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天国と地獄 その四


「ぶがぁっ!?」


 俺が蹴り飛ばしたスキンヘッドが壁に叩きつけられる。

 なんだ、こいつ外見と態度だけで全然大したことねぇじゃねぇか。


「かはっ……くっそぉ……この“殺人蜂”の岳様がぁっ……!?」


 ……蜂ぃ?

 何だかしょぼい二つ名だな、おい。


「お、覚えてろ……麒麟塚……俺は、必ず……お前らを……」


 うわぁ、絵に描いたような三流の台詞。

 心得てんのか、天然なのか……天然だったら国を挙げて保護すべき、人間国宝級の雑魚キャラだな、うんうん。

 しかし、雑魚相手だからって、俺はそこで決め台詞を欠かさねぇ。

 なんたって、スターの星の下に生まれついた俺様だ、台詞なんて湯水のように溢れてくるぜ。


「あぁ安心しな、蜂野郎。ちゃあんと覚えといてやるよ……」


 俺の言葉に満足したのか、ハゲ蜂の血に塗れた顔がふてぶてしい笑みに歪んだ。

 ふん、マゾがっ!


「――次に額に蜂の刺青入れた糞野郎を見たら、必ず今より酷い目に遭わしてやる……ちゃあんと記憶したぜ?」

「ひっ……!」


 決まった……。

 一日振りに麒麟塚肇語録が更新されるぜ……。

 俺の言葉に一気に青ざめるハゲ蜂。

 前歯の欠けた口が陸に打ち上げられた魚みたいにぱくぱくと開かれ、目が泳いでいやがる。


「あ、あ、あ……」

「んー、どした?」

「わ、わわわ……」

「WA?」

「わ、忘れてくださって結構ですぅぅぅぅ!!」


 ハゲ蜂は一気に顔をくしゃくしゃにして泣き出すと、弾かれたように逃げ出した。

 ハゲ蜂がいた場所には血以外の水たまりだけが残されていた。


「くくく……馬鹿め!この俺様がこの世に君臨した時点で、貴様に勝利を掴む機会は永劫に失われていたのだ!はーはっはっはっはぁっ!」


 あぁ、なんて気分がいい!ざまぁみろ!

 この事実は、四・九事件、別名“迷惑害虫駆除事件”として、未来永劫民衆によって語り継がれることになるのだぁっ!


「はーっはっはっはっ……っ!?」


 がくん、と膝が抜けた。そのまま両膝とも地に着けてしまう。

 やべぇ……まだ鷲村との戦いのダメージが抜けてないのか……不覚。

 今まで忘れていた全身の痛みが津波のように押し寄せた。思わず目尻に涙が、きらり。

 ま、負けない……だって男の子だもん……!

 って、洒落にならねぇ痛みだな……視界が霞んできやがった。


「はじめ!」


 ん、誰かが俺に駆け寄ってくる……?


