異世界へ、美人な『聖女』と出会う
「目覚めなさい」
「うーん」
「目覚めるのです。アンドウ・ユウト様」
「はっ!」
安藤が目を覚ますと、そこは豪華な神殿の中だった。
そして、目の前には白い髪に白い服を着た少女が立っている。
「目覚めましたね。アンドウ・ユウト様」
白い髪の少女は、安藤をまっすぐ見つめた。
そのあまりの美しさに、安藤は思わず見惚れる。
「あ、貴方は……」
安藤が尋ねると、白い髪の少女は口を開いた。
「私の名前は『ホーリー・ニグセイヤ』。協会の『聖女』です」
「……ホーリーさん」
安藤は不安そうな顔で、ホーリーを見る。
「あの……此処はどこですか?俺は……確かトラックに轢かれて……ハッ!」
安藤は周囲を見渡すが、此処には自分と『ホーリー・ニグセイヤ』しか居ない。
「菱谷と三島は?二人は何処ですか!?」
安藤は、ホーリーに詰め寄る。ホーリーは片手を上げ「落ち着いてください」と言う。
「二人は無事です」
「ほ、本当ですか?」
「本当です。お二人とも怪我はしていません。今は、元気に生活していますよ」
「そ、そうですか……良かった」
安藤は、ほっと息を付く。そんな安藤をホーリーは不思議そうに見ている。
「貴方は、自分の事より他人の事を心配なさるのですね」
「勿論です!」
ホーリーの問い掛けに安藤は即答する。
「二人とも、俺の大事な人ですから。怪我をしてなくて本当に良かったです」
そう言って、安藤はニコリと微笑んだ。
安藤の笑顔を見たホーリーの顔が、まるでリンゴのように紅く染まる。
「~~~~~―――ッッ!」
「あれ?どうしたんですか?ホーリーさん。顔が紅いですけど……」
「何でもありません」
「でも、なんだか様子が……」
「何でもありません。と、言っています」
ホーリーは安藤にナイフのような視線を向ける。その鋭い視線に、安藤は思わず一歩下がり、慌てて謝った。
「す、すみません!」
「良いですか、ユウト様」
ホーリーはコホンと咳払いをする。
「私は別にユウト様の笑顔素敵だな。とか、ユウト様とても優しいなぁ。とか、ユウト様に心配してもらえる二人が羨ましい。とか、そんな事は一切考えていませんか。ええ、一切考えていません」
「えっと……」
「理解出来ましたか?出来ませんか?」
「は、はい!理解しました!」
安藤は壊れたおもちゃのように何度も頷く。
「あの……ホーリーさん。一つ聞いても良いですか?」
「何ですか?」
「ホーリーさんって、そんな人でしたっけ?」
ホーリーは不思議そうな目で安藤を見る。
「何を言っているのですか?私と貴方は初対面ではないですか」
「あっ……そ、そうですよね……」
確かにそうだ。ホーリーと自分は初対面なのに、どうしてそんな事を訊いてしまったのだろう。不思議だ。
そう言えば、最初にホーリーの名前を聞いた時から引っ掛かっていた。『ホーリー・ニグセイヤ』この名前、どこかで聞いた事があるような……。
いや、それよりも今は訊かなければいけない事がある。
「そ、それで……あの此処は一体どこなんですか?」
「貴方が元居た世界から見れば……此処は異世界ですね」
「異世界!?」
「はい。異世界です。証拠をお見せしますね」
「えっ……わ、わああああああ!」
安藤の体が浮き上がり始めた。
どんどん浮んでいく安藤は、やがて神殿の天井に頭をぶつけた。
「どうです?信じて頂けましたか?」
「し、信じます。信じますから、早く降ろしてください!」
安藤が必死に懇願すると、ホーリーはゆっくりと安藤を下した。
「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った……」
肩で息をする安藤に、ホーリーは言った。。
「では、参りましょうか」
「えっ?どこにです」
「異世界から来た方々には、とある試練を受けて頂くことになっています。今から、そこにご案内します」




