそうにシャルロッテへと軽く抱きしめるとシャルロッテは顔を赤くしてハンスを引き離す。
「もう! するなら部屋に帰ってからにしてよね!」
「ごめんなさい、つい」
「さ、宿に行きましょハンス」
そう言ってシャルロッテはハンスの手を引いて宿へと向かうが、その足取りは先ほどまで浮かれた様子から一変して重い足取りへと変わっていた。
今日泊まろうとしている宿は、ミアの母親であるエマが運営する宿であったからだ。
「どう説明したらいいのかしら……」
シャルロッテが不安気にため息共に声を漏らす。
「あった事を伝えるしかありません。それは僕が伝えます」
そうこう話していると宿の前へとたどり着く。
2人して固唾を飲む。意を決したハンスが扉を開ける。
すると中から元気なエマの声が聞こえてくる。
「いらっしゃい!今日は……」
エマがハンスとシャルロッテに気づくと、声色がだんだん暗くなるが、彼らを奥へと案内する。
「君達はミアと一緒にいた子だね、ちょっとここで待っていてくれるかい?」
「わかりました」
ハンスの返事を聞いたエマは4人掛けの席へと案内すると、ほかの用事を済ませに慌ただしく働き始める。
緊張した面持ちで待つ2人にしばらくしてからエマが戻ってくる。
「お待たせ、当分用事はないはずだからゆっくり話ができるね」
エマが向かい形で席に着くと、ハンスはミアの状態や起こった事を話し始めた。
それをエマは静かにハンスの話を聞いていた。
「そう、そんなことがあったのね」
「はい、僕が戸惑ったばっかりに……」
ハンスが消え入りそうな声で今にも泣きだしそうな表情で答えていた。
その様子を見ていたエマは、いきなり席立ち上がるとハンスの元へと近づき、抱きしめて頭を撫でていた。
「君がそこまで思いつめる必要はないわ。ミアだってきっと君を責めたりはしないわ」
突然のことにハンスは戸惑っていたが抵抗はせず、静かにエマの言葉に耳を傾けていた。
「それに君はミアやほかの仲間のためにこれから何かをしようとしているのでしょう? ローマンって方から簡単に話は聞いていたわ」
「はい、僕は南の国に向かいます。準備が必要みたいですが」
「そうなのね、南の国に行けば怪我をどうにかできるのね」
南の国に行くことの意味をあまり理解していないエマは半信半疑であったが、ハンスは真剣な眼差しでエマへと伝える。
「何があってもどうにかします」
「じゃあまたミアと一緒にここに泊まりに来てね」
エマはハンスを離してハンスに答えるように真剣な眼差しで答える。
「はい!」
「よし! じゃあ部屋はここを使って早く寝なさい」
ハンスの返事を聞くや否やハンスに鍵を手渡す。
「あ、お金―――」
ハンスがお代を払うためエマに手渡そうとすると、エマは顔を横に振って受け取らなかった。
「今日はいいわ。代わりにミアと一緒に来た時に今日の分も払って頂戴」
「そう……ですか。ありがとうございます。……おやすみなさい」
ハンスはお礼を伝えると、シャルロッテを連れて部屋へと向かっていった。
残されたエマは少しの間ハンス達の座っていた席で物思いに耽っていた。
部屋についた2人は寝る準備を始めていると、いきなりシャルロッテがハンスを抱きしめていた。
「あの、シャルさん? なんでです?」
「私もしたかったの」
戸惑うハンスとは裏腹にシャルロッテはそれっきり話すことはなく、少しの間抱きしめたままであった。
「その……そろそろ離れてもらえませんか?」
「いやよ」
さすがにいたたまれなくなったハンスが抗議するも一言で片づけられてしまうがそれでも抗議を続けた。
「また今度していいですから、今は寝ましょう?」
「約束して」
消え入りそうな声でシャルロッテが声を発する。
「約束?」
「えぇ、歳をとってもこうやって時々抱きしめさせて」
その約束の意味をハンスは理解できていなかったが、仕方なしに約束を受け入れる。
「分かりました。約束します」
「約束ね。おやすみハンス」
シャルロッテはハンスの返事を聞くとそっと離し、自身の寝床へと向かい、眠りにつき始めた。
解放されたハンスは、一息ついた後、あとを追うように眠りにつく。
翌日、エマの宿がある街を出て田園風景を過ぎたあたりで人通りの少ない場所へと寄り道をする。
「ここよさそうですね」
丁度、椅子として使えそうな石のある場所を見つけ腰掛ける。
そこでハンスから魔術の説明をする前に一つシャルロッテに質問をする。
「そういえばシャル、手足が治った時、誰かと話しました?」
「え?」
突然聞かれたシャルロッテはそのことを思い出そうと思考を巡らせていた。
「う~ん……誰かと話したような? ……あ! 確か何か質問されたような?」
「それって覚えていますか? 例えば力を手にしたらどうしたいとか」
彼が自身に質問された内容を伝えてきっかけを与えようとしていると彼女は顔を横に振って答える。
「ううん、そんなんじゃなかったと思う、守られてばっかりでどうのこうの言ってた覚えがあるわ」
「そうなんですね。それになんて答えたんですか?」
うろ覚えであった質問に対してどんな返事をしたのか尋ねるハンス。
「守ってみたら?みたいなことを言ったような?言ってないような……」
「ありがとうございます、シャル。参考になりました」
結局うろ覚えで曖昧なことしかわからなかったが、ハンスは礼を述べ、当初予定していたハンスなりに理解した魔術の説明を始める。
「では、始めますね。 魔術とは、魔法を絵みたいに表現することができるものらしいです。 まだ僕もどんなことができるのか分からないですが」
