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星の魔力と探究者  作者: 早宮晴希
第1章 学園生活編
10/29

#10 出発

 カルラとミアが卒業する前日、ハンスは、訓練室で唸りを上げていた。

「うぅん、どこに行ったんでしょう……」

 視線の先には、壁一面に張られた地図に書き足された矢印や紙が、地図の上に点々と張られていた。

「ハンスさん、もうこの国にいないのかもしれませんね」

 ハンスの隣で一緒に見ていたテオが話しかけていた。

「その可能性は高いですが……」

 フリッツがいなくなってから今までの数か月間、国内の街へ目撃情報を探し回っていた。

「あとは、港ですか」

「明日から向かいますし、海について聞くついでに聞きましょうか」

 そうやり取りしていると訓練室の扉がゆっくりと開く。

「明日の出発準備はできたわ、テオ、ハンス」

「ありがとうございます、シャルさん」

 そう言いながら、部屋へと入ってくるシャルロッテにハンスがお礼を述べていた。

「あまり有力な情報は出てきてないのね」

 シャルロッテが地図に張られた紙を見ながら呟いていた。

「そうなんです。あの日以降、有力な情報がありません」

「あの日って……私の家に来た時よね。 あの時だと……昔の事を忘れてたこととか病院に行ったとかよね」

 シャルロッテが思い返しながらハンスに確認していた。

「はい、それとかあさまに伝えていたことですね」

 ハンスの表情がだんだんと暗くなっていく。

「『カルラとハンスを頼む』って言ってたことよね。……アルマさんとあんな形で会いたくなかったわ」

 ハンスにつられてシャルロッテも表情が暗くなる。


 その雰囲気に耐え切れなくなったテオが割って入る。

「あの! まだ死んだという情報は出ていませんしどこかで生きてますよ、きっと。だってあの人はただのモンスターにやられるとは思えません」

「そうね……私達もできることをやるしかありませんの……」

「探していれば、いずれ会えると思いたいですね……」

 あまり雰囲気が変わらなかったことで頭を掻きむしっているテオがさらに話を切り出した。

「そういえば、確か卒業生は最後の模擬試合があるんでしたっけ。3人で見に行きませんか?!」

 2人を誘うテオであったが、シャルロッテが冷たい視線で返していた。

「もう終わってるわ。外見て」

 そう言われて外を見たテオは驚いていた。

「あれ?! もう夕方……」

 外はすでに陽の光が傾き、辺りが赤く染まり始めていた。

「はぁ……僕はもう部屋に帰ります……」

 肩を落としたテオが自分の部屋へと帰っていった。


 *****


 翌日、荷馬車で待っていたテオは少し顔が強張っていた。

「はぁ……昨日は暗い雰囲気でしたが、大丈夫でしょうか」

 しばらく待っていると、ハンスとシャルロッテが合流した。

「おまたせテオ。……私達は大丈夫だから」

 テオの顔をみたシャルロッテが曖昧な笑顔で大丈夫だと伝えていた。

「あそこまで怒った姉さんは初めてです……」

 ハンスは別の意味で落ち込んでいた。

「仕方ないよ、ハンスさん。カルラさんも同じ気持ちでしょうし……」

「僕ばかり落ち込んでいられませんね」

 テオの言葉を受けたハンスが姿勢を正していた。


 荷物の確認をしてしばらく待っていると、荷物を抱えて駆け寄ってくる2つの影が見えた。

「おまたせ! ハンス、ここに荷物はおけばいい?」

「はい、そこでいいですよ。姉さん」

「ローマンさんはいませんのね」

「出発してから話すわ」

 荷物を積み込み、テオが引く荷馬車が歩み始める。


 全員の定位置が決まったことで、さっそくカルラが内容を話し始めた。

「今回の仕事では、まずローマンさんは同行しない。なので私達で何とかしなければいけないということよ。依頼内容は、このモンスターの駆除よ」

 そう言いながらカルラがカバンの中から一枚の紙を取り出した。

 その紙を見たハンスとシャルロッテは奇妙な顔をしていた。

 するとカルラの隣にいるミアが笑いながら話に入ってきた。

「ふふ……それね、私達も最初見たとき驚いたよ。でもこれが実際に被害を出しているらしいのよ」

「てっきり、魚みたいな形をしていると思っていましたわ……」

「僕もです」

 そう3人が話しているうちに、新たに取り出した1枚の紙をカルラが聞きなれない言葉に詰まりながらも読み上げ始めた。

「えぇっとね……昔に生息していたハエトリグサ……?と呼ばれてる植物に似ており、挟み込むように得物をとらえている。ただ、元々は食虫……植物?のため、なぜ海で船を襲っているかは不明とのことだって。学園長が学者って人に頼んで調べてもらったらしいわ」

