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第百十二話 仕返し開始

 俺は、菅木の爺さんの依頼で一人都内に出かけることになった。

 というのは表向きな理由で、人が銀の邪竜と戦っている間に邪魔をしてくれた土御門家とそのシンパたちに、除霊師流の仕返しをするためだ。

 悲しいかな、除霊師として大幅に力が落ちた土御門家は、俺の復讐に為す術がないのは確実だ。

 もし安倍一族に俺が同じことをしたら、なんとか対抗できるかというレベルのはずだ。

 あそこは今、それどころじゃないけど。


 霊風の接近を知りながら、安倍一族はその対策チームが組めないという大失態を演じた。

 この件に関しては、世界中の除霊師業界に関わる者たちを驚愕させたらしい。

 『ついに安倍一族ですら、除霊師たちの弱体化が深刻なのか……』と。

 そして自分たちも、安倍一族のことを批判する余裕がないという事実にも。


 岩谷彦摩呂に関しては、彼は有志扱いで霊風の除霊に挑戦して、なにもできず失敗した。

 久美子に手を組むことを要請するも、彼女が岩谷彦摩呂のプライドを上手くくすぐる返答でそれを拒否。

 彼は、霊風が上陸する直前の海原海水浴場で祭壇の再構築を試みるも、見事になにもできなかった。

 この件も、日本の除霊師業界の人たちを驚愕させたそうだ。

 岩谷彦摩呂は、個人扱いで霊風の除霊に挑んではいるが、その仲間には安倍一族の若手除霊師たちが多数を占めていた。

 安倍一族も、除霊師としての実力が大幅に落ちているのだと気がつかれてしまったわけだ。


 戸高家に関しては、彼らが有り余る資金で集めた、有能とされる除霊師たちが霊風になんら対抗できなかったことが問題視された。


『今後、霊的な大災害が日本を襲った場合、今の除霊師の実力ではろくに手を打てず大被害を許容することになる』


 特に、日本の上層部は危惧した。

 そんな中で特に酷いと思われたのが、土御門家だ。

 除霊師だからという理由で、好待遇で役所に入り、除霊師でなくても土御門一族だからという理由で、コネ入省している者たちも多かった。

 それなのにいざという時になにも役に立たず、挙句に公務員に親土御門閥のようなものを作り、地位や利権、天下り先を恣にしている。


 霊風の除霊失敗に関しても、『元から、土御門家は霊風の除霊に参加していません。連絡の行き違いで間に合わなかったんです。行けたら確実に除霊できていたんだけどな』という、子供にでもわかりそうな嘘をついているそうだ。

 土御門蘭子と、赤松礼香が消えるように学校からいなくなったのは、その嘘を補完するためであった。

 そんな今の土御門家なら、仕返ししても誰も庇わないだろうなということで、俺は富士の樹海にいた。

 とある人物と待ち合わせているのだ。


「どうも、お久しぶりです」


「……おい、俺をもう呼び出さないと言わなかったか?」


「管師としてはね。除霊師として仕事がある。借金は返せた?」


「売ってくれた霊器のおかげで順調に返済できているが、さすがに数年かかる」


「霊管って高いんだなぁ」


「亡くなった親父が、大した使用期限も残っていないものを高掴みしただけだ。もう作れる者がいないので、安くはないがな」


「じゃじゃーーーん」


 俺は、元管師の青年に数十本の霊管を見せた。

 しかも全部新品のようで、長く使えるものばかりだ。

 桜経由で会長に頼み、廃棄品の霊管を集め、俺が修理したものなのだ。

 会長は胡散臭いが利用価値はあるから、たまにこういうことを頼むようになっていた。

 相手が勝手に俺に対し借りがあると思ってくれれば、コントロールは容易だからだ。


「お前、霊管を直せるのか?」


「だとしたら、やはり管師に戻るか?」


「まさかな。管師の評価と待遇は悪い。二度とゴメンだ」


「残念。実はこれを用いて、土御門家とあいつらにくっついている、自称エリート君たちに仕返しする。手助けしてくれたら、借金を全部返せたうえ、さらにひと財産作れるけど」


「なるほど。あまり公にできない仕事か。引き受けよう」


「あれ? 安全策を取って断るかと思った」


「実は俺も、傍流ながら土御門なのでな。コネで国家公務員にしてもらえない、捨てられた一族だがな」


「それは知らなかった」


「土御門家は、国家権力と結びつく時に管師や非主流派の一族を切り離したのさ」


 一族に公務員を多数輩出している土御門家に、管師のような汚れ仕事をする一族はいらない。

 そんな理由で、元管師の一族は土御門家からパージされたそうだ。


「普通、そういう一族を密かに抱えないか?」


「霊管の製造技術が絶えたのでな。好待遇で密かに抱え込む利益がないと判断したんだろう。亡くなった親父は、それが悔しくて借金をしてまで霊管を集めたんだから」


 霊管を集めたのはいいが、状態が悪いものを無理して使ったら、突然霊管が破裂して出てきた悪霊に呪い殺されたらしい。

 非業の最期というやつか。


「大凡、お前さんのやりたいことはわかるけどな。ようは戸高高志と同じことだろう?」


「正解」


「悪そうな笑顔だな。まあいい。俺もあいつらが没落すればいい気味だから手伝ってやる。で、だから富士の樹海かぁ……」


「悪霊一杯いるから。他にも色々とリストを貰ってね」


「どこから入手したか、聞かないでおくよ」


 俺と元管師の青年は一緒に悪霊を集める作業を開始し、そのあと関東圏のあちこちで、人様にはあまり言えない霊的な作業を繰り返した。

 あとは、向こうが泣いて除霊依頼をしてくるのを待つだけだな。




「おいっ! 小娘! お茶を持ってこい!」


「はい、ただいま」


「本当に、バカは使えないな! 俺が顧問だからこの会社は国から仕事が貰えるんだぞ!」


 先週は酷い目に遭った。

 この元警視総監にして、瑞宝章の受章者でもある、警視庁一の逸材だった岩城健吾。

 俺の頼み事を小娘風情が断りおって、生意気なので逮捕してやろうとしたら、手下でしかない県警の連中が妨害してきやがった。

 しかも、この岩城健吾を拘束して留置場に叩き込むとは!

 県警のバカ共に説教したら翌日出してくれたが、この俺に恥をかかせやがって!

 必ずや、あの刑事たちと小娘に目にものを見せてやる!

 俺が命令すれば、どんな奴でも適当に罪状をデッチあげて刑務所に送れるんだ!


 だいたい、土御門家の連中も惰弱すぎる!

 霊風の除霊に失敗しやがって!

 これを誤魔化すのが大変ではないか。

 バカ政治家共が嗅ぎつけたら、いったいどうしてくれるというのだ。


「温い! 無能は子供でも産んでろ!」


 まったく、今の若い女どもはお茶もまともに淹れられないのか?

 いい体をしているから、あとで味見してやってもいいがな。


「もう時間か。帰るかな?」


 よく働いたな。

 俺が顧問をしているから、このクソみたいな警備会社は国から仕事を貰えるんだ。

 俺に感謝するんだな。

 こっちは、たかだか年千五百万円の安い給料で来てやっているんだから。


 会社が手配した車で、高級住宅地にある自宅に戻る。

 俺に対するこのくらいの便宜は、これまで国家に忠勤してきたことに比べれば微々たるもの。


「その道だと遠回りだって言ってるだろうが! 死ねよ! クソガキ!」


「あの……その道は工事中でして……」


「俺なら通れるんだよ! たく、使えないな!」


 これだから、今の若造は……。

 俺たちの世代と違ってバカばかりで困る。

 甘やかすから無能ばかりになって、俺たちが完全に引退できないんだ。


「明日、道を間違えたら殺すぞ! ボケ!」


「すみません」


 不快な若造にも注意だけで済ませてやる、器が大きく優しい俺。

 まさに国士と呼ぶに相応しい。

 俺は車を降りて、高級住宅街にある8LDKの家に戻る。

 国家に忠勤してきた俺に神様が与えてくれた、ささやかな成果だな。

 世間のバカ共が俺たちを批判するが、あいつらはバカなので意見など聞く必要がない。

 この国は、俺たち選良が動かせばいいのだ。


「帰ったぞ」


「あなた、家に悪霊が」


「悪霊だと?」


 玄関に入ると、妻が血相を変えて飛び出してきた。

 突然家の中に悪霊が湧き出たらしい。


「なぜ悪霊が?」


「まあいい。任せておけ」


 俺は急ぎ、土御門家に電話をかける。

 こういう時のために、普段から優遇してやっているんだ。


「なにぃ? 除霊できないだと?」


「そのレベルの悪霊は、我々では手に負えません」


「お前ら、除霊師だろうが!」


 なんのために、除霊師でもない奴までコネで採用してやっていたと思っているんだ!

 こういう時のためだろうが!


「しかも、あちこちで悪霊が大発生しておりまして……しかも、土御門家では手に負えないレベルのものばかりなのです」


「なら他の除霊師を手配しろ!」


「それはいいのですが、今発生している悪霊の除霊には最低でも数億円かかります」


「ふざけるな! 俺は払わんからな!」


 そんな金。

 誰が払うか!


「それでも引き受けてくれない除霊師も多いのです」


「そんなバカな話があるか!」


 それから、あちこちツテを使って除霊師を探したが徒労に終わってしまった。

 『悪霊が強すぎて、我々では手に負えない』、『そんな急に除霊できない。準備に膨大な時間がかかる』などと言われ、断られてしまったのだ。


「家に入れないではないか!」


 聞けば、土御門家に近い政治家、高級官僚及びそのOBの自宅、別荘などはすべて悪霊によって占拠され、誰も入れなくなってしまったそうだ。

 除霊を頼もうにも、最初は数億円と言っていたのに、今では最低でも十億円と言われてしまった。

 バカな!

 そんな金を払ったら、俺たちは無一文ではないか!

 さらに土御門家の連中も本家の屋敷を悪霊たちに占拠され、悪霊が強すぎるために手も足も出せないらしい。


 自宅が悪霊に占拠され、除霊もできず右往左往している除霊師一族。

 先日の霊風の件も含めて、土御門家への信頼度は地に落ちていた。

 一般人は知りようもないが。


「こんな時にこそ土御門家が役に立たなくてどうする! 早く俺の自宅に除霊師を派遣しろ! できなければ、警察にいる土御門家の連中を追い出すぞ!」


 ええい!

 有能な俺の足を引っ張る家が古いだけの無能たちめ!

 俺の家がこのままなら、土御門家の役立たずなど絶対に切ってやるからな!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回は広瀬裕が特に腹黒い。 [気になる点] >そんな今の土御門家なら、仕返ししても誰も庇わないだろうなということで、俺は富士の樹海にいた。    今回の報復対象の岩城健吾はともかく土御門…
[気になる点] この話、書籍化したときに消されないかな?
[一言] おまいうが酷すぎなおっさんだなあ 土御門よりも始末しなきゃまずいレベルは上だな
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