「はじめ君!」

「はじめちゃん……!」

「はじめさぁぁん!」

「ひ、ヒロ……マッシー、ユキヒロ、それにこーちゃんじゃねぇか」


 砂漠のところへ下ったはずの愚連隊のみんなが俺に駆け寄り、俺を支えていた。みな晴れやかな笑顔で俺の肩を抱き、俺へ話しかけてきた。


「やっぱお前はすげーよ、はじめ!」

「あぁ、こんなボロボロになってまで……やることが違うぜ!」

「やっぱり男ね……やきもきさせるわ」

「はじめさぁぁん!漢っすぅぅ、漢の中の漢っすぅぅ!!」


 そうか、こいつらみんな今までのこと見てやがったのか……。


「おいおい、こーちゃん、泣くなよ〜」

「だ、だって、はじめさんが漢でぇ……」

「はいはい、そこまで。今は、ちゃんとはじめちゃんのことを誉めてあげなきゃ」

「そうだな、やっぱりはじめは頑張ったよ」

「あぁ、最高にロックしてたぜ」

「じゃあ、みんなでいつものアレ……やりましょうか?」

「そっすね!びしっと決めましょう!」

「……お前ら」

「へへ、水臭いことは言いっこなしだぜ?」

「そーそ」

「さぁ、行くわよ!」


 みんなが一斉に両手を空へと突き上げる。

 みんなの顔を見回し、ヒロが声を張り上げた。


「麒麟塚愚連隊ッ……」

『万歳!万歳!万歳!』


 暗い路地に男たちの声が共鳴し、響き渡る。

 喧嘩に勝った後は、いつもみんなで必ずこれをやった。

 俺が片思いだった子に振られたときもヤケクソでやったし、みんなで同じ学校を受験して合格通知が届いたときもやったよな……俺だけ落ちたけど。

 ヒロが惚けている俺の顔を見て、にかと笑った。俺だけにしか見せない、親友の笑顔だ。


「……ヒロ」

「へへ……何だよ、じっと俺の顔見やがって……照れるじゃね――」










「――おらぁっ!」

「へぶっ!?」


 殴った。思いっきり、遠慮も手加減もなく。

 ヒロは理解できていない様子で頬を抑えながら俺と俺の拳を交互に見つめていた。


「な、なんで……」

「……それは俺の台詞だわ、ヒロ。

 今更どの面下げてのこのこ現れやがったんだ、この尻軽共がっ!

 麒麟塚愚連隊万歳だぁ?ふっざけんな!

 いっぺん寝返っといて何を抜け抜け宣いやがるか、この口はぁ?」

「いひゃい、いひゃいって!?」

「止めろ、はじめ君!」

「お、落ち着いて!はじめちゃん、冷静になって!自分を取り戻して!」

「は、はじめさん!額から血が、血が吹き出てるっす!」


 く、また視界が真っ赤になっちまった……。

 しかし、こんなもんじゃ俺の怒りは全然収まらねぇっ!


「お前らも、お前らだ!

 どいつもこいつもハイル麒麟塚だったくせに、簡単にあの女に乗り換えやがって!」

「し、仕方なかったんだよ!その場の勢いというか……己のリビドーに従ったというか……」

「や、やっぱり女としては美しいものに惹かれちゃうのよ……」

「美少女っすから!パンチラっすから!」

「やっかましい!なんだ、結局全員色欲に流されやがって!友情はどうした!誓いはどうした!

 あと、ユキヒロ!お前男だろうが!

 こーちゃんもパンチラなんて熱くシャウトしてんじゃねぇよ!」

「やん、そこは言っちゃダメよ〜」

「す、すんません!」


 謝って許されるくらいならこの麒麟塚肇様はいらないんだよ!


「うぉー!離せぇ!この軟弱者を叩きのめしてやるぅぅっ!」

「はじめ、止めろ!なんかもう出血量がヤバいから!殴られそうなのにも関わらず、お前の心配してる俺を察しろ!」

「うがぁぁっ!離せぇぇぇぇっ!

 っぅ……?」


 あれ?なんだこれ……視界が薄暗く霞む。

 体からごっそりと力が抜けていくのが分かる。自分の体が、重い。

 拳を高く持ち上げた腕にも力が入らず、がくりと下ろされる。

 自分を支えきれない。

 瞼が重い――





『はじめ?』

『お、おい!?』

『意識がないわ……』

『はじめさん!ねぇ、はじめさん!!』

『……救急車』

『へ……?』

『呼んで、早く……!』

『は、はいっ!』











 目覚めると、見覚えのない天井が真っ先に目に入った。どこだ、ここ?

 えーと確か、意気揚々と学園に乗り込んだ俺は華麗に眼鏡のセンパイを拉致って――


「……起きた?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぶっ――!?」


 被さるように俺の視界にあの白い髪の毛が入った瞬間トラウマが揺り起こされ、恐怖心から思わず金切り声をあげてしまった俺の頬に鋭い拳が刺さり、強制的に黙らせられる。

 そうだ……この女に喧嘩売って惨敗し、死にかけのまんまでまた他の喧嘩を買っちまったんだった。


「……鷲村様、ここは病院でせうか?」

「……そう。死にかけにもかかわらず、わざわざ仲間と喧嘩して倒れるような愚か者を診察してくれる奇特な病院」


 さいですか……。

 確かに腕には針が刺さっていて、その先に繋がった管は点滴へと続いていた。

 そうしている内に、ぺたぺたと足音が廊下から聞こえ、部屋の引き戸が開かれると、白衣を着た子泣き爺みたいなじいさんがひょこひょこと入ってきた。


「あぁ……彼やっと起きたかい?」

「……はい」

「いやぁ目ぇ、覚ましてよかったよぉ、ほほ」


 おい、なんだか不吉な言葉が聞こえたような気がするんだが?


