悪魔の囁き
あたしは鬼ようであって、まだ鬼じゃない。
嗚咽を上げてる人間はあたしにとって唯一の母だ。
まぁ自分の出生に疑問があるから、本当かどうか今じゃ分からない。
表で調べれる事は調べたけど、人間は表裏一体。金が絡むと余計に…。
そんな事、普通にあるのが現実だが、普通の生活している人達には無縁な世界。
知りたくない世界でしか生きれないあたしはある意味幸せで、ある意味不幸なのかもしれない。
『人を階段にして、犠牲にして上に進むのよ、私達の家系はそうやって繁栄させてきた』
耳がタコになるくらい言われてきたセリフ。
だけどね、それはあたしの中での正解じゃないんだよ。
色々な人を犠牲にして、家を繁栄させてきたのかもしれない。
だけど、その裏側には裏切りと金とそして死しかないんだ。
あたしもその中の一人。
色々な人に産まれた時から目を付けられ、何度殺されかけてきた事か…。
でもね、真性さんの奥さんみたいな結末になりたくないから、あたしは自分を偽っていた。
真性さんはあたしのおじいさんの兄にあたる人物。
あたしは母が40の時に産んだ子らしいから、おじいさん達の年齢はひい爺さんにあたるんだ。
真性さんは祖母から聞いた話、天皇家からもう一つの名前を頂いた人らしい。
長ったい名前で、漢字ばかり、幼い私にはチンプンカンプンだった訳。
その人はね、船に乗ってたらしい、天皇家から直々に動いてる人だったらしく、余計名声を集めようとするきっかけになったのもこの人が影響してると思う。
まぁ、あたしの家は家にある書物上では天保時代からある、地元ではかなり有名な家柄。
兄が色々調べたらしく、教えてもらったけど、それ以上前からあるらしい。
本家が滅びそうになると、血筋を守る為に何でもした家でもあり、全ての自由を管理されている。
関わる人も、愛する人も、生き方も、人格も全て、一筆された内容でしか生きる事を許されない。
家の為に生き、家の為に死ぬ。
そう言われて返せる言葉は、はいのみ。
何度普通の家庭に憧れただろうか…。
積る苦しみを悲しみを揺さぶるように、母が嗚咽をあげてる。
『たすけてぇ…かおるるうううう』
(煩い、ばばあ)
凄い優越感。全身を駆け巡る快楽が背中に痺れとして走り、ゾクゾクとした快感へと塗り替えていく。
そんな空間の中で、あたしの快感を破る人物の声が聞こえる。
『何してんや、あんた』
あたしと母の姿を見て、いつもと違う様子を見て呆気にとられながらも、冷静に見つめてる祖母の姿。
あたしは何も悪ぶれる事もせず、近づいて、こう呟く。
「邪魔な人間は排除する、あたしの為にね♪」
ケラケラ笑うあたしを見つめながらも、微かな怒りを感じる。
『かおる…お前がしたんか?』
「見りゃ分かるでしょーが」
『……やり返したら、母親と同じやろうが』
「じゃあ助けてやればぁ?」
祖母は何も悪くないのに、黒く染まりつつあるあたしは次のターゲットを祖母へと移す。
貴女もあたしを虐めたもんね。
あの女の子供だから、血筋は争えんな。
汚い血筋やから、この家には相応しくない。
出来損ないを作ったあの女が悪。
産まれてこなければ幸せだった。
色々な言葉、忘れたなんて言い訳しないよね?
『…あんたって子は…』
そう呟きながら、急いで台所に行く、バケツを持って。
水を大量に汲み、母目掛けてバシャンと水をかける。
そして一言。
『自分の娘にされるんはどんな気持ちや?あんたも少しは懲りたやろ』
その言葉はまるで、自分は何もしてないと言う象徴。
あたしは笑い声をあげながら、祖母へと近づいてゆく。
「おじいさん殺したんは、あんたやろ?かおる…って誰が言ったっけ」
「誰が虐めたっけ」
「お前ら全員、同じだよ。屑が」
声が変わって、目つきが変わる。口調も変わり、性格も変わる。
「お前らは生きていたらいけない…」
背中にはりついているインナーチルドレンが囁き、現実の言葉へと作り替えてゆく。
無表情になりながら、ブツブツ言うてるあたしは、台所へと向かう。
背中に張り付いた、悪魔に囁かれ…してはいけない事をしようとしている…。