ハンスも、まだ学んで日が浅いこともありざっくりとした内容をシャルロッテに伝えることとなる。
「シャル、魔術を構成するものって3つあります」
「3つだけなの? なら私にもできそうね!」
シャルロッテは3つと聞いて意外そうな表情をしていた。
「それがですね……中枢、式、接続とあるんですが、一番できることが多いのが式と呼ばれる部分なんです。なんせ魔術のできることをすべて記せる部分になります」
「え……」
彼女が彼の話す内容に戸惑っているのを見つつも話を続ける。
「順番に行きますね。中枢ですが、例えば僕から魔術に魔力を供給するために必要であったり、魔術に必要な魔力を貯めておくことができるのが中枢です」
「じゃあ、そのコア?がちゃんと機能しなかったら魔法は使えないの?」
説明していることを理解しているのかハンスに質問を返していた。
「はい、そうです。今知る限りでは……」
ハンスは頷いて返事をすると、接続について説明を始める。
「次は接続についてですね。式は長くなるので後にします」
「分かったわ、続きをお願い」
「接続は中枢や式に魔力を送るのに使われている部分ですね。例えば、繋がっていなければその式に記されている内容は魔法に反映されません」
「そんなこともできるのね」
ハンスは接続についてはすぐに説明を終えると早々に式について説明をしようとしていた。
「接続はあまり説明することはなくて今のがほとんどです。なので次の式について説明しますね」
「そうなの?」
ハンスが先々説明を進めようとしているのを気にしつつもその流れに身を任せていた。
「式では、魔法の威力や範囲とかどんな魔法にするかを決めたりできる部分ですね」
「どうやってできるの?数値にするの?」
シャルロッテは不思議そうに首をかしげてどうしてできるのかを尋ねると、ハンスは渋い顔をして答えていた。
「それがですね……一度見てもらえば解ると思いますが、数字だけではないんですよね」
そう言ってハンスは、近くに落ちていた枝を拾って地面に式を書き始めた。
それを見たシャルロッテは、それが何かわからず固まっている。
「えっと……これは何?」
「僕にもよくわかりません。これは炎の魔法を構成するうちの一つです」
地面に書かれたものは、文字や数字、記号が含まれており、所々抽象的な内容の単語が読み取れる。
「え? じゃあどうやって魔術を使うの?」
彼女が仕組みもわからないものをどうやって扱っているのか、疑問に思うのは当然であった。
「今の所はローマンさんとエルヴィラさんから教えてもらった式をこの本に書いて残しています」
そう言ってハンスは手元にあるカバンから一冊の本を取り出してシャルロッテに見せる。
「そうなのね……私もそれを覚えたら使えるの?」
今までの説明を聞いて、彼女は期待を乗せた視線でハンスを見る。
「はい、使えるようになりますよ。元々、魔力があるだけの人でも使えるものですから」
「じゃあ学園に帰ったら貸してね! 覚えるから」
使えることを伝えると、シャルロッテは嬉しそうにハンスに貸してもらえるように頼む。
「いいですけど……このままだと解りにくいかもしれませんよ?」
目線をそらして申し訳なさそうに彼は本の中身を彼女へ見せる。
「う……そうね、これは解りにくいわね」
その本にはハンスが説明が受けた際に走り書きで書かれた文章が一枚のページに所狭しと書かれていた。それが何ページにも及んでいる。
それを見た彼女は、顔をしかめて本をそっと閉じて彼に返す。
「落ち着いたら新たな本にまとめようと思います。そのあとに本を貸しますね」
「お願いね! 早くミアさん達を治してあげないとね!」
新たに書き直すことを伝えると、彼女は待ち遠しそうに目下の目標を声に出していた。
「はい、今できる説明はしましたし、学園に向かいましょうか」
ハンスとシャルロッテは、荷馬車に乗り込み、シャルロッテが手綱を握り学園へ向けて馬を走らせる。
街道を走り、学園の前にある街にたどり着くころには辺りが真っ暗になっていた。
「やっと見えてきたわ」
シャルロッテの視線の先には、街を照らす火の明かりが見えていた。
それからさらに進み、学園へとたどり着く。
「学園長の所には明日向かうとして、今日はもう休みましょう」
「そうね、さすがに疲れたわ……」
荷馬車を預け、荷物を持ったハンスとシャルロッテは、自分達の部屋がある、寮へと向かう。
寮の玄関が開く音に気付いた寮長が心配そうに声をかけてきた。
「あら、君達こんな時間に帰ってくるなんて……それに2人だけなのかい?」
「2人だけです。寄り道していたらこんな時間になってしまいました」
寮長にハンスが答えていると、ハンスの後ろにいたシャルロッテが眠たそうにふらふらしていた。
それに気づいた寮長が、シャルロッテの元へ近づき、荷物を代わりに持とうとしていた。
「引き留めてしまって悪いわね、シャルロッテさん 私が荷物持ってあげるから部屋まで我慢しなさいね」
「はい……」
眠たそうなシャルロッテは寮長に荷物を預け、ハンスの肩を借りながら自身の部屋まで向かう。
「おやすみ、シャル」
そう言ってハンスは、シャルロッテを寝床に寝かし、寮長に礼を述べる。
「ありがとうございます、荷物を持っていただいて」
「これぐらい容易いことだからね、もし困っていることがあったら私の所に来るといいわ」
荷物を部屋に置くと、寮長はそう言ってその場を後にする。
「僕も寝る準備をしないと」
ハンスも自身の部屋へと向かい、眠りにつく。