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第四十六話 高城城、後日談

「高城城の内部の公開は、内装工事が終わるまでは無理ですか」


「今の時代、特に天守閣には障がい者や高齢者用の手すり、ループなどが必要ですからね。工事に時間がかかるのですよ。とはいえ、思った以上に城内が綺麗なのには驚きましたけど」


「悪霊とは、時に不思議なことをしますからね」


「そうですね。高城城の天守閣とその他建造物、庭園、石垣、堀、高城神社、改修工事をすれば見られる場所も増えて、観光客ももっと増えるでしょうね」





 無事に除霊された高城城は、まずは外見のみという条件で一般公開され、多くの観光客が詰めかけていた。

 これまでは公開禁止のお城だったので、いわゆる『お城マニア』の人たちが多く集まったのだ。

 カメラ片手に、大喜びで写真を撮っている。

 彼らを目当てに屋台やお店なども仮店舗ながらオープンし、城内などの内装工事が終われば入場料を取る計画なので、資金難で維持できないということはないはずだ。

 長年立ち入り禁止だった高城城と高城神社が綺麗なのに疑問を抱いた建設会社の社員であったが、霊のせいだと言ったら、それ以上はなにも聞いてこなかった。

 彼らも建設会社の人間なので、無事に頼まれた仕事をこなし、報酬を貰えばそれでいい。

 深入りは禁物だと思ったのであろう。


 まれに霊に関わった品が、非常に素晴らしい保存状態で見つかることもないとは言わないが、城や神社がそうなったケースなど一度もない。

 建設会社が入る前夜に俺と久美子で治癒魔法を使って修繕してしまったのが真相だが、さすがに現代でも使えるように水道や電気を通さなければ不便なので、それらの工事が終わってから城内の見学を始める予定というわけだ。


