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最弱剣士とストーカー魔法使い  作者: カエル
第五章:シンギュラリティ
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二つの研究

「羊気さんがどうして、この世界に来たのかは分かりました」


 話を終えた羊気に安藤は尋ねる。

「それで、俺に協力して欲しい事って何ですか?」

「うん」

 羊気は紅茶を一口飲み、安藤の質問に答えた。

「現在、私は二つのテーマを研究している。その二つの研究を進めるには、君の協力が必要なんだよ」

「二つの研究?」


「一つ目の研究テーマは『特殊能力』についてだ」


『特殊能力』。その言葉に安藤は反応する。

「魔法とは全く違う力『特殊能力』。確率や距離を無視して特定の『何か』を引き寄せる力の正体を私は暴きたい」

 安藤は理解した。羊気が何故、自分を此処に連れて来たのかを。

「羊気さんは、俺に『特殊能力』があるって知ってるんですね。だから、俺を此処へ連れて来た」

「ああ、そうだよ」

 羊気は安藤を指差す。


「安藤優斗、君は『特殊能力』を持っている」


 言われた瞬間、安藤の心臓はドクンと高鳴った。

「君は『自分を好きになる者を引き寄せる特殊能力』を持っている。今まで聞いた『特殊能力』の中でも、とりわけ面白い能力だ」

 煌めく目で、羊気は安藤を見つめる。

「『特殊能力』は魔法とは全く異なる力であるがゆえに、魔法の理論が通じない。アイの計算能力も『特殊能力』の研究には役に立たないんだ。研究を進めるには『特殊能力』を持つ者の体を調べる必要がある」

 しかし、『特殊能力』を持っている人間と出会える確率は奇跡に近い。

 元々『特殊能力』を持っている人間の数自体、非常に少ないのに加え、『特殊能力』を持つ者は短命で終わる傾向にあるからだ。

『雨を引き寄せる特殊能力』を持っていた人間が、洪水に巻き込まれて死ぬ。といったように、『特殊能力』がある人間は、自身の能力で引き寄せたものによって命を落とすケースが多い。


「でも、やっと『特殊能力』を持つ人間を——君を見付けた」


 羊気はテーブルに両手を付き、身を乗り出す。

「安藤優斗、是非とも君の体を私に調べさせて欲しい。『特殊能力』の研究のためにね」

「……俺にモルモットになれと?」

「被験者だよ、安藤優斗。絶対に君の命を奪ったりはしない。それは保証する」

「……」

「その顔は信じてないね?」

 羊気はクスリと笑う。

「でもね、安藤優斗。これは君にとっても悪い話じゃないんだよ?」

「えっ?」


「研究が進み、『特殊能力』の正体が分かれば、君から『特殊能力』を消す事が出来るかもしれない」


「——ッ!」

 安藤は大きく目を見開く。

「『特殊能力』は、本人の意思とは無関係に特定のものを引き寄せる。そのため、『特殊能力』を持つ者のほとんどが、その力に翻弄される。短命なのも、『特殊能力』を持つがゆえに起きる不幸の一つだ」

 羊気は甘く囁く。

「君も自分が『特殊能力』を持っていると知った時、それを消したいと思っただろ?」


 思った。何度も思った。

 カール・ユニグスに話を聞いた時から、こんな力消えてしまえと思った。

 こんな力があるから、皆が俺を巡って殺し合う。そんなのはもう嫌だ。


「で、でも『特殊能力』は一生消えないって……」

「そうだね。『特殊能力』はその能力を持つ人間が死ぬまで消えない。これは『特殊能力』を知る者の間では有名な話だ。だけどね、安藤優斗。それは今までの話なんだよ」

 羊気は強い口調で言う。

「科学の発展によって、前に出来なかった事が今は出来るようになった。なんて話は決して珍しくない。昔は不治だった病が新薬の開発によって、現在は完治するようになった。というようにね」

