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第二十三話 寂れた商店街

「裕よ、探し物は東の方角にあるぞ! 急ぐのだ!」


「東だ! 東に急げ! そこに我らが求めるものがある」


「そんな、方角だけっていい加減な……」


「大雑把すぎるよね」


「どのくらいの距離とか、もっとヒントはないのですか?」


「行けばわかる!」


「竜神の予言を信じて、お主らは動けばいいのだ」


「「「はあ……」」」




 門前町の空き店舗を直した翌日の放課後、俺たちは竜神様たちに言われて聖域の東側を歩いていた。

 なんでも、東に竜神様たちが求めるもの。

 直した店舗に入ってくれるお店があるのだそうだ


 正直なところ『方向だけ言われてもな……』と思わなくもないが、俺、久美子、涼子さんの三人は探し物を求めて彷徨い歩いていた。


「裕ちゃん、最近話題のお店があるんだよ。ちょっと寄っていかない?」


「相川さん、そんなことをしている場合では……」


 涼子さんは、ちょっと寄り道しようと言った久美子に釘を刺した。

 元々真面目な性格なのであろう。


「でも清水さん、そのお店ってパフェが美味しいお店で……」


「そうね、そのお店が門前町に支店を出してくれるかもしれないから、ちょっと様子を見に行きましょう」


 同時に、涼子さんも普通の女子高生というわけで、甘い物には目がなかったというわけだ。

 すぐ久美子の意見に賛成した。


「ヒントになるかもしれないから行くか」


「やったぁーーー!」


「パフェ楽しみ」


 そんなわけで、俺たちは久美子お勧めのお店へと向かう。

 パフェってことは、女子が大好きなスイーツのお店か?


