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洗脳への道




 ポロポロ落ちるのはあたしの心?


 それとも…。


 現実を支配している、今のあたしが全て本物。


 これがリアル、そしてかおるがフェイク、ゆうが夢。


 だからあたしの涙なんかじゃない。


 これはただの心の雫。


 祖母はあえて、続きを言わない、言わないではなく言えない、言いたくないんだ。


 でもそれは現実から逃げている事と同じだから、あえてあたしの口で教えてあげる。


 言葉は善と悪、両方で生きている。そして人もその間をゆらゆら揺れながら人の道を歩いてる。


 どうしてかな?クスクスと笑いが込み上げてくる。


 (ざまぁみろ)


 苦しむ顔をもっと見たい。


 悲しむのをもっと観察していたい。


 あたしの感情の黒い部分の一部になって、記憶の中で永遠にこの状況が生き続ければそれでいい。


 簡単に忘れさせるなんて許さない。

 

 「言えないなら、あたしが言ってあげようか?」


 そうやって言葉遊びを楽しみながら、祖母の心をどんどん追い詰めていく。


 本当は祖母以上に、母にするべきなのだろうけど、色々差別をしてきたのには代わりないから、同類でしかない。


 暴力を振るったか、振るってないかだけ。


 祖母の場合は言葉の暴力。


 母は両方、そして行動の制限と、食べ物の制限。


 だからあたしの餌は祖母からもらっている。


 お腹空いた時、耐えきれずに雨の中で泥ダンゴを食べたっけ。


 甘いものなんて与えてくれないから、花の種類を調べて、蜜で糖分を摂取したっけ。


 全ては祖父の知恵。


 戦争時代を生きてきた祖父だからこそ知ってる、飢えから凌ぐ為の方法。


 ちゃんと餌は与えられてると、母は機嫌が悪くなり、首を絞めて、もう母屋へ連れ込んで、抑え込むんだ。


 そしてあんだけ食べ物を与えなかったあたしの口を指で無理矢理広げて、食えと怒鳴る。


 『あいつらの料理が食べれて、何故食べれない』


 そう怒鳴るんだけど、本家で食べてきた後にそれをするから、あたしは追い詰められて、挙句の果てに、トイレも監視。


 『お前はいつ逃げるか分からない。お前に自由はない。私の人形だから』


 そして、祖父達から餌を貰わないようにすると、また食事を与えてくれない。


 唯一あったのは、床に置かれたカレーライス。勿論スプーンなんてない。


 冷たいお米とカレー。


 母は机で食べてて、床でご飯を眺め続けるあたしに言うんだ。


 『お前は人間以下。ペットなんだから、スプーンなんていらない。口で食え』


 そう笑いながら、ご飯をムシャムシャと食べてる。


 食べ方が人間のように思えなくて、まるで下品な下等生物。


 あたしは半泣きに泣きながら、仕方なく口で食う。


 『あはははあはは、本当に食べてる、傑作だわ』


 あたしは俯きながら涙を我慢しながら、餌を食べてる。


 あたしにはご飯て呼び名はない、あたしがあいつの支配下である以上それは許されない。


 そう、あの時の苦しみ、悲しみがあるからこそ、憎しみに変化していき、かおるの存在に腹も立った。


 近所の人達が、学校の先生が、警察の人達が、助けてくれようとしていたのに、かおるは嘘をついたんだ。


 「何もないです。気のせいです」って…。


 周りの人達から言ったら、あんな叫び声、怒鳴り声普通じゃない。


 警察の人曰く、毎晩通報があったらしい。


 虐待じゃないかと、子供の泣き声と怒鳴り声がサイレンのように聞こえて、心配で溜まらないと。


 あたし達は周りの人達がいたから、生きてこれたようなもの。


 ご飯一緒に食べようと誘ってくれたり、寝る場所がないなら逃げ込んできなさいと言うてくれたり、色々心配してくれた。


 有難いと思う反面、人を信じれないようにマインドコントロールされていたあたし達は、どうしたらいいのか考える事まで奪われていた。


 知っているかな?ある一例を。


 普通に生活していた人が、ある日知らない人に監禁されて、勿論その人は反発した。


 すると拘束されて、腹を蹴られ、首を絞められ、挙句の果てには包丁で殺されそうになった一例を。


 大人になったあたしだからこそ、そのテレビを見て「これは自分そのものだ」と感じる事が出来たし、受け止める事が出来た。


 正常な判断を狂わしていくのが、暴力の恐ろしい所。


 そして恐怖で人を縛り、次の段階へ移行するんだ。あたしと一緒。


 その人は人が入れる木で作られて小部屋に入れられた。


 そしてそこには電灯と机が一つあるだけ。


 そこに二年監禁する。そして食事の時だけ唯一光を見える事が出来る。


 ドアを開けた瞬間に見えるたった一つの希望の光をね…。


 初めは出たいと思うの。でもね、その人の術中にはまると、そういう感情が消えて、次にこう思っていく。


 「あたしにはここがお似合い。ここがあたしの世界」ってね…。


 そしたらもう四割は洗脳出来てるのよ。後はそれを毎日繰り返して、アメとムチで精神的に操っていくだけ。


 それが安定してきたら、次の段階に行くの。


 ドアを開けて、優しく諭すように「おいで」と手を差し伸べる。


 自分が善人であるかのように演じて「ごめんね」と言い、出てこさせる訓練をするんだ。


 洗脳された人はね、そこが世界なの。だから外に対して恐怖を持つように変貌してるんだ。


 そして、監禁した本人が、その人の光になるように、徐々に関係性を狭めて、信用させていく。


 そうするとどうなると思う?ふふふ。答えを言うね。


 支配された人は外に出るのを怖いと思うけど、慣れていくと、その人に恋をする、もしくは家族以上の思いを抱くようになるんだ。


 まぁ、吊り橋効果ってやつだね。


 犯人と被害者がよく恋に落ちるってやつと同じ心理なんだよね。


 ね?怖いでしょ?母があたしにしたのと同じ事を他人でもしてるなんてゾッとするよね。


 でもね、これが現実。皆の知ってる現実も一つの答えだけど、こういう答えもあるんだよ。


 だから被害者は傷を一生負い、苦しみ続けるんだ。


 心と体はイコール。痛みなんて、殴られなくなっても、普通の生活をするのが難しくなるんだよ。


 夜になると思い出して、殴られてもないのに痣が浮き出る。狂いそうな感情から逃げる事が出来ない。



 そうあの時のあたしもそうだった…。


 今も逃げる事なんてないけど、だけどね、立ち向かう事は出来るから。


 それが生きていくって事だと思うから、苦しみながらも生き続けてるのが現在なのよね。


 仕事しながら、心臓の痛みに耐え、頓服を飲み、発作を抑える。


 薬がないと生きていけなくなるんだ。心も身体もね…。



 そんなあたしの苦しみなんて、二人には分かるはずもなく、時間だけが過ぎてゆくの。


 ゆっくり、ゆっくりとね…。






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