 その紙にも絵が描かれており、見比べれるように2枚を並べて床に置く。

「確かに似ていますね。でも葉?の部分が海にいるやつは、トゲに向かって筋以外は穴が開いてます」

「まぁ海に適応したんじゃない? これ以上は実際に見てみないとわからないわ」

 ハンスが海のモンスターの絵を指して、なぞる様に動かしている。それを聞いていたカルラが適当に答えていた。


 しばらく2枚の絵について話し合っていた。


 *****


 街道を通り、王都を半周して、北東へと進むと、街道の周りは田園風景へと変わっていく。

 その風景をハンスは身を乗り出して見渡していると、気になったミアが声を掛ける。

「ハンス君、初めて見たの?」

「はい、こちら側に来たことがなかったです。とおさまの捜索もテオさんがこの辺りはしてましたし……」

「そうなのね。じゃあここに植えているのは何だと思う?」

 物珍しそうに見ているハンスにミアが自慢げに質問をしてきた。

「えぇっと……これは麦……ですか?」

「そうそう! 小麦なの。パンを作ったりするのに使うやつ!」

 正解したハンスより嬉しそうにしていたミアにハンスが呟く。

「まだ、収穫するには早そうですね」

「そうね、後2か月ほどしたら収穫の時期じゃないかなぁ」

 畑の様子をみてミアが答える。

「詳しいですね、ミアさん」

「まぁ、この先の街の生まれだからね。それとこれぐらい知ってるものよね、カルラちゃん?」

 ミアの問いかけにカルラは顔を反らしていた。

「そ、そうね……」


 そんな他愛のない話をしていると、辺りが暗くなり始めた頃、ついに街へとたどり着く。


 荷馬車を預け、ミアに案内されるがまま、大きな建物へとやってきた。

 中へ入ると、食事をする男性と話をしていた、茶色い髪をした中年の女性がハンス達に気づいて挨拶をしていた。

「いらっしゃい……今日は――って、ミアじゃない!」

 途中でミアに気づいて慌てて近寄ってきた。

「かあさん、まだフードも取ってないのによくわかったね」

 ミアの問いかけに自信満々に母親が返す。

「そりゃあ、自分の子だもの。 すぐわかるわ!」

 照れくさそうにフードから顔を出しているとミアの母親がハンス達を見てミアに問いかける。

「それで……今日は帰ってきただけじゃないよね?」

「そうなの、5人泊まれないかな?」

「待ってね、空いてるか見てくるから」

 そう言って部屋の空きを確認するためにカウンターへと向かう。


 しばらくして帰ってきたミアの母親が困った表情をしてミアへと告げる。

「2つの部屋が空いてるわ。でも両方2人部屋なのよね……」

 ミアが、ハンスとシャルロッテへと視線を送る。

 その様子を見た2人が顔を見合わせ、シャルロッテが答える。

「私達はそれでいいわ」

「かあさん、2つで大丈夫だよ」

 申し訳なさそうにミアに鍵を2つ手渡す。その際、ミアの母親が話ができないかと尋ねてきた。

「そうね……、夕食後とかでもいいかな?」

「それで十分よ。学園での事、聞かせてね」

 そう言って、食事をしていた男性の元へと戻っていった。


「さ、部屋へ行きましょ」

 先導するようにミアが階段を上る。

 2階へとたどり着くと、ミアが立ち止まって鍵を見ていた。

 後ろに付いていたカルラが不意に立ち止まるミアを覗き込むように問いかける。

「どうしたの? ミア」

「部屋の場所……この階の両端みたい。だから1つ、ハンス君に渡しとくね」

 ミアがハンスへと鍵を渡すと、ミアとカルラは自分達の部屋へと向かっていった。

「僕達も部屋に行きましょうか」

 ハンス達も自分達の部屋に向けて進んでいると背後から声が聞こえてきた。

「部屋に荷物を置いたら1階に集合ね!」

「分かりました!」

 振り向いてハンスが答えると、伝わったのを確認するとミアは、背を向けて歩き始める。


「ここですね」

