#1 新たな世界の始まり
「星空がきれいね……」
女性が空を見ながらつぶやいていた。
そうすると隣にいた男性が女性を見て話しかけていた。
「今日はこれを渡したくてここに来たんだ」
意を決した表情で小さな箱を取り出して女性に見せようとしていたが、
女性は目を凝らして何かを見ていた。
「何あれ」
女性は空から目を離さずに空を指していた。
「……?」
男性は戸惑いながらも、指さす先へ視線を向ける。
その先には、何かが赤い尾を引いて落ちてきているのが見えた。
「あの大きさなら落ちてきても何も起きないよ……、だからこっちを見てほしいな」
男性は小さな箱を渡したくて仕方がない様子だった。
少しして女性も納得したのかうなずくと男性へ視線を向けた。
「前から君に渡そうと思っていたんだ」
小さな箱を開けて中身を女性へ向ける。すると女性は、驚いたかと思うと、涙を流しながら微笑んでいた。
「ついに……渡してくれるのね……指にはめてくれるかしら?」
「わかった」
箱から指輪を取り出し、差し出された手を支えて、左手の薬指へを指輪をはめた。
「ありがとう……これからも一緒に暮らしていけるのね……」
大事そうに指輪のついた手を胸元で反対の手でさすっていると、男性が優しく包みこむ。
「あぁ……これからも一緒さ……ん?」
答えつつふと落ちていたものが目に入った。
本来なら、すぐにでも燃えてなくなりそうな大きさなはずだが何かがおかしい。
燃え尽きずにずっと落ちてきているのである。
「まだ落ちてきてる……」
「そうなの?」
女性は、男性の腕から離れて空をみた。
落ちてきたものは、地面と接触するまでそう時間が掛からなさそうだった。
「何があるか分からないここから離れよう」
男性がそう言うと、女性を先導しながら止めてあった車へを向かう。
車に乗り込んで出発の準備をしているさなか、一瞬光ったかと思うと轟音と共に車が吹き飛ばされた。
「うわっ」
「きゃああああああ」
吹き飛ばされた車の中から一瞬見えた景色は異常な光景だった。
建物は吹き飛び、山は削れ、大きな地面の壁が落ちてきたものの方角にできていた。
吹き飛ばされた車は原型がなくなるほどの勢いで激突し、後から来た木や岩が追い打ちをかけていた。
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その日、世界は大きく変わった。
クレーターがある大陸(ヴァスト大陸)は形が変わり、文明が崩壊するほどの被害を負い、周辺の島や隣の大陸にも少なくない被害が及んでいた。
数日後、今までに見たことのないような怪物や、動物に似て非なるものの姿が現れ始めた。
後にそれらは怪物と呼ばれ、お互いに争ったり、人を襲ったりと凶暴性が目立つ存在であり、そんなモンスターに襲われる人々は、駆逐されるかと思われていた・・・
人々にも変化があった。
そのころの人々は意識していたかどうかは怪しいが、反撃するだけの力があり、元々いた生物(人間を含む)は、魔力が生産できるようになっていた。
魔力を使う方法は、シンプルにイメージした内容を反映して、世界に発現するというものだ。
そのため、身体能力向上を無意識的に使っていたことにより、モンスターによる被害は少なくモンスターを狩り食すことで、飢えからも離れつつあった。
後に大変革が起きた出来事をもとに新たに暦をつけることにした。
その暦の名を「降星暦」と―――
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年月が流れていくごとに人々は増え、人々で争えるほどの余裕が生まれ始めた。
争いが落ち着き大きく三つの国ができたころには、すでに300年の年月が流れていた。
国の名をウェスタン王国、イースタン王国、サザン共和国としそれぞれの領地を安定させることに注力していた。
そして年月が過ぎ安定してくると、大陸中央にあるクレーターに興味を持ち、元々禁忌として扱い、近寄らないようにしていたが、好奇心には勝てなかった。
クレーターの壁の周りにはモンスターが多く住み、壁は高く登りきるのに五日ほど要するが、サザン共和国が一足先にクレーター内部へ踏み出し、内部の光景を目の当たりにする。
そこには、歪ながらも神秘的な植物がクレーターの壁よりも高く聳え立っている。そのことに人々は驚愕し少しの間立ち尽くしていたが、使命を思い出しクレーターの内側に降りていく。
だが、この情報はサザン共和国に持ち帰ることが叶わなかった。
内部に降りたものと一部でも報告するために帰ったものがいたが、それぞれ行方不明となったためだ。
数日後、クレーターの壁を越えてくるモンスターが、各国で確認された。
そのモンスターは強力で各国共に深刻なダメージを負うこととなった。
降星暦400年
先の事態を重くみた各国は協議を行い、狩り、採取、調査などの依頼をクエストとして請け負う組織「ギルド」を結成した。
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降星暦500年
後に魔力の探究者となるものがアルカーバー家に生まれたのだった―――