春に寄す
日下部良介さん主催イベント 「春の歌会2019」参加作品です
窓から見える庭は、ところどころ雪の残っている。その中で黄色の点がポツンと目にとまった。
もしやと思い外にでてみると、やっぱりそうだった。福寿草の花が咲いてる。まだ五分咲きだけど、春一番の花だ。
これはもとは野の花の福寿草、主人が生前、同僚からもらってきて植えたものだ。
(野生の花は、難しいのよ。土が合わないと、すぐ消えてしまう事もあるし)
(大丈夫だ。何せ俺が植えるんだからな。俺はこれでも理科の教師だ。植物の事を教えるほど知ってる。)
(はいはい、知識だけはあるわね。園芸の経験はないけど。でもあなたの専門って、物理じゃなかった?)
植えた時のたわいもない会話を思い出した。もう20年も前の事だ。
その後、10年たたないうち夫は天国へと旅立った。
庭の福寿草は、消える事もなく、春を一番に告げるように毎年 咲く。
「ありがとう。咲いてくれて。今年もあなたのおかげで夫に会えた気がする」
福寿草の周りはまだ雪が残ってる。雪かきしようか?いや、やっぱりそのままにしよう。特別な世話もせず、生き延びた花なのだから。
”薄着じゃ風邪をひく。はやく家の中に入れ”
春の風の音の中に、そんな夫の声が聞こえた。
まっさきに
福寿草庭に一輪
今年も心に灯りがともる