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第百五十二話 新しい顔

「ようこそ、『名古屋悪霊ビル群』へ。私は、日本除霊師協会名古屋支部から来ました陣内です。いやあ、この日本、いや世界の除霊師業界をリードするであろう、あなた方に来ていただけるとは。本当に助かりました」


「養父から名古屋悪霊ビル群については聞いていましたが、本当に存在したのですね。悪霊たちによる影響で名古屋駅近くにあるにもかかわらず、 一般人の大半が認識することができない商業ビル群……」


「霊力がないと、名古屋駅前を歩く人たちはここを認識できず、かといって間違えて入り込むこともできない。少し特殊だな」


「ヒキコモリの悪霊たちいうわけですね。だからといって弱いわけではないようですが……」


「もし弱い悪霊だったら、とっくに除霊されていると思うな。だって、名古屋駅近くの超一等地で、しかもこんなに広大な土地なんだから」


「拙者たちなら、どうにかなると思われたのだ。ならば、斬るのみ」




 この私、賀茂俊他、倉橋恭也、土御門史崇、綾小路晶、橘一刀の五名。

 一般社会ではあまり知られていないが、除霊業界では有名な一族の子弟たちにして、すでに相応実力も兼ね備え、将来の除霊師業界を背負って立つ者たち……と評価されている。

 実際のところどうなのかは知らないけど。 

 私たち五名は除霊師学校から公休を貰い、名古屋駅のすぐ隣にある半ば廃墟となった商業ビルが建ち並ぶ現場の前に立っていた。

 通称『名古屋悪霊ビル群』である。

 普通、新幹線の駅がある名古屋駅のすぐ傍に、まるで廃墟のような高層ビルが複数建っていたら、『なぜこのような場所を放置しておくのか?』と世間の人たちが大きく騒ぐはずだ。

 だが、実際には騒ぐ人が非常に少ない。

 なぜなら、この名古屋悪霊ビル群は、一定以上の霊力がないと認識できないからだ。

 それに加えて、いくら認識できないとはいえ、間違って人がここに迷い込んでしまったら大騒ぎになるはず。

 それすらないのは、ここに巣食う悪霊たちが人間の意識に働きかけ、ここに入り込まないようにコントロールしているからだ。

 駅近くの超一等地なのに、普通の人間なら辿りつけない幻の土地。

 不動産業界で都市伝説のように噂されるのは、大半がここの話だと聞いた。

 場所はとてもいいし、名古屋駅周辺の再開発計画において必ず課題になるので、過去には複数回除霊が試みられた。

 ここの土地が使えるようになれば莫大な富を生み出すので、除霊費用が出しやすいという理由もあったようだ。

 そしてその結果だが、あえて言わなくてもわかると思うがすべて失敗している。

 中に棲んでいる悪霊たちがとにかく強すぎるのだ。

 除霊の失敗で亡くなった除霊師たちも悪霊となってしまい、ますます除霊が難しくなるという悪循環も起こり、すでに三十年近く放置されていた。

 バブルのあだ花、バブルの寵児の破滅と自殺。

 そして、銀行から己の領地を守ろうと悪霊化してしまった。

 よくある話だ。

 そこに、一応私をリーダーとした『名門除霊師一族の子弟グループ』が派遣されたわけだ。

 日本除霊師協会経由の依頼だが、実は過去の除霊の失敗で、五人全員の親戚たちもここで悪霊化しており、仇討ちというか、一族の雪辱を果たすような除霊でもあった。

 私も義父から、『除霊に失敗して悪霊化した、私の叔父と従兄弟の悪霊を除霊してほしい』と頼まれている。

 賀茂一族の除霊師たちが悪霊化し、いつまでも心霊的瑕疵物件の原因になっていると一族の評判にも関わってしまう、という事情が一番大きいと思うが。

 私は分家の出だが、本家に養子に入っている身なので義父の願いを断れない。

 義父個人は、『一族の世間体のために除霊を引き受けるなんてバカらしい』と思っているはずだが、賀茂一族の当主としては私を派遣せざるを得なかったというのが実情だ。

 他の四人も同じだろう。


「俺たちが除霊に成功したら、名古屋駅の大規模再開発が始まるわけか。依頼料も悪くないから、ちゃんと除霊するさ」


「霊力がない一般人からすると、突然名古屋駅の近くに大規模な幽霊ビル群がある土地が出現し、そこを再開発すると言われるのですから、狐に騙されたかのような気分でしょうね」


