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第六十九話 六連聖五方陣 

「六枚に分割できるお札……クーポン券みたいだなぁ……」


『ワシは、神々しい力を感じるがな。この世界ではいくら大金を積んでも購入できないだろう』


「それは私もわかります」


『確かに、金富山をただの聖五方陣ではなく、それを六重で囲み、そのお札を触媒に全員の霊力を一気に流せば、たとえ軍団規模の怨体と低級悪霊でもひとたまりもないであろう』


 六連五方陣を構成する六本の全高一メートルほどの円錐形の水晶柱が五本並ぶ前で、私は裕ちゃんから貰ったお札を用意して、作戦開始を待っていた。

 五方陣を位置をズラして六重に張るのに、水晶柱が三十本必要だから、一人あたり五本が担当というわけだ。

 持っているスマホからは、菅木議員からメッセージが次々と入ってくる。

 彼は悪霊の気配に敏感なので、安全な位置から私たちに色々と指示を出す役割を担当していた。

 作戦開始後、この場に待機する私たちに迫る、悪霊や怨体の接近を知らせるのが主な仕事だ。

 当然私たちも悪霊の気配は探るけど、万が一に備えて裕ちゃんが菅木議員に頼んでくれていた。

 裕ちゃんは優しいから、私たちになにかあると大変だと思っているのであろう。


 私は幼い頃から裕ちゃんのそういう性格を知っているから、いかにも裕ちゃんらしいなと嬉しく思ってしまうのだけど。


『さて、裕はどのくらいの時間で霊団のボスを仕留めるかな?』


「そんなに待たなくていいと思います」


 だって、裕ちゃんだからね。

 私も相当強くなったけど、やっぱり裕ちゃんとは根本的にレベルが違うというか。

 だから私は、岩谷彦摩呂を見てもそんなに優れた除霊師とは思えないんだと思う。


『全員が配置についた。お札を両手に持って水晶柱の前に出せ』


「はい」


『カウントを開始する。ゼロと同時に、すべての霊力を解放。できるな?』


「当然」


 これまで裕ちゃんに追いつこうと、いえ、その横に立てるようにしようと鍛錬を続けてきた。

 このくらいのことは、できて当然。

 できなければ、裕ちゃんの隣に立つ資格なんてないのだから。


『五秒前! 4…3…2…1…0! 霊力解放!』


 菅木議員からの合図と同時に、お札にすべての霊力を注ぎ込むイメージを思い浮かべると、恐ろしい勢いで私の霊力が吸われていく。

 気が遠くなりそうになるが、ここで気絶などできない。

 最近ようやくレベルアップできるようになった葛城先輩だって、そんな無様なことにはなっていないはずなのだから。


「綺麗……」


 ほぼすべての霊力が吸い出された直後、金富山全体が青白く光った。

 六連五方陣が遥か上空まで浮かび上がり、同時に金富山から無数に探知していた悪霊と怨体の数が劇的に減っていく。

 六連もの聖五方陣の中にいたら、よほど強い悪霊でなければ除霊からは逃れられないはずだ。

 生き残った高位の悪霊たちも、大幅なパワーダウンは避けられないであろう。


「成功だね」


『裕から預かった霊力回復薬を飲んでおけよ。相川の嬢ちゃん、早速二体迫っているぞ』


「早いなぁ……見えた!」


 菅木議員の悪霊を探知する能力は本物だと思う。

 私たちのように霊力が高いわけでも、レベルアップできるわけでもないのに、私よりも先に悪霊の接近を察知してしまうのだから。


「いかにも昔の武士って感じだね」


 まるでこちらを窺うかのように、二体の鎧武者姿の悪霊たちが私に迫ろうとしていた。


「ミコ!」


「ミコ!」


「悪霊なのに、そんなに巫女服姿がいいの? もっと他に言うことはないの?」


 いつの時代でも、巫女服は人気あるのかな?

 などと思いながらお札を二枚投げると、一枚は悪霊の額に貼り付き、そのまま悪霊は浄化されてしまった。

 もう一体の悪霊は、右腕だけを持っていかれたようだ。

 そのまま猛スピードでこちらに迫ってくる。


「特訓の成果を見せる!」


 私は、普段笏に変えてある神木製の棒を構え、そのまま悪霊の顎を目掛けて棒を突き入れた。

 初心者なので攻撃が当たるかどうか心配だったけど、幸い悪霊には大して武芸の心得はなかったようだ。

 鎧姿だから武芸に長けていると思ったのだけど……これも、レベルアップの影響かな?


「ふう、無事倒せたわね」


『やはり、レベルアップとやらの恩恵か?』


「そうだと思います」


『ワシも年で体がよく動かなくなったので、レベルアップして身体能力が上がらないものかの』


 菅木議員が、突然無茶なことを言い出した。

 ステータスが表示されるのって、裕ちゃんのご両親は当然として……実は、裕ちゃんが密かにパーティに加えてレベルアップさせたのだけど、全然ステータスの数字が伸びなかったのだ。霊力も同じ……私たちは、裕ちゃんが好きだから……五人に増えたのはどうかと思うけど! 幼馴染として!