 端の部屋に着いたハンスが鍵を使って部屋へと入る。そこには、2人部屋というだけあって、2つのベットが置かれており、2人掛けの机と椅子も置かれていた。


「テオは、どっちで寝たい?奥か手前か」

 部屋の様子を見たシャルロッテがテオにどっちで寝たいかを尋ねていた。

「じゃあ、手前のベットにします」

 興味なさそうにテオが答えて、扉に近いベットの隣へと荷物を下ろす。

 ハンスとシャルロッテも奥のベットの隣へと荷物を下ろすと、3人は1階へと向かう。


 ハンス達は1階に降りて見渡していると、ミア達の姿は見当たらなかった。

 3人でどうしようか話し合っていると、ミアの母親が気づいて声を掛けてきた。

「貴方達はミアが連れていた子達よね?」

 ハンスが頷くと、話を続ける。

「今夕食の準備をしてるところなのよ……、だからここで待っていてもらえないかな?」

 そう言って案内された先は、丸いテーブルに5つの椅子が囲うように置かれていた。

「ありがとうございます。えぇっと……」

「エマよ、エマ・カペル」

 ハンスがお礼を述べようとしているとエマが名乗る。

「エマさん、ありがとうございます」

 改めて礼を言いなおす。

「気にしないで、遅れてくる子達にも伝えておいてね」

 そう言い残して食事の準備へと戻っていった。


 しばらくしてミアとカルラが階段を話しながら降りてきた。

「明日の朝は起こそうか? それとも自分で起きる?」

「明日は絶対に自分で起きるからね!」

「ほんとかなぁ」

 心配そうなミアを他所に力強く答えるカルラが、ハンス達を見つけ、歩み寄る。

「あれ? 料理はまだなんだね」

 後からついてきたミアが先に来ていたハンス達に問うと、ハンスがエマから聞いたことを伝える。

「そっか、座って待ってよっか」

 ミアとカルラも椅子へと腰かける。これで5人が向き合うような形で座ったことになる。


 明日について話し合いながら運ばれてきた料理を平らげ、明日の準備を向けてミア以外の4人は部屋へと戻る。


 1階に残ったミアは、食べ終えた皿を片付けながら、感慨に耽っていた。

「昔、こうやって一緒に片付けてたなぁ」

 そう呟くミアに一緒に片付けていたエマが、昔のことを思い出していた。

「そうねぇ、あの頃は手伝ってくれるのは良いんだけど、危なっかしくてねぇ……」

 それを聞いたミアは、恥ずかしそうに口を尖らせて抗議している。

「むぅ、あの時はあれでも必死だったんだよ?」

「ふふ、いつ皿を落とすか気になって気になって……」

 和やかな雰囲気の中、ミアは1階に人の気配がなくなるまで手伝っていた。

 ひと段落着いたエマとミアは、カップを片手に空いてる席へと腰かけ、エマが学園でのことを聞いてきた。

「それで、学園はどうだった? 心配してたんだよ、私はここを離れられないからね」

「ごめんね、かあさん。手紙とか出せてなくて……書こうと思っても何書いたらいいかわからなかったの」

 そう話しながらカップに入った飲み物を眺めている。

「まぁ、こうして元気な姿を見れただけで十分よ。楽しかった?」

「もちろん! 今日来てる子達に会ってからは特にね」

 それからは、学園での出来事を楽し気に語り続ける。それを聞いているエマは相槌を打ちながら楽しそうに話すミアを見て胸をなでおろしていた。


「それでね、街に大量のモンスターが来た時はね―――」

「待って、ミア」

 新たな話を始めようとしたときにエマから静止が入る。

「どうしたの? かあさん」

「明日も仕事があるんでしょ? 寝なくて大丈夫?」

 ふと我に返ってミアが慌てて椅子から立ち上がる。

「そうだった! でも……」

 名残惜しそうに椅子に座ろうとしている姿を見たエマが頭を横に振る。

「今日はここまでにしましょ。 次の機会にまた続きを聞かせてね」

「……わかった、かあさん。 帰りにもここに泊まるから! その時にまたこうして話してもいい?」

