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My answer 〜周回する者の導き〜  作者: 素想、草奏
2/9

渦の中の恐怖…


バンバンッ!バンバンッ!

ザァーーーーーーーーーー…。



大きな太鼓が一定のリズムで響いている。

その音と共に滝のような音がずっと聞こえる。


光は無く何も見えないが、先程までの暗闇とは違う。


憂鬱さ後悔などは無くなり、少し高揚している。

感覚はまだはっきりしないが、

体が丸まっているのはなんとなくわかる。


何かに包まれてるような、締め付けられてるような……

それでもなぜかずっと生暖かく心地よい。

光も無く、真っ暗なのに不思議と不安はない。

死後の世界では何もないと聞いていたが、

きっとこういうことだったのか。


意識が消え、そして意識が戻ると緩く締め付けられる。

止む事なく続く太鼓の音。

流れ続ける滝のような音。

ずっとそれだけを繰り返す世界。

私の生きてきた84年間を少しずつ忘れていく。


どれほどたったのか?

変わらなくずっと暖かく…優しく…。

恐怖も無く、真っ白な爽快感を感じている。

全てが晴れていくような空を連想する。

私の穢れが剥がれ落ちて光が差すように…


〝心地よい…

心地よい…

心地よい……〟


経験したことない癒し…。


トン…トン…トントン…


下の方から太鼓とは違う振動を感じる。

私の足の感覚が蘇ってくる。

何とも表現できない嬉しさ、喜びと共に今度はもっとはっきりと感じる。


トン…トン…トン…

さわ…さわ…


ん?


無いはずの感覚で、とても懐かしく思えるような感触を体で感じる。

なんだろう…音も聞こえる…

時々、凄く揺れる事もある。

だんだん、だんだんとその感覚がはっきりとしていく。


〝間違いなく私は何かに触れている…〟


とても…とても心地よい。


〝心地よい…

心地よい…

心地よい……〟


とっても安心できる場所。


ジャジャジャジャーン♬

たたたーん♪たたたーん♪


とても低い音でよくわからないが、音楽と認識できる音が遠くで聞こえる。


トン…トン…トン…

さわ…さわ…


その音楽に合わせてずっと私を撫でてくれている。吸い込まれそうになるような安堵。


そしていつも聞こえる優しくて嬉しくなる声が、

はっきりと私に向かって話しかけてくる。


「もう…会えるのね………楽しみよ…

 私の……子…愛してるわ…」


鈍い声で聞き取りにくいが何度も同じ言葉を言っている


他にもこちらに向かって話してくれるが声が低くて何を言ってるかよく聞き取れない。

というより理解できなかったのかもしれない。

しかし、長く私に向けてこんな優しい声をかけてくれる人は居なかった。

私に向かって話しかけてくれるその優しい声が、私はとても好きになっている。



バンバンッ!バンバンッ!バンバンッ!

ザァーーーーーーーーー………。


相変わらず凄い音はしてる。

恐怖は感じない。

それよりも、大人しくしていられないほどの興奮を感じる。

手の感覚もぼんやりある。

私のいる空間を押してみると広がるのを感じる。

楽しくなって足で押してみるともっと広がって感じた。

私が足を伸ばすと、私の好きな声は喜んでいつもよりもたくさん撫でてくれた。

私はそれがとても嬉しい。


どれほどの間私は微睡んでいたのだろう。

とても長い間、私は包まれていた。

優しく、暖かく、渦の中の恐怖を忘れてしまうほど安堵できるところにいた。

ほとんど消えてしまった昔の私。

私が一度終わった日の事は微かに覚えている。

その日はとても悲しかったという事だけ…。

しかしそんな事もどうでも良くなるこの癒しの世界。


だが、ずっと続くと思った癒しの世界が突然襲ってきた…


いつも優しく包み込むようだった体の拘束が、

まとわりついてなんだか苦しくなってきた。

私はもがいてもがいて逆さまになっている。

頭に血が上って苦しくてじっとしていられない。

また暗闇の渦の中の恐怖が蘇る。

怖くて、不安が押し寄せる。


バンバンバンバンバンバンバン!!