「ふむふむ、ここが高城神社か」


「無事解放され、聖域を構成する五芒星の三つ目の場所が解放されたのは幸いだな」


「しかしながら、まだ飲食店や土産物屋は少ないな」


 建築会社の人たちと別れて城外に出ると、人間の姿をした竜神様たちが屋台の焼きそばを頬張りながら、俺たちに話しかけてきた。


「高城城ではないのですか? 聖域のポイントって」


「いいや、高城神社の方だ」


「だから、高城城が最初戸高高志に奪われた時も、我らはなにも言わなかったであろう?」


 赤竜神様と青竜神様は、久美子の疑問に答えながら焼きそばを食べ続けていた。

 とりあえず、口の周りの青海苔は取った方がいいと思うな。


「そういえばそうですね」


「なまじ高城城の隣にあったものだから、一緒に封印されて難儀であったのだ」


「聖域の五芒星を構成する高城神社があの様だったので、我らは余計力を落としてしまったのだな」


 だから最初に出会った時、中華の薬膳スープに入れるタツノオトシゴの乾物みたいだったのか。

 聖域を構成するポイントが複数悪霊によって封印され、余計復活できなかったわけか。


「竜神様たち、この高城神社のご神体はなんなのですか?」


「それは神社の境内にあるぞ」


 焼きそばを食べ終わった竜神様たちと一緒に高城神社の境内に向かうと、そこには何本かの巨木が立っていた。

 今度はリンゴ飴を食べながら歩いている竜神様たちだが……気にしても仕方がないか。

 どれもかなりの樹齢がありそうだが、特に一本巨大なイチョウの木があった。


「このイチョウこそが、高城神社のご神体というわけだ」


 一応、高城弥之助の使っていた刀を浄化して奉納したけど、奉納されたばかりの刀がご神体のわけないか。


「おーーーい! イチョウの精霊よ」


「まだ境内に人はいないので出てこい」


 俺たち以外無人の境内で竜神様たちが呼びかけると、一番大きなイチョウの木の幹から、妙齢で弁天様のような格好をした女性が出てきた。

 彼女が……神様に性別があるのかよくわからないが、見た目は女性なので女性か?……高城神社のご神体のようだ。

 それにしても、かなり色っぽい女性だな。


「長年動けなかったのだけど、ようやく自由になれたわ。キミのおかげかしら?」


「はい」


 ここで変に謙遜しても無意味なので、俺はイチョウの精霊さんに自分がこの神社を解放したのだと答えた。


「あら、ありがとう。そういえば、お酒持ってない?」


「お酒ですか?」


「そうよ、お酒よ。だって、何百年もお神酒を奉納してもらっていないんですもの」


 お酒がとても好きなイチョウの精霊……いいのか悪いのか判断がつかないな。


「気に入っていただけるかどうか……」


 俺は『お守り』から、戸高酒造の酒を出して彼女に手渡した。


「ありがとう。坊や、いい子ね」


「坊やですか……」


「年齢が二千歳を超える私からすれば、キミは坊やだもの」


 そう言われてしまうと、俺にも反論のしようがなかった。

 それにしても、この巨大なイチョウは樹齢二千以上なのか……。


「相変わらず酒好きよな、イチョウの精霊よ」


「あら、赤竜神様だって嫌いじゃないでしょう?」


「当然大好きだ」


「だったら、長年お酒が飲めなかった私の気持ちを理解してくれてもいいじゃない。それに、私はお酒があった方が力が出るから」


 そう言いながらイチョウの精霊が一升瓶入りの日本酒を一気に飲み干した直後、高城神社の空気が清浄なものに切り替わった。

 なるほど。

 酒さえあれば、イチョウの精霊はこれだけの力を有しているわけか。


「一日に盃一杯でいいからお願いね」


「わかりました、伝えておきます」


 この高城神社の宮司は、竜神会から派遣されることが決まっていた。

 毎日お酒を供えるくらいなら、伝えておけばやってくれる。

 神社だから、お酒は必須だものな。


「ありがとう、坊や。お酒が入っていたら、私は力が出るから。竜神様たちも元気だし、もう二度と悪霊に封じ込められないはずよ。じゃあね、これはお礼」


 イチョウの精霊は、俺の頬にキスをしてからイチョウの木の中に戻ってしまった。

 突然のことで驚いたが、頬とはいえ妙齢のお姉さんにキスされたので得した気分だ。


「罪なことを」


「イチョウの精霊はイタズラが好きだからな」


「裕ちゃん! 浮気は駄目よ!」


「相川さん、あなたと裕君はつき合っていないじゃない。浮気されたのは、婚約者である私よ」


「涼子も大概ね。裕、そういうことは、真の恋人である私としないと。じゃあ、今から」


「「駄目に決まっているでしょう!」」


 別に浮気とはそういうことではないと思うんだが、久美子たちに言っても聞いてもらえないような気がする。

 こうして、聖域を構成する五芒星の三カ所目高城神社は、酒好きイタズラ好きのイチョウの精霊の復活により、その力を完全に取り戻したのであった。






「さあ、哀れな悪霊たちよ! この私が昇天させてあげよう。安倍一族の若手一番どころか、すでに安倍一族一の敏腕除霊師となった岩谷彦摩呂がね」




 最近、霊力が上がったので調子がいいな。

 今日も都内で低級悪霊の除霊を引き受けたが、これまで一千万円以上のお札でなければ除霊できなかったレベルの悪霊が、八百万円のお札で除霊できている。

 この霊力の上がり方からすれば、私が初代安倍晴明の実力に追いつく日もそう遠くないな。

 高城城での除霊において私は大いに苦労したが、それが報われた形だ。

 若い頃の苦労は、買ってでもしろという。

 あのとても苦しい高城弥之助の悪霊との戦い。

 一旦は死を覚悟したが、仲間たちとどうにか彼の悪霊を除霊できたことにより、私は除霊師として大きく成長したのだ。

 