「相川さん、ここって商店街かしら?」


「そうだよ。戸高市役所の裏手にある、ちょっと地元の人向けの商店街だね」


 アーケードを見ると、そこには『戸高東商店街』と書かれていた。

 ちょっと寂れている印象だが、意外とお客さんは多い。

 俺は普段あまり買い物なんてしないので詳しくは知らなかったが、戸高市内で一番古い商店街だそうだ。


 今は、大型スーパーとか、チェーン店も入っている『戸高西通り』の方が人は多いかな。

 戸高西通りは、市役所もある戸高市で一番大きな通りであった。

 今の戸高市の中心部であり、戸高ハイムもここに徒歩で買い物に行けるというのが売りの一つであった。


 戸高東商店街は、今すぐ潰れてしまうとかそういうことはないと思うが、将来的には戸高西通りに客を奪われてしまいそうな雰囲気ではあった。

 商店街を歩いている人たちはお年寄りが多く、古くからの常連客で保っているという印象を感じる。


「和菓子屋、漬物屋、総菜屋、食堂、文房具店、雑貨屋……昔からの商店街ね。ここにパフェが美味しいお店なんてあるのかしら?」


「あそこだよ、裕ちゃん、清水さん」


 久美子の指差した先には、かなり古びた喫茶店があった。

 そこが、今戸高市の女子高生たちに大人気のお店なのだそうだ。


「入ってみればわかるか」


「いらっしゃいませぇーーー」


 店内に入ると、意外にも多くのお客さんで賑わっていた。

 客の中には、うちの学校の制服を着ている人たちも混じっている。

 そしてみんな、美味しそうにパフェだのケーキだのを頼んでいた。


「あれ? 久美子に清水さんに、広瀬君もか」


「洋子って、ここでアルバイトしてたんだ」


「一週間くらい前からだけどね」


 応対に出たのは、同じクラスの女子生徒であった。

 なんでも、先週からここでアルバイトをしているそうだ。


「久美子と清水さんは、パフェでいいのかな? 広瀬君はコーヒー?」


「いいや、パフェ三つで」


「広瀬君、甘い物大丈夫なんだ」


「むしろ大好物だけど」


 とはいえ、男子一人でこの手の女子校生のメッカに入るのは辛い。

 パフェは食べたいが、普段はコンビニのアイスクリームなどで我慢していた。

 昔はそんなに好きではなかったのだが、向こうの世界で数少ない楽しみといえば甘い物。

 パーティメンバーである女子三人につき合って一緒に食べている間に、甘いものが大好きになってしまったというわけだ。


 まあ、ラーメンと牛丼の地位は揺るがないがな。


「無用な心配だったようね。パフェ三つ入ります」


 俺たちの注文を取り終わると、彼女は別のテーブルに行ってしまった。


「裕ちゃん、食べ物の好みが変わったんだ」


「最初は、パーティメンバーとの親睦も兼ねてのおつき合いだったんだけどね」


「へえ、違う世界とはいえ、清水さんたちと一緒にねぇ……」


「仲間同士の親睦っすよ。とても純粋な目的なの」


「どうして語尾がおかしくなっているの? 裕ちゃん、動揺してる?」


「そんなことはないよ」


 なんか、久美子から嫌なオーラを感じ始めたので、俺はあくまでも死霊王デスリンガーの討伐に必要な、仲間同士の親睦を深めるためそういうお店に一緒に行ったのだと、なぜか必死になって彼女に言い訳していた。


「別の世界の私はいいわね」


「どうして? 裕ちゃんと一緒にそういうお店に行けたから?」


「それもあるけど……」


「あるんかい!」


 久美子は、清水さんに発言にすかさずツッコミを入れていた。


「安倍一族の除霊師って、基本的に除霊の三日前から生臭禁止なのよ。霊力が落ちるから」


「それは初耳だな」


 以前の涼子さんのステータスを見たことないので断定はできないが、レベルアップできないこの世界の除霊師たちの中で、安倍一族が数百年その力を発揮できたのは、除霊前の生臭禁止というルールを守ると、バカにできないレベルの能力補正があるのかもしれない。

 実際にステータスを見比べていないので、具体的にどの程度ステータスや霊力に補正が入るのかは確認できないけど。

 涼子さんに関しても、ステータスが見えるようになった以前の事象は確認できないからなぁ……。


「パフェも駄目なの?」


「牛乳や卵も駄目なのよ。しょうがないから、いつも和食か和菓子を食べていたわね。それも信用できるお店のか、時には手作りで。添加物の材料で少しでも動物性のものを使っていた場合、それも引っかかるから駄目なのよ」


「へえ、厳しいんだね」


 つまり、精進料理のみってことか。


「変なお店で出来合いの和菓子を買って食べたら、動物性の脂肪分やたんぱく質由来の添加物が入っていて、そのせいで霊力が落ちて除霊できなくなった除霊師もいるわ。コンビニのおにぎりで具材が梅干しや昆布で安心していたら、添加物のアミノ酸が魚由来でアウトとか。若い除霊師は必ず一回はやらかして怒られるのよ」


「厳しいなぁ……」


 そこまで厳密だと、食べるものも限られて大変そうだな。

 俺?

 牛丼とチャーシュー・煮卵増しラーメン大好き!