「……まぁ倒れた直接の原因は軽い貧血と過労なんだけどねぇ」

「はぁ……」

「全身の打撲と顔の擦過傷、肩の脱臼とかも酷いよねぇ……車に牽かれたって、なかなかこうはならないよねぇ……よく生きてられるよねぇ」


 ちょっと待て!俺そんな重症だったのか!?

 しかして、その凶行の犯人様は涼しい顔でじいさんの話しを右から左へ聞き流していた……恐るべしデザートイーグル、どこまでもゴーイングマイウェイな女よ。


「まぁ、二・三日入院したら治ると思うからねぇ……おとなしく入院しといてねぇ……死にたくなければねぇ」


 事務的に言いたいことだけ告げると、じいさんはまたひょこひょこと帰っていった。

 死ぬ、って言ったのかあのじいさん……?

 なんだか、重症と分かった途端体のあちこちから一気に痛みがぶり返して来やがった。

 全身の違和感を解消すべく体をもぞもぞと動かしていると、来客用のパイプ椅子に置物みたいに鎮座している鷲村と目があった。

 あ、目が半眼だ……。


「……馬鹿」

「う……っ」

「……救いようのない、馬鹿」

「うぅ……」

「……馬鹿・オブ・ジ・イヤー」

「えー……」

「……今世紀始まって以来の馬鹿」

「ちょっ……」

「……有史以来……宇宙開闢以来の、馬鹿」

「ねぇ俺どんだけ馬鹿!?いるよ!俺より馬鹿な奴きっといるよ!だって、地球は広いもの!」


 空手バカ●代とか!

 ●カボンのパパとか!


「……お前みたいな命知らずな不届き者には馬鹿がお似合い」


 そう宣いなさる鷲村大明神は、俺から大量虐殺兵器みたいな半眼を逸らすと、お見舞い用に盛り合わされた林檎に手を伸ばした。

 それを玩具のように手の内で弄び始めると、それっきり黙り込んでしまった。

 刺すような沈黙。文字通り、傷だらけの体をちくちくと突き回されてる気分だぜ……。

 ってか、どうしてまだいるの?なんで帰らないでここにいるの?

 はっ!まさか、俺を事故死に見せかけて殺る気か!?再び俺が眠るのを待っているのか!?

 だとしたらこれは麒麟塚肇生命最大の危機!丁重にお帰りいただかねば……!


「あ、あのよ……」

「どうして……」

「へ……?」


 アウチッ!俺が決死の覚悟で投げかけた言葉のキャッチボールは、俺のボールを受け取ることもなく違うボールが!?


「……どうして、あの女生徒を助けたの?」

「あー……えっと」


 鷲村はこちらをちらとも見ないが、殺気にも似た鬼気迫る勢いで威圧してきやがる……嘘偽りは一切認めねえ感じだな。

 どうにも居心地悪いな……こんなこと言うもんじゃねぇんだかよ。




「……人助けんのに理由がいるかよ」









「…………がとう」

「は?」

「……ありがとう。そう言った」


 おいおい聞いたかよ、あのデザートイーグルが俺に『ありがとう』だってよ。ははっ、俺もいよいよ幻聴が聴こえるとこまで落っこちまったみてぇだぜ。


「……お前がいなければ、あの女生徒は無事では済まなかった……心に一生残るような傷を負ったに違いない」

「…………」

「本当にありがとう」


 ぎゅう……ぱちん。


「いてぇ……」


 夢じゃ……ない?

