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絶望の帰宅

 翌日、昨日の豪雨が嘘だったかのように空は快晴となった。


 安藤とホーリーは乾いた服を着て部屋から出る。下に降りると、受付には昨夜と同じ老婆が座っていた。安藤は受付の老婆に鍵を返す。

「昨日は楽しめたかい?」

 老婆はニヤニヤしながら安藤とホーリーを交互に見る。

 ホーリーは何も言わず、老婆に微笑む。老婆は「ケッケッケ」と嫌な声で笑った。

「……」

 安藤は老婆を見ることもなく、そのまま宿を出た。

 

 ***


「着きましたよ。もう目を開けられて大丈夫です」


 安藤はゆっくりと目を開ける。そこは安藤と三島由香里が一緒に暮らしている家だった。

 ホーリーのテレポートによって、安藤はあの町から山の中にある家へと戻って来たのだ。

 三島はまだ帰ってきていない。ギルドによる新たな薬草の仕入れ先の選考期間は三日間、泊り掛けで行われる。予定通りなら、三島が帰ってくるのは明日だ。

「あ、あの……ホーリーさん……お、俺……」 

「昨日はありがとうございました。ユウト様」

 ホーリーは丁寧な動作で安藤に頭を下げる。


「私、とても幸せでした」


「―――っッ!」

 自分に笑顔を向けるホーリー。罪悪感と後悔、その他の様々な感情が安藤の胸に渦巻く。

「あ、あの……ホーリーさん!」

「はい、何でしょう?」

「き、昨日は……その……俺……あんなことをしてしまいましたが……」

 笑顔を向けるホーリーに安藤は、はっきりと告げる。


「俺が好きなのは……由香里……なんです!」


「……」

「貴方が『聖女』で俺のことを『運命の相手』だと言ってくれるのは嬉しいです。貴方が言われるように、俺は貴方に惹かれていたのかもしれません……」

「……」

「でも、俺が……俺が好きなのは由香里なんです!」

「……」

「俺はあいつがずっと好きだったんです。昔からずっと……好きで……やっと告白して恋人になれて……ずっと……ずっと好きだったんです」

「……」

「俺は、俺は由香里を……由香里を裏切ることなんて……できま……」

「ユウト様」

 ホーリーは安藤の唇に人差し指を置き、言葉を遮った。

「ユウト様は、奥様を裏切ることはできない。そうおっしゃられるのですね?ですがユウト様……」

 ホーリーは微笑む。その笑みは今までの優しいものではない。

 妖艶で魅惑的な笑みだった。


「貴方は、昨夜奥様を裏切ったんですよ?」


「―――ッ!」

 安藤は愕然とする。血の気が引き、顔が真っ青になる。

「貴方は奥様のことを忘れ、私を求めました。それは事実なのです」

「……ッ、ううっ……」

 足から力が抜ける。よろめきながら安藤は近くにあった椅子に座った。

 ホーリーは安藤の背後に回り、後ろからギュッと抱きしめる。

「ユウト様……」

 ホーリーは安藤の耳元に妖しく囁く。


「忘れないでください。貴方の運命の相手は私なのです」


 ホーリーの腕が離れる。安藤は振り返り「違う!」と叫ぼうとした。しかし、既にそこにホーリーの姿はなかった。


「では、ユウト様。またお会いしましょう」


 テレパシーだろうか?どこからかホーリーの声が聞こえた。

 

 ホーリーが居なくなると、家の中はシンと静まり返った。

 静寂な家の中で、安藤は顔を青くしながら頭を抱え、絶望の表情で顔を伏せた。

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