表裏一体
鼓動は波間をゆらりゆらりと流れながら、僕の心に響く。
君の痛みは僕の痛みに代わり、そして一体化してゆく。
混ざり合う僕と君、リンクする怒りと喜び。
僕はある人の代わりにいるだけ、そう生き写しらしいよ。
そこの所は、僕自身理解してるんだけど、僕もその人を見てきたみたいだからね…。
そう、忘れ堕ちている記憶が複数ある。
それはとても大切で、とても残酷なもの。
『そうだね…あたしの身替わりだもの…』
どこからか声が聞こえる…これは外からの声ではなくて、僕自身から出てる声。
あの声、どこかで聞いた事があるんだ…。
よく思い出せないけれど…どこかで感じた事があるんだ…。どこかは分からないけれど…。
「誰だ?」
僕は聴いてみる。声の主に、遠くで響く声が、通路を伝って耳に響く。
凄く凄く冷酷な音。
『私は貴方だよ?』
「……え」
僕の心の中から聞こえる声の主は僕自身の幻想なのかもしれないと思っていた。
僕の頭は狂ってしまったのだろうかと自問自答してしまいそうになるが、自分が狂った訳でもないみたいだ。
『私は貴方で、貴方は私』
そう聞こえてくる声がどんどん近づいてくる、加速する声、まるで風に包み込まれているような安心感がする。
『あんしんするでしょ?貴方は私だから、落ち着くはずだよ?』
「誰…なんだ?』
僕の思考が急激に低下してゆく。まるで誰かに頭をいじくられているみたいに、機能停止へと導く声。
『……何度も言わせないで、ねぇ、それより私と変わろうよ?苦しいでしょう』
変わる?何を?この声の主は僕を私と呼ぶ。見えない影。
何故だろう、背中がゾクリとする。
妙な胸騒ぎがするんだ。
そんな僕を無視しながら、ふふっと笑い声が聞こえ、闇に塗れた『私』と言う人物の顔が見えてゆく。
まるで暗闇の中で朧げに光る月のように、儚く、寂しく…。
「……え……」
僕の目の前に見えたのは僕そのものだった。姿も背丈も、唯一違うのは服装と髪、後は多分性格だと思う。
危ない匂いがするけど、逃げ場のない僕は、受け止めるしか方法がないんだ。
ガクガク震える心を隠して、僕は演者になる。
『貴方の『体』ちょうだい?』
耳元に近寄り、そう囁くもう一人の自分。
まるでドッペルゲンガーに出会ったみたいだ。
『私の名前は今日から『かおる』で貴方が『ゆう』ね?』
「僕の……」
嫌いな名前、女らしい名前、性格が男っぽいからとよく責められて、いつも女らしくを強要してきた周り。
でも唯一母は、違うかった。
女である『僕』を憎み、恨み、殺意さえも抱いていた。
まるで誰かと重ねているように…。
「僕が……ゆう」
『…ふふふふふふ、いい子ね。私の『ゆう』大丈夫最後は美味しく食べてあげるからね』
「貴女はだあれ?」
どうしてだろう。力が吸い込まれているみたいに、力がどんどん抜けていく。
表裏一体。その言葉が合いそう。
僕が表で貴女が裏?
もう分からない……。
最後に聞こえたのは優しい微笑みと残酷な言葉達。
『使いものにならないのはいらないの。あたしがかおるになってあげるね』
あははあははあはははあはははあはははあっは
彼女の笑い声が僕を地獄へと誘うんだ。