「突然、名古屋駅近くに古い廃墟のようなビル群が出現するから、最初は不思議に思うかもしれないけど、人はすぐに忘れてしまう生き物ですから」


「我々は、ただ悪霊を除霊すればいい。拙者は、ただ悪霊を斬ればいいのだ」


 自然と私がリーダーみたいな形になっているが、正式にそうというわけではない。

 各々、有名な除霊師一族の子弟なので、正式に序列なんてつけたら本人たちはともかく、一族が大騒ぎするからだ。

 実力もほぼ同じだしな。

 これからも五人で一緒に除霊することが増えるが、対等の立場であることを保たないといけない、非常に面倒臭いパーティであった。

 本音を言えば、背景のない、たとえば除霊師学校の生徒とでも組みたいのが正直な思いだ。

 だが実力がまったく追いついていないうえに、ど素人なので面倒を見なければならず、それなら一人でやった方がマシという結論になってしまう。

 少数だが、すでに一人前の除霊師として活動している生徒たちもいた。

 高校生には少ないが、専門学校生枠で入学している年上の除霊師もいる。

 除霊師学校を卒業すると専門学校卒の肩書きが手に入るので、すでに除霊師として活動しているのに入学した人は意外と多かった。

 学歴は悪霊には通用しないが、世間には通用するからだ。

 噂では、除霊大学の新設も目指しているとか。


「賀茂も、みんなも、広瀬裕と組みたいと思っているのか?」


 除霊師としては珍しく、ハルバード型の霊器を持つ倉橋恭也が、意地悪そうな表情を浮かべながら私たちにそう尋ねた。


「広瀬裕……。彼と組めば楽ができるだろうな」


「その代わり、成長は望めないか」


「いや、霊力は上がるんじゃないのかな? いつまでも彼のみに除霊を任せた結果、実戦の勘はなかなか身に付かないだろうが」


 除霊師学校の入学式の日。

 学校に押し寄せた悪霊の前に出た私たちよりも先に、広瀬裕がお札一枚で呆気なく除霊してしまった。

 彼の実力については……ここにいる五名の実家なら知らないわけがない。

 別世界の邪神を除霊してしまうような人だ。

 上の都合でその実力や功績が隠されているが、彼がトップになっている竜神会の急拡大ぶりを見れば、というやつだ。

 海外の除霊関係者たちに隠ぺいしたいようだが、果たしていつまで隠せるか。

 そもそも、我々五人がアイドルグループのように活動しているのは、広瀬裕を隠すためでもある。

 ミーハーな女子たちにキャーキャー言われるのも、仕事のうちというわけだ。


「除霊師として成長できないのは困るが、学校の女子たちみたいな親衛隊もいらないしな。困った話だ」


「倉橋さんは、広瀬裕と親戚なんだろう? 親戚のよしみでこれから一緒に仕事をするなんてこともあるのでは?」


 槍の霊器を持つ土御門史崇は、一度店仕舞いした土御門一族の出だ。

 彼からすれば、安倍本家と折り合いが悪くほぼ独立状態である安倍一族分家倉橋一族の子弟なら、広瀬裕と仲良くできるかもと思ったのであろう。

 岩谷彦摩呂のせいで、広瀬裕と安倍本家との関係は決して良好とは言えないし、彼とよく行動を共にしている清水涼子も安倍一族の分家筋ながら、すでに独立したような状態だ。

 同じような境遇なので、仲良くできるかもしれないと。


「それがそう上手くいかないみたいだぜ。今の安倍本家は当主を置いていない。執行部長を名乗る柊隆一がえらく現実的な奴で、竜神会と安倍一族の関係は案外悪くないんだ。良くもないが、ビジネスライクな関係に徹するなら特に問題はないらしい。それよりも、再建を目指す土御門一族の史崇さんよ。向こうに、あの眠れる沙羅姫がいるじゃないか。仲良くできるんじゃないのか?」


「それこそまさかです。うちは、土御門蘭子と赤松礼香のやらかしで、いまだ除霊師としての土御門家の再建ならずですよ。公家たちが日和って、一度潰してしまったのが致命的です。沙羅姫様をトップに据えればすぐに再建できる、なんてそんな簡単な話ではないですし、そもそも彼女は我々を見限っていますから」