ゴォォーーーーーーーーーーーー!!


いつもより凄い音がしている。


「大丈夫よ!心配しないで!」


私に話しかけてくれているのか?

いつも優しく話しかけてくれる私の大好きな低い声が震えている。何か良くない事が起こっている。


振動が何度も襲ってきて怖いほど揺れる。

そして私を押しつぶそうとすごい力がかかる。

顔と頭が潰れそうだ…結局私はまた消えてしまうのか…

また死んでしまうのか…

不安の中で意識が遠のいていく…。



すると突然、全く聞いたことの無い声だが、すごく沁みてくる声で体全体に話しかけてくる。


「あなたの生き方は評価されました。

あなたは門をくぐりました。

もう一周まわり、前回より良い評価になる生き方をしてください。

あなたの記憶は新しい脳に全てバックアップ済みです。もう一周生きてください。」


そして続けてこう言います。


「素晴らしい生き方だけが良い評価の全てではありませんが、しっかりとあなたの持っている〝輪〟をもう一度繋げてみてください。

私たちはたくさんの〝輪〟を知るために、

存在する輪を知る必要があります。

あなたの〝輪〟を見つけてください。


全ての人が人生を周回するわけではありません。

その為3つあなたの生き方を制限します。


1、前世の近しい人間とは交流しない

2、周回している事を公表しない。

3、前世の記憶を他言しない。


それ以外は自由です。

ただし、制限を破った時点であなたの存在は真実の"無"になります。

存在が渦巻く中へ還ります。以上です。」


言葉が終わった途端、意識が私に戻る。


〝ぎゅーーっ!

ぎゅーっ!

ぎゅーーっ!?〟


強く押されて頭が潰れてしまいそうになる。


私の大好きな声が叫び声をあげた。


〝ぎゅーーっっ!!!〟


潰れてしまいそうなほど押さえつけられる!



!!ぎゅるんっ!!



一番すごい衝撃で私の体が外に出る。



オギャー、オギャー!


