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地獄の時間帯

夜中2時


私は、冷たい場所にいます。


もう何時間こうしているのか、分かりません、と言うか分からないのです。


私の目の前にはぼんやりとですが、煙草の火が見えます。ライターの音がします。


(やめて…)


そう思いながら、震えていると、母は私の態度を楽しみながら、こう言いました。


『いい表情かおね、その表情が見たかったの』


「……」


その一言を最後に、母が何をするのか予想がついている私は震えながら、言葉を振り絞りました。


「や……め」


もう、身体が痛くて耐えられないからやめてと続きを言おうとすると、その言葉を待ってはくれません。


『本当に、腹立つ。私と似た顔、でも私より好かれてて。私が一番なのにね、かおるが悪いのよ』


そう毒を吐くと、次に聞こえてきたのは、笑い声、狂ったような、猟奇的な笑い声。


(やだやだやだやだやだやだ)


私の心の声など聞こえません。例え口に出しても、聞いてくれないでしょう。


煙草の火が私に近づいてきます。ポタリと灰が床に零れ落ち、それはまるで憎悪のように広がってゆくのです。


『産まなきゃよかった、あんたみたいな出来損ない』


私は床に倒れています、身体中が痛くて、動けないのです。


そんな私の背中を足で踏みつけ、ケラケラと笑い続けます。


しゃがみ込んだ母は、私の左手を無理矢理、床に押さえつけます。


そして、明るい灯と灰の入り混じった、人間の感情を表しているかのように


私の左手に、煙草を押し付けるのです、二度、三度。


「あつぃ…あつううううううううううう」


子供の私には耐えられない痛みと熱さ、ツンと鼻に自分の肉の焼けた臭いがしたような気がしました。


私は、叫び声をあげながらも、泣いたりはしません。


この家の子供なら泣く事は許されないから、泣きたくても泣けないのです。


『もっと苦しんで。かおるの苦しむ表情素敵だから、ねぇお母さんの言う事聞いて?』


私は、どうしてこんな想いをしなくてはいけないの?


暗闇に問いかけても、返ってこない答え。


ただこの状況を耐えるしかないのです。それしかないのです。


夜中は地獄の時間帯。


毎日起こる日常の一部。


でも、今までとは違います。


それは煙草。蹴られたり、殴られる事は毎日ですが、煙草の火を押し付けられたのは初めてでした。


そんなに、私が憎いのでしょうか。何もしていないのに。産まれてきただけで、こんな想いをしなくてはいけないのでしょうか。


5時


項垂れている私を、冷たい風と床の冷たさが身体の痛みを和らげてくれます。


「顔はやめて、学校に行けなくなるから、顔だけは」


いつものセリフです。身体はいいのです。服で隠せますし、夏はプールは入れません。


同級生は『どうせ、さぼり』と嫌味を言いますが、どうしても隠しておきたいのです。


背中の腫れと下腹部の傷を…。


服から見えないところは何もされなかったので、左手に煙草を押し付けるなんて考えもしませんでした。


私の考えが、甘かったのでしょうか。


「学校なんて意味ないわ。義務教育貴方に行かせる訳ないじゃない」


『え…』


「何か文句でもあるの?貴女の事を考えての事よ」


ねぇ、かおる?と私の耳元で囁いてくる母はまるで悪魔のような言葉を繰り返してる。


聞きたくない言葉、でも聞かないとここにいれない気がして聞いてしまう。


だから私は悪魔の言葉と呼んでいます。


自分から逃げる事など簡単な事のように思うのですが、現実は違うのです。


少しずつ蓄積されていく言葉の数々に縛られて、支配されつつあるのが現状です。


まるでマインドコントロールのように…。

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