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第百三十四話 広瀬裕動く!

「ニクゥーーー!」


「もう、それしか言えないの? えいっ!」


「ギャァーーー!」


「寒気がするぅーーー、ゾンビの断末魔の声に慣れないよぉ……」




 死にたくない。

 ただその一心で、私は襲いかかるゾンビに対し拾ったお札を投げつける。

 でも不思議だ。

 赤松礼香さんを始めとする多くの除霊師たちがお札を投げつけてもダメージを与えられなかったのに、私がお札を投げると、ゾンビは崩れ去ってしまうのだから。


「(もしかして、ステータスとレベルアップのせい? ということは、広瀬君のおかげなのかしら?)お札が……あった!」


 最初に拾ったお札が尽きてしまったので、除霊したゾンビが残した白衣の中を……気持ち悪いけど……探って手に入れ、続けて除霊師のゾンビたちが持っているお札を奪っていく。

 白衣の襟の中に入っているのでスリみたいに奪うのが大変だけど……でも、案外やれるものね。

 私が素早くなったおかげかしら?


「ニクゥーーー!」


「もう! 倒しても倒しても減らないよぉーーー!」


 住宅建設予定地で戦っていたアウトローな人たちは、ほぼ全員がゾンビになってしまったみたい。

 逃げられた人はいるのかしら?

 とにかく数が多くて、倒しても倒してもどこからか湧いてくる。

 私は住宅建設予定地からの脱出を図りながら、進路上のゾンビを次々と除霊していった。


「もしかして、 ゾンビになってしまった除霊師たちは弱かったってことなのかしら?」


 広瀬君や相川さんたちから除霊に関する指導を受け、奉納舞を舞って、なぜかレベルが上がった私は、お札でゾンビを倒せている。

 つまりそれだけ、広瀬君たちが強いってことなのかな?


「広瀬君の忠告に従って除霊師としての訓練をしていたから、今、私は生きているのかな?」


 でも不思議だ。

 土御門蘭子さんたちは、私よりも除霊師としては圧倒的にベテランだったのに、ゾンビを一体も除霊できず、一方的にやられてしまったのだから。


「 それはあとで広瀬君に聞くとして、今はお札が尽きる前にここを脱出しないと」


 拾ったり奪ったりしたお札がなくなってきたので、これが尽きる前にここから逃げ出さないと!

 私は走りながら進路上のゾンビを除霊し、住宅建設予定地からの脱出を図るのであった。





「裕、聖域のタガが緩みつつあるぞ!」


「裕、急ぎ戸高蹄鉄山にいる鬼の晴広を除霊し、あの世と繋がっている穴を封印するのだ!」


「ちなみに、このまま放置すると?」


「他の聖域からも、あの世から悪霊の群れが飛び出してくる」


「マジですか?」


「マジだ!」


「左様。元々聖域とは、戸高蹄鉄山のようにあの世と繋がる穴があった場所、忌地が整備されたものなのでな。戸高蹄鉄山以外、その穴は完全に封印されておるが、ああも鬼の晴広が暴れれば……」


