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善と悪の割合





 皆、皆、皆、うるさい、うるさい。


 あたしの味方なんかいない。


 ゆうとあたしの味方とは言えない。

 

 だってあのガキはあたしの思惑と共感する所があるだけで完全にあたしの考え方に共感してる訳ではないし、ゆうはゆうの考えがあるしあたしを理由するつもりだから。


 なんとも言えない立場の中でバランスを保ってるだけ。


 あたしはあたしの考えの元で行動しているだけ。


 それに力を貸してくれてるからこそ、あたしがかおるを抑え込んで、表に出れているだけ。


 ううん、ちゃんと言うと、ゆうが抑えてくれているからこそ、あたしが自由に出来ているだけ。


 普通なら感謝するところだけど、あたしは感謝なんてしない。


 お互い違う立場で違う考えで、ゆうは幼いながらも、闇の中で生きているインナーチルドレンであり、普通の思考なんて、そもそもないから。


 あたしは奴を利用するだけ利用して、かおるを抑え込んでいる間、あたしが主人格になれば、ゆうを支配する事も可能だと考えてる。


 だからこそ、今は堪え時なのかもしれない。


 自分が本当は何を望んで、何を欲しているのかなんて考える余裕もなくて、ただゆうとの感情のリンクが原因で、それに操られているだけだと考えている。


 (皆、皆、皆、敵。皆、皆、皆、嫌い)


 これはあたしの言葉なのかな?それとも…。その真意は今はまだ分からない。


 きっと理解出来るのは全てから解放された時だと思う。


 それがいつになるのか分からないけれど…。


 そんな自分の思考か分からない曖昧な空間の中で、祖母の叫び声と母のシクシクと聞こえる泣き声で現実に戻る。


 あぁ、あたしは今自由なんだ…、そう実感するとほっとするのは何でだろう。


 全てが疑問だらけの自分、全てが偽りだらけの現実。


 『かおるぅううううう、やめてぇぇぇぇぇ』


 母は少し冷静になった…、いや正気になり通常の母に戻りつつあるのだろう。


 あの人は8割悪で、2割が善。


 あたしはそう決めつけてくる。


 何度殴られても、何度蹴られても、何度否定されても、何度ペット扱いされても、あの人はあたし達の母なのは間違いない…と思う。


 嘘か真実かは、あたし達以外の大人達が知る共通の秘密なのかもしれない。


 『やめて、とめて、助けて』


 そう叫び声を上がられても、止める事なんて出来ない。


 あたし達はこの瞬間を待ちわびてて、ずっと耐えて生きてきた。


 きっと本心ではかおるもそう思っているはずだから。


 全てのバランスを崩してしまったものを元に戻す為に必要な作業の一環でしかない。


 「もう遅いよ…」


 そう呟いた瞬間、あたしは母の首に刃先を食い込ませると、少しずつだが、血が刃を伝い、刃を伝いポタポタとあたしの手を染めていく。


 そう、これが一番綺麗で、あたしが一番望んでいる事。


 母は『つっ…』と痛みに顔を歪ませながら、あたしに泣き顔を見せながら助けを求める。


 首には刃先が少し刺さっている状況で、恐怖で声が出ないのだろうか、出せないと言った方がいいかもしれない。


 「大丈夫だよ、すぐあの世へいけるから、楽になるよ」


 微笑みながら耳元で囁く声と行動の矛盾が場の空気を黒く染めて、あたしの全身を闇が覆いつくす。


 後、もう少し。


 少し刺さっている包丁を引き抜いて、包丁の構えを変える。


 そして、刃の側面を首に向け、次の行動に移す。


 もう少しで首を切る事が出来る。首と言うか確実に殺す方法は動脈を切る事。


 そうすればあたし達の苦しみは終わるんだ。


 まぁ、あたし達…ううん、厳密に言えばかおるの人生も終わる。


 そしたらあたしとゆうはまた暗闇の中に消え、見ている事しか出来ないかおるに罪を擦り付けれる。


 罪は全てかおるの罪。


 あたし達は関係ないから。


 「さようなら、お母さん♪」


 そして手を思い切り振りかぶろうとした時だった。


 『かおるやめなさい』


 この場面に遭遇しているもう一人の人物。


 そう祖母によってあたしの計画は破綻するんだ。


 祖母の存在は邪魔なはず、幼い頃からかおるの事をいじめて『あの女の子供だから汚い血筋しか流れていない、この家の子じゃない』と暴言を吐き、当たり散らしていた。


 母に当たれない分、かおるに当たって、おじいさんが死んでから、かおる…あたし達の敵になったのに、どうして止めるのだろう。


 闇に堕ちたあたしは言う。


 『邪魔すんな』


 そんなあたしに反して、祖母はやっとあたしの変化に気づく。


 「あんた…かおるじゃないね…もしかして、あの女と…」


 そう言葉を吐くと続きの言葉を瞑る。


 言ってはいけないと思ったのだろうか、それとも言いたくなかったのかもしれない。


 現実を受け止めなきゃいけないと考えたのだろう。


 恐怖を感じたのだろう。


 あの子もきっと母と同じ道を辿ると思ったのだろう。


 祖母の内心はあたしに理解出来る訳もなく、あたしの感情はどんどん暴走していく。


 まるで子供に戻ったように……。







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