心理学
なんどもなんども同じ名前を繰り返す祖母の言葉が耳を通り抜け私の心へと突き刺さる。
まるで、かおる止めなさいと言っているようだ。
でも、かほに乗っ取られた私には何も出来ない。
インナーチルドレンのゆう、と人の悪により狂ったかほの間に揺られている私の姿が精神の世界にある。
抜け出したくても抜け出せないのが現実、そして現状維持しか出来ない。
鎖に繋がれた因果の音は身体を動かす度にジャラジャラと音を立てて私の心まで縛る。
冷たい心の叫びのように、きつく纏わりつきながら暗闇が心を支配してゆく。
悲しいような、寂しいような、よく分からない感情。
その中で茂垣ながらも、現実世界へと目を向ける。
鏡越しに映る、もう一人の自分の姿を見て、どこまで自分が弱いのかをやっと理解した気がする。
(もう、嫌、あんなの私じゃない)
両手で顔を隠して、見たくない現実から逃れたい衝動に駆られる。
でも、そんな夢幻みたいな現実、ここにはないの。
私にあるのは二人の自分に挟まれて、苦しんでいる自分の姿だけ。
(たすけて……だれかここから出して…)
一生懸命に自由のある右手だけで現実世界へと繋がる鏡に爪をたてる。
ガリガリガリガリガリガリ。
ここは私の…、今はかほが主人格になっている私の心の住処。
どこにも逃げれない暗闇が続く、地獄絵図。
ほどけないのなら、自ら手首を切り落としてでも、出たい。
身体と心は繋がっている。
勿論痛みも連動している。
何も出来ない無力な自分。
流れ出る空間の中で私の涙がポタリと零れた。
それは心の中のように、まるで叫びのように、悲鳴をあげ私の身体に溜まってゆく。
ドクンドクンと脈打つ心音は誰にもの?
私?あたし?それとも……。
それは誰にも分からない。
「どうして私がこんな目に合わないと…」
誰もいない孤立された空間の中で私のなき声だけが響く。
二つの人格に語り掛けるように、さみしく、かなしく響いている。
『…逃げたくせに』
遠くから声が聞こえた気がした。
声と行っても、どちらかと言うと音に近い。
鈴の音のように、私の心に語り掛け、再び暗闇と混ざり合う。
精神の世界には複数の層がある。
人によるけどね。
ユングの本をよく読んでいた私は研究していたの。
意識的な言葉の中には本当の答えなんて、何もない事を。
一番人の本音を聞けるのは、無意識の世界。
そう本で読んで、沢山の臨床実験を試したの。
それは言葉遊び。
合わさらないピースを埋めていくみたいに言葉を操るの。
素敵なように、輝くように。
暗闇のように、地獄のように。
伝言ゲーム、私はそう言うの。
こちらが提示した言葉で、相手に連想させ、それを全て誘導し繋げていく作業。
その先には人のこれから起こす行動を読める事が出来る唯一の技。
実際に科学でも証明されている一番効果的な技。
ユングは夢想の世界で生きている。
人は全ての技術を表には出さない。
出すのはほんの一握りの情報と文献だけ。
そして、次の段階にいくの。
ほら、株や為替でもよくあるでしょう?
表に提示された情報と、その裏で儲けれるように用意された情報。
二つを使い分けながら、世界は廻っているの。
私のこの狂った頭と心みたいにね…。
闇は広がる私のように。
涙は溢れる血潮のように…。