「他の聖域にも影響があると?」


「すでに影響は出ておる」




 大人の事情で戸高蹄鉄山に手を出さなかったら、どうやら加速度的に状況が悪化しているようだな。

 赤竜神様と青竜神様が姿を現し、鬼の晴広の除霊を頼んできた。


「菅木、こうなる前に手は打てなかったのか?」


「赤竜神様。人間の世界には色々と事情があって、どんなに正しいことでもすぐに実行できないケースもあるのです」


 さらに菅木の爺さんも来ていた。どうやら事態はかなり深刻なようだ。


「それで、戸高蹄鉄山と他の聖域から大量の悪霊たちが湧き出てしまえば意味がないと思うがな」


「左様、赤竜神の言うとおりよ」


「面目次第もありません。こうなれば、後処理の大変さを考えずに動くのみです」


「で、どうすればいいんだ?」


「裕よ、そなたはこの世とあの世の穴、通路、『冥穴めいけつ』を塞ぐものを作れるか?」


「作れますよ」


 青竜神様の問いに頷く俺。

 なぜなら、向こうの世界の死霊王デスリンガーの配下たちは、定期的に冥穴を開けてしまう連中だったからだ。

 あの世から一度除霊した悪霊を呼び出して戦力を増やし、人間たちに被害を与え、俺たちの邪魔をしてきた。

 なにもないところに冥穴を開けるのはかなりの手間だが、某特撮物の再生怪人の如く、一度倒したはずの悪霊が大量に湧き出るので、随分と俺たちパラディンの足を引っ張ってくれたのを思い出す。


「で、アンデッドたちが開けた冥穴は塞がないといけないので」


「封印石のようなものか?」


「いえ、補修用のパテみたいなものです」


 冥穴の大きさや形は様々であり、封印石のようなものだと、隙間ができたり、封印の強度に問題が出てしまう。

 だから、使い勝手のいい『封印漆喰』の方が向こうの世界では主流だった。


「補修用のパテだと、効果がいまいちな気がするわね。あくまでも気分的な問題だけど」


「でも清水さん、穴を隙間なく埋めるには漆喰の方が有効だよ。そもそも、隙間があったり、封印が解けやすいという欠点があるのに、ずっと封印石一辺倒なのもどうかと思うな」


「そうよね、久美子の言うとおりよ」


「うちの生臭ジジイが言っていたけど、その封印石ですら、今では安倍一族くらいにしか造れないそうよ。さらに一個作るのに数百年かかるとか。材料の石に力を持たせないといけないから……」


「えっ! 数百年ですか? どうしてそんなに……」


「それはね、望月さん。封印石は、新しくお寺や神社を作るところから始めるからよ」


 桜が祖父である会長から聞いた話によると、この世とあの世の穴を塞ぐのに必要な封印石は、まず封印石の材料となる巨石をご神体とした神社や寺を作るところから始まるそうだ。


「さらに、その寺や神社に多くの参拝客たちが詰めかけるようにしなければいけないわ」


 多くの参拝客たちにご神体を拝ませ、巨石を長い時間かけて強化していく。


「そして、そのお寺や神社を閉めて、その御神体であった巨石で封印石を作るの」


「せっかく多くの参拝客が詰めかけている、神社やお寺を閉めてしまうんですか?」


「ええ、どのみち御神体を交換した神社やお寺はわかりやすいほど廃れてしまうし、廃れた際に出る陰気が、封印石の材料となった前のご神体の力を落としてしまうそうよ。だから、スパっと神社やお寺を閉めてしまうのよ」


「封印石を作るための建立だったのに、せっかく手にした巨石の力が落ちてしまうのであれば、お寺や神社を閉めて当然ですか……」


「そういうこと。だから封印石って、個人では作れないのよね」


 過去には、封印石の材料を集めるべく神社やお寺を多数新設し、多くの参拝客たちが詰めかけるよう、ご利益があるという噂を流すことまでしたそうだ。

 そんなことができるのは、安倍一族か、規模の大きい除霊師一族くらいか……。


「妾がいた時代にも、そうやって新しく建立したお寺や神社に多くの参拝客たちを集めておったの。じゃが、閉めるのに失敗したお寺や神社も多いと聞く」


「そうなんだ」


「ご神体をあの世とこの世の穴を塞ぐ材料として使うよりも、 多くの参拝客たちが詰めかけるお寺や神社をそのまま運営した方が儲かるから、閉めるのを反対されてしまうのじゃ。数百年前のご先祖の遺言など、 現世利益と比べたら、埃のようなものだからな」