「除霊の三日前からだから、それ以外の時は大丈夫なのだけど、安倍一族のB級除霊師って忙しいから……」


 結局、ずっと精進料理で過ごさなければいけないというわけだ。


「だから今の生活は最高ね。霊力に補正は入らないけど、レベルアップで相殺どころか、圧倒的に強くなったもの。もう安倍一族には戻りたくないわ」


 確かに、俺も肉や魚を禁止されるのは嫌だな。

 レベルアップできないこの世界の除霊師たちからすれば、生臭禁止による能力補正は重要なのだろうけど、俺たちはレベルアップできるのだし。


「パフェ三つ、お待たせしました」


「美味そう」


「豪華だね」


「パフェ、五年ぶり! 和菓子も美味しいけど、やっぱりパフェもいいわね。いただきます」


 涼子さんは俺たちが見ている前にもかかわらず、恐ろしい勢いでパフェを食べ続けた。

 すぐになくなってしまうが……。


「もう一個、パフェ追加で!」


「お替わりするんだ……」


 久美子は、まるでモデルのようにスタイル抜群の涼子さんが、パフェを貪るように食らい、お替わりまでするのを見て驚きを隠せないようだ。

 ついでに、自分のお腹などを見て首をフルフルと振っている。


 もし自分がパフェをお替わりなどしたら、お腹周りが……という風に思っているのであろう。

 そういえば、向こうの世界の涼子さんもよく食べていたのを思い出した。

 彼女も、典型的な痩せの大食いだったな。


「いらっしゃいませ。お味の方はいかがですか?」


 とここで、俺たちに声をかけてきた人がいた。

 二十代前半くらいに見える、とても綺麗な落ち着いた女性で、どうやら彼女がこの店のオーナーのようだ。


「美味しいです」


「美味しいですね」


「パフェ最高ぉ……お替わり!」


「「……」」


 涼子さんは、三杯目のパフェを注文していた。

 さすがに太るのではないかと、俺も久美子も心配してしまうほどだ。


「お替わりするほど気に入っていただけてよかったです」


「若いオーナーさんなので、ちょっと驚きました」


「そう仰る方は多いですね。お店を出して大丈夫なのかと心配してくださる方も多かったですし、場所もちょっと若い方があまり来ない場所なので」


 古い商店街である戸高東商店街は、その客の多くが古くからの常連。

 年寄りが多いので、こういう若い人たち向けのお店を出して成功するのか、オーナ―さんを心配する人がいたというわけだ。


「それを、デザートの美味しさで挽回したわけですね」


「本当は、戸高西通りに店を出した方がいいのでしょうが、ここの賃料はお得なので」


 現在、戸高市で一番人通りが多い戸高西通りには、その人たちを目当てに色々なお店がオープンしている。

 当然家賃も上昇傾向にあり、若いがゆえに資金に限りがあるオーナーさんは、ランニングコストを抑えるため、ここ戸高東商店街にお店を出したわけか。


「幸い、若いお客さんにも沢山来ていただきまして」


 戸高東商店街は地元の人たちしか知らない、決してメジャーとは言えない商店街だけど、市の中心部にはあるから常連客がつけば十分商売になるのであろう。

 商店街の他のお店も、それぞれ常連客がついて賑わっていた。


「お替わり!」


「「まだ食うんかい!」」 


「失礼」


 涼子さんが四杯目のパフェを注文した直後、店内の空気が一変した。

 入り口のドアが開くと同時に、一人の人物が中に入って……。


「ドアが狭いぞぉーーー!」


 どうやら男性らしいが、この人は横幅が非常に大きいため、店のドアに引っかかって中に入ってこれなかったのだ。

 ちなみに、この男性の言う『ドアが狭い』というのは完全な言いがかりである。

 この男性が異常に太っているだけだ。


「若様! 大丈夫ですか?」


「押せ! 僕を押せ!」


「わかりました」


 声しか聞こえないが、男性の後ろのいる人が彼を力一杯押したので、ようやく彼は店内に入って来られた。

 というか、こんな漫画みたいな太り方をした人間が実在するとは……。


「いらっしゃいませ」


「僕は客じゃない! この店のオーナーはどこにいる?」


「私です」


 太った若い男性の問いに答えるかのように、オーナーが返事をした。


「では、簡潔に言う。今月一杯でこの店を出ていくように」


「あの……賃貸の契約期間は来年一杯まで残っていますけど。それに、お客様はこのお店と土地のオーナーさんではありませんよね?」


 この人、土地や建物のオーナーでもないのに、彼女に店を退去しろと言っているのか。

 しかも、まだ賃貸の契約期間が残っているというのに。

 もしかして地上げ屋とか?

 一緒にいる部下っぽい人から『若様』とか呼ばれているし。


「そのオーナーから、僕がこの土地を購入することになったんだ。この戸高東商店街は全部壊して、新しいショッピングモールを作る予定だ」


「ですが、そうされるにしても、賃貸契約の期間がありますので」


「そうだな。いくらなんでも、それはいきなりすぎる」


 物件を借りている人にだって、ちゃんと権利はあるはずだ。

 ましてや、正式にいつまで借りるという契約を事前に結んでいるのだから。


「少なくとも、来年一杯まで立ち退きさせるのは駄目だろう」


「なんだ? お前は?」


「普通の高校生です」


 こんな奴に本名を名乗った結果、本当にヤクザだったりすると面倒なので、ちょっと反論してみた正義感溢れる若き高校生でいいだろう。


「ふんっ、ガキが生意気な。僕を誰だと思っているんだ?」


「知らない」


 この風船男。

 実は、とても有名人だとか?