 もし眠れる沙羅姫が土御門家の再興に興味があったら、とっくに復興できているはず。

 義父によると、彼女は菅木議員のツテで正式な戸籍も得ているが、土御門一族とは無関係だと公言しているそうだ。

 この前、戸籍の不正入手の件で沙羅姫を脅し、強引に土御門家を再興してしまおうと意見した一族(公家)がいたらしいが、すぐに可哀想なことになったらしい。

 大体、我々が公家と呼んでいても、戦後公式に華族制度はなくなっている。

 血筋のよさと、多少財産が多いくらいで、昔のような力は持っていないのだけど、過去の栄光に縋る名門一族というのはいるものだ。

 賀茂一族も気をつけないと。 


「大変なのな」


「この五人の実家の中で、うちが一番のハリボテですよ。この霊器だって、 手に入れるのにどれだけ苦労したか」


 土御門史崇は、この中で一番の苦労人かもな。

 やらかした土御門蘭子と赤松礼香の二人は特に期待されていたせいか、多くの才能ある若手を道連れにして死んでしまい、その後の土御門家は大混乱に陥ってしまったのだから。

 なにより、岩谷彦摩呂レベルのやらかしをしてしまったため、お上にとことん嫌われてしまった。

 土御門家が、実質本家である除霊師一族を潰したのだって、お上の怒りが自分たちには波及するのを恐れたからだ。

 まあ、そんなトカゲの尻尾切りをしたところで誤魔化せるはずもなく、公家の土御門家も没落した。

 公官庁や、大企業へのコネ入庁、入社がなくなり、慌てて除霊師一族の再建を図っているところなのだから。


「私の実家なんて、以前は『土御門の名を名乗るな!』って、 本家から嫌味を言われるぐらい傍流だったんですけどね。私に多くの霊力があると知った途端、見事な手の平返しですよ。きっと、手首に超電導モーターでもついているんじゃないですか? 本家は、『沙羅様をお前が口説き落としてこい! 顔はいいんだから!』なんて無責任なことを言ってますけどね。まず不可能でしょう」


「広瀬裕に殺されるよな」


 彼の周りにいる女性除霊師たち。

 全員が私たちをはるかに超える実力者で、しかも決して広瀬裕の傍から離れない。

 噂では、全員が実質彼の妻だとか。

 除霊師学校の男子の中には、 彼女たちを口説こうと考えている者たちもいるらしいが……。

 私たちからすれば、『そんな無謀なことはやめておいた方がいいのに……』と思えてしまう。


「それで、肝心の広瀬裕たちはなにをしているんですかね?」


「影五稜郭の除霊に向かったと聞いている」


 私は、霊器である二本の刀を用いて二刀流で戦う綾小路晶の問いに答えた。

 しかし、いつ見ても彼は男性に見えないな。

 これでいて、凄腕の除霊師なのだから侮れない。


「あんな、危険な場所にですか? 広瀬裕って、やっぱり桁外れなんですね。僕なら絶対に行きませんよ」


「そうだな。 俺も絶対に断る」


「私もゴメンです。となると、もしかして相川久美子たちも同行しているのですか?」


「当然だろう。 彼女たちは広瀬裕から絶対に離れない」


「そして彼女たちは、拙者たちよりも圧倒的に強い。影五稜郭の除霊でも危険は少ないだろう」


 橘一刀も、広瀬裕と相川久美子たちの実力に気がついていた……。

 この五人が気がつかないわけないか。

 気がつかないような奴は、ここに加われないのだから。


「橘さん。影五稜郭は、例の死霊王デスリンガーが除霊された影響で、結界が危険なレベルまで緩んでいるそうです。日本中にそんな場所や、この名古屋悪霊ビル群のように悪霊たちの活動が活発化している場所も多いようです」


「綾小路家は情報が早いな」


「ここにいる人たちの実家、全員情報を掴んでいると思いますよ。ねえ、賀茂さん」


「そうだな、綾小路」


 だから私たちはここにいるし、広瀬裕たちの代わりに『除霊師学校における首席グループ』みたいな扱いで、校内の女子たちにキャーキャー言われているわけだ。


『広瀬裕を目標とすることは構わないが、無意味に張り合ったり、ましてや敵視なんてするなよ。日本で一番と言われていた、安倍一族や土御門家の末路を見ただろう? 連中は、広瀬裕という異才を認めることができなかった。だからああなった』


