スカウト
僕はね、部活を休んでいた。父の事を隠しながら病院に毎日通っていた。
誰にも言うなと言われていたから、言いつけを守っていただけなんだけどね。
まぁ、時間が過ぎ去ってゆく度に病状が悪化する父を見て、家族に相談すると、担任には言う事になってね。
どうにか切り抜けれたけれど、でも部活動では違うんだ。
まぁ念の為に、部活動の先生にも言うたんよね。
父の病状の事を軽くだけど、伝えたんだ。そうじゃないと『さぼり』と言われても困るし、自分の立場を守る為に味方は必要だからね。
取り込んでおく必要があると思ったんだよ、じゃないと僕の計画通りに物事は進まないからね。
楽しい楽しい、心理ゲームだよ。僕がモチーフにしているのはユングの『伝言ゲーム』ま、簡単に言うと連想ゲームみたいなもの。
こちらが言葉を呟き、答えを誘導しながら、相手の精神を丸裸にする上級テクニックの一つ。
これは実際科学でも実証されててね、簡単にその人の性格、未来、過去全て把握できるんだよ。
勿論家族構成、そして裏繋がりもね。
僕は上級者ではないね、中級者と言ったところかね。
誰と誰が繋がって、裏で動いてるとか簡単に分かる。そして何も振れない。これも技術の一つ。
知らない振りをする事が一番安全なんだよ。
情報量も落ちるし、なんと言っても相手の行動の仕方を読み取る事がより簡単になるからね。
これはね、勉強しただけでは身につかない。絶対にね。
これはそういう環境に身を置かないと出来ないテクニック。
知りたい、してみたいと思うのなら、一番いい方法を教えてあげるよ。
自ら人を裏切り、孤独なり、虐められるように仕組んで、自分を壊して、死へ導いてあげると
10年で出来るようになるよ。ね?簡単な事でしょう。
それで引いていたら、随分優しい環境で生きてきたんだね。
羨ましい限りだよ、本当に。
でもね、高学歴をかざして『出来る』と自分を思っちゃダメだよ?
僕はね、中退なんだ。
まぁ、校長先生に怒鳴り込んで、大ごとにして担任を潰す為に色々模索したよ。
人を見た目で判断して『大人しそう』だからと甘くみるのはよくないよ。
当時の校長は色々と知ってたんだろうね『君がやめると学校の名に傷がつく』とかほざいててさ。
僕からしたら「だから何?」って感じよ。しったこっちゃねーつーの。
僕の周りは基本自営業、代表取締役、政治家、国関係、元大学教授、元校長、元旅館の娘、庄屋、まぁこんな感じかな?
あー後後援会の会長もいたな。あの人には17の時『秘書にならんか?』とスカウトされたわ。『なめんな』とか暴言吐いて蹴散らしたけど、今思うとやりすぎたかな。
地元と東京に会社持ってる人でねー元国関係の人だったと思うよ。
だからね、皆努力あって成功した人達だから。皆口を揃えて言うてたよ。
紙の上の勉強と働く勉強は全然違う。高学歴の人はね、自信を持っているから、それに気づかずメンタルで潰れると口を揃えてた。
皆、元から出来た人じゃないからね。
荒れてた人もいるし、色々な経験を積んで、大物になった人が殆どかな。
だから僕は恵まれているのさ、そういう人達から色々な技法を授かり、色々な分野で活動が出来るようになっているから。
文のいろははね、父から教わったんだよ。言葉遊びって言ってた。どんなに面白くない話でも、言葉の配列をわざと変える事で新しく作り直せる。
さすがだね、それが今成功しつつあるのだから。
さすが神戸大学の研究員であり、助教授のスカウトをもらった人間だね。
その道に行くとレッドカーペットでも歩けてたんじゃないのかな?
そう思うと人生って一つの選択肢でここまで変化するんだね。
楽しい人生の狂った一ページ。
そしてはじまる、僕の最後の章が。
僕『かおる』が『ゆう』へと堕ちる時がね……。