崩壊の音
夢の中を彷徨いながら
私は少しずつ大人になっていくのかな?
あの時はそんな事考えながら、不安だけど前に進むしかなかった。
全て夢であってほしい。
夢、夢、夢、夢、夢、夢。
現実なんか大嫌い、夢なら心も身体も痛くないのに。
ポロポロ零れる雫は、最後の私の希望の姿。
そして、闇に染まろうとする予兆でもあった。
そんな私があたしに覚醒してゆく。
遠くでコソコソと聞こえる噂話。
耳がいいあたしは、いつもの事に慣れていた。
(またか…うっとおしい)
あちらは聞こえてないと思っているみたいだが、あたしには筒抜け。
幼い頃から、よく地獄耳だなんて言われたっけ。
そんな事を考えながら、聞こえてくる声を脳内にインプットし、獲物をロックオンする。
『ねぇ、まただって』
『もう何年も、ずっとねぇ』
『警察来たらしいわよ』
『あそこの家系はねぇ…』
ポリポリ頭をかきながら、溜息を吐く。
まぁ、慣れている、いつもの事だから、そう自分に言い聞かしながら空を見上げた。
ポロポロと降り出し始めた雪の結晶が身体を冷やしてゆく。
あたしの心を冷酷にしていくように。
あの時の事を思い出せと言っているみたいに。
「もう自由にしろよ」
あたしの呟きが雪にかき消され、過去の記憶へとリンクして、現実へと導いていくのだ。
目を瞑るとおじいさんの声が聞こえた気がした。
雪は舞う。
私の心をかき乱すように。
一瞬の出来事だった。
あたしを守る為に、抱きしめ守ってくれたおじいさんを母は突き飛ばした。
たまたま出くわした新屋のばーさんが来て、大慌てで私とおじいさんを庇ったの。
後ろには庭に埋まってある大きな石がある。
私の家は広い庭があってね、松をはじめ、色々な木を植えてるの。勿論イチョウもある。
そして鯉一匹程が泳げるスペースの石造りで出来た池須と言っていいのかな?そういうのがある庭だから。
そういう所に頭を打てば、危ないんだよね。
新屋のばーさんはその石に気づいたんだろうね、まだ若いから、と言っても60代位だったかな、当時は。
腰も曲がっていなくてね、背中もピンとしてた。
だから走るのはまだ早いほうだと思う。
母がおじいさんを突き飛ばして、笑い声が木魂していた。
それをかき消すように、『危ない』と新屋のばーさんが私達二人の後ろに回り、石に腰を強打し、嗚咽が周囲に響いた。
母はケラケラ笑いながら、苦しそうな表情を見ている。
『邪魔ですねぇ…』
そう言いながらも楽しそうな母。まるで子供がままごとをしているみたいだ。
おじいさんも頭を強打してしまった、新屋のばーさんがクッションになってくれた…いや犠牲になったと言えばいいかな。
そのお陰で出血は間逃れたけど、おじいさんはフラフラして倒れこんでいる。
平気なのは、私だけ。
私のばあちゃんが母の笑い声に気づいて、すぐ救急車を呼んだ。
『あんた、何してるんよ』
二人の様子を見て、怒り奮闘の祖母。
普通なら半殺しにしてもいい程だと思う。
幼い私はまだ心の中に黒い感情の名前を知らない。
だけどね成長して私からあたしに変わると思い知るのよ。
黒い感情の名前は「殺意」
その時、はじめて知った感情、まだ六歳だったね。
『何もしてませんよ?遊んでるだけです』
母がケラケラ笑いながら返答すると、祖母は身体を震わしながら、怒りを我慢して溜め込んでいるみたいに感じた。
『この女に、何を話しても通用しない』
そう祖母の心の声が聞こえてきた気がした。
新屋のばーさんは救急車に運ばれ、複雑骨折したので即入院。
おじいさんは何処も異常が見られないから帰宅をしてもいいと医者に言われた。
新屋のばーちゃんには悪いけど、おじいさんが大変な事にならなくてよかったと思ったの。
でも私の願いは叶わない。
神様なんていないんだって理解した。
一週間後
おじいさんは亡くなった。
理由は年齢だから…。
でもね、あの事件があってから容態が急変したから
本当は違うんだよ。
そして私の味方は祖父の死をきっかけにいなくなった。