心音
あたしには味方がいる。
凄く凄く、心配してくれて、どんだけ狂っても、どんだけ泣きじゃくっても、捨てたりしない。
あたしは怖い。
見捨てられるのが怖い。
母のように、都合のいい時だけ呼ばれて、見捨てられるのが震える程、恐怖。
誰もあたしなんて見てくれない。
誰もあたしを好きになってくれない。
誰もあたしを必要とされていない。
誰もあたしを人として見てくれない。
『かおるちゃん大丈夫?』
あたしは幼い頃からピアノのレッスンに行っていた。
ピアノが好きな訳でも、音楽が好きな訳でもない。
あたしにとって音楽はトラウマの一つ。
腹を蹴られ、心臓を踏まれ、首を絞められ、そして包丁で刺されそうになった時に、いつも側には音楽が流れていた。
恐怖の旋律、震える心、流れる涙、身体の痛み、心から流れ出る血。
だからあたしは音が苦手、でもピアノの先生の安藤先生は私を守る為に、ここに居場所を与えてくれた人。
音の恐怖を克服する為と、父の紹介で、逃げ場として提供してくれた。
今言えば、あの人はあたしの恩師。
世界を変えてくれて、私に音楽の心地よさを与えてくれた、大切な人。
泣き続ける、あたしは彼女に聞くの。
「…愛ってなあに?」
『人を包み込む事よ』
「…愛ってなあに?』
『大切な人に思いやりを持つ事よ』
「…愛……ってわからない」
そう呟くあたしの唇は震えて言葉に詰まる。
喉に感情が詰まったみたいに息が出来なくなる。
身体が震える、寒くないのに。
心が震える、つらくないのに。
そんなあたしの状況が分かる彼女は大人。
震える身体をぎゆっと抱きしめ、耳元で囁くの。
優しくひっそり、温かくゆっくりと。
『抱きしめる事が一番の愛情よ、安心するでしょう?』
「……う……ん」
『大丈夫、大丈夫、目を閉じてごらんなさい。安心するから』
そう彼女に囁かれ、ゆっくりと目を閉じる。
私の心音と彼女の心音がリンクし、同じようなリズムを奏でる。
まるで重なっているみたいに…。
温かい、温もり、あたしの心、癒されて、夢幻の世界へと誘ってくれる。
とてもとても落ち着く心の温もりを残して……。