「……」

 羊気の提案は安藤にとって願ってもない事だ。

 もし、安藤から『特殊能力』が消えれば、安藤に引き寄せられる者は居なくなる。それはつまり、これ以上、安藤を巡っての殺し合いが無くなる事を意味していた。

「もしかして、俺の記憶を元に戻したのはこのためですか?」

 羊気は唇の端をニイイと上げる。

「ああ、そうさ。君は記憶操作によって『特殊能力』の事も忘れていたからね。研究に協力してもらうには、『特殊能力』を持つ苦しみを思い出してもらう必要があった」

 アイの魔法によって安藤の精神は落ち着きを取り戻しているが、自分のせいで人々が殺し合い、死んでいった苦しみは忘れられない。


***


「……二つの研究に協力して欲しいと言いましたよね?もう一つの研究は何ですか?」

 安藤の質問に、羊気は一拍の間を置いて答える。


「もう一つの研究は——『死者の蘇生』だ」


「死者の……蘇生?」

 安藤は思わずその言葉を復唱した。

「それって、死んだ人を蘇らせるって事ですか?」

「そうさ。読んで字のごとく、『死者を蘇らせる魔法』の研究だ」

 羊気はカップに入っていた紅茶を全て飲み干す。空になったカップをテーブルに置くと、アイの端末が無言で紅茶を注いだ。

「魔法では死んだ者を蘇らせる事は出来ないとされている。それが本当か確かめるべく、私はアイに『死者を蘇らせる魔法』を創るように命じた。しかし、アイですら、『死者を蘇らせる魔法』だけは、創れなかった」

 三百以上の魔法を創り出したアイでさえ創れない魔法。それが『死者を蘇らせる魔法』なのだ。

「だけどね。この世界には唯一、死んだ後に蘇る事が出来る魔法を使える人物が居るんだ」

 羊気はニヤリと笑う。


「その人物の名は——ホーリー・ニグセイヤ。『協会の聖女』だよ」


 思わぬ名前が羊気の口から飛び出す。

「ホーリーさん?」

「そうだ、安藤優斗。ホーリー・ニグセイヤはこの世界で一人だけ、死んでも生き返る事が出来る人間なんだよ」

 

 安藤は思い出す。『血塗られた結婚式』での出来事を。

 あの時、ホーリーは確かに頭を魔法で撃ち抜かれて死んだ。

 にも拘わらず、ホーリーは蘇ったのだ。安藤の目の前で。


「私はどうしても彼女の使う魔法を調べたい。そうすれば、そのデータを元に『死者を蘇らせる魔法』を創れるかもしれないからね」

 羊気は安藤の手を取った。


「安藤優斗、君に頼みたい二つ目はホーリー・ニグセイヤの説得だ」


「説得?」

「君からホーリー・ニグセイヤに頼んで欲しい。私の研究に協力するように、と」

「ど、どうして俺に?」

「隠す必要はない。君がホーリー・ニグセイヤにとって最も大切な人であるという事は知っている。君達は結婚式まで挙げた仲なのだろう?」

 そこまで知っているのか。おそらくアイの魔法を使って情報を集めたのだろう。

 きっと俺が『特殊能力』を持っている事も、アイの魔法で知ったに違いない。と安藤は思う。

 

「私は以前からホーリー・ニグセイヤへ『死者を蘇らせる魔法の研究に協力して欲しい』と頼んでいたが、答えは全てノーだった。『協会の魔法』は聖なる存在。誰だろうと教える訳にはいかないんだそうだ。でも、君の頼みならホーリー・ニグセイヤも聞いてくれるかもしれない」 

「そ、それは……」

「もちろん、この研究も君にとって大きなメリットがある」

 羊気は、安藤の耳元に囁く。


「もし『死者を蘇らせる魔法』が完成した暁には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 安藤はハッとして羊気を見る。

 背筋が凍る程の微笑を、羊気は浮かべていた。


「どうする?安藤優斗。私の研究に協力してくれるかい?」

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