 義父がそう言っていた。

 私が知るところでは、安倍一族は広瀬裕の功績を大金で購入していたから、彼を評価していないということもないはず。

 そう思っていたら、その考えを見透かされたようで、義父から続けてこう言われた。


『安倍一族が本当に広瀬裕のことを認めていたら、その功績を大金で買い叩くなんて真似は絶対にしない。そもそも除霊師が、他人の功績を奪い取ること自体が間違っているんだ。 タブーなんてレベルの話ではない。こんな恥ずかしいこと、これまで聞いたことがない。他の業界は知らないが、まともな除霊師なら絶対にやらないことなんだ。安倍晴明は自分の功績を上手に宣伝することで名声を上げていったが、決して他人の功績を奪いなどしなかった。一方、我ら賀茂一族の祖先は宣伝が苦手だったわけだ』


『しかし、それならどうしてそんなことを?』


『名門意識を拗らせた結果だろうな。安倍一族の長老会は無意識にそれをやった。普通なら、どんな手段を用いても広瀬裕を迎え入れるはず。どこか野良除霊師と見下していたんだろう。以前、広瀬裕の祖父にしてやられた件を恨んでいたのもあるのか。滅びゆく名門や老舗がよくやることだ』


『賀茂一族も、広瀬裕を迎え入れなかったですよね。どうしてでしょうか?』


『他の名門除霊師一族に広瀬裕の情報が伝わるのが、安倍一族よりも遅れてな。その頃には、菅木議員が動いて竜神会ができてしまっていたのだ。こうなると、もう手が出せない。そして今の竜神会は、質では我々古くからの名門除霊師一族を圧倒しているのだから』


『確かにそうですね』


『我々に、他の世界の邪神なんて祓えないからな。とはいえ、我ら賀茂一族くらいになると、最低限の見栄や宣伝も必要となる。校内で目立っておけ。俊』


『はあ……』


『それが、お上や菅木議員、竜神会への貸しになるのだから。お前たちが注目されれば、広瀬裕たちへの注目が減る』


 以上のようなことを義父に言われ、私たちは五人で派手に除霊をしなければならないというわけだ。


「今はできる限り除霊して霊力を増やすしかない。五人で除霊するメリットもあるな」


 橘一刀の言うとおりだ。

 我々は、今の実力で必ず除霊できて、業界内で功績が目立ちやすい案件に回される。

 そして、口にするのも憚られるような本当にヤバイ案件が、広瀬裕たちの担当というわけだ。


「じゃあ、始めるか」


「「「「了解」」」」


 とはいえ、今回の作戦は非常にシンプルだ。

 霊器やお札を装備した五人で突入し、襲いかかる悪霊たちを除霊するだけ。

 ここの悪霊たちは、人間が侵入してきたら、必ず呪い殺そうと迫ってくるのだから。


「行くぞ!」


 一応リーダー役の私の合図で、視覚が歪まされて一般人には見えない名古屋悪霊ビル群内部へと突入する。

 義父から貰った新しい霊器の日本刀を構えながら突入すると、いきなり悪霊たちが襲いかかってきた。


「ジョレイシ、コロス!」


「カエリウチダ!」


 すぐに斬り捨てるが、義父から貰った霊器の斬れ味は抜群だった。

 なんでも、日本除霊師協会から購入したそうだ。

 五億円したそうだが、値段以上の価値がある素晴らしい霊器だ。

 実は、広瀬裕がすでに使えなくなった霊器を、修理、改良したものだそうだが。

 義父によると、効力がなくなる前よりもかなり性能がよくなっているそうだ。

 霊器まで修理、改良できるなんて、広瀬裕は尋常でない実力の持ち主だな。


「賀茂、いい霊器だな」


「倉橋もな」


「ああ、実家の蔵で埃を被っていたものだが、日本除霊師協会に頼んで修理、改良してもらったのさ。使えなくなる前よりも、相当威力が上がっているぜ! おりゃぁーーー!」


 倉橋恭也は、霊器であるハルバードを振るって悪霊を次から次へと斬り払い、除霊していく。

 見た目どおり、豪快な戦い方をする男だ。


「悪霊たちよ。あの世へと向かうがいい」


 土御門史崇は細身の槍で、やはり次々と悪霊たちを除霊していく。

 素晴らしい槍術の腕前だな。

 やはり彼も、広瀬裕が改良、修理した霊器を用いていたか。


「賀茂さん、数が多いですね」


 綾小路晶は、小太刀の二刀流で自分に襲いかかる悪霊たちを除霊していく。

 しかし、いつ見ても女性にしか見えないという。

 実は女性でした、なんてヲチはないよな?


