裏の入り口
「そんなに嬉しいの?」
一生懸命、唇についた血を除けようとする母の姿を見ていると、楽しくて仕方がない。
面白くて、面白くてゲラゲラ笑ってしまう。
虐められたら虐め返せ、そう言ったのは祖母の言葉。
だから暴力は暴力で返し、それ以上に、精神的に虐める。
楽しい楽しいゲームでしかない。
僕にとってはシュミレーショゲームの一環。
だって僕がする行動の一つ一つで未来が変化するんだ。
それを面白いと思わず、何て思うんだい?楽しすぎるだろ。
『かおる』と『かほ』には任せきれない。
僕は二人より上の人格。支配するのは僕だけなんだ。
精神の世界も現実の世界も僕のもの。所有物でしかないのだ。
『かおる、ごめんなさい。もうやめて』
母は我を取り戻しながら、僕に謝る。
僕と言っても、もう一人の僕にね…。
「僕はそんな名ではない。僕に謝ってもらわないと困るよ」
『……え』
僕の言葉でキョトンとする二人。
それもそうだ、僕は名前が違うのを知らない。
かおるを含め、僕達は全ての真実を隠しながら、この時を待っていたから当然の事。
「…馬鹿面だね、面白いよ、ふふふ」
これから何が起こるのだろうか。
それは自分自身にも分からないけれど、凄く魅力的な物事が起こるに違いない。
そんな予感がするんだ。
「人を潰すなら何でもするんだろ?おめぇは。そうやって教育してくれたじゃないか。色々なものを僕から奪って…それで許されると思うの?甘くね?」
本当甘い、甘いよ。そんな言葉で満足して過去が消える訳じゃない。
お前らが殺した人も返ってこない。
僕は何もしてないのに、僕のせいにして逃げたのはお前だろうが。
そして周りの奴等もそう、母に矛先向けれないから、僕に当たり散らして暴言吐いて自殺に追い詰めた癖に。
許す訳ないだろうが、許せる訳ないだろうが、ごめんなさいで済むなんて甘いんだよ。
『私は何もしていないの、信じて…』
は?お前がそうやって逃げる訳?簡単に逃げれると思ってる訳?
それで僕の心が満たされるなんて『お母さん』なんて呼ぶと思う訳?
怒りが全身を支配しながら、頭の回転速度があがる。
どうやって追い詰めようか、どうやって潰そうか、どうやって殺そうか。
いや、殺すなんて僕の手が汚れるだけ、そんなマイナスな事考えてもラチがあかない。
僕は僕で、僕の全てを壊していくんだ。
周りも、全て粉々に粉砕していくつもり。
背負ってしまった『罪』を代わりに背負えない癖に、どの口がそう言うんだ?
「……自分の心に聞いてみれば?…」
砂時計のように零れ落ちる、複数の感情の欠片。
全てはお前達大人が撒いた種だろうが。
「僕は、裏の世界に行く。それで満足だろう?」
『何を言っているんだい』
僕と母との会話に入り込んだ祖母は僕を抱きしめ止める。
『お前はそんな道に行ってはダメなんだよ』
「……お前達が導いた道だろう。都合が悪くなると、意見を変えるのだな、笑えるね」
『そんな事は……』
「ない事ないだろう」
全ては家の繁栄の為、お前は裏に回り全ての対処をし、表を支え守る。
簡単に言えばヤクザになれって言ってるのと変わらない。
こいつらは、それ以上かもね。
ヤクザでも立派な人は沢山いるし、僕はその人の支配下になりたいと思うだけだよ。
お前らみたいに『この家の為』『この国の為』なんて表でほざいて、裏で色々動いてるやつと同じにされたくないだけ。
だから僕は断言するんだ。
例え自らの命を落としても、それに後悔はないから。
人を呪えば穴二つ。
だから僕自身も一緒に地獄へと行こう。全てを終わらしてね。
「闇は美しい。落ちる瞬間が気持ちいいんだ。お前達も道ずれだよ。一緒に地獄へと落ちよう」
闇は光を支える存在。
だがな、闇は光を喰えるんだぞ。
全て支配するのは、力を持つのは闇の世界しかないんだ。
そう裏の世界な。