表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/72

風車







 

 あたしの変貌を見ている祖母は言葉を失って立ち尽くしてる。


 失っているのは言葉だけだろうか、多分ある一部の感情も落としているのかもしれない。


 あたしはかおるみたいに優しくない。


 現実は凄く残酷で、人の裏切りなんてよくある事。


 だからあたしはその現実を見ての対応策を考える。


 父に言われた言葉を思い出す。


 『人間には二つの脳がある。一つは頭脳。もう一つは心。男性は頭脳で考え、女性は感情で動く。かおる、お前はこの家の血筋の娘。だからこそ覚えておきなさい。一般の立場じゃないお前は周りから見たら異色の存在。だがそれでいい。後政治家にはなるな。私の跡も継がなくていい…。人間は表と裏がある。ある程度の立場になると表だけでは成り立たなくなるんだ』


 幼いあたしは首を傾げながら、父の行動を監視してる。


 今覚えば、あたしは家の思考に塗り替えられてこの雑賀家のレールに乗っていたのかもしれない。


 「お父さん、どうしたの?」


 少し悲しそうな父の姿を見つめながら、そう聞き返す事しか出来ない。


 弱い私、幼い自分。


 精一杯の父、弱い背中。


 今覚えば、一生懸命に訴えていたのかもしれない…。


 自由になれと…幸せになれと…自分のように縛られないように逃げろと…。


 それに気づける訳ない年齢の自分の姿が瞼の奥に入り込み、映画のように動き続ける。


 まるでそれは、ストーリーを奏でているように。




 色々な人間の言葉によって今のあたしの軸が出来ている。


 それは正しかったのかと自分に問いかけると、答えは出てこない。


 何が正しくて、何が不正解か分からないから余計に…。


 色々な矛盾の中に生きて、自分の答えに気づくのが遅かったのかもしれない。


 現在いまのあたしだからそう思う事が出来るだけで、過去のあたし達にそれが出来るのかと言うと疑問が残る。




 かおるの心の叫びが聞こえ、あたしとリンクし混ざってゆく。


 ゆうはそれを見ながらケラケラと笑いながら、人形と遊んでいる。


 憎悪に塗れた感情の渦に巻き込まれながら…。


 赤い血潮の中に揺られながら…。


 目に見える色じゃなく、心で感じる色。


 ゆうの着ている、大好きな白いワンピースが真っ赤に染まっていく。


 まるで心から血を流しているみたいに。


 それは血の涙みたいだ……。



 「ねぇ、お願いだから邪魔すんなよ」


 母に向けられた殺意は移り変わり祖母へと注がれる。


 苛立ちが心を制し、自分が自分じゃなくなる感覚がする。


 あたしの理性とガラスの音が崩壊してゆく。


 それはあたしの心の結晶。


 『あんたは誰だい……』


 そう呟く祖母の言葉を無視しながら、話を再開する。


 暴れる感情を抑えるかのように。


 


 『やめて…』


 「止める権利、お前にない。ある訳ないだろうが』


 今のあたしは一体誰?


 『……かおる』


 「だから違うってんだろうが、黙れ」


 『お前はあの女とは違う。優しいいい子』


 代わる代わる言葉の節々に笑ってしまいそうになる。


 これだから人間は醜く、都合の良い生物。


 だからムカつくし、消したくなる。


 形のあるものを全て焼き尽くし、全てなかった事にするように。


 ボロボロにしたくて、したくて、堪らない。


 「都合悪くなると、そんな言葉で逃げるんだな…最低だな、お前も…」


 ハハッと狂い笑いながら、持っている包丁を母から祖母に向ける。


 母は精神が壊れているみたいで、動かない人形のよう。


 あははは、人形なんて生ぬるい。切り裂けるぬいぐるみだな。


 この表現の方がぴったりだ。



 くるくる回る感情の渦。


 くらくら回る目の前の情景。


 ぐらぐらするあたしの精神。



 どれが偽りで、どれが本物?


 それすらも分からなくなっていた…。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