「……」


 私も日本刀を使っているが、橘一刀の剣術の腕前は本物だな。

 無駄な動きを一切せず、自分に迫る悪霊を剣豪のように斬り捨てていく。

 まるで、時代劇に出てくる剣豪のようだ。


「賀茂君、大分数が減ったようだな」


「だが油断は禁物だ。土御門、最後まで気を抜かぬにようにしないと」


「そうだな。っ!」


「ナゼワカッタ……」


「訓練の賜物ですよ。あの世へどうぞ」


 油断した。

 混戦状態の隙をつき、一体の悪霊が死角から私に迫っていたが、土御門がお札で倒してくれたようだ。

 お札一枚借りになってしまった……。


「やあ!」


 いや、土御門の死角からも一体の悪霊たちが迫っていたので、お札を投げて除霊してあげた。


「これで貸し借りなしだな」


「ああ」


「もうひと踏ん張りだ」


 それでも、広瀬裕たちを除けば、これでも若手トップと呼ばれる実力はあるのだ。

 私たちは、三十分ほどで名古屋悪霊ビル群の除霊を終わらせることに成功……。


「ふんっ!」


「ミゴト……オナジチ……」


 最後の一体。

 よく見ると除霊師の格好をしており、その顔を写真で見たことがあった。

 以前、除霊に失敗して死んだ義父の叔父だと思われる。


「見事かぁ……。悪霊になりながらも、私が親族だってことがわかったのは、除霊師だからなのか……」


「賀茂、まだ確認が終わっていない」


「そうだったな」


 万が一にも、悪霊を残すわけにいかない。

 五人で分担して浄化を行い、大量の霊水を撒いて除霊はこれで終了だ。


「霊水の供給が潤沢になったから助かった。苦労して除霊したのに、すぐに悪霊に居座られたら嫌だものな」


「これも、広瀬裕が製造しているそうだ」


「それはありがたいことだ。 これからも安心して悪霊を斬れるのだから。それにだ。ろくにお札や霊水、霊器を用意できないくせに、偉そうに『最近の若い除霊師は……』などと説教する年配の除霊師より百倍マシってものだ」


「確かに」


 橘一刀の言うとおりだが、お前、意外と喋れたんだな。


「いやあ、お見事でした。さすがは、除霊師学校の首席グループ。これからも日本各地の除霊をよろしくお願いします。きっと、学校に戻ったらモテモテですよ」


「はあ……」


 私たちの功績はわかりやすく、目立つし、日本除霊師協会の思惑で除霊師学校に広く伝わるようになっている。

 会長の孫娘も広瀬裕の傍にいるのだから、我々を囮にするくらいなんともないのであろう。

 今の会長は僧侶でもあるらしいが、とんだ生臭坊主だ。


「しかし、私には婚約者がいるので……」


 私が本家に養子に入る際の条件として、現当主の一人娘、又従兄妹の関係にあたるが、彼女と結婚することになっていた。

 だから、校内の女子たちに言い寄られても意味がないのだから。


「さすがは賀茂一族。俺には婚約者なんていないぜ」


「私もです。土御門家は、それどころではありませんしね」


「僕もですよ。高校生になったので、彼女くらいは欲しいですね」


「剣を極めるのが最優先だ」


「まあ、そこは臨機応変に。賀茂さんは婚約者の件を校内で言わないでくださいね。その方が女子たちの注目を集めるので」


「……はあ……」


 日本除霊師協会め!

 何がなんでも、私たち五人を除霊師学校の顔にしたいようだな。

 だが、事情が事情なので断るわけにもいかず。

 私たちは以後も五人で活動を続け、校内で大人気となっていく。


 本当の私たちの実力なんて、広瀬裕に比べたら全然大したことないというのに……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  イケメン五人衆が、自分達の実力をわきまえて、あえて広瀬祐の実力隠しの為に、学園のアイドルを演じていたこと。 [一言]  今回の話を読むと、除霊師学園入学式の情景が違って見えます。  割と…
[一言] 長らく読ませていただきましたが、ようやく、ようやく、まともな思考ができる若者たちが出てきましたけど・・・、もしかしてデスリンガー、滅ぼされるまで必死で日本の霊能士が低能になるような呪いでもか…
[一言] ここまで広瀬祐の事認めてるなら話すようになって仲良くなればステータス現れるかも?
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