 いざとなると、子孫たちが儲かるお寺や神社を閉めるのに反対してしまったわけか。

 室町時代にもそんな事例は多数あったと、沙羅が教えてくれた。

 それは、封印石の製造が困難なわけだ。


「封印漆喰は、安倍一族の封印石より効果があると思うよ」


 俺なら、すぐに大量に用意できるという利点もあった。


「で、どうすればいいんですか?」


 久美子が、赤竜神様と青竜神様に尋ねる。


「作戦はこうだ……」


 青竜神様が作戦を説明する。


「裕は、今から急ぎ戸高蹄鉄山へと向かえ。鬼の晴広の悪霊を除霊し、奴が押さえている冥穴を封印漆喰で塞ぐのだ」


「私たちはどうすれば?」


「分散して、これまでに開放された聖域に待機しておいてくれ。どうも、戸高蹄鉄山の状況が予想以上に悪いようだ。聖域のどこかにある過去に封印された冥穴から、 再び悪霊が湧き出してくるようになるかもしれぬ」


 そうならないよう、先に久美子たちが封印漆喰を持って聖域各所に待機し、その前兆が見えたら冥穴の補修を開始する。

 もし悪霊が湧き出しても、すぐに除霊して補修作業に入れるだろう。


「事前に封印石で塞がった冥穴を見つけ、隙間などを埋めて封印を強化しないんですか?」


「それがな、久美子よ。封印石が作用している冥穴の位置は、そう簡単にわからないのだ」


「なにより、年月が経って土中に埋もれている可能性が高い」


 すでに機能していない冥穴なのと、穴と封印石が目視できる位置にあれば、俺たちがとっくに気がついているはずだ。

 つまり、冥穴と封印石は地中に埋まっていることになる。 


「あのぅ……そんな状態で封印漆喰を使えるんですか?」


「安心せい、里奈」


「封印が弱まった時に、あの世から噴き出す霊気によって、上に乗っかった土など一瞬で吹き飛ばされてしまうからな」


「それって、私たちが安心できないような……」


 里奈がボソっと一言漏らすと、久美子たちもそれに同調したかのように一斉に頷いた。


「その程度では、もし悪霊が噴き出しても大した数ではない。ささっと除霊して、封印漆喰で穴を塞げばいい」


「掘り起こす手間を考えれば、大したものではなかろう」


 しかしまぁ……。

 自分でやらないからって、赤竜神様と青竜神様たちも簡単そうに言ってくれるな。


「最悪の事態にならないよう、我らが抑えつけるのだから安心して作業に取り掛かるがいいぞ」


「そうとも。我らは大分力を増したのだから」


 これも、聖域の大半が開放されたおかげというわけか。


「戸高山は我らのテリトリーなので、その手の厄介なものはない。あとは、戸高赤竜神社と戸高山青竜神社、竜神池、戸高西稲荷神社、山中神社、高城神社、金富山に久美子たちを分散して配置するわけだ」


「じゃあ、私が戸高赤竜神社と戸高山青竜神社かな?」


「私は、竜神池かしら」


「私は、戸高西稲荷神社ね」


 久美子が戸高赤竜神社と戸高山青竜神社で、涼子が竜神池、そして里奈が戸高西稲荷と決まった。


「では、私は山中神社で」


「私は高城神社ね」


「となると、妾が金富山かの」


 千代子が山中神社で、桜が高城神社で、沙羅が金富山……。


「沙羅さん、大丈夫か?」


「妾も除霊師なのでな。それと、妾も『すてーたす』とやらが出たではないか」


 さすがは室町時代の除霊師と言うべきか。

 沙羅さんは強いので、久美子たちと同じように配置しても大丈夫だろう。

 除霊師としての経験で言えば、むしろ俺よりも上なのだから。


「あとは、愛実か……。妾と組んで実戦経験を積めば、将来も安心よの」


「となると、木原さんを呼び出さないといけないな」


 俺は、事前に聞いていた電話番号に……どうせ警戒されているから、彼女のスマホではなく家の番号だったんだけど……かけてみたら、焦ったような声の女性が出た。

 声からして、木原さんのお母さんかな?

 急ぎ用件を伝えたのだが、なんと木原さんはまだ自宅に戻って来ていないという。


「えっ? 戻っていないんですか?」


「はい。広瀬社長のところも出たんですよね?」


「はい。それは確認しています」


「……」


 おかしいな?

