私が学園最強だ。
基本馬鹿一辺倒ですが、時々シリアスっぽかったりするかもしれません(苦笑)
では、よければお付き合い下さいませm(_ _)m
冷静になって考えろ、俺。偏差値的な頭は悪いが、ここ一番って時の頭の回転は決して悪くねぇはずだ。
【猛然と獲物に追いすがる影、その瞳は遥か眼下を捉えている】
俺の名は麒麟塚肇。職業、最強最悪の不良王。拳を握れば屍の山を築き、ちょいと睨みを効かせりゃ人の波が割れる、ってなもんだ。
名前に負けぬことのない俺様自慢の金髪を見たガキが泣いて財布を置いていくなんざ日常茶飯事よ。
【迷うことなくその身を校舎の三階から躍らせる。少しも惑うことのない、凄まじい跳躍】
今までで一番デカいヤマは……そうだ、中学二年の時に五人の舎弟と共に愚連隊崩れの大暴走族団を一夜で壊滅させた六・二五事件だな。別名“血のプール開き事件”は未だに悪夢として語り種にされてらぁ。
【その猥躯は飛翔する。逃げる獲物へと、その両手を広げて】
そうさ、俺は最強最悪の不良……“血塗れの麒麟児”麒麟塚肇様たぁ俺のことなんだぜ?
もう一度だけ言おう……俺は――
「――俺様は、麒麟塚はじ「ふん!」めえぶらぺぁっ!?」
――あれ?なんで俺は今顔面から地面に突っ込んでるんだろう?
『はは、答えは簡単だよ、ワトソン君』
あ、ホームズ先生。
『君は後ろから突き倒されたのさ。とんでもない勢いで、ね』
な、なんだってー。
『それは君の血塗れの顔面を見ても明らかさ』
あ、ほんとだ。しゃれにならないくらいに流血してる。
『これはまさに“血塗れの麒麟児”だね、はは』
俺自身の血で血塗れって訳じゃないんですけどね、しかも笑い事じゃないくらい血が出てますよ、先生。
『……犯人はこの中にいる!』
いきなりですね。
『じっちゃんの名にかけて!』
それはもう色々とだめですよ、先生。
『犯人は君を後ろから突き倒した……つまり君の背後にいた人間こそが一番怪しい』
まぁ、そりゃそうでしょうよ。
『倒れている君の背中に乗っていたりしたら怪しさ満点だね』
そんな都合のいい人間がそうそういるわけないっすよ、ねぇ?
『お前だぁぁぁっ!』
嘘ぉ、まっさかぁ。
「――はっ!」
いかん、一瞬意識がどこかに飛んで、さる名探偵と楽しげに会話していたような気が。
改めて体を確認すると、倒れた際に思いっ切り地面に突っ込んだであろう顔面が主に血塗れだった。
「いっててて……って、あれ?」
なぜだ。体が動かん。まるで何かが俺の背にのし掛かっているような……。
「……起きたか?」
出し抜けに俺の頭上から小さな声がふわり、と降り注いだ。
嫌な音と共に無理矢理首を後ろに捻ると、声の主と目があった。
絹のよう白く長い髪の中に、怖ろしく端整でまるで作りモノのような表情のない女の顔。
(ちっちぇ体……)
あまりに細すぎるその体に飯食ってんのか、と思わず尋ねたくなる――
「――じゃねぇよ!?」
あぁ、なに見とれちまってるんだ、俺は!
そうじゃねぇだろ、今すべき質問は……!
「お前、誰だ!?」
そうだよ、それだよ!
よくやったぞ、さっすが麒麟塚肇!
俺の質問に俺の目を覗き込んできやがる謎の女。その目がまた黒真珠のようで、思わず吸い寄せられ――
「私の名前は、鷲村砂漠」
「……は?」
砂漠?What?そりゃ人間の名前か?
「この学園の風紀委員副委員長をしている。そして……」
風紀委員副委員長?このチビがか……?どうなってんだ、このガッコーは!
「お前が所望した、学園最強とは私のことだ」
…………は?
今なんて……。
「ふんっ!」
ぐしゃっ、とそこはかとなく鈍い音が俺の顔の真横で炸裂した。
恐る恐る首をそちらに向けると女の拳がアスファルトの地面に突き刺さっていた。
女が拳を引き抜くと、ぱらぱらとアスファルトと残骸が俺の頬に降り懸かってきた。
女の拳は、無傷。
「お前がこれ以上学園の風紀を乱すなら私が風紀正義の下、お前を……」
ぶぅん、と再び奴の拳が唸り俺の顔面に風が叩き付けられる。
「……制裁する」
恥ずかしい話だが、この日俺は十数年ぶりに小便をチビった。
これが俺の薔薇色の高校生活を苦汁と血に満ちたものにすることとなる“デザートイーグル”との出逢いだった。