 間をおいて答えたミアが帰りにも止まることを決めて、約束を取り付けようとしている。

「そうねぇ、いつここに来るか手紙を出してね。そしたら部屋をちゃんと用意するから」

「うん、帰ることが決まったら手紙を出すね! じゃあおやすみ!」

「おやすみ、ミア」

 手紙を出す約束をして急いで部屋へと戻ろうとしている背中にエマが返す。


 *****


 翌朝、先に朝食を食べ終えたハンス達3人が、預けていた荷馬車を受け取り宿の前へと運び、自分達の荷物を積んでいる。


「珍しいですわね、ミアさんが遅れるなんて……」

 ミアがいないことを不思議に思ったシャルロッテが呟くと、ハンスがそれに答えた。

「久しぶりに帰ってきたみたいですし、積もる話でもあったんでしょう」

「それもそうね、私達が外にいるのがおかしいんですもの……」

 本来、学園の生徒となっている場合は、例外を除いて、学園とその前にある街以外に出歩くことは禁止されている。


 荷馬車に乗り込んで待っていると、2人が出てくるのが見えた。

 いつもとは逆にミアが眠たげにしており、カルラは得意げにミアを先導していた。

「今日はちゃんと起きれてたでしょ?」

「そうね……いつもそれでお願い」

「えぇ! ここは褒める所じゃないの?!」

 ミアが力ない声で返した言葉にカルラは、驚いて肩を落とす。


 振り返って全員が乗り込んだことを確認するテオが、ミアに出発していいかを尋ねる。

「全員乗りましたね。……ミアさん、その、エマさんに挨拶とかは……?」

 ミアは頭を横に振り、晴れない表情のままテオに礼を述べる。

「出発していいよ、朝は忙しそうだったし。 ありがとう、テオ君」

「そう……ですか。 では、出発しますね」

 ミアの表情が気にはなるものの、これ以上かける言葉が思いつかず、出発することを全員に伝えると、姿勢を戻し馬に鞭を打ち、ゆっくりと荷馬車は動き始める。


 *****


 荷馬車に揺られ、しばらくたった頃、4人は思い思いのことをしていた。

 ミアは、ウトウトして眠気に襲われていたり、カルラ、テオ、シャルロッテは、楽し気に話をしている。

 そんな中、ハンスは、荷馬車から顔を出して、外を眺めていた。

(ここから見るといつもと違う感じに見えるんですね)

 ハンスの視線の先には、大きな山が見えており、尾根を境目に左右で大きく形を変えていた。

 この山は、北の森の東から王都と港の間へと、尾根が伸びていて、ハンスが普段見ていた内陸側の斜面は切り立つように岩肌を見せているのに対し、海側の斜面は、なだらかで草木が生い茂っていた。


 しばらく眺めていると、シャルロッテが顔を出してハンスが見ていた方向を向いて何を見ているのかと尋ねてきた。

「何を見ているんですの?」

「あの山を見てました」

 ハンスが山を指さして伝えるとシャルロッテも山を見つめていた。

「あの山がどうしたんですの?」

「ただ見てただけですよ、シャルさん」

「ふーん」

 そう言いながらシャルロッテはそのまま一緒に眺めていた。


 のんびりとした時間が流れ、ついに目的地となる港へとたどり着く。

「やっと……着きましたよ」

疲れた様子のテオが到着を知らせる。


荷馬車を預け、港を見渡すと、海には船が何隻か止められており、そこから段々と建物が建ち並んでいた。

ひと際目立つのは、海に隣接した大きな建物があったことであった。

「さぁ、まずは宿をさがそっか」

ミアがそう言うと、ハンス達は宿を探して歩き出す。


宿を見つけ、荷物を置き、港で聞き込みを始める。

「広いし二手に分かれた方がよさそうね」

カルラが提案するとミアがテオを捕まえて歩みだした。

「じゃあ、私はテオ君とあっちに行くね」

「そう、私達はこっちをいこうね」

ハンスとシャルロッテに伝えてカルラ達も歩き始める。

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