 木原さんは、確かにここを出て自宅へと戻ったはず。

 となると、もしかして……。


「裕ちゃん?」


「なんか嫌な予感がする」


 これも除霊師特有のものかもしれない……というほど大した能力でもないのだが。

 そしてその直後、俺のスマホにショートメッセージが入った。


「 『戸高蹄鉄山周辺でゾンビ! 助けて!』」


 しかも、メッセージを送ってきたのが木原さんだった。

 俺の電話番号をよく覚えていたというか、奉納舞の時に教えたけど、まったく活用されていなかっただけか……。


「えっ? どうして木原さんが、戸高蹄鉄山周辺にいるんだ?」


「あきらかに本人の意思ではないの」


「だろうな……」


 菅木の爺さんの予想どおりであろう。

 戸高高志か、岩谷彦摩呂か……。

 誘拐は犯罪じゃないか!


「裕、ゾンビなんて実在するの?」


「この世界にはいないだろう」


 向こうの世界には山ほどいたけど。

 だから向こうの世界では、死体は火葬してから、骨を粉々に砕いてお墓に埋めるくらいだった。

 火葬だけだとスケルトンが発生するリスクがあるので、必ず骨は砕く。

 だが、 この世界に創作物以外でゾンビは存在しないはずだ。


「古の秘術『腐人形ふにんぎょう』……。使える者は……鬼の晴広が使えるのであろうな」


「腐人形?」


「そうだ、夫君。悪霊の魂で死体を動かす『ごーれむ』みたいなものだな。歴史の闇に消えた秘術で、あの安倍晴明でも使えぬと聞いたことがある」


 さすがというか、沙羅さんはゾンビの正体について目星がついているようだ。

 死者の肉体を器とした、悪霊で作られ、使役者が自由に操れる死肉のゴーレムか……。


「となると、急ぎ木原さんを救援に行かないと」


 まさか、誘拐されて戸高蹄鉄山周辺にいるとは……。

 急ぎ助けに行かないと。


「裕君、今から間に合うかしら?」


「非常時なので、飛んでいく」


 霊風の時と同じだ。

 この方法なら、早く戸高蹄鉄山に辿り着けるだろう。


「久美子たちは、聖域のフォローを頼む」


「任せて、裕ちゃん」


「私たちも大分強くなったから、一人でも聖域のフォローくらいなら大丈夫よ」


「まったく、あの風船男も、カッコつけ男も、ろくなことをしないわね」


「生臭は、今回も自分はなにもしないで……。あとで文句を言ってやるわ」


「師匠、無事の帰還を願っています」


「夫君、あとは任せてくれ」


「どのみち、後処理は大変そうだな。これも政治家になった宿命かな」


「裕、油断するなよ」


「鬼の晴広は、なかなかに厄介な存在……戸高蹄鉄山やその周辺から出さぬ方がいいな。ビリビリとした霊圧を感じるぞ」


「わかった、行くぞ!」


 久美子たち、菅木の爺さん、赤竜神様、青竜神様の見送りを受けながら、俺は一気に上空へと飛び上がり、そのまま全速力で戸高蹄鉄山を目指すのであった。






「えいっ! はあぁ……はあぁ……」


「ニクゥーーー!」


「もぉーーー! しつこいわね! えいっ!」



 ゾンビたちから逃れるべく、住宅建設予定地を出ようと走り続け、進路上のゾンビをお札で除霊する。

 お札はなるべく節約しているけど、もうそろそろなくなりそう。


「お札はあと……あと三枚!」


 このままでは、脱出できないかもしれない。

 でも、まさか落ちているお札を取りに戻るわけにいかず、 住宅建設予定地の外を目指して走り続けるしかなかった。


「残り二枚!」


 回避できるゾンビは、可能な限り避けて進まないと……。

 でもそれはとても難しく、ついにお札は残り二枚になってしまった。

 そして……。


「残り一枚!」


 もう少しで住宅建設予定地の外に出られるけど、このゾンビは回避できない!