「菅木議員まで、裕ちゃんを好きに?」


『すまん、もう二度と冗談でも言わん』


「政治家って、若い女の子が好きなんですよね? 料亭で女体盛りとかして」


『いったい、いつの時代の話をしているのだ! そうだ、他の嬢ちゃんたちにも悪霊の接近を報告せねば! 相川の嬢ちゃん、もう二体、悪霊が接近中だぞ』


「了解」


 私に向かってくる悪霊はそんなに強くないけど、裕ちゃんに向かってくる悪霊の数を減らす効果はあるようだ。

 それならば、奮起しなければならない。


 私は、再び迫り来る二体の悪霊を視界に入れつつ、再び棒を構えるのであった。




「私は当たりみたいね」


『普通は、外れと言うのだがな……』


「これだけの悪霊が私に迫ってくるということは、霊団のボスを倒す裕君への負担が小さくなるということよ」


『なるほど、そういう見方もあるのか。にしても多いな』


「銃剣を構えた兵士たちの悪霊ね」


『戦中にこの山で悪霊に殺された連中であろう。ミイラ取りがミイラになったわけだ』


「あれは悪霊よ」


『ものの例えだ……』



 スマホで菅木議員からも警告が入ったけど、数十体の旧日本軍兵士たちの悪霊に気がつかない除霊師はいないと思う。

 さすがに経年劣化で装備していた銃は使えないようで、銃剣を構えて突撃してきた。

 先頭の将校たちは日本刀を構えているようだけど、その刀身はボロボロであった。

 霊力を武器に変換できないレベルの、中位クラスの悪霊たちばかりで、テリトリーに入ってきた私を偵察に来たようだ。


「行くわよ! 私は、みんなの中で一番除霊師としての経験が長いの。無様は晒せないわ」


 私は髪穴を構え、全力で突撃してくる兵隊たちの悪霊を迎え撃つ。

 とはいえ、少し数が多いので、まずはお札を投げつけて数を減らしていった。


 六連聖五方陣の威力はすさまじく、中位の悪霊が低級レベルにまで弱くなっていた。

 私の実力が上がっているのもあるけど、安いお札で容易に除霊されてしまう。


 さすがは裕君。

 お父様を遥かに超える実力がある除霊師ね。

 彼には悪霊化してしまったお父様を除霊してくれた恩があるし、以前は優れた除霊師として尊敬していた岩谷彦摩呂なんて、除霊師を名乗る詐欺師にしか思えないほどだ。


 本当、最期にお父様が言っていたとおりだ。

 結局私は、優れた男性除霊師を好きになってしまうみたい。

 お父様とのことも原因なのであろうか?

 でも、そんな私を彼は特に気にすることもなく受け入れてくれた。

 懐の大きな男性っていうのもいいわね。

 相川さんがいるので独占できないけど、私の母も未婚の母だったから大丈夫!

 要は、実際の関係がラブラブならいいのよ。


「霊力や除霊師としての強さでは勝てないけど、私は除霊師歴が長いから、裕君にアドバイスをする方向で貢献して、それで『俺には君が必要なんだ!』とか言われたりして」


『あーーー、悪霊はいいのか?』


「あっ」


 ちょっと裕君とラブラブな様子を想像していたら、髪穴が勝手に悪霊たちを掃討していたみたい。

 除霊師は、テンションが高い方が活躍できるって本当なのよね。

 悪霊たちは陰で、生きた人間の笑顔やハイテンションな心境は陽で相反するってわけ。


「もしかして、新しい技をいつの間にか出していたのかも」


 どっちにしても、私も腕を上げたものね。

 以前の私なら、悪霊数体のみを除霊して限界だったはずだから。


「私たちを分散配置する、裕君の作戦は正しかったみたい。これだけの悪霊を倒せば、大分裕君も楽になるはずよ」


 あとは、裕君が車田犬龍斎の悪霊を除霊すれば終わりね。

 終わったら、どこかに連れていってほしいけど……上手く二人っきりでどこかに行きたいものね。

 映画、遊園地、動物園……どこがいいかしら?

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― 新着の感想 ―
[一言] 今の涼子ってマロ様と状態似てますよね、テンション上がって知らないうちに悪霊討伐してたって。 実力が上がってるっていう確信があったらこうなるのもまぁ分からないでもないし、マロ様が勘違いするのも…
[気になる点] 六連のおMもの聖五方陣の中にいたら 流石に何が言いたいのかわからなかったのでこちらへ報告です
[良い点]  ヒロインのアピール会ですか?八男ではできなかった個別デートを求めます。 [気になる点]  涼子の母親はどんなご婦人なのでしょう? [一言]  悪霊テロがあるなら涼子の母親はそれに遭わなか…
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