「本日はご苦労様でした。いやあ、本当に助かりました」


「いえ、これが私の仕事ですから」


 除霊が終わり、私は除霊現場の商業ビルを管理している不動産屋の若い男性社員から、報酬の小切手を貰った。

 金額は五百万円で、このところ赤字の幅が小さくなってきたな。


「別に採算なんてどうでもいいのだけど、とにかく戦績をあげて実力をつけないと」


 お金はお父様とお母様が出してくれるので、今は一体でも多くの悪霊を除霊して経験と実績を稼がないと。

 そして将来、次の安倍家当主の座は私になるというわけだ。

 決して私利私欲のためではない。

 とにかく、今の事なかれ当主といつまでも古い考えから抜け出せない長老会など害悪でしかなく、一日でも早く彼らを排除して、私が新しい強い安倍一族を作るためなのだから。


「みんなにも期待しているよ」


「任せてください、彦摩呂さん」


「僕たちも頑張って実力をつけますから」


「期待しているよ」


 私が目をかけた、若い除霊師たちにもどんどん経験を積ませないと。

 そして彼らに、次期当主となる私を支える応援団となってもらう。

 私の計画は順調で、このまま油断しなければ、確実に次の安倍家当主となれるであろう。


「さあ、次の現場に行こうか」


「「「「「はいっ!」」」」」


 除霊の仕事は順調で、大学も来年には卒業となるから、そうしたら除霊師としての仕事に集中しようと思う。

 大学で学んだことも参考に、新しい安倍一族を私が作り上げるのだ。


 そう、明日の安倍一族は私の手にかかっているのだから。






「えっ! あいつ本気で、自分が高城弥之助の悪霊を除霊したと思ってるの?」


「それがそうなのよね。どうしてそういう考えに至るのか理解できないのだけど……」


「相変わらず羨ましい性格をしているわね、あいつは。一緒にいた若手除霊師たちは疑っていないの?」


「彼らも高城弥之助の悪霊に操られて、その時の記憶がないじゃない。除霊師として、あれほどの屈辱ってないから、記憶がない間に岩谷彦摩呂と協力して除霊したことにしたいのよ」


「願望を事実だと思ってしまったのね。心の安寧のために」


「長老会の連中はどう言っているんだ?」


「それが否定もできないのよ。安倍一族の中で高城城に除霊に向かったのは岩谷彦摩呂たちのみ。高城弥之助は除霊されているから、彼らが除霊したことにしないと辻褄が合わないじゃない」


「それを認めると、ますます岩谷彦摩呂の名声が上がって自分たちの対抗勢力になっていく。安倍一族は茹でガエルみたいなもだね」


「そうね、私はもう関係ないけど」


「裕ちゃんは、全然なんとも思っていないんだね。手柄を奪われたのに」


「名声なんて面倒なだけだぞ」





 最近、棚ボタで岩谷彦摩呂が絶好調らしいが、それは今だけだろう。

 長い目で見たら、あいつは必ず破綻する。

 企業家や政治家なら、口先だけだと罵倒されたり、その職から引けば命までは落とさない。

 だが、除霊師が運のみで綱渡りをしていたら必ず死ぬ。

 あいつの悲惨な死は、すでに決まっているのだ。


「涼子のお父さんは、優れた除霊師だった。でもあの最期だ。安倍一族は日本で一番、世界でも有数の除霊師一族なわけで、当主には大きな負担がのしかかる」


 断れない除霊依頼というものが来る可能性が高く、自分の力量では確実に死ぬとわかっていても依頼を引き受けないわけにいかない。

 安倍一族は、先々代まではそれを避ける組織力があった。

 勝てない悪霊と戦わずに済ますため、除霊師以外の部門を強化していたのだ。

 札ビラの力で封印して誤魔化したり、他の除霊師一族にババを引かせたり。


 そういうことも得意だったのだと、菅木の爺さんが教えてくれたのだ。


「ところがどうも、その除霊師部門以外の能力も低下しているんだろうな」


 バブル崩壊以降の日本経済と比例するかのように、安倍一族の非除霊師部門は大きく力を落としている。

 彼らは損失しか出さない除霊師部門を敵視し、同じ一族なのによく『そんな金は出せない! こっちが苦労して稼いだ金をくだらないことに使いやがって!』と争いが絶えなくなっているそうだ。


「でも、安倍一族の看板があるから商売でも有利なんだよね?」


「当然」


 この世界では、上流階級ほど霊の存在に敏感だ。

 安倍一族の非除霊師部門が稼げているのは、同じ一族の除霊師たちが除霊で実績をあげてきたからだ。

 そのおかげで、儲かる事業に参入できたり、リターンの大きな投資ができるのだから。


「非除霊師部門の連中の中には、除霊師部門は赤字を垂れ流すだけなので切り捨てようという者もいるそうだ。切り捨てたら、自分たちは普通の企業と一緒に競争しなきゃいけないってのにね」