 あ、あのデザートイーグルが、俺を虫けらを見るように見下し、馬鹿だの不届き者だの愚か者だの連呼し、散々死の淵を垣間見せるような暴行を繰り返し、舎弟を奪い、重症患者の顔面に躊躇い無く拳を撃ち込むような殺人兵器・鷲村砂漠が!

 この俺に、礼を!それも三回も!


「……本当に助かった。これからもその自己献身の精神で学園を守るために励んでほしい」


 なんて心休まる言葉たちだろうか!

 そしてうっすら微笑んでさえいる彼女の顔がなんと輝かしいことか!

 あぁ、ギプスやら包帯やら麻酔やらで動けないこの体が憎ましい!

 今すぐにでもこんな薬臭い部屋を飛び出して、俺の泉のように溢れ出す自己献身の精神を最大限に発揮し、学園を守るために励みたいのに――







「……………………学園を、守る?」


 Why?何故、どうして俺が学園を守ったりせにゃならん?

 そういうのは風紀委員会のお仕事でしょうが!

 俺に一体何の関係が?


「……じゃあ、退院したら風紀委員会室で」

「いやいや、待てよ。なんでこの俺様が風紀委員会室になんざわざわざ赴かなきゃならんのだ!」


 パイプ椅子からすくっと立ち上がり帰り支度を始めていた鷲村は、俺は抗議の言葉にもう一度俺の方を省みた。

 そして、一枚の紙を俺に突き出した。


「……これ」

「なんだよ……えーと、なになに……」


 薄っぺらいルーズリーフ用紙にシャーペンによる手書きで何やら文章が綴られていた。

 ……『任命状』?


「……本日四月九日付けで以下の人員を下の役職に任命することを証明する……。

 麒麟塚肇……風紀委員会雑用係………………………………なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「……病院では静かに」


 唇に指を当ててしぃ、なんて真似しやがる鷲村に俺はふざけた任命状を突き返し、抗議した。


「ちょ、おま!なんだこれ!説明しろ!」

「……お前のような反乱分子は野放しにしていてはめんどくさ……危険なので風紀委員会が手元に置いて管理することになった」

「茶番だ!こんな本人の意志を無視した人事が通るか!現代は民主主義の時代なんだぞ!しかも今一瞬なに言いかけやがった!?」

「……私と入鹿の推薦あってのこと」

「なっ……!?」


 どこか遠くで、入鹿先輩が『おほほほ……!』と笑っている声が聞こえたような気がした。

 入鹿先輩めぇ……!

 しかし、俺の薔薇色の高校生活のために応じるわけには、鷲村の部下になんかなるわけにいかない!


「こんなものは無効だ!断固拒否する!」

「……敗者のものは勝者のもの」

「ぐ……っ!」

「……敗者の自由は……勝者のもの」


 ば、馬鹿なぁ……!

 力無くベッドに崩れ落ちた俺を見て、再び鷲村が目をすっと細めた。


「……どうしても嫌なら断ってもいい」

「ほんとか!?」

「ただし……」


 べちゃっ。

 やけに水っぽい音が狭い病室に響いた。それは鷲村の右手から発せられた音であり、彼女の手のひらの中には粉々に砕かれ、果汁をぽたぽたと床に滴らせる林檎の欠片が残っているだけだった。


「……残り三年間の学園生活を有意義に過ごすか、病院のベッドで過ごすか……少し考えればどちらが幸せか分かるはず」

「喜んで雑用係やらせていただきます!」




 負け犬?

 笑いたきゃ笑え……。









「……じゃあ、私はそろそろ帰る」

「あ……おぉ」


 ベッドの上で体育座りしている俺が顔を上げると時計がもう十時を回っていた。

 俺があのハゲ共と殺り合ったのが、六時過ぎだからかれこれ三時間強も経っていたことになる。


「……お前、あれからずっとここにいたのか?」

「……あいつらでは騒がしすぎた……それだけ」


 大したことではない、と言わんばかりに鷲村は首を振った。

 そう考えると、今まで一人でぎゃあぎゃあと騒いでいた自分が妙に気恥ずかしく感じられた。


「その、なんだ……わざわざ、ありがとうよ」

「……別に」


 俺の言葉が面白かったのか、振り返るとあいつはくすり、と僅かに微笑みをこぼした。

 その笑顔は普通の女子高生にしては儚く乏しい表情ではあったが、俺には誰よりも可憐に感じられた。

 デザートイーグルだとか、学園最強だとか、そんな肩書きを全て忘れさせちまうようなそんな――






「ん……おい、鷲村」

「……なに」

「唇に血、付いてんぞ。……ほら」

「え…………?

