抹茶色
夜を鬱陶しく照らす満月は所在なさげだった。
もう九月になるというのに夜は蒸し暑く夜風は二人の体にまとわりついた。
暑くなるからと言ったのに手を繋ぐ彼女は心地よさそうに髪をなびかせている。彼女の左手にはさっきコンビニで買ったアイスを入れたビニール袋が握られている。
「月が綺麗だね」
彼女はそう言いて得意そうにこちらを向く。
「どっかの文豪かよ」僕がそういうと彼女は何だ知っていたのかと言いたげに頬を膨らませ視線を落とす。
昼間の灼熱に耐えたアスファルトは景色に溶け込みこの時間が自分たちの見せ場と知っているように堂々としていた。
家につき二人は手を離しそれぞれの時間に耽る。彼女は買ってきたアイスの袋を破り玩具箱から取り出すように慎重にアイスを取り出していた。
「ねぇあたしが今、君を殺したら貴方はあたしを好きなままよね」
読みかけの本を読んでいた僕はページをめくろうとする手を止め、彼女の方を見る。
彼女はいつの間にかアイスを食べ終わりこちらをまっすぐ見ている。エアコンの室外機の音が響くほど二人の沈黙は長かった。
「そうだね」と僕は言い再び本に目線を戻す。味気ない返事に驚いたのか彼女は黙ったままだった。
「殺した人のこと好きなままなの」
彼女は寒そうに身を寄せて訪ねてきた。
「そうだね。僕は君になら殺されてもいいよ。なんだか綺麗にしてくれそうだしね」
「なにそれ」
彼女は笑った。舌が抹茶色に染まっていた。それがおかしくて僕も笑った。
彼女は不安そうだった。
なんだか思い通りに書けませんでした。自分の文章の拙さが身に染みた作品でした。