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第九十三話 お上とは極力接点を減らしたい

「戸高支部はなにを考えているのですか? こんなに若い除霊師を!」


「経験の少ない除霊師では、色情霊に翻弄されて殺されてしまいます」


「彼は若いが、腕はピカ一なのだよ」


「だからと言ってですね!」


「(またこんな流れかよ……)」




 新しい戸高支部長から『君にしかできない依頼だ』と頼まれ、渡世の義理等の事情を考えて顔を出したら、若い女性二人……除霊師のようだが、共に出会ったばかりの頃の涼子と同じくらいの霊力だな……から、未熟な若者だと言われてしまった。


 そんな予想はしたのだが、自分たちが除霊を頼んでおいてそれはないよなと思ってしまう。

 しかも自分たちも熟練というわけでもないのに……。


「あっ! 土御門さん」


「あら、お久しぶりね。清水さん」


「ええ……」


 俺についてきた涼子は、年上の女性除霊師と顔見知りのようだ。


「土御門……陰陽師の家柄か……」


「そうなのよ。現在では、安倍一族に次ぐと言われている除霊師一族で、同時に警察、自衛隊、役所に除霊師を送り出しているの」


 安倍一族よりも、直接的に国に貢献している除霊師一族というわけか……。

 そういう真面目そうなのは、俺はちょっと苦手なんだよな。


「清水さんは、除霊師として腕を上げたのかしら?」


「ええまあ、ほどほどに……」


 ほどほどにどころか、すでに涼子と土御門さんとの間には、一生かけても追いつけない実力差が存在していた。

 涼子が口籠る様子を見ると、それが土御門さんに知られた場合、面倒なことになるので黙っているといった風に見える。


「(お嬢様でプライド高そう)」


「(普段はそうでもないけど、除霊師としての実力なところで……)」


「(なるほど)」


 共に女性で、若くしてその実力を認められた除霊師である。

 ライバル心があるのであろうが、涼子はそういう土御門さんが面倒くさいと感じているようだ。

 確かに、スポ根漫画のライバルキャラ同士ではないのだから。


「清水さんが同行しているってことは、彼はそれなりの腕というのはわかるけど。今回除霊してもらう色情霊は厄介だから」


「色情霊の除霊なんですか?」


「ええ、私が所属するゼロ課の男性除霊師では、逆に殺されてしまうもの」


 色情霊かぁ……。

 確かに、あれは特殊で面倒な悪霊なんだよな。

 間違いなく、悪霊としての強さでは全然大したことない。

 お札で簡単に除霊できるが、問題なのはどうやって見つけ出すかなのだ。

 色情霊は、標的の前にしか姿を見せない。

 そして性交に誘い、霊力と精気をすべて吸い上げてしまう。

 狙われた人間は死ぬか廃人になるかだが、その直前に忘れ得ぬ快楽を得られるという。

 しかし、標的を誘う時以外はその姿を徹底的に隠してしまう。

 低級の怨体以下の反応しか示さず、なかなか捕らえられないのだ。


「そこで、囮役を演じつつ、色情霊の誘惑に負けない優秀な男性除霊師が必要なのです」


 と答える、赤松さんという若い女性。

 彼女も、土御門さんと同じくらいの霊力の持ち主であった。


「了解。その色情霊を除霊すればいいのか」


「難しいですよ?」


「知ってるよ」


 向こうの世界でも何度か退治したことがあるからだ。

 色情霊を除霊する時の一番の問題は、凄腕の除霊師でも色情霊によっては誘惑に負けて性交してしまい、殺されるか廃人になってしまうケースが多々あるということであろう。

 さすがに俺くらいまで除霊師として強くなっていると、色情霊の誘惑に負けるということはほぼない。

 問題は、どうやって色情霊に誘われるようにするかだろうな。


「だいたい君は、色情霊を除霊するに際し一つ大切なことが欠けているのよ!」


「欠けている?」


「そう! あなたは童貞ね! 童貞は、色情霊の誘惑に負けやすいもの!」


 『ビシッ!』と、俺の指をさす赤松さん。

 親御さんから、人様を指差してはいけませんと習わなかったのであろうか?


「それは迷信だ」


 向こうの世界でも言われていたことだが、別に童貞・処女の除霊師が色情霊を除霊できないなんて事実はない。

 ようは、童貞・処女の除霊師は年齢が低く、除霊師としての実力と経験が浅いので、色情霊の餌食になりやすいだけであった。


「そんなのは迷信だ」


「いいえ! 土御門家でも、赤松家でも、そうだと代々伝わっています!」


「涼子、赤松家って?」


「元は戦国大名家の流れを汲む、除霊師の家系です。土御門家とは遠戚関係にあります」


 除霊師の大家の言い伝えで、童貞は色情霊の除霊に投入できないと言い張る二人。

 条件が合わなければ仕方がない。

 今回は縁がなかったということで、これにてお開きということにしよう。


「涼子、帰ろうぜ」


「そうね。すみません、裕君は土御門さんのお眼鏡に適わなかったようで」


 いくら支部長からの依頼とはいえ、依頼者が駄目というのなら仕方がない。

 俺と涼子は、そのまま家に帰ってしまったのであった。




「土御門家ねぇ……プライド高いのね」


「ええ、悪い人ではないのだけど……あと、古い家だから伝統とか言い伝えとか、そんなものに敏感なようね」


「裕に頼めば、ちょちょいと除霊できるのに」


「いや、それはどうかな?」


「裕ちゃん、なにか問題でもあるの?」


「この色情霊。ただ、男性除霊師を囮役兼除霊担当にすればいいって話じゃないように思える」


 家に帰ってから知り得た情報を整理してみたのだが、この色情霊。

 多分、これまでのセオリーが通用しないはずだ。


「師匠、ふと気になったのですが、この色情霊は男性を誘惑して引き寄せていませんよね。男性が先にホテルの部屋に入って、そのあとに色情霊が姿を現しています」


 これは俺の推測だが、この被害者は色情霊に誘惑されたという感覚を持たずに死んだはずだ。

 派遣型風俗で女性を呼んだら、なぜか色情霊が姿を現し、彼女と性交したら死んでしまった。

 ところが、被害者のいた部屋から外部に電話をかけた形跡はなかったそうだ。


「つまり、被害者だけが認知できた派遣型風俗店から色情霊を呼び出した?」


「という線が濃厚かな。ちょっと、これまでの色情霊とは大きく違う。これは、解決までに時間がかかるかも」


 そしてそれはすなわち、さらに犠牲者が増えるということだ。


「ゼロ課の人たちは、あなたとは別の男性除霊師に仕事を頼んだのでしょう?」


「そうなんだが……」


 問題は、その男性除霊師がその色情霊を呼び寄せられるかどうかだな。

 俺は、多分できないと思っている。

 なにか他の方法で、あの色情霊に対抗しなければいけないはずだ。


「裕ちゃん」


「ゼロ課の二人が、その男性除霊師で大丈夫だと思ったんだ。俺にはどうにもできない」


 そして俺の予想が当たり、翌日、またもとあるラブホテルの一室で一人の男性の死体が発見されたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  サキュバスとは違う淫魔なんですね。 [気になる点]  戸高家、安部一族に生臭坊主。祐たちは悪霊テロをやらかしている連中を保護しています。  それなのにまじめなゼロ課をフォローしないのは何…
[一言] 年功序列が染みついているから年上の刑事には礼儀正しくて年下の裕にはマウント取っているのね。 次回の態度でわかるかと思いますが、アホ二人があまりに不評なので新たな足手まとい投入ですかね。
[一言] 今回は手抜き回ですねぇ~。
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