 ――〜っぅ……!?」


 あーあ、こんなにべっとり……唇でも噛み千切ったんか?


「あ、あ、あ……お前、今何を……っ?」

「ん……?血を拭き取ってやったんだが?」

「ああああ……!」


 俺が言い終わるや否や鷲村は奇妙な声を挙げて、その場にへたり込んでしまった。

 顔色が上気し、僅かに肩が震えている。

 一体全体どうしちまったんだ……?


「お、おい!お前、大丈夫か――」

「ふんっ!」




 訂正、あいつに可憐なんて言葉は似合わねえ。

 この日俺は最後の最後にして自分の頭蓋骨が、砕ける音を聞いた。










〜三時間前、路地裏〜


「あーあ、また派手にやりよったなぁ」


 数分前まで救急隊員が出入りし、騒がしかった路地裏も今は不気味なほどの静けさに包まれていた。

 そんな中で一人の男が、路地裏に残された生々しい血痕を見て一人、呟いている。


「……デザートイーグルに無謀にも決闘挑んで惨敗。その後に女子高生を助けるために喧嘩。阿呆としか言いようがあらへんな」


 男はたった一人で分析を続ける。


「まぁ喧嘩の動機は人助けっちゅう立派なもんやし、体の頑丈さもきっちり証明された……何より精神力の強さ……まぁ、ギリギリ及第点っちゅうとこか」


 男はうんうん、と首を何度も縦に振った。


「しっかし……水無月学院のチンピラも大したことあらへんなぁ……せっかくあんな金握らしたっても、これやったら完全に投資失敗や。役立たずのクズばっかや!」


 ゴミ箱が音を立てて蹴り飛ばされ、生ゴミをつついていた黒猫が悲鳴染みた鳴き声を挙げて暗闇へと消えていった。

 男は、その様子を見ていると今度はけらけらと笑い出した。


「まぁ、ええ……これは序の口……お前の実力はこんなもんちゃうはずや……まだまだ試さしてもらうで……」


 不意に雲間から月が覗き、薄暗い路地裏が青白い光に包まれる。

 男は眩しそうに目を細めると、ニット帽に包まれた頭をがしがしと掻き、白い八重歯を剥き出しにして笑った。




「なぁ……麒麟塚?」









 〜後日談〜


「さーちゃん。あんた……どうしたの?」

「私は普通だ。心に乱れはない」

「……普通の人間は紅茶にインクを混ぜたりしないわ」

「……あ」

「……本当に今日のさーちゃん変よ?何かあったの?」

「………………」

「ははぁ……さてはさーちゃん……恋だな?」

「……ば、ばばばば」

「馬場?」

「ごほん……馬鹿な。私は風紀委員副委員長。風紀正義を掲げる私が色恋沙汰など……馬鹿も休み休み言って」

「……相手は、はじめ君かな?」

「…………」

「紅茶こぼれてるわよ……飲むんか、それを」

「……私は、普通」

「こりゃ重症ね……」






 さてはてもう一方の肇はと言うと、病室にて砂漠の謎の一撃をもらった後、集中治療室に移され、入院期間が一週間延長されたそうな。

 しかし、ICUのベッドにおいて肇が生死の境をさ迷っていた頃、学園では新たな敵が密かに蠢き始めていた。

 どうなる肇!

 どうなる風紀委員会!

 待て、次回!




【天国と地獄・終】

欠損部分がありましたので再び投稿しました。

本当にご迷惑をお掛けしました……m(_ _)m


少し悪役がのさばりすぎた【天国と地獄】がようやく終了し、しばらくはまたギャグ展開が続きそうです♪

それでは〜。

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