 でも、俺はテレビをあまり見ないからなぁ。


「僕を知らないだと? 世が世なら、お前はこの僕に土下座しなければいけないほど身分差があるんだ!」


「世が世じゃないから、土下座しなくていいんだろう? じゃあ関係ないや。俺、あんたが誰か知らないし」

 

 今のこの時代に、お前は殿様かなにかか?

 

「僕の名は、戸高高志とだか たかしだ! この戸高市周辺を治めた戸高家の次期当主にして、もうすぐ国会議員になる男だ」


 こいつが、戸高ハイム事件の元凶の一人ってわけか。

 しかし、縁戚の戸高不動産が倒産したばかりだというのに、こいつはまた不動産業に手を出すわけか。

 この戸高東商店街を潰し、その跡地にショッピングモールを建設する。

 比較的、誰でも考えそうなベタな事業計画ではある。


「あの、他のお店の方々はどう仰っているのでしょうか?」


「お前と同じくゴネているが、僕とパパの力があれば、お前らなんて明日にも追い出せるさ。精々、荷物でも纏めておくんだな!」


 風船男……じゃなかった。

 戸高家の次期当主を名乗る若い男はそう言い残すと、お店を出て……一人では無理なので、またお付きの若い男性が押して……いったのであった。






「賃貸契約は来年一杯まであると言っているのに、あの風船は人の話を聞かないから困る」


 その日の夜、閉店後の喫茶店において、戸高東商店街で店を経営している店主たちの集まりがあった。

 最初に、和菓子屋の店主である初老の男性が、あの風船男の常識のなさを批判した。


 他の店主たちも、和菓子屋の主人の見解に賛成のようだ。

 全員、首を縦に振っていた。


「やっぱり、先代が亡くなったら駄目だな」


「ああ。今の地主は、株だかFXだかで大損して、この土地の売却益がなければ首を吊らねばならないそうだ」


「あの風船男も、元々は殿様の跡取りだろう?」


「戸高家も、アレの父親は商売に成功して金持ちになったが、アレに代替わりしたら終わりだな」


 他にも、集まった総菜屋、食堂、雑貨屋の店主たちが散々にあの風船男をディスっていた。

 どうも話を聞くと、戸高東商店街の店主たちも嫌な予感はしていたらしい。

 先代の地主が亡くなった途端、賃貸契約の更新期間が五年おきから二年おきに変わったからだそうだ。

 しかも、それすら守られないという。


「弁護士に頼むか?」


「それは勿論やるが、問題は移転先だよな」


「纏まって移転できる場所なんてないだろうし、バラバラになってしまうな。うちはもう切り上げ時かもな……」


 高齢である食堂の店主は、次の店を探すよりも、もう引退を考える時だと語った。

 

「跡取りはいないのですか?」


「この戸高東商店街は、いずれ終わる商店街という認識がみんなにはあるのさ」


 食堂の店主によると、戸高東商店街は先日亡くなった先代地主の好意によって安く借りられたそうだ。


「亡くなった先代の地主が、地元の人たちが気軽に買い物ができるよう、我々に安く土地を貸してくれたのだ。我々もなるべく安く売るなどして努力したものさ」


 ところが時代が変わり、戸高西通りの方に人が集まるようになってしまった。

 特に若い人たちは、戸高東商店街を使わなくなったのだ。


「佐川さんの喫茶店でちょっと盛り返したが、この商店街は年寄りの客ばかりになった。今のところ経営に問題はないが、ここは徐々に寂れていく。店主にも年寄りが多い。佐川さんだって、ずっとここで喫茶店をやるつもりではないはずだからな。そうだろう? 佐川さん」