「これでゼロ!」


 お札はなくなってしまったけど、もう少しで外に出られる……と思ったら、重機置き場に置かれた複数の重機の陰から、数十体のゾンビたちが飛び出してきた。


「駄目だ!」


 こんなにゾンビの数が多いと、回避できない。

 最低でも数体は除霊しないと……でももうお札がないのよ。

 さらに、頭がフラついてきた。

 広瀬君が言っていた、霊力の不足からくるものだと思う。

 もう私の霊力は限界なんだ……。


「ゾンビは映画のように遅くない。霊力はもう尽きつつある。このままでは……」


 必ず広瀬君が助けに来てくれると思ったのに……。

 これまでだって、神社の石段でエッチな怨体に襲われた時にも助けてくれたし、 奉納舞でもしっかりと踊っていた。

 除霊師としての彼は優秀で、真面目だったのを思い出してしまう。


「ずっとプレイボーイ扱いしたから怒っちゃったのかな? でも私って、結局広瀬君の神社でアルバイトをしているし、除霊師としての訓練も受けている。実は私って、広瀬君のことを……いい人なんだよね」


 でも広瀬君からしたら、私が土御門蘭子さんと赤松礼香さんに誘拐されてしまったのは想定外のはず。

 彼の自宅と、戸高蹄鉄山との距離を考えたら……。

 いくら広瀬君が優しくても、時間ばかりはどうにもならないはず……。


「除霊師としてではなく、踊ってから死にたかった」


 すでに多くのゾンビたちに囲まれ、もう攻撃手段がなかった。

 霊力も尽きかけていて、私はゾンビたちに食い殺され、自分もゾンビになってしまうのね。

 土御門蘭子さんと赤松礼香さんのように……。

 もう逃げることもできず、あとは死を待つのみとなったその時であった。

 突如、私と数十体のゾンビたちを強烈な青白い光が包み込んだ。

 そしてその光が晴れると、ゾンビたちは一体残らず消え去っていた。


「消えた?」


「ふう……間に合ったか」


「広瀬君?」


 絶対に間に合わないと思っていた広瀬君が、上空から私の傍らに優雅に着地したのには驚いた。

 広瀬君って、空を飛べるんだ。

 いつもの高校の制服や白衣姿ではなく、常装でその手に日本刀を持った彼は、私にはとても格好良く見えてしまった。


「(広瀬君が私を助けてくれた……嬉しい……)」


「大丈夫? 木原さん。間に合ってよかった」


「ありがとう……」


 駄目だ!

 私を助けてくれた広瀬君を見ていると、心臓がドキドキしてきて……。

 駄目よ、愛実!

 広瀬君はプレイボーイだから、好きになると後が大変なんだから。

 もし恋人を作るとしたら、私だけを好きになってくれる人じゃないと。


「しかし、この惨状は……」


「そうよね、恋人とか旦那さんになる人は誠実じゃないと……」


「あの……木原さん? 現状を教えてくれると嬉しいんだけど……」


「はっ! 今のはノーカウントで!」


「はい」


 広瀬君、意外と話がわかるじゃない。

 私は、自分が知る限りの情報を広瀬君に伝えた。


「土御門蘭子と赤松礼香? 第三極を目指して自滅したのか……。で、時代錯誤な未来像を抱いていたと……」


 戦力から考えたら、あの二人がまともに戸高高志さんと岩谷彦摩呂さんに対抗するのは難しいけど、だからといって広瀬君の子供を産んで、彼を裏から操る策ってのは、机上の空論どころではなかったと思う。


「木原さんは、土御門蘭子と赤松礼香の腐人形を倒したのかな?」


「いいえ、まだ……あっ!」


 広瀬君が一気に数十体を倒したゾンビたち……腐人形が正式名称みたい……だったけど、すぐにあちこちから集まってきた。

 そしてその中に、土御門蘭子さんと赤松礼香さんの姿もあった。


「「ニクゥーーー!」」


「こうなると哀れだな……。せめて早く楽にしてやろう」


 そう言ってからすぐ、広瀬君は持っていた日本刀で土御門蘭子さんと赤松礼香さんの腐人形のみならず、その近くにいる数十体の腐人形も一瞬で斬り裂いてしまった。

 お札で攻撃していないのに、恐ろしいまでの攻撃力。

 そして目にも止まらぬ速さ。

 広瀬君の本当の実力の一端を見た私は、この時ようやく安堵のため息をついた。

 続けて、彼は私に手をかざして……。


「体が軽い……」


「治癒をかけた。あとは……これを飲んでくれ」


 瓶に入ったお水?

 ミネラルウォーターにしては量が少ないような……。

 飲み干したら、霊力不足からきたと思われるフラつきが消えてしまった。


「これで回復したはずだから、木原さんはここを急ぎ出てくれ」


「あの……広瀬君は?」


「除霊師のお仕事。腐人形もまだ沢山いるし、岩谷彦摩呂と戸高高志も、どうやら悪運が尽きたようだな。鬼の晴広もいて……冥穴も塞がないといけない」


「相川さんたちは?」


「ここがガタついたので、他の聖域の守護に向かった」


「じゃあ、広瀬君は一人で?」


「そうなるかな」


「私も一緒に行きます!」


 それを聞いた私は、迷うことなく彼についていくことを宣言した。


「俺と一緒に? でも、危ないから……」


「偶然とはいえ、私も除霊師になってしまったから。それに、私も戦えるから!」


 だって私は、一人で多数のゾンビを倒し続けた結果……。




レベル:226


HP:2489

霊力:4003

力:214

素早さ:269

体力:287

知力:227

運:124


その他:舞踏武術、至高の踊り手



「……腐人形の経験値が高い? いや、倒した除霊師のゾンビたちの影響か? わかった。いくら木原さんが急激に強くなったとはいえ、経験が圧倒的に不足しているのも事実なんだ。無理はしないでくれ」


「わかりました」


「あとは……これを」


「えっ?」


 突然広瀬君が首にかけたお守りから扇が飛び出し、彼はそれを私に渡した。

 お守りから扇……手品?


「金属製の扇? でもとても軽い……」


「扇を使った舞踏武術で使う武器の扇だ。それはミスリル製だから軽い。とはいえ、舞踏武術はとても難しいからなぁ……ステータスの特技に記載されていても……万が一の備えだと思ってくれ。普段はこれを使ってほしい」


 続けて、広瀬君から大量のお札を渡された。

 私って、扇で踊りながら戦う才能があるんだ……。

 ステータスに『舞踏武術』って書いてあるから事実なんだと思うけど、確かにいきなり踊りながら戦えと言われても難しいかも。

 でももし、踊りながら戦えるのなら、除霊師も悪くないかもしれない。

 その前に、広瀬君が戸高蹄鉄山にいる鬼の晴広に勝てるかどうか……。

 それでも広瀬君に同行することを決めた私って……もしかして?


 私は私の疑問を解決すべく、せっかく死地を脱したのに、またも危険な行動を選んだのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 木原愛美をいかに嫌われずにハーレムに加えるかに気を配っての話運びだったかなと思います。 処分も重なったのでかなり強引な展開になっていますが、その点については狙い通りかなと。 [気になる点]…
[良い点] 木原さん、ほぼ素人なのにプロでさえ対処出来なかったゾンビ相手によく頑張りましたな。 そのピンチに颯爽と危機を救う広瀬氏はやっぱり主人公だなと再確認。 死後も尊厳を奪われている犠牲者の解放…
[良い点] 一政治家に過ぎない菅木議員に大企業、除霊一族の二つを相手にするのはキャパオーバーと考えるべきか。  被害の規模とリスクを計算すれば、遅きに失したと考えるべきか。  もし木原さんがいな…
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