お腹からすごい声が出た。

そのあとは何にも覚えてない。



1歳になった。


眩しくてとても大きな世界…

母と父と私だけの世界…

期待や高揚が溢れる世界…

それでも消えない渦の中の恐怖…


孤独を感じると、渦の中の恐怖を思い出して耐えられなくなる…堪らなくて泣く私。

泣くとすぐに駆けつけてくれる優しい母。

とても優しい声と大好きな甘い匂いがする。

渦の中の恐怖を少しずつ忘れていく…。


だが、あの〝沁みてくる声〟の記憶は、不思議とその後もずっと私の記憶に残っている。


その日、

母はなんだか嬉しそうに鼻歌を歌いながら料理してる。

外が暗くなって父が帰ってきた。

玄関に向かった母を追いかけてハイハイしていると、父がかけつけて私を抱き上げ、先にリビングに向かった母を追いかけた。


母と父がとても嬉しそうに私の前で歌っている。

父がプレゼントでケーキを買ってきてくれた。

昔は好きではなかったケーキに私は夢中になった。

たくさん写真を撮りながら両親が喜んでいる。

何が起こっているのか今の私にはわからないけど、両親が喜んでいる姿が私も嬉しくなって私もクリームまみれになって声を出してはしゃぐ。

すると父が私を抱き上げ、母がその姿を写真に撮った。私の初めてのバースデー。



2歳になった


言葉も少し覚えて声で遊ぶのが好きで、いつもテレビや両親の言葉を真似して歌いながら遊んでいた為、最初に買ってもらったプレゼントはマイクのオモチャだった。


行動範囲が広がった。家の中なら一人で探検できるようになり、あちこち散らかしてまわった。

そんな私は母に〝小さな恐竜〟と呼ばれていた。

それでも変わらず優しくて、大好きな母の声。

この時の私は、父より母の方が大好きだった気がする。

時々遊びに来るおばあちゃんは、いつも何かくれるから好きだった。

家の近くの公民館に住んでて、子供達に公文式を教えてる。

おばあちゃんがやってる公民館の公文式に通いだしたのもこの頃だった。


前世を何も覚えていない私は、普通の子供と同じように学び、大きくなっていった。

この時の私はただの子供で、のんびり続くと思っていた日常が突然変わるとは思ってもみなかった。


それは3歳の誕生日だった。


この日、楽しみにしていた3回目のバースデーがはじまった。両親は隠しているが、今日が誕生日なのを私は覚えていた。普通の子供なら我慢できずに騒ぎ立てるイベントなのに、私は気付いてないフリをした。

後に考えるとこの時から少し変化していたのかもしれない。

普段よりも機嫌よく家事をこなす母を横目に、アニメを見ながら父の帰りを待つ。


〝ガチャ〟


今年も空が暗くなって父がケーキを買って帰ってきた。

言葉を覚えて少し話せるようになった私は、走って玄関に向かい父に誕生日プレゼントをせがむ。

玄関で頭をグシャグシャとなでて


〝ご飯を食べてからのお楽しみだ〟


と言って私を抱き上げる父。

父に抱えられながらリビングに入ると、美味しそうな匂いとテーブルに並ぶご馳走をみて納得する私。

音が鳴る私専用の椅子に座り、目の前のご馳走は全て平らげた。

幸せな食事が終わってお待ちかね、ケーキのご登場です!


〝ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♬ハッピバースデーディア……♪


母も父も満面の笑みで私を見ながら歌ってくれている。

私は2人の視線を感じながら思いっきり息を吸って、


〝ふぅーっっ!!〟


吸った息をすぼめた唇から力一杯吐き出して

3本のローソクを消した。

その瞬間、、


!!!ゴーン!!!


頭の中を除夜の鐘のような音が振動させる。


[顔を隠してかがみ込む私の中に記憶が蘇る]


大部分思い出せないが、戻った自分の記憶とこの3年間の母や父の優しさがリンクする。

とてもいい親に恵まれた事がわかって涙が出てきた。

言うのもなんだが、心から幸せな家庭である。

お祝いが嬉しくて泣いてると思った母が苦しいほど抱きしめてくる。苦しいけど、母の優しさや温もりにとても安堵する。


〝喜ぶのはまだ早いぞ!〟


そう言って父は用意してくれていたプレゼントを持ってきた。私の頭を優しく撫でながら、


〝誕生日、おめでとう〟


私がプレゼントを開けるまで、まるで自分のことの様に一緒にワクワクした顔で私の様子を眺めてる。恥ずかしいけど、父の温もりや優しさにとても高揚する。

この両親の元に生まれて良かった。

その日の夜は母と寝るのがなんだか照れくさかったが、しっかり抱きついて寝た。


次の日の朝、目が覚めて母を探しにリビングに行くと、記憶が戻った事で私の見える世界が広がって感じた。

今までとても広く感じていた部屋が、急に狭くなった気がする。

そして異常に好奇心が増し、知識欲がおさえられない。

記憶が戻ってからの日常は、知識が身につくにつれて子供らしくない子供だなと感じ、子供にしては無邪気さが薄いと自分で感じる時があった。


わたしの記憶も完全に復活したわけではなく、まだ全てでは無い。

なんとなく20代前半くらい…三分の一ほどの前世の記憶があるようだった。

その中でも体全体に話しかけてきたあの染みるような声の記憶だけはしっかりと頭に残ってる。

それと〝渦の中〟のはっきりとした恐怖…


この頃の私は、詳しくは思い出せないが前世の最後がとても孤独を感じていた事を思い出して、孤独で不安になる夜が多くなっていた。


もうあの〝渦の中〟には戻りたくない…。


そんな夜は必ず父と母の間で眠る。

今夜は父の腕枕で眠った。

母は私が眠るまでずっと〝トントン〟してくれいた。



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