 食堂の店主は、佐川さんという名前だと判明した喫茶店の若い女性店主に問い質した。


「ええ、ここは家賃がお安いので。ここでお金を貯めてから、いつか他の場所でお店をやろうと」


「というわけだ。今回の件で早まったが、戸高東商店街はその役割を終えるというわけだな」


「そうだな」


「アレが次の地主だと考えると、新しいショッピングモールとやらに店を構えるのはやめた方がいいかもしれない」


「いつ完成するかわからないし、家賃が高額すぎてペイできないかもしれないぞ」


「ここは締めるしかないかな」


 集まった店主たちは、もう店を閉めるしかないと、半ば諦めの表情で話をしていた。


「(裕君、竜神様たちの予言って当たるのね……)」


「(さすがは神様だな)」


 なるほど。

 竜神様たちに言われて始めた、門前町に店を構えてくれる人たち探しは、いきなり都合のいい候補者が現れたというわけだ。


「みなさん、移転候補地はありますよ」


「候補地がかね?」


「はい」


 俺は、最近参拝客が増えつつある両神社の門前町に空いている店があると、店主たちに説明した。


「戸高神社のか」


「ああっ、思い出したぞ! あそこの有名な神主さんが亡くなる前、確かに門前町は栄えておったな。あそこか!」


「神社の参拝客目当てなので、多少販売するものの改良などが必要かもしれませんが……」


 あとは、さすがに場所がいいので、ここほど家賃は安くないという点か。

 年配の店主が多いので、これから新しい場所に店を構える体力と気力があるのかという問題もあるか。


「こちらとしても無理強いはできませんが……」


「いいぞ」


「俺もやる」


「なるほど。最近、両神社は参拝客が増えたって聞くからな。あそこならいいだろう」


「私もやります」


 意外にも、佐川さんのみならず、年配の店主たちも全員が門前町への店舗移転に賛同してくれた。

 何人かはこのまま隠居すると言いそうな気がしたのだが、なんと全員が門前町に移ることを了承してくれた。


「あと十年、二十年は大丈夫なのでな。あそこなら、十分に採算が採れるはずだ」


「上手くやれば、今は他所で働いている娘や息子が継いでくれるかもしれないし、他人でも権利を売ることは可能なのでな」


「ここに残るよりはいいだろう」


 店主たちは、いくら来年一杯賃貸契約が残っているといっても、あの非常識な風船男には通用しないと思ったようだ。

 俺からの提案をすぐに受け入れた。


「こうなると、来年一杯ある賃借権を盾に、どうにかあの風船男から引っ越し代を取らなければ」


「弁護士の先生に頼めば大丈夫だろう。賃貸契約を途中で打ち切るという咎が、向こうにあるのだから」


「最悪、居座り続けると脅せばいいだろう」


「その手もありだな」


 店主たちは、どうやれば自分たちに有利な条件でここを出られるか相談し始めた。


「戸高神社からの提案、喜んで受け入れよう。あとはこちらでやるから安心してくれ」


「わかりました」


 正直なところ、俺ではここからの立ち退き交渉や、門前町への移転条件のことなどよくわからない。

 両親や、菅木の爺さんに任せるに限る。


「どうせあの風船男、我らがここに未練タラタラだと思っているはず」


「ゴネにゴネて、退去費用と引っ越し代をふんだくってやるわ」


「あの若造はバカボンボンらしいが、父親の方はやり手で金もあるからな」


「弁護士の先生と相談して、精々ふんだくってやろう」


 爺さんたち、物騒な話をしているな。

 元は、いきなり立ち退けなんて言う風船男が悪いから仕方がないのだが。


「裕ちゃん、これで門前町も復活できるね」


「喫茶店も、あそこにあった方がパフェがいつでも食べられていいわね」


「清水さんは、そっちの方が大切なんだ……」


「だって相川さん。パフェは除霊という厳しい仕事をこなすための心の糧なのだから」


「以前は食べられなかったのに?」


「だから、安倍一族の除霊師連中は駄目なのよ」


「「そこまで言うか!」」


 しかも、パフェが食べられないという理由だけで。


 とにかくも、無事、戸高東商店街の店舗が門前町に移転することが決まってよかった。

 もし断られたら、竜神様たちがうるさいからなぁ……。

 やる気がないからだとか言って。

 その発言を防げたのでよしとしよう。

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