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温かい雪、冷たい雪



暗闇の中に漂うのは私の心。


ゆらゆら揺れながら流れに逆らおうとすると


行ったり来たりで


前に進む事も、戻る事も出来ず


ホロホロ涙が溢れてきます。


私の心のように…。


現実のつらさに締め付けられるように…






 雪が降る時におじいさんに言われました。


私の心の内面を見透かしているような言葉の数々に内心ドキリと心臓が飛び跳ねた。


 『かおる、お前は感情を表に出せなくなってしまったね…』


 「…」


 どんな言葉で返答していいのか分からない私は、ない脳みそで考えるが何も思いつかない。


それを打ち破るのは、おじいさんの言葉だった。


 ふっと寂しく微笑むと、私の頭を撫でて、優しく包み込んでくれる。


 これは私の中での優しさに満ち溢れた記憶のかけら。


 『何も言わなくていいんじゃよ。私には分かるから』


 「…」


 『お前が泣けない時はお天道様が代わりに泣いてくれる。お前が憂鬱な時は曇り空に変えてお前の代わりにはらしてくれる』


 「…おじいちゃん…」


 『お前が苦しんでいる時は代わりに雨を降らしてくれる。反対にお前が笑いたい時は思いっきり微笑んでくれる…晴天みたいに…』


 そうやって私の言葉を救ってくれる言葉を吐いてくれてるような気がして。


心が締め付けられてくる。


 母の毎日の暴力と暴言で色あせてしまった色々な感情や風景の色が少し戻った気がした。


もう何も感じない人形になっているんだと思ってたのに、まだ人間に戻れるんじゃないかって希望の光を照らしてくれてる。


そんな気がしてならない。


おじいさんの言葉で心が救われた…と言うか、感情の線がポツリポツリと解けていき、私の瞳から涙が溢れた。


 (何で……止まらないの?)


 心の声は誰にも聞こえない。


 ただ私の内心を知っているのは、降り続ける雪の結晶だけ。

 

 そんな感じがして、私の涙とリンクして、浄化されていってるような錯覚に陥った。


 綺麗な思い、綺麗な記憶は、そのままで、眠っている本当の私は、心の中で大きな泣き声をあげる。


エンエンと幼稚園児が泣いているように、ママどこにいるの?と不安がっているように。


 (どうやったら、止めれるの?)


 子供の私は、溢れ続ける涙の止め方を知らない。笑う事も出来ない。茶化す事も、言葉の技法も何もない。


だから、泣くしか出来ない。


 弱さの塊だった。






零れ落ちる雪の欠片


黒い闇は雪景色になり


新しい幻想的な景色と共に


私の心の色も塗りつぶしてゆく。


まるで絵具みたい。








 雪に塗れる私の心。


 息苦しかった空間が、少しずつ変化し、彩りを取り戻してゆく。


二人で顔を見合わせ、少し微笑んだ私を見て、おじいさんはこう呟く。


『笑えるじゃないか。笑顔のかおるの方がかおるらしくていい。お前の笑顔があるから私達は頑張れるのだよ』


 ニッコリと安心したように、呟くおじいさんの姿は今でも忘れられない。


満面の笑みが出来ない今の私の今の微笑み。


舞い降る雪が私達を包み込み、祝福してくれてるように、包み込んで、心と身体に浸透していく。


そんな空間を大切にしたいと思いながら、空を見上げ、はぁーと息を吐く。


息が色づいてみえる、まるで、雪景色のように…。


そんな幸せな空間が続けばいいと思ってた。


それは私の妄想で、唯一の希望、そして逃げ道。


それを打ち破るのは、いつも決まって母の存在。


その恐怖を忘れたかったのかもしれない…。


その瞬間は、すぐに訪れる。


 母の足音と発狂と、影が私達二人の幸せな空間をボロボロにして、新しい闇を作り出すんだ。


怖い足音。


つらい叫び声。


 発狂と共に訪れるのは、恐怖の時間の始まり…いや、つらい現実の再開なのかもしれない。


私達は、まだそれに気づけない。


気づけないと言う言葉より、気づきたくないと言った方が正しいかもしれない。


 (今は、このままで…)


 そう心の声が歓喜をあげ、それを壊すように後ろから母が近づいてくる。


発狂と怒鳴り声はこの空間を壊していく、材料の一つ。


 『私の娘を外に出すなんて、病気になったら大変じゃないですか』


 ヒステリックな母は、そう呟くと私の右腕を思いっきり引っ張り『家に帰るわよ』とイライラしながら溜息を漏らす。


 (どうして怒っているの?)

 

 そう思いながらも、言葉に出来ない自分がいて、歯がゆい。


もう少しこのまま、おじいさんと居たいのに。


そんな感情と叫びが心の中で渦巻きながら、シクシクと泣き声に変わってゆく。


シンシンと降る雪のように、冷たく、冷酷に。


そんな私を見下ろす冷たい瞳の母の姿があった。







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