「むしろ、除霊もしないで利益だけ貪る嫌な奴らだと批判されて、ハブられるんじゃあ……」


「久美子の予想どおりになるだろうな。連中はそれに気がついていないから重症なんだよ」


 長く続いた弊害なのであろう。

 安倍一族は今、組織再生ができるかどうかの瀬戸際にあるわけだ。


「菅木の爺さんは、安倍一族が駄目になったケースにも備え、竜神会の力を増しているんだろうな」


 最悪、竜神会が安倍一族の穴を埋められるように。

 そうならないのが一番だけど。


「裕ちゃんは、面倒なことは安倍一族任せでいいと思っているんだね」


「当然。だから菅木の爺さんも動いている」


「菅木議員が?」


 そこまで話をしたところで、部屋に菅木の爺さんが入ってきた。

 その手には、数十枚の小切手を持っている。


「裕、随分といい値で売れたぞ」


「死蔵していた品だから、ちょっとでも金になればよかったんだけど」


「これほどのものが低級品扱いで死蔵品とは恐れ入る。お前が召喚されていた世界の死霊とやらは化け物揃いだな」


「裕ちゃん、これは?」


「ああ、向こうの世界で手に入れた低級品の霊器というか、霊力を乗せて悪霊にダメージを与えられる武器を売った金」


「今回の件で、安倍一族からぶんどってきた『見舞金』もあるぞ」


 どうも、俺たちと岩谷彦摩呂は相性が悪いようだ。

 将来は敵対するか、こちらの足を引っ張ってくることは確実なので、事前に工作を菅木の爺さんに依頼したのだ。


「まずは、今回の件での『見舞金』を長老会からぶんどってきた」


 『見舞金』とは言っているが、実際には『迷惑料』の類だと思う。 

 追加で、五十億円の金額が記載された小切手だった。


「三億円、七億円、二億円、四億円……これが数十枚も」


「裕君、非主流派の実力派除霊師たちに霊器を売ったの?」


「俺じゃなくて、菅木の爺さんがね」


 こちらの世界では、すでに作れる者がほとんどない霊器であるが、俺は向こうの世界で大量に獲得したり、自作したりもしていた。

 ただ、神刀ヤクモ、霊刀宗晴に比べると大幅に質が落ちるので、使い道がないからと死蔵していたのだ。

 それを、安倍一族では非主流派で、長老会と岩谷彦摩呂やそのシンパたちとの争いを冷ややかに見ている勢力に属する除霊師たちに販売したわけだ。


「非主流派なんていたんだ」


「それは、安倍一族ほど巨大な除霊師一族ともなればいるわよ」


「涼子、どんな連中なの?」


「実力主義でストイック。除霊師は、除霊や浄化を数多くこなしてナンボと考えている。実績はあるけど、傍流や家臣筋の人たちが多いわね。霊力が低い人も多いけど、それを補うべく研鑽や努力を欠かさないわ。下剋上をされる可能性を怖れ、長老会からは冷遇されているわね。岩谷彦摩呂たちからも嫌われているわ」


「どうして? 長老会に好意なんて持ってなさそうなのに?」


「彼らは真面目に除霊師として活動しているわ。あの底が浅い、札束で除霊しているような彼と、彼を信奉する連中に好意なんてないわよ。それでも最初は注意したみたい。非主流派は、年齢でいうと中堅に位置する人たちが多いから」


「世代間の対立もあるってわけね」


「非主流派の言うことが正しいのだけど、岩谷彦摩呂にそれを受け入れる度量がなかったのね」


 これまでの自分のやり方を否定し、泥臭く真面目に除霊師として活動するなんて、あの岩谷彦摩呂には不可能だろうな。

 家柄もよく学歴もある彼からすれば、非主流派のやり方は泥臭くて古臭い非効率な方法なのだから。

 

「裕君、彼らに霊器を販売したの?」


「向こうの世界の、霊力を攻撃力に大きく乗せられる武器をね。そんなに大した性能でもないのだけど、この世界ならかなり使えるから」


 実際、彼らはこれまでの除霊で蓄えた大金を躊躇することなく出したからな。

 お値段に見合う品だと判断したわけだ。


「霊器は作れる者が少なく、新しく作られた霊器よりも、壊れて使えなくなっている霊器の方が多い。だから、日本除霊師協会はお札に力を入れているのだ」


 霊器が手に入らなければ、お札を使って除霊するしかない。

 とても簡単な理屈だ。


「非主流派の連中は喜んでいたよ。霊器があれば、お札は万が一の予備だけであとは必要ないのでな。数億円払っても、彼らなら数年で取り戻せるのだ」


 このままだと、安倍一族は長老会と岩谷彦摩呂が共に自滅する可能性が高い。

 そんな時に非主流派に力があれば、彼らが安倍一族を立て直せる。

 彼らに霊器を販売して恩を売っておけば、俺が楽できるのだ。


「霊器は、手に入れた除霊師はそう簡単に手放さない。しかも彼らは非主流派なので、安倍一族の力で手に入れるなんてこともできないのだ」


「それは喜ばれたでしょうね」


「今の安倍一族は駄目だが、安倍一族に人がいないわけではないよ。そういえば、裕。頼まれていたものだが、明日にも宅配便で届くのでな」


「わかった」


「裕ちゃん、なにを菅木さんに頼んだの?」


「壊れた霊器」


 この世界には、すでに修復も不可能で放置されている霊器が多い。

 俺は修理、改良ができるので、これらを再生して、今度は別の竜神会に敵対しないであろう除霊師たちに売りつければいい。 

 俺は儲かるし、安倍一族以外の除霊師たちも強化しておけば、忙しくて目が回りそうな未来も回避できるであろう。


「なっ、名声なんていらないだろう?」


 裏で稼いだ方が楽でいいって。


「というわけで、これは竜神会の収入に入れておくぞ」


「酷い話だ……」


 なにがというわけなのかわからないが、今回の事件で百億円以上稼いだのに、俺はいまだにお小遣い制なのだから。


「だが我らも鬼ではない。裕、臨時の小遣いだ」


「わーーーい」


 菅木の爺さんは、俺に十万円が入った封筒をくれた。

 高校生にとって十万円は大金である。


「なにを買おうかな? いや、まずは牛丼を特盛りで……いや、家系ラーメンか? ライス大もつけられるぞ」


「裕ちゃん、もうちょっと豪華なものを食べようよ」


 と言われても、普段の俺のお小遣いを考えるとなぁ……。


「裕、臨時ボーナスが入ったそうだな」


「裕、焼肉に行くぞ!」


「あっ、僕も行きます」


「俺も、お稲荷と同じく、山狗も肉食だぜ」


「せっかく復活したのでな。私も酒と肉を所望するぞ」


「えっ?」


 突然、竜神様たち、お稲荷様、山狗様、イチョウの精霊がやって来て、俺に焼肉を奢れと言ってきた。

 せっかくのボーナスなのに、彼らに好き勝手食べられたらボーナスが消えてしまう。

 ここは断固拒否しないと……と思ったら……。


「お兄ちゃん、焼肉って美味しいの?」

 

「美味しいよ」


「食べたいなぁ……」


「いいよ! 久美子たちも来るだろう?」


 続けて姿を見せた銀狐にまで頼まれてしまうと、彼女の兄的ポジにいる俺は断れなかった。

 こうなれば、ぱーーーっと使ってしまおう。


「わーーーい。ありがとう、裕ちゃん。この借りはご飯でお返しするね」


「わっ、私もかなり料理は覚えたから」


「裕、私は歌と踊りでいつも裕にお返ししているから。でも希望すれば、いつでも裕だけに披露してあげるわね」


「じゃあ、行くか」


「爺さんもか?」


「ワシだけ仲間外れか?」


「いや、政治家なんだから忙しいだろうに……」


「忙しいスケジュールのなか、上手く時間を作るのが政治家なのでな。行くぞ」


「わかったよ」


 こうして土曜日のお昼は焼肉となったわけだが、みんな遠慮という言葉を忘れたかのように沢山飲み食いしてくれたので、臨時ボーナス十万円はそのほとんどが飲食代金で消えてしまったのだった。

 なお、領収書は認められなかった。

 うちの母が一番鬼だと思う。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話そのものは楽しく読ませてもらっていますが、金銭関係の話が酷すぎて、微妙にイラつくため話に集中できないのが残念です。 親子間でも窃盗罪は成立する訳だし、未成年に大金を持たせたくないと…
[気になる点] 高校生のバイトでも月に7〜8万稼ぐぞ。 しかも命懸けなのに。 流石にキレていいレベル。
[一言] 実際には金を得ているとは言え,感覚的にはただ働きなのは辛いよ。 精神年齢では20歳の人が命懸けで働いて月給2000円は本人じゃなくても抗議したくなるレベル。 異世界で戦ってた時も発展具合的に…
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