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異世界帰りのパラディンは、最強の除霊師となる  作者: Y.A


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第百五話 競争 

「霊風なら、戸高市や隣接する市町村を避けるぞ」


「さらにその周辺までは責任持てないがな」



 帰宅後。

 念のため竜神様たちに霊風のことを聞いてみたら、戸高市はまったく心配ないと太鼓判を押してくれた。


「我らも力を増しているのでな」


「あんなもの、ここを通させない」


「うわぁ、今日は頼り甲斐があるなぁ……」


「なんか引っかかる言い方だな。裕よ」


「気のせいですよ」


 ただ俺は、久しぶりに竜神様たちの力の一端を見たような気がしただけだ。

 決して他意はない。


「して裕よ。お主ら以外に霊風に対応しようとしているのは、岩谷彦摩呂とかいう奴とその仲間であったか?」


「他にも、もう二組いると聞いたな」


「はて? 誰だ?」


「日本の有名な除霊師一族の双璧と、バカが一人」


 なんとか戸高不動産を黒字で営業している戸高高志のバカが、どこからか霊風の情報を聞きつけ、自分たちで除霊すると言い始めたらしい。

 あいつに霊力なんて欠片もないので、スポンサーとして協力するということなのであろう。

 ついでに言うと、あいつにはマネージメント能力の欠片もないので、間違いなく父親頼りだと思われる。

 政治家を目指しているから、霊を知る上流階層へのアピールなのであろう。


「岩谷彦摩呂と、安倍一族やその他若手除霊師たちのグループ。土御門蘭子、赤松礼香、その他土御門一門の除霊師たちと、公官庁に近い除霊師たちのグループ。最後に、戸高高志親子が金で集めた有志除霊師グループ」


 この三組が霊風を除霊すべく、戸高市及びその周辺でしのぎを削るわけだ。


「全然ワクワクしない対決ね」


「どれも面子が雑魚だからな」


 なにが怖いって?

 この中で、岩谷彦摩呂のグループが一番マシに見えてしまうところだ。


「土御門蘭子のグループには、あの二人以外ほとんどB級除霊師がいない。基本的に実力が足りない」


 その分、プライドは三つのグループの中で一番かもしれないけど。

 土御門家の人脈を用いた公務員除霊師の応援がとにかく多いのだ。


「戸高親子のグループは……金があるから、もしかして大物除霊師を招聘できるかも。問題は、グループのチームワークが皆無で、リーダーが除霊師でもないバカな戸高高志という点だな」


 戸高高志の父親が現実を見て、あいつに指揮を執らせなければいけるかもしれないか?

 まあ、それができたら戸高高志があそこまでしでかさないわけだが。


「戸高高志は意外だったわね」


「清水さん、そうでもないのよ。戸高家は、戸高市に名士としての凱旋を意図している。上層階級の人たちは、庶民たちが気がつかない霊の悪さに対処できて、初めて上流階級の仲間に入れるの」


 ただ商売で成功して金を稼いでも、それは成り上がりでしかないからな。

 そういうところに気を配り、自分や一族に霊感はなくてもいいが、すぐに仕事を頼める懇意の凄腕除霊師がいる。

 というのが、この国の上流階級の仲間入りへの条件だからだ。

 霊風の除霊を機に、戸高家も懇意の除霊師グループを作ろうというわけだな。


「霊風を戸高親子が除霊できれば、それはこの国を動かしている人たちへのアピールになるわけね」


「そんなところね。生臭ジジイの受け売りだけど」


 里奈の考えを、桜は肯定した。


「裕ちゃん、そこに割って入るのってどうなのかな?」


「だよなぁ……」


 強引にやればできなくもない。

 というか、これ。

 霊風を除霊できるのって、多分俺たちだけだ。


「霊風って、前に完全に除霊されたのは江戸時代初期のはずよ」


「滅多に来ないってこと?」


「それもあるけど、除霊失敗で被害が拡大するケースが多いのよ。至近だと、伊勢湾台風とか? 通常の台風被害と被さるからわかりにくいけど、もしそのまま威力を発揮していたら、犠牲者の桁がもう一桁上だと言われているわ」


「防ぐのは難しいんだ」


「完全にはね。特に今は除霊師の質が落ちているから……」


 あの三グループが霊風の除霊に成功したら、それはもう奇跡というわけだ。


「台風の渦の中に、海上や世界中から集まった悪霊たちが多数回っているから、除霊にも危険が伴うわ」


 とにかく犠牲者が出ないことを祈るのみかな。


「裕なら大丈夫なの?」


「なんとか? やはり霊風は大きいから、一人で除霊すると効率悪い」


 完璧に除霊するというのは難しいのだ。


「事前に、完全に用意しておけば大丈夫かな。久美子たちが手伝ってくれれば、もっと確率が上がる」


 とはいえ、あの三グループに割って入るとろくなことがない。

 戸高市には上陸しないのだから、準備だけして待機しておこう。

 準備が無駄に終わっても、他の除霊で使うこともできるしな。


「それもそうだね。無理にあの人たちに割って入らなくてもいいよね」


「自己責任の最たる例だものね」


「あいつらの根拠のない自信って、どこから来るのかしら? ねえ、涼子」


「私に聞かないでよ。土御門家は、名門意識からだと思うわ」


「師匠、準備をお手伝いします」


「そうね。三グループとも失敗して、生臭ジジイが涙目で飛び込んでくるかも」


 もしそうなったら、稼ぎ時ではあるな。

 などと思っていたら……。


「裕ぅーーー!」


「なんだよ? 爺さんなのに泣いてみっともない」


 桜の予想は半分当たり、涙目で飛び込んできたのは菅木の爺さんであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >除霊失敗で被害が拡大するケースが多いのよ。至近だと、伊勢湾台風とか? 前話で、蘭子と主人公が、数百年に一度の災害って言ってたと思うんですが、随分間隔短く無いですか? この前は江戸時…
[一言] 爺さんが涙目になるって、霊風が鬼や天狗あたりに神格化したとか? 大規模災害が荒神と同一視されるのは、よくあることですし。 複数の神格に守られた戸高市の霊的防御を突破するなら、このレベルじゃな…
[良い点] 菅木議員の涙目はイイですね! [気になる点]  政治生命とプライベート。どちらの理由で泣いているのでしょう? [一言]  除霊の準備も大事ですが、この三